銀狼 銀魂版   作:支倉貢

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えーと、元ネタの話は原作にあるんですが、それをこっちで色々解釈してほぼオリジナルになりましたのでオリジナル回とさせて頂きます。

暴力描写がありますので、苦手な方はブラウザバックしてください。


ネタは温めておくべき
ドSとドMが必ずしも相性が良いとは限らない


この日、志乃は松平に呼ばれて警視庁に向かっていた。久々の真選組の制服に袖を通し、愛車のスクーターで江戸の街を走り抜ける。

 

ここ最近、志乃はバイトを悉くサボっていた。詳しくは今までの話の流れを見て頂ければわかる通り、単に真選組と絡むことがなかったからである。

おかげでこっぴどく土方に叱られ、ここ一週間は屯所で寝泊まりするハメになった。

 

で、今回松平から連絡が入り、ある囚人を真選組まで輸送してほしいとのことだった。すれ違いで警視庁からの輸送車が通りかかったのだが、アホな彼女は無視して警視庁までスクーターを走らせた。

 

********

 

「どーも、久しぶり」

 

「よォ、元気そーだな志乃」

 

通された長官室で、相変わらず偉そうに座る松平に軽く手を挙げる。いや、実際偉いのだが。志乃は挨拶もそこそこに、本題に入った。

 

「で?その囚人とやらはどこにいるの」

 

「もう奉行所で車を手配してある。オメーにゃ真選組に連れていく道中、奴が余計な動きをしねェか見張ってもらいてーんだ」

 

「何?たったそれだけ?」

 

「あぁ。ま、その囚人が危険な野郎なんだがな……」

 

そう言って、松平は煙草の煙を吐く。危険な野郎、ねェ……。志乃は髪をガシガシと掻く。

 

思えば髪紐が無くなって以来、一切結んでいなかった。銀髪は背中辺りまで伸び、靡くとうざったい。

おもむろにポケットに手を突っ込むと、何かが入っていた。取り出すと、紅色の玉飾りのついたシンプルな簪が。

これは、沖田とデートに連れ出された際に買ってもらったものだ。着物と共にしまったかと思っていたが、まさかこんな所にあったとは。

 

志乃は早速、髪を纏め上げる。その間に、松平が囚人の説明をした。

 

「囚人番号3ー二〇三四、田中古兵衛。幕府の役人三十五人を殺害した凶悪殺人鬼で、人斬り古兵衛と呼ばれる過激攘夷派暁党の幹部だ」

 

「あー、ハイハイ。なんか聞いたことあるわ。人斬りコピペ」

 

「あん?何て?」

 

志乃がテキトーに返したが、横文字に弱いジジイは聞き取れなかったらしい。もう一度言い直すのも面倒なので、続きを促した。

 

「んで、さっきも言ったと思うが……そいつが妙な野郎でな。捕縛したはいいんだが、一切の尋問拷問に動じねェどころか、楽しそうに笑ってやがるんだ」

 

「へぇー」

 

髪を一度捻って、簪を挿す。いい感じにできたのではないか。志乃は少し良い気分だった。

 

「で、その古兵衛とやらを真選組に連れてけばいいんだね?」

 

「あァ、そういうこった。じゃ、頼むぜ」

 

松平がヒラヒラと手を振る。志乃は肩を竦めて、長官室を出て行った。

 

********

 

所変わって、輸送車の中。志乃は、古兵衛と向かい合わせで座っていた。

この中には、二人以外誰もいない。奉行所を出る前に、刑務官に頼んで輸送には運転手以外の同行をやめてもらったのだ。

一応古兵衛は拘束服を着ているため、動けるはずがないのだが、もしもの時のために、志乃が周囲を気にせず一人で暴れられるようにしたかった。刑務官には心配されたが、なんとか説得し、帰ってもらった。

 

揺れる車内で、志乃は溜息を吐く。今日も、朝からの出勤だった。

ていうか、一週間だけ屯所で寝泊まりしているといっても、起きる時間は決まってるし、起こす役は土方だからうるさいし、見廻りには必ず誰かがついているし。一人の時間といえば、寝る時かお風呂かトイレのどれかしかない。ストレスでハゲそうだった。

ようやく訪れた、一人の時間。それを堪能すべく、志乃は早速長椅子に横になった。ブーツは邪魔くさいので、脱ぎ捨てる。横になってすぐに、志乃の意識は微睡む。欲望の赴くまま、目を閉じた。

向かいでは古兵衛がさっきからずっと見つめているが、気にしない。そのままスヤスヤと寝始めた。

 

********

 

対する古兵衛は、動揺していた。真選組に連れ出されたが、彼らの目的は自分に仲間の情報を吐かせることだとわかっていた。

しかし、その監視としてやってきたのは、刑務官ではなく少女たった一人。しかも、殺人鬼である自分の目の前で堂々と居眠りを始めたのだ。

様子を伺うようにジッと見つめるも、少女の意識は既に夢の中、微動だにしない。あまりの能天気さに、思わず拍子抜けしてしまった。

溜息を吐いて、座り直したその時。

 

