銀狼 銀魂版   作:支倉貢

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導かれし勇者達よ

何故かラスボス戦で巻き上がる砂埃。それが、獏大魔王を隠していた。ようやくそれが収まってくると、玉座らしきたまのシステムに鎮座する獏大魔王は、仮面をつけていた。

 

「断言しよう。ぬしに我を倒すことはできない。倒すことはおろか、傷つけることも叶わぬ。今までずっと体内(せかい)を護り戦い続けてきたぬしだからこそ、誰よりもこのたま(せかい)を愛しているぬしだからこそ、我には勝てぬ」

 

そう言い切り、獏大魔王は仮面を脱ぐ。その下の顔に、全員驚いた。

 

「あ……あれは」

 

「バ……バカな、あれは、たま様ァァァァァァァ‼︎」

 

そう。仮面の下の素顔は、たまそのものの顔だったのだ。動揺した新八が叫ぶ。

 

「なっ……な、なんでェェェェェ‼︎どうしてたまさんがこんな所にィィ‼︎どうしてたまさんが魔王にィィ⁉︎」

 

「きっ……貴様、たま様に姿を変え俺の動揺を誘うつもりか。そんな安い手に俺がかかるかァァ‼︎」

 

白血球王は剣を手に、たまの顔をした獏大魔王に駆け寄る。しかし、彼の体に異変が起こった。

獏大魔王を斬ろうとすると、体が突如動かなくなったのだ。そして、獏大魔王に近づけない。志乃も何故、と不審に思ったが、ハッと思い返す。

獏大魔王は、たまの体内のシステムを掌握したと言っていた。最早この身体は獏大魔王のもの。つまり、たまの体内の平和を護る白血球王は、獏大魔王(たま)を攻撃できるはずがないのだ。

それならば。志乃は余裕綽々で何か話している獏大魔王を全て無視して、歩き出した。

 

「ぬしらにたまが殺せるか。ククク……アハハハハハハハハ」

 

「ほわたァァァァァ‼︎」

 

「とー‼︎」

 

獏大魔王が高らかに笑った瞬間、銀時と志乃の同時に放たれた跳び蹴りが、獏大魔王に炸裂した。白血球王、神楽、新八は、人の話を一切聞かないアホ兄妹の突然の行動に唖然とする他ない。

二人は続けて、ゲシゲシと獏大魔王を蹴りつける。

 

「いだだだだ、ちょっ待ってちょっ待って、タンマタンマ‼︎……え?ちょっ待っ……ちょ待って。え……聞いてた?ぬしら、我の話聞いてた?」

 

「え?世界の半分をくれてやろうとかそういう奴?どうせはい/いいえどっち答えても戦闘だろ。いいよもうそーいうの、めんどくさいから」

 

「どこの竜王の話⁉︎コイツ全く人の話聞いてないよ‼︎」

 

「私はちゃんと聞いたから。白血球王(やろう)が攻撃できないんなら私が代わりにやってやろうって思って」

 

「いや、確かに聞いてたけどその後‼︎その後も重要だったんだぞ‼︎一体なんなんだこの兄妹は⁉︎」

 

体内(せかい)を救いに来たはずの勇者が、ラスボスの魔王にツッコミを入れられている。これは一体どういうことだろうか。

しかも銀時はさらにぶつぶつ言い出した。

 

「魔王の話は総じて長すぎるんだ。大体俺は流し読みすることにしてる……」

 

「何をしてるんだァァァ貴様ァァァァァ‼︎」

 

跳び蹴りで飛んできた影が一人。白血球王だ。

白血球王の蹴りは銀時の後頭部にクリーンヒットし、結果的に獏大魔王にも頭突きとして攻撃できた。さらに彼の頭を掴んで、獏大魔王にぶつける。

 

「獏大魔王を傷つけることはたま様を傷つけることと同じなんだぞォ‼︎もっと慎重に動かんかァ‼︎」

 

「いやお前も間接的に攻撃してるからな⁉︎魔王ボロボロじゃねーか‼︎」

 

止めに来たはずの白血球王が、何故か銀時を武器にして攻撃を加えていた。それに志乃のツッコミが入るが、二人の喧嘩は止まらない。

 

「何しやがんだこのヤロー邪魔すんじゃねー‼︎引っ込んでろ‼︎」

 

「引っ込むのは貴様だァ‼︎」

 

