気合い入れていきます!
無法の町に集うのは無法者
何、かぶき町最強の男は誰だって?
お前さんお上りさんかい。たまにいるんだ、この街で一旗揚げようとやってくる命知らずのチンピラが。
俺も若ェ頃はお前さんのように目ェギラつかせてたモンだが、この街は格が違う。
江戸中からゴロツキ、凄腕、侠客、落ち武者が集まってくるならず者の梁山泊だ。伝説的なアウトローがウジャウジャひしめいている。命がいくつあってもてっぺんなんざ見えやしねーよ。
悪いこたァ言わねェ、コイツを一杯飲んだら田舎に帰んな。
何?土産話にそのてっぺんの話聞かせろ?お前さんも好きだねェ。
まず別格の怪物共が四人。鬼神マドマーゼル西郷、大侠客の泥水次郎長、孔雀姫華陀、女帝お登勢。
かぶき町四天王と恐れられるこの四人によって、今のかぶき町は治められている。四つの勢力が互いに睨み合い、微妙な均衡状態を保っているんだ。
……何?権力云々じゃなく腕っ節?喧嘩最強は誰かって?
生意気にいずれもオメーじゃ足元にも及ばねェ猛者ばかりよ。
特に西郷と次郎長は攘夷戦争の折、天人相手に大暴れした豪傑。まあ今じゃ年くって表立って暴れる事はねーみたいだが。
現役ってなると泥水の所の若頭、黒駒勝男かね。キレたら何するかわからねェかぶき町の暴君、今最もかぶき町で恐れられている男よ。
見た目はアレだが、西郷んトコにも元攘夷浪士の猛者達がウジャウジャいやがる。華陀の所は噂じゃ洒落にならねェ組織と繋がってるらしい。
長年続いた均衡も、そんな連中の細かいいざこざで崩れかけてきている。今この街は例年にないほど緊張状態にあるんだ。
化け物共の争いに巻き込まれる前にさっさと家路につくのが利口さ。
……何?お登勢の勢力?
あっこはただの飲み屋だ。勢力なんてありゃしねーよ。
なのに何故四大勢力に入ってるかって?
確かにお登勢は兵隊なんざ一人も抱えちゃいねェ。勢力争いなんざ意にも介さねェただの人情家のババアさ。
だが一度あのババアのシマで勝手なマネをしようもんなら、黙っちゃいねェ奴がたった一匹いるのさ。三大勢力とたった一匹で渡り歩いてきたとんでもねえ化け物……
真っ白な頭をした、
ーーああ、話は変わるが、この街にはさっき話した四大勢力と渡り合えるとんでもねえ化け物がもう一人いる。
そいつはなんでも、この街で万事屋っつー小さな店を構えてる。見た目は普通の娘だが、バカにならねェ血筋を引いてんのさ。
攘夷戦争の際、姉弟揃って大暴れしたとんでもねェ化け物一家の末裔……
"銀狼"の娘が。
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この日、お瀧は朝からお登勢の店で掃除をしていた。
外の掃除をしていると、出勤してきた新八の悲鳴が轟く。朝からはた迷惑な奴だと、あくびを嚙み殺しながらも箒を動かす手を止めない。まだ朝晩は冷え込むこの時期、お瀧も上着を羽織っていた。
それからしばらくして、いつものように銀時達が降りてくる。普段のメンバーに加えて見覚えのない顔が一人いた。オレンジ色の髪をした、可憐な娘だ。
事情を聞いたところ、突然銀時の舎弟にしてほしいと頼んできたらしい。彼女は今朝出勤してきた新八をかちこみとして斬りかかり、一度事態を沈静化させて今に至るという。
「誰だい、この娘?」
お登勢が尋ねると、娘は掌を上に向けて、所謂お控えなすってのポーズをとる。
「この度万事屋一家末弟に加わりました、
「オイ。何をしてんだテメーは」
刀を手に指を斬ろうとする彼女の括った前髪を、銀時が掴み持ち上げて振り回す。平子は捥げると叫んでいた。
「俺ァ極道者じゃねーし舎弟なんていねーしとるつもりもねーし用心棒なんて頼んだ覚えはねーし、さっさと帰れっつったしィィ‼︎このドチンピラ子がァ‼︎」