ゴッ

 

鈍い痛みが、全身を駆け抜けた。これまで受けた拷問の中でも、比べ物にならないくらいの強い痛み。あまりにも一瞬すぎて、脳が追いつかない。体が、ドサッと倒れ込んだ。

 

「何、悠々とアンタが溜息吐いちゃってんの?」

 

首を回すと、座ってこちらを見下ろしている少女。すぐさま、蹴りが顔に入った。

 

「溜息吐きてーのはこっちだっつーの。こちとら一週間に亘る軟禁生活がようやく終わるんだぜ?その最後の仕事がコレかァ……めんどくさい。今すぐにでも帰りたい」

 

ぐりぐり、ぐりぐりと。古兵衛の顔を床に押し付ける。

ここで思い返してみよう。志乃は先程まで昼寝していたため、ブーツを脱いでいる。つまり、ニーハイを履いたまま彼を踏んでいるのだ。

まだ幼さの残る少女が、一回り二回りも年上の古兵衛の顔を踏んでいる。あまりにも理不尽な理由で彼女は怒っているが、彼の中で形容し難い想いが湧き上がってきた。

足を離した志乃は立ち上がって、倒れた古兵衛を見下ろす。

 

「ねぇ、もう面倒だから吐いちゃってよ。私はアンタが何を隠してるか知らないけど、話せば楽になるって」

 

うつ伏せの状態で視線だけを少女に向ける。その際チラリと水色のパンツが見えてしまったが、少女は一切気づいていない。それどころか、少女はしゃがみ込んで、「ねーぇ」と古兵衛の体を揺すってきた。体勢は所謂、ヤンキー座り。古兵衛の視線は釘付けだ。

 

「話聞いてる?おっさん。ねぇって……ん?」

 

少女が黙った古兵衛に疑問を抱き、彼の視線の先を辿る。ようやく悟った少女は、立ち上がり、足を振り上げた。

 

ドゴッ!

 

内臓まで突き刺さるような、強烈な痛み。脳に駆け抜ける信号は、痛みと共に快感を届けた。少女は足にさらに力を入れ、低い声で古兵衛に言う。

 

「フーン……あんた、何?最低な殺人鬼で囚人の分際で……私のパンツ見たの?見たんでしょ?見ただろ」

 

ぐりっと踵で強く押してから、足が離れる。古兵衛はその感覚に名残惜しさを覚えた。

 

「……?何そのツラ。アンタもしかして、私に踏まれて喜んでるの?」

 

「⁉︎」

 

古兵衛は、少女の言葉に驚愕する。今までこれ以上の拷問を受けたことはあったが、こんなにも気持ちいいものではなかった。相手が少女だからか。古兵衛の中で、自問自答が繰り返される。

少女はそんな自分を見下ろして、引いていた。

 

「うっわー……。どんな拷問受けても笑ってるって聞いてたけど……こんなうっとりした顔するなんて聞いてないんだけど?ちょっと、お前こっち見んなキモいから」

 

少女はササっと後退して、古兵衛と距離をとった。しかしそれでも、少女の蔑むような視線に、古兵衛は体が蕩けそうだった。

自然と、口が動く。

 

「……もっと」

 

「?」

 

「もっと、もっと蹴って踏んでくださいィィィ‼︎」

 

「えっ、ちょ……ぎゃあああああああああ⁉︎」

 

********

 

真選組屯所、取調室。本来そこに連れて来られるはずだった田中古兵衛が、ようやく屯所に到着したという。

先刻、田中古兵衛と称されて、名前の似ている田中加兵衛という善良な一般市民をズタズタにしてしまった土方達。脱力感がまだ否めないまま、ようやく本物の田中古兵衛がやってくると聞いて、気を引き締め直した。しかし、その時。

 

ドタドタ

 

「?」

 

突如、忙しなく聞こえてくる足音に、土方だけでなく、近藤、沖田、山崎も振り返る。

部屋の中に入ってきたのは、肩で息をする志乃。

 

「志乃ちゃん?あれ?確か志乃ちゃんって、とっつァんに呼ばれて奉行所にいる田中古兵衛を連れてくるよう言われたんじゃ……」

 

「はーっ、はーっ……み、みん、な……」

 

「だ、大丈夫志乃ちゃん⁉︎」

 

汗だくで走ってきた志乃を案じて、近藤と山崎が彼女に駆け寄る。背中を摩ってもらっていたが、背後から迫る殺気に、志乃は背筋を凍らせた。バッと部屋の入り口から逃げ出し、山崎の背中に隠れる。

 

「ど、どうしたの⁉︎」

 

「た、助けてっ……」

 

いつになく弱々しい声。縋るように、志乃は山崎の服にしがみついた。

すると、入り口の奥から、いも虫のように床を這ってくる男が一人。男は、拘束服を身に纏っていた。

ニィィと薄気味悪い笑みを浮かべて、にじにじとこちらへ迫ってくる。土方がチラリと志乃を一瞥すると、今まで見たことないほど怯えていた。

 