「ちょっ、こんな所で喧嘩すんなって……わあっ‼︎」

 

玉座の縁という極端に狭い場所で喧嘩をする二人。志乃が止めようとしたが、ふとバランスを崩して仰向けに倒れていってしまった。

 

「妹‼︎」

 

「オイ待てっ‼︎」

 

白血球王が叫んで飛び降りる。落下していた志乃は空中で体勢を立て直そうとしたが、その瞬間に白血球王に腕を掴まれた。

 

「は?」

 

……いやいやいやいや‼︎私このままでも大丈夫だよ⁉︎何してくれてんのこのバカ‼︎

抗議しようとしたが、その前に白血球王に抱き寄せられる。白血球王は、そのまま自身の背を床に向けた。

 

「なっ⁉︎ちょ……」

 

彼は、自分の体を志乃のクッションにしようとしているのだ。

白血球王の意図がわかった志乃は、彼の腕から抜け出そうとする。しかし、ガッチリとホールドされて、逃げようにも逃げられなかった。

 

「は、放……!」

 

そしてついに、二人諸共床に叩きつけられた。

 

「うぐっ‼︎」

 

「わ、ぁ……っ、白血球王‼︎」

 

自分の下敷きになってまで庇った彼の名を叫ぶ。手をついて起き上がろうとしたが、ぎゅうう、と抱きしめられた。

 

「⁉︎」

 

「怪我はないようだな。無事で良かった……」

 

「な……」

 

嬉しそうに微笑む白血球王に、志乃は押し黙る。

思えば、彼が笑顔を向けるのはいつも志乃の前だった。何故か志乃にもわからなかったけど、目の前で笑む彼に、これ以上何も言えなかった。

白血球王は志乃を立たせてから、自身も立ち上がる。と、次の瞬間。

 

「人の妹と何いちゃついてんだァァァこのコスプレ野郎が‼︎」

 

白血球王に、銀時の飛び降り蹴りが炸裂した。

そのまま二人は、お互いの首元を掴んでゴロゴロと転げ回る。何これデジャヴ?

 

「てめェェ!妹妹とごちゃごちゃ言いやがって、結局てめーがアイツのこと好きなだけじゃねェか‼︎触んなァァコイツに触んなァァァ‼︎」

 

「妹を愛するのは兄として当たり前の行為だろうが‼︎貴様こそ雑菌塗れの汚い手で我が妹に触るなァァァ‼︎」

 

「アンタら魔王を前に何してんですか‼︎いい加減にしろよシスコン共、志乃ちゃん困ってるでしょうが!」

 

二人の喧嘩を、志乃は冷めた目で見ていた。

正直言おう。ウゼェ。てめーらが喧嘩してたってもう疲れるだけだわ。めんどくさいわ帰りたいわ。

志乃は二人を放って、獏大魔王に向き直った。

 

「もう面倒だから進めていいよ」

 

「誰のせいで進めにくくなったと思っておる‼︎なんて薄情な奴だ、それでも貴様ら勇者か⁉︎」

 

「魔王に言われたくないんですけど!」

 

蹴られ殴られた獏大魔王は、鼻血を押さえながら志乃にツッコむが、さらにその上に新八もツッコミを入れる。まさにツッコミのドミノ倒しだ。

獏大魔王は、さらに銀時達の動揺を誘おうと、両腕で一度顔を隠した。

 

「貴様らが薄情なのはわかった。だが、これを見ても同じようにいくかな。白血球王、ぬしは父親の顔を覚えているか」

 

「‼︎」

 

「そう、ぬしの父、先王フォルテガは我等との戦いの最中、肛門に落下し命を落としたのであったな」

 

何でそこでそんな話になる?ていうか何その死に方カッコ悪い。

志乃は驚く白血球王を尻目に、そんな感想を抱いていた。

 

「だがもし……フォルテガが生きていたらどうする」

 

「⁉︎」

 

「我に食われ、未だ我の中でのたうち、苦しみ生きさらばえていたとしたらどうする」

 

獏大魔王が、その顔を露わにしていく。

どうやら感じたことは同じらしく、志乃は銀時、新八、神楽と共に駆け出した。

 

「まさか……!まさか貴様!」

 

「フフ、そうそのまさかだ。久し……振りだな、我が息……」

 

ドゴッ

 

刹那、銀時、志乃、新八、神楽の4人が、フォルテガになった獏大魔王に跳び蹴りを放つ。そして、4人で獏大魔王を散々に蹴りつけた。白血球王が、リンチされている父親を案じて叫ぶ。