「え〜、そんなの勿体無いですよー。わしとアニキならきっと暗黒街のボスになれますよォ。一緒に暗黒面に堕ちましょうぜアニキ〜」
「俺がいつダースベイダーになりたいっつったよ!」
「お願いします、わしはもう行く所がないんですぅ〜」
「……一体何なんやこの娘」
とんでもないチンピラ娘の登場に、お瀧は驚きを隠せない。
ただ一つ思えるのは、この娘に銀時が何もしていないことだ。ほとんど面識のない娘に手を出したとあらば、志乃との縁を即行で切らせるつもりだった。
ふと、隣に立っていたお登勢が口を開く。
「……アンタ、極道モンかい」
「え?」
「聞いたことがある。次郎長んトコと商売で色々とモメてた植木蜂一家。抗争となるや女だてらに一騎当千の働きを見せるとんでもない暴れん坊がいたって。その名を、人斬りピラコ」
「はァァァァ⁉︎人斬りィィィ〜⁉︎このもっさりしたのが⁉︎」
「こんなもっさりっ娘が極道の鉄砲玉⁉︎」
銀時と新八が思わず叫ぶ。お瀧も目の前の可憐な娘が人斬りだなんて信じられなかった。平子はモジモジしながら、頬を染める。
「そんな大層なものじゃないんですぅ〜。わしはお花を飾りつけるのが得意で〜、オジキが喜んでくれるからいつも飾っていただけで〜。知ってますかァ、悪い人ほど綺麗なお花を咲かせるんですよ〜。斬り刻めば斬り刻むほど、真っ赤な綺麗なお花を……」
ガチでヤバい娘が現れた。お瀧は顔を青ざめさせる。
さらに事情を聞くと、彼女のいた植木蜂一家は、次郎長一家の騙し討ちに遭い、今はもうお花畑しかないのだという。
「私……オジキに小さい頃に拾われて……ずっと言う通りに生きてきたから、何にもなくなって何をしていいかわからなくなっちゃって。……でも私にできることはお花を飾ることだけだから〜、だからココに来たんですぅ。次郎長のいるこの街に……お花を飾るために。かぶき町を、真っ赤なお花畑にするために」
先程からの話を聞く限り、お花畑とは血の海を指すのだろう。それはつまり、かぶき町を血祭りにあげる……と、いうことになる。
銀時達もその顔は血の気が失せていた。
この娘が、かぶき町全てを巻き込んだ大戦争を本当に引き起こすなんて、この時の彼らは知る由もないーー。
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一方その頃。志乃はかぶき町を呑気に散歩していた。
今日の服装は、いつもの藤色の着流しではない。
黒のジャージに袖に桜模様の白い着流し、ホットパンツにブーツ。腰のベルトには金属バット、手にはグローブ。髪は下ろしている。そう、今の彼女は喩えるなら、『銀時コスプレver.』なのだ。
ちなみにこれは例のごとく桂が贈ってきたコスプレである。最初は少し抵抗があったものの、着てみると案外動きやすく、すぐに気に入った。
団子の串を咥えてプラプラさせながら、体を伸ばして、空を仰ぐ。
今日もいつも通りのんびりと時間が流れていくのだろう。ポカポカ陽気に浸っていると、何やら気配と視線を感じた。
「……?」
ここ最近、歩いていると何者かの視線を感じる。気配から割り出すに、人間ではない何かなのだ。それを不気味に思う反面、腕の立つ者なのではという期待に胸が踊る。
まぁ、どんな相手だとしても、こてんぱんに叩きのめせばいいだけの話である。
歩いていた先に、見覚えのある姿を見かける。乾物屋で、神楽がもう一人の娘・平子と何やら楽しげにショッピングをしていた。その近くには、銀時と新八もいる。
「あれ?みんな」
「あっ、志乃ちゃん」
「……何その格好。俺のコスプレ?何?またヅラから貰ったの?」
「うん。今回の長篇はこの衣装でいくことになったから」
「何で今回のはそこまで気に入ってるの⁉︎志乃ちゃんってやっぱブラコンだよね‼︎」
「お前に言われたかないわシスコン」
ごちゃごちゃと会話している最中、平子が志乃に気づく。