「オイ、何なんだアイツは」

 

「もしかして、奴が本物の田中古兵衛なんですかねェ?」

 

沖田が自分の予想をぶつける。土方は確認のために志乃に聞こうとしたが、恐怖に染まった目は目の前のいも虫男にしか映していない。

 

「ぁ……あ、ぁ…………や、やだっ、いやぁぁぁ‼︎」

 

「志乃ちゃん⁉︎」

 

いも虫男との距離が近くなり、志乃は悲鳴を上げて山崎から離れた。真っ二つに割られた机に足を引っ掛け、顔面から床にダイブする。その時に、沖田がすかさず携帯を取り出して志乃の転けた様子をカメラに収めていた。

いつもならそれに気づいて沖田に突っかかるが、今の彼女にそんな余裕はない。志乃の怯える様子を見て、土方はあのいも虫男と何かがあったのだと推測した。

いも虫男が近藤と山崎の横を通り過ぎ、さらに志乃に近づいていく。志乃もそれと共に後退し、ついに背中が壁に当たってしまった。ボソボソと小さな声で、いも虫男が志乃に言う。

 

「お願い……お願いします……」

 

「ぃ……いや、来ないでっ……!」

 

「お願いします……もう一度……」

 

「やだ、来るなっ、来るなァァァ‼︎」

 

恐怖に泣き叫んだ志乃が、ついに金属バットに手をかける。そしてそれを振り下ろし、いも虫男の頭を、床にめり込むほど強く殴りつけた。

いも虫男が床に顔を埋めている隙に、志乃はいも虫男の上を踏んで逃げ出す。一番近くにいた沖田に抱きつき、彼の背に隠れた。

 

「……オイ志乃、お前何があったんだ?」

 

「土方さん流石でさァ。恐怖に怯え慄くか弱い女の子にトラウマを掘り返させるつもりですか。外道ですねィ」

 

「うるせー!だったら誰かこの状況を説明しろ‼︎いきなり出てきて二人で何昼ドラみてーなの繰り広げてんだ‼︎一体何を見せられてんだ俺達は‼︎」

 

沖田は土方に罪を着せ、プルプル震える志乃の頭を撫で、彼女を落ち着かせようとした。余談だが、沖田は自分が彼女のために買った簪を志乃がつけているのを見て、少し嬉しかった。

しかし土方の言う通り、彼らは困惑していた。いきなり志乃が現れたと思えば、田中古兵衛と思われる男に怯えている。男も男で、何やら彼女に懇願していた。一体、何があったのか。その時、

 

「あのォ、すいません」

 

部屋に、さらにもう一人男が入ってくる。彼は、輸送車の運転手だ。

 

「運転してる途中に聞こえてきたんですけど……どうもあの殺人鬼、イラついた嬢ちゃんに蹴られたり踏まれたりしてたみたいなんです。そしたら、古兵衛が何やら新しい扉開いたみたいで……」

 

「つまり、奴は嬢ちゃんに調教されちまった、と」

 

「した覚えはねェよ‼︎」

 

沖田が話をまとめると、それに志乃が突っかかる。しかしまだ怖いのか、ぎゅっと沖田に抱きついたままだ。

 

「まァ、元々拷問受けても笑ってられるドMですからねェ。何がどう作用したのかはわかりやせんが、嬢ちゃんがどストレートだったんじゃありませんか?」

 

沖田がそう推測したその時、床にめり込んでいたいも虫男、いや古兵衛が、顔を上げる。

 

「お願いします、志乃様……もっと踏んで蹴って罵ってくださいィィ……‼︎」

 

「ひっ!」

 

恍惚とした表情に、志乃は身震いする。土方はこのままでは志乃の心が壊れかねないと判断した。

 

「志乃、お前はさっさとここを出ろ。あとは俺達がやる。オイ山崎、志乃を頼むぞ」

 

「は、はいっ!」

 

沖田から志乃を託された山崎は、未だ震える彼女の肩を押して、部屋を出た。

 

********

 

その後、古兵衛から暁党の情報をなんとか吐かせ、土方達は暁党のアジトに乗り込み壊滅させた。

その時は志乃もトラウマを引きずりながらなんとか戦っていたが、暁党には古兵衛と同じく拷問の訓練を受けている浪士がおり、彼らが彼女のトラウマを定着させるのにさほど時間はかからなかった。

戦闘はトラウマを掘り返され発狂した志乃により総員壊滅となったが、志乃はしばらくドMの恐怖に怯える日々が続いたというーー。




えーとですね。まだまだ無垢な志乃が、ドSでありながらドMが嫌いになるところを描きたかったんです。ちょっとかわいそうな気もしますがね。
あぁ、これでさっちゃんと絡ませたらどんな恐ろしいことになるか……(遠い目)。

次回、ついに橘の恋愛回です。

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