 

「父上ェェェェェェ‼︎いやちょっ……待てェェェェ‼︎早すぎるだろォォ貴様ら‼︎父上まだちゃんと顔見せてないよ‼︎喋りかけだったよ‼︎しかも何で今度は全員参加⁉︎」

 

「イキナリパッと出て父親設定とか出てきても、全く感情移入できないアル」

 

「たまさんより全然やりやすいんで、今のうちにやっつけておこうと思いまして」

 

「人の父親との悲劇の対面を何だと思ってるんだ貴様ら‼︎」

 

「フン、今時父親が実はラスボスでした〜とか古ィんだよ。設定練り直して出直してこいバカヤロー」

 

志乃が腹いせに、もう一発蹴りつける。すると、4人と獏大魔王と先程の蹴りの重みで、玉座が大破し、志乃達は獏大魔王諸共落下した。銀時達はそのまま床に転げ落ちたが、志乃だけは白血球王が再びお姫様抱っこで助けたため、無傷である。

獏大魔王が両手と膝をついて立ち上がろうとするが、尻尾のように垂れるコンセントを見て驚く。

 

「しまった‼︎コンセントが抜けてシステムの接続が遮断されてしまった」

 

「コンセント⁉︎何?そんなテキトーなモンでシステム支配してたのアンタら⁉︎」

 

「しめた、たま様のシステムと分離した今なら、たま様を無傷のまま獏大魔王を倒せるはず」

 

白血球王の言葉に、銀時達も爪楊枝を携え獏大魔王に駆け寄る。

 

「チャンスは今しかない‼︎ゆくぞォォォ‼︎」

 

「なめるな小童共!はァァァァァァァ‼︎」

 

しかし、獏大魔王はカッと目を見開き、衝撃波を放った。それに煽られ、志乃達は壁まで吹き飛ばされてしまう。強く壁に叩きつけられた痛みを堪えて、何とか立ち上がろうとする。

獏大魔王の姿も、全身黒タイツに黒翼を広げた、真の姿へと変貌した。

 

「高度な機械(からくり)技術を喰らい尽くし、超進化を遂げた我を、電気屋で安売りしていそうな貴様ら安いセキュリティに倒せると思うてか。既に我はウィルスなどというくだらぬ存在ではない。人智を越えた存在……そう、神……。貴様ら人間など遠く及ばない。神とも呼べる完璧な存在になりつつあるのだ」

 

両足で踏ん張り、立ち上がった志乃は狂気の笑みを浮かべる獏大魔王を鼻で笑った。

 

「ハン、てめーが神だって?カビの間違いじゃねーの?アンタはこんな所より、腐ったパンの上でイースト菌と手を取り合ってダンスしてんのがお似合いだよバイキンマン」

 

同じく立ち上がった銀時達も、爪楊枝を構えて獏大魔王を睨み据える。

 

「そこはてめーの居場所じゃねェ」

 

「たまさんから出ていけ」

 

「私達の友達をこれ以上汚すのは許さないネ」

 

「コイツが最後の大掃除だ‼︎いくぜテメーら」

 

「「「おおおおお‼︎」」」

 

銀時の声に応えて、志乃、新八、神楽も怒号を上げて突っ込む。

しかし、神楽だけがものすごくゆっくりだった。

 

「アレェ?なんだか思うように進まないアル。アレェ?アレェ?」

 

おかしいな、と思った三人が振り返ると、神楽は全身がドット化していた。

 

「きゃーぐらちゅわはーん⁉︎」

 

「ななななななんでェェェェェ‼︎なんで神楽ちゃんがドット絵にィィィ⁉︎」

 

まさにびっくり仰天。志乃は恐る恐る神楽の体をぺちぺちと触った。

 

「ちょっ……何これマジでどうなってんの……ま、まさか神楽までウィルスに⁉︎ウソでしょ⁉︎生身の人間がコンピュータウィルスに感染するなんてっ……‼︎」

 

「ククッ、言っただろう。既に我はコンピュータウィルスなどというくだらぬ存在ではないと」

 

志乃達が混乱していると、獏大魔王の波動が、三人を襲う。波動は銀時と志乃、新八の間を通り過ぎて、壁を破壊した。

 

「うわァァァァ!」

 

「新八ィィ‼︎」

 