「あれ?アニキぃ、もしかして妹さんですか〜?」
「誰?」
「初めましてアネゴ〜。この度万事屋一家末弟に加わりました、椿平子ですぅ」
「いや、アネゴじゃないし。ピラ姉ェの方が年上でしょ」
平子にツッコミを入れつつ、志乃は銀時に事情を尋ねた。
「何なのあの人?」
「あ……えっと、アレはな、その……」
「……何、なんかやましい事でもあるわけ?」
「いや、そういうんじゃなくてな……ってオイ!何だその目は!ホントに何にもねェって!」
ジトーッと銀時を凝視する志乃。女性関係にだらしない男ではないとは信じていたのだが、あそこまでぼやかされると不信感が募る。妹としても複雑な気持ちだった。
銀時が疑惑を晴らそうと必死に弁明していたその時、平子と通行人がぶつかった。
「あっゴメンなさ……」
「うっぎゃひゃぁああ‼︎」
ぶつかった相手のハゲ男は派手に悲鳴を上げて転び、右腕を押さえて悶える。すぐさま舎弟らしき男が駆け寄った。
「アニキぃぃぃぃぃ‼︎どうしたんですか」
「折れたァァァ‼︎今ぶつかられたショックで完全に折れたァァァ‼︎」
「コルァ〜‼︎ネーちゃんどう落とし前つけてくれるつもりだァ‼︎」
まさかのモノホン登場に、銀時と新八は青ざめる。冷や汗が止まらない。せっかく平子を女の子らしくさせようと今まで頑張ってきたのに、あんなモノホンの刺激を受けたらまた極道の血が目覚めると危惧していた。
しかも彼ら、もしかしたら次郎長一家の者かもしれなかった。平子は次郎長一家を血祭りに上げようと考えていると推測されるため、ここで衝突すれば戦争は免れない。
「ちょっとおじさん達」
しかし、そこで平子の前に現れたのは志乃だった。
「何してんだァお前ェェェェ‼︎」
「うっさい黙ってて!」
完全に出る幕を無くした銀時が叫ぶ。志乃は彼に一喝してから、平子を庇い二人の前に立つ。
「私さっきからずっと見てたんだけどさ、アレ明らかにワザとだよね?だって大の大人がか弱い女の子とちょっとぶつかっただけで骨折れるとか、どんだけ虚弱体質?」
「はァァ⁉︎んだとコラァこのクソガキ‼︎」
「とにかく、アンタあれワザとでしょ?この人は何も悪くない。落とし前つけんのはあんたらの方じゃないの?」
「テメェっ……ナメてんじゃねーぞ‼︎」
ズバズバと物怖じせずに言い切る志乃の胸倉を、ハゲ男が右手で掴み上げる。志乃はニタリと笑った。
「あっれれ〜?こっちの腕は骨折してるんじゃなかったっけな〜?」
「ギッ……‼︎」
「ア……アニキ!そのへんに!」
舎弟の男がハゲ男に、ヒソヒソと耳打ちした。
「マズイです、この銀髪娘は確かオジキが目ェつけてるって」
「‼︎な……何⁉︎」
ハゲ男は一度志乃を見てから、パッと手を放した。
「なるほど……じゃあこのガキが例の……勝男のアニキと何度もやり合ったっちゅー奴か。確かに大した根性持っとる娘だな」
「……やっぱテメーら次郎長一家の」
「ア……アニキ、そろそろ行きましょう。あの娘、自分の
お前ら私を一体何だと思ってんだ……。
流石にそこまでしねーよ、と心の中で独りごちる。
しかし、ハゲ男は平子の手を掴んで無理矢理連れ去ろうとしていた。
「っオイ待て‼︎さっきのはてめーらの言いがかりだって……‼︎」
「ハァ?んなもん知るかよ。嫌な気分にされたんだ。たっぷり落とし前つけてもらわんと割に合わねーってんだ」
「てめっ……放せよ‼︎」
「アネゴ‼︎」
志乃は男の手から平子を引き剥がし、背に庇う。ハゲ男がついに拳を振るってきた。
そっちがその気なら上等だ。志乃もそれを迎え撃とうと拳を握るが、目の前に白が立ちはだかった。
「銀⁉︎」
「アニキ〜!」
突如銀時が割って入ってきて、ハゲ男の手首を掴んだ。ものすごい力で握りしめられ、男は汗がダラダラと出てきた。
銀時はニタリと笑みを浮かべて、思いっきりハゲ男をぶん殴った。
あ。
やっちまった。