銀狼 銀魂版   作:支倉貢

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季節なんて関係ねぇよ、そんなスタンスでいきます。


年賀状は手書きでいくべし

「新年、あけましておめでとうございます!今年もよろしく……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……じゃ、ねェェェェェェ‼︎」

 

ニコニコ笑顔から一転、ダン!と強くテーブルを叩きつける。その時に、高く積まれた年賀状が崩れ落ちた。

 

「ああっ!ちょっと志乃、何してんの!」

 

「うるせーよ!何でこのタイミングで年賀状ネタ⁉︎もう季節は春なんだよ!寒さがまだ続くけどもう桜も蕾が膨らんできてるんだよ‼︎」

 

「志乃、それは今触れちゃ一番いけないところだから‼︎」

 

時雪からツッコミを受けても、志乃は喚き続ける。

 

「大体この世界はサザエさん方式で年が明けねえんだよ‼︎何があけましておめでとうだよ何も明けちゃいねえよ‼︎それなのに何こんなにたくさん年賀状送ってきてんの⁉︎てめーらのせいでどんだけの木が切られてると思ってんだ、森林伐採に協力しやがってナメてんじゃねーぞコノヤロー‼︎」

 

「うるさいです」

 

志乃の脳天に、八雲が笑顔で拳を落とす。頭を押さえて痛がっていたが、気にも留めない。

時雪は崩壊した年賀状をまとめて、テーブルの上に並べる。コタツに志乃と時雪、八雲、お瀧、橘がぞくぞく入ってきた。

 

「へえ、色んなとこから年賀状来とんなァ」

 

「ダメだ、書いても書いても終わりが見えない。私死にそう」

 

「大丈夫ですよ、人はぶっ続けで文字書いた程度では死にません」

 

「これ見ろ。小春や鈴、時雪の実家からも来ているぞ」

 

「あ、ホントですね!」

 

和気藹々とした雰囲気の中、時雪が一枚の年賀状に気づく。

 

「あれ?これ、快援隊から来てますよ」

 

「えっ?辰兄ィが?」

 

「……」

 

橘が無言で、露骨に嫌な表情を浮かべる。

実は橘は坂本とは腐れ縁とも言えるほど長い付き合いなのだが、坂本のバカ行動に毎回巻き込まれてうんざりしているのだ。なので、橘は坂本のことが心底嫌いである。

その内容を見てみると。

 

 

『今年幕末150年ですね 坂本辰馬』

 

 

「知るかァァァァ‼︎」

 

志乃が一蹴して、橘がビリビリと年賀状を破りまくる。

ものすごく細かく千切っているところを見るあたり、坂本に対してかなりのストレスが溜まっているのだろう。橘の闇が見え隠れする中、志乃はシャウトを続ける。

 

「どんだけ歴史に便乗する気満々なんだよ!お前のモデルがしたことなんざ、最新の研究ではほとんど他の誰かのおかげみたいなもんだろーが‼︎船中八策だって後に作られたフィクションらしいぜ‼︎ていうかこっちで出番ねえからって何年賀状で目立とうとしてんだ‼︎てめーは今季のアニメで充分出てんだろーがァァ‼︎」

 

未だ興奮冷めやらぬ志乃の荒れっぷりに、時雪は苦笑する。溜息を吐いて、志乃は頬杖をついて座り直した。

 

「ハァ……これでも辰兄ィ、私の初恋の人なんだけどな……」

 

「え"え"っ⁉︎そうだったの⁉︎」

 

衝撃の事実に、今度は時雪が立ち上がった。しかし志乃は時雪を見向きもせずに、ずっと頭を抱えていた。

パラパラと年賀状を眺めていた八雲の目が大きく開かれる。

 

「志乃、鬼兵隊からも来てますよ」

 

「はぁ⁉︎高杉が⁉︎ウソでしょあいつが年賀状なんて」

 

「いやでも、ショッカーだって仮面ライダーに年賀状送ったからあながち考えられないこともないですよ」

 

「しかもその年賀状、基地の住所書いてあったらしいな」

 

まさかの鬼兵隊からの年賀状に、全員が息を飲んだ。

 

「でも何で高杉さんが万事屋(ウチ)の住所知ってるの?」

 

「あ、確か私前に高杉(あいつ)に手紙送ったんだよね。そん時に名刺入れてた」

 

「それが原因じゃん‼︎ていうか何高杉さん相手に宣伝してんの⁉︎」

 

「まぁ今はそんなんええやんか。問題は内容やろ」

 

志乃と時雪を宥めて、全員で年賀状に目を落とす。

 

「で、脅迫状か何かですかね?」

 

「果たし状やないか?」

 

「志乃へのラブレターかもしれん」

 

「やめて気持ち悪い」

 

ブルッと身震いする志乃を放って、ようやく文面を見た。

 

 

『おもしろき こともなく世を おもしろく 来島また子 武市変平太 河上万斉』

 

 

「『すみなすものは 心なりけり』……じゃ、ねーよッッ‼︎」

 

志乃はビターン!と畳に年賀状を叩きつけた。これぞノリツッコミである。

 

「また歴史の便乗かい‼︎何なの⁉︎何でわざわざ年賀状でてめーらの大将のモデルの辞世の句⁉︎意味わかんねーよ!あいつ死ぬのか⁉︎死ぬのか⁉︎アニメであいつ生きてんだろーが‼︎バリバリ元気だろーが‼︎」

 

「うわぁ、すっごいイライラしてますね」

 

喚き散らす志乃に、八雲は他人事のように笑う。

 

「あたりめーだろ誰得なんだよこの便乗。確かに今年で幕末150年だけどさ、そんなのほとんどの人知らねーだろ」

 