直撃こそしなかったものの、爆風に巻き込まれ、新八は倒れてしまう。その際、眼鏡が落ちてしまった。

 

「だっ、大丈夫⁉︎師匠‼︎」

 

「うっ……なんとか」

 

立ち上がった新八は、自分の体の異変に気づく。足がドット絵になり、とても短くなっていた。

 

「あ……ああ……あ、足短かっ‼︎」

 

「フ〜、どうやら大事ねーようだな」

 

「よかった、師匠……」

 

「違うだろォォォォ‼︎本体こっちィィィ‼︎」

 

銀時達が案じたのは、新八ではなく新八(眼鏡)だった。確かにこちらなら大事ないが。

 

「足がァァ‼︎コレェェ‼︎なんでよりによってこんな中途半端にィィィ‼︎こんなんだったら全身やられた方がまだ良かった‼︎」

 

「……え?何か変わったか志乃」

 

「え?……元々そんなカンジじゃなかったっけガンタンク」

 

「誰がガンタンクだ‼︎」

 

眼鏡が本体と見られている以上、彼らの目には新八が無事ということになっているらしい。しかし、新八にもドット化の魔の手が忍び寄る。

 

「‼︎なんだコレッ‼︎……徐々にドットが侵食してくる‼︎身体がどんどん重くなってきてます、銀さん‼︎」

 

「ぎ……銀ちゃん。身体が……石のよ……うに……動かな……」

 

「オイ神楽しっかりしろ‼︎」

 

既にドット化してしまった神楽も、身体に異変が起こり始めていた。だんだんと体が動かなくなっていったのだ。

 

「助……け……て、ぎ……ちゃ」

 

「神楽‼︎」

 

「うわわわ銀さん何とかしてください!」

 

「新タンク!」

 

「新タンクって誰よ‼︎」

 

混乱が落ち着かぬまま、二人は背後から気配を感じる。獏大魔王が二人に波動を放ったのだ。銀時よりも先にそれに気づいた志乃は、バッと振り返り、爪楊枝を構える。

それを上段で振りかぶって、力強く振り下ろした。

 

ゴバッ‼︎

 

斬撃の勢いに、波動が二又に別れる。その真ん中にいた二人は、志乃が光線を斬ったことにより、何とか無事だった。

 

「銀、大丈夫⁉︎」

 

「あ、ああ……お前も無事か?」

 

「うん!」

 

松っちゃん砲を斬って以来、久々にやったけど意外とイケるな。

志乃は爪楊枝を掲げて見る。しかし、爪楊枝の先がドット化していっていた。

 

「げっ⁉︎」

 

慌ててそれから手を放すと、カランと床に爪楊枝が落ちる。掌を見てみると、ドット化はそこまで進んでいなかったらしく、無事だった。

ホッとしたのも束の間、再び獏大魔王の攻撃が襲いかかってくる。白血球王は志乃の手を引き、王の間から脱出した。彼らを追って、銀時も続く。獏大魔王が三人を飛んで追ってきた。

 

「ど、どーなってんのアレ!」

 

「どうやら奴は急激な進化の過程で機械(オレたち)だけじゃない、生身の人間にまで影響を与えるウィルスを制御する能力を得たようだ」

 

「冗談だろ。風呂入らなすぎてチ○コにカビ生えた編集者は聞いたことあるが、コンピュータウィルスにやられた奴なんて聞いた事ねーぜ」

 

廊下を駆け抜ける中で、ふと銀時はハッとして立ち止まる。そして何やらゴソゴソし出して、しばらく黙った。

 

「………………」

 

「?」

 

志乃はキョトンとして首を傾げる。銀時にどうしたのかと尋ねようとしたが、白血球王に目を塞がれた。

 

「……どうやら貴様も時間がないようだな。いずれドット化は全身に回るぞ」

 

「??」

 

「なんでだァァァァァァァ‼︎なんでいっつも俺ココばっか集中放火⁉︎最近全然使ってねーからかァァァ‼︎拗ねてんのかァァ‼︎拗ねたいのはこっちだバッキャロー‼︎」

 

「???」

 

銀時の絶叫の意味は何一つわからなかったが、取り敢えず彼にもドット化の魔の手が迫っていることだけは判明した。どうやらこういう流れのおかげで空気を読むスキルが上がってきたようだ。

 

「妹よ、あんな汚れた男からは離れろ。こっちだ」

 

「!」

 

白血球王に柱の影に押し込まれ、彼と共に身を隠す。反対側の柱にも銀時が隠れた。

 

「治んのかコレェェ‼︎俺のチッ……新八と神楽は元に戻るんだろーな⁉︎」

 

「????」

 

「あまり見るな。汚れるぞ」

 

「わっ」

 

ぎゅううと強く抱き寄せられ、白血球王の胸に押しつけられる。

白血球王は志乃の頭を撫でてから彼女を放し、立ち上がった。

 

「貴様らはそこを動くな。あとは俺が何とかする。……貴様も貴様の仲間も」

 

「ちょっ、ちょっと待ってよ‼︎」

 

「動くなと言っているんだ」

 

一人獏大魔王に立ち向かおうとする彼の背中に、志乃が叫んだ。しかし、白血球王はそれを強くはねつける。振り返らず、白血球王は続けた。

 

「貴様らがいなくなったら、一体これから誰がたま様を護る。貴様らがいなくなったら、一体たま様がどれだけ悲しむと思う。俺はたま様を護るためだけに創られた。護るものなど妹の他に何もない。所詮貴様の代用品に過ぎない。たま様のために死ぬのは、俺だけで充分だ」

 

「…………白血球王……」

 

志乃も立ち上がって柱の影から彼の背中を見ていた。

銀時はその場に座ったまま、口を開く。

 

「同じ事言われたよ。たまにもよォ。自分のことはいい、てめェを護ってやってくれってよォ。こっからてめェを解放して逃がしてやってくれって」

 

白血球王が、銀時を背中越しに見る。

 

「だから俺は言ってやったんだ。てめェがもし俺のよくできたコピーなら、そんな事望んじゃいねーだろうって。てめェの護るモンほっぽいて逃げ出すようなマネは、死んでも望まねぇってよ」

 

「…………」

 

「どうやら俺の買い被りだったようだな。大事なモン人に押しつけて早々とリタイアか」

 

銀時と白血球王。同じ顔の二人は、顔を合わせることなく言葉を交わす。

 

「俺は貴様のコピーだ。たとえ死しても、お前が生きていればまたいくらでも複製される」

 

「俺ァてめーのような出来の悪いコピー持った覚えはねェよ。てめーじゃ俺の代わりは務まらねェ。俺もてめーの代わりを務めるなんざ、まっぴら御免被るぜ。誰も代わりなんざ務まりゃしねーんだよ。お前の代わりなんざ、世界のどこにもいやしねーんだよ」

 

銀時が語るのを聞きながら、志乃はフッと微笑んだ。確かに、あんなにたまと志乃の事を思える男は、この世界のどこを探しても見つからないだろう。

銀時はさらに続ける。

 

「俺から生まれようがツラが同じだろうが関係ねェ。体内(ここ)でずっとたまを想い続けてきたのは俺じゃなくてお前だろーが。たまにとっちゃお前はコピーでも代用品でもねェ。ずっと自分を支えてくれた、交換なんてきかねェ大事な仲間の一人なんだ」

 

立ち上がった銀時は、爪楊枝を携え、白血球王の隣に歩み寄った。

 

「てめーがたまをホントに大事に思ってんなら、てめーが志乃(いもうと)をホントに大切に思ってんなら、くたばるなんて二度と言うんじゃねェ。てめーを代用品なんて二度と言うんじゃねェ。喧嘩ももうやめだ。生き残って仲良く一杯やろうや、兄弟」

 

「………………」

 

白血球王は隣に立った銀時を見つめ、フゥッと溜息を吐いた。

 

「腐った汁など汚らわしくて飲む気もせん。六甲のおいしい水なら付き合おう、兄弟」

 

戦う二人の男の背中を見て、志乃は昔を思い出す。

自分を置いて、戦場へ征った五人の男達を、志乃は知っている。

そして、これからもずっと忘れない。その五人の中で、たった一人の男が二度と帰らなかったことを。

 

肩越しに、二人が後ろに立つ志乃を振り返る。

 

「「お前は逃げろ」」

 

「…………やだね」

 

「「は?」」

 

同時に、しかも同じ事を言う二人。つい、プッと吹き出してしまった。

 

「私はここにいる。ここにいて、バカ兄貴達を応援するよ」

 

ーーもう、子供じゃないんだから。

 

笑ってみせると、「好きにしろ」とでも言うように、二人は獏大魔王を前に得物を構えた。


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