「仕方ないよ。この小説の作者、自他共に認める大の歴史好きだからね」

 

作者の趣味事情を交えた愚痴を零す二人に、お瀧は苦笑した。

 

「はは……ん、おい、真選組からも来とるで」

 

「どーせまた歴史便乗だろ」

 

 

『あけましておめでとうございます 今年もよろしく! 真選組一同』

 

 

「ちょい待ちやコラァァァァ‼︎」

 

「何こいつら何の変哲もない普通の文章送ってきてんですか⁉︎ここは歴史ネタでボケるところでしょうが‼︎」

 

「空気読めバカヤロー‼︎よし、あいつら全員叩き潰してくる‼︎」

 

「いや落ち着けお前らァ‼︎これが年賀状の本来あるべき姿なんだよ‼︎何もおかしくねーよおかしいのお前らの頭だから!」

 

真選組の至極まともな文面にお瀧と八雲と志乃は揃って年賀状を踏みつける。時雪のツッコミも聞き止めない。橘に至っては黙々と年賀状を書いていた。

この中で一番普通なのは橘だけである。

 

「いやちょっと待ってください橘さん、何めんどくさいからって返事全部『死ね』にしてんですか‼︎怖いんですけど‼︎坂本さんから年賀状来たの、そんなに嫌でしたか‼︎」

 

「『死ね』はストレートすぎるか。じゃあ、『速やかに土に還れ』で」

 

「結局死ねって言ってるじゃないですか‼︎」

 

残念ながら、橘も普通ではなかった。

時雪が溜息を吐いて、みんなを宥める。

 

「もういい加減にしてくださいよ。年賀状っていうのはね、新年の幕開けを祝うと共に、昨年の感謝と今年の挨拶全てを兼ねた、とても大切な日本の伝統文化なんですよ。最近はやれSNSだのメールだので年賀状を書かない人も増えてますけど、やっぱりこういう礼儀はきちんとした方がいいんですってば」

 

「知りませんよ。毎年そんなもんしなくちゃいけないような、薄っぺらい人間関係を持った覚えはありません」

 

時雪がとうとうと説明しても、八雲に一蹴されて撃沈する。

このおふざけばかりの小説でようやくまともな事を言えたと思ったのに……。時雪の心は暗くなるばかりだった。

それでも来た分はきちんと書いて、返すのが礼儀である。仕方なく、志乃達は一枚一枚見ていった。

 

ここからしばらく、誰かと文面と、それに対するツッコミが続きます。

 

「あ、銀時さんから来てる」

 

「え?」

 

 

『次回のバレンタイン、チョコください 坂田銀時』

 

 

「何勝手に次回予告してんだァァァァ‼︎まだ終わらねーよ今回は続くよコノヤロー‼︎」

 

「最近オリジナルばかりで銀時さん達出てないから不満溜まってるんじゃないかな」

 

「だからってこんなくだらない年賀状送りつけてんじゃねーよ‼︎ふざけんなよお前なんかにチョコなんて高いもん渡すわけねーだろ‼︎てめーは一生泥団子でも食っとけクソ兄貴‼︎」

 

「兄貴といえば、桂からも来てるぞ」

 

「は?」

 

 

『この間はサンタコスありがとう 今度は体操服(ブルマ)を着てください 桂小太郎』

 

 

「野郎ォォ殺されてェのか‼︎」

 

「あかんコイツ末期やで。いや、ちゃうわ。末期通り越して手遅れや。延命するより速やかに死んだ方が身のためやな」

 

「無駄ですよ。こいつのモデルは名前を変えて明治まで生き延びてるじゃないですか。諦めましょう」

 

「嫌だね、私は諦めねーよ。絶対に奴の暗殺に成功してみせる」

 

「やめてよもう…………あれ?ミサトさんとさっちゃんさんからも」

 

 

『この度、霧島志乃と結婚しました 幸せいっぱいです 霧島ミサト』

 

 

『結婚おめでとう 末長くお幸せにね お兄さんは私は面倒を見るわ 坂田あやめ』

 

 

「どいつもこいつもそんなに殺されてーか‼︎ふざけんな誰がてめェなんぞと結婚するか‼︎誰がてめェなんぞに兄貴をやるか‼︎つーかこいつら何で苗字変わってんだよ何で婿養子と嫁になってんだ‼︎もうこいつらまとめて地獄に送った方が早い‼︎それがみんなのためになる!」

 

「ちょっ、志乃落ち着いて‼︎そんなことしても誰も喜ばないよ‼︎橘さんも何とか言ってください‼︎」

 

「志乃、ついでに坂本も殺してくれ」

 

「しまった振る相手間違った‼︎今日の橘さんは超ブラックだった‼︎」

 

そんなこんなで送られてきた年賀状にツッコミを入れつつ、返事を書いていく。

山がだんだん移動してきて、ようやく全ての年賀状の返事を書き終えた。

 

「っはァァ〜〜〜‼︎終わったァ〜〜〜〜‼︎」

 

「しっかし、結構な量やったな」

 

「もうしばらく紙と筆ペンは見たくありません」

 

「坂本のバカヅラも一生見たくない。頼むから死んでくれ」

 

「橘さん今日それしか言ってませんよ」

 

全員でテーブルに突っ伏す「獣衆」の面々を見つめ、時雪は一人書き終えた年賀状を郵便に出そうと立ち上がった。

その時。

 

ピンポーン

 

「「「「「?」」」」」

 

インターホンが鳴る。

時雪が玄関に出ると、立っていたのは郵便局の職員だった。

 

「こんにちは、年賀状でーす」

 

「…………イヤァァァァアアアアアアアア‼︎」




なかなかオチが決まらなかった、そんなお話です。

次回、ついにバレンタインです。

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