銀狼 銀魂版   作:支倉貢

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パーティーに勇者は二人もいらない

たまのメインシステムに辿り着いた銀時達は、それより少し遠くの崖からメインシステムの城を見ていた。

あの城は既に獏に侵食され、そこには獏達を生み出し続ける獏大魔王が君臨しているという。それを倒せば、たまの体内に平和が訪れるのだ。

問題がシンプルになって嬉しい限りだが、敵の本拠地であるがゆえ、獏大魔王の生み出した最新型のウィルスがうようよいる。

 

「以前のように容易くは倒せません、作戦を練っていかねば……」

 

「オイオイ勘弁してくれよ」

 

たまが作戦を立てようと提案するが、それをバッサリ切るめんどくさがりが我らがパーティーにはいた。銀時である。

 

「ここまで来てまどろっこしーんだよ。最新型っつったって、どうせたま(コイツ)のドラクエ脳を食って進化したドラクエごっこしかできねェバカどもだろ。コイツと同じで」

 

さらりと白血球王をバカにした銀時は、さっさと崖の上を歩いて敵地に進む。

 

「作戦なんていらねーよ、こんな奴等相手に。ガンガンいこうぜ」

 

「待てい‼︎」

 

「ゔっ‼︎」

 

しかし、白血球王に顎を殴られ止められる。

 

「魔王の根城を前に『ガンガンいこうぜ』など愚策中の愚策中‼︎」

 

白血球王は銀時を殴った手を、ハンカチで丁寧に拭いていた。どうやら完全に雑菌扱いらしい。

 

「貴様のような奴が率いるパーティーが、魔王に辿り着く前にMPを使い切り、魔王に何もできずに長ったらしい復活の呪文をメモるハメになるんだ。貴様の指示で動いていたらパーティーは全滅だ。たま様を救う勇者はこの俺、遊び人はルイーダの酒場で飲んだくれているがいい」

 

「誰が遊び人だコラ‼︎確かに俺は遊び人かもしれない、だが俺とビアンカの息子は天空の勇者になるからね⁉︎ただの遊び人じゃないからね‼︎天空の遊び人だからね‼︎」

 

「要するにそれただの遊び人だろ」

 

「魔王に辿り着くまでは無駄な戦闘は避け、体力を温存した方がいい。回復も薬草でなんとかしのごう。作戦は『じゅもんつかうな』で」

 

「いや、ハナから僕ら呪文なんて使えないんですけど」

 

志乃が銀時に、新八が白血球王にツッコミを送る。銀時はさらに白血球王に突っかかった。

 

「そんな消極的な策で魔王に勝てるワケねーだろ、バカかオメーは。オメーみてーなケチなパーティーが薬草持ちすぎで宝箱もロクに開けれず、魔王に辿り着く前にMP満タンのまま全滅すんだよ。だからここは『クリフト以外ガンガンいこうぜ』でいこう」

 

「聞いた事ねーけどそんな作戦‼︎クリフトって誰よ‼︎」

 

「クリフトはほっとくと魔王にまでザラキかける新八的ポジションだ。黙ってた方がイイ」

 

「役立たずって言ってんのそれ‼︎」

 

「クリフトも使いこなせないとは笑止、やはり貴様にパーティーを率いる資格はない‼︎」

 

「黙っとけよ、てめーもクリフトとブライとトルネコと一緒に馬車で暮らしてーのか?ベストメンバーの陰口だけが生き甲斐の暗い生活を送りてーのか⁉︎」

 

またもや口喧嘩に発展した二人。新八と神楽と志乃は、遠目から呆れる。

 

「また始まっちゃったよ。ダメだあの二人」

 

「志乃ちゃん、なんとかしてヨ」

 

「え、私?」

 

神楽に突然助けを求められ、志乃は自分を指さした。

 

「あのシスコンコンビ黙らせれるのは妹の志乃ちゃんだけアル、お願いネ」

 

「いや、銀は確かに兄貴だけど白血球王(あいつ)は違うからね?」

 

一応訂正を入れた志乃は、めんどくさがりつつも、二人の仲裁に入る。

 

「ハイハイ喧嘩はもうやめな。鬱陶しいから」

 

「志乃‼︎お前はお兄ちゃんの味方だよな、やっぱり作戦は『ガンガンいこうぜ』だよな!」

 

「何を言う‼︎我が妹よ、あんな雑菌男の言う事など聞く必要もない。やはり『いのちをだいじに』でいくべきだ‼︎奴の作戦はパーティーを破滅に導くだけだ!」

 

「あー、ハイハイわかったから」

 

ずいっと迫ってくる二人を押し戻して、取り敢えず二人を宥めようとする。

 

「じゃあ、二人の折衷案でいこう。『クリフト以外いのちをだいじに』で」

 

「クリフト死ねってか‼︎それ僕に言ってんの⁉︎そんなに僕は役に立たない⁉︎」

 

この二人を静めるには、矛先をお互いではなく他人に向けることが重要だ。ということで、今回新八に犠牲になってもらった。ごめんね師匠。

銀時と白血球王も、これには納得してくれた。

 

「仕方ねーな。じゃあそれでいこう。『クリフトにガンガンいこうぜ』で」

 

「なんでクリフトにガンガンいくんだよ‼︎最早クリフトに攻撃してんでしょーが‼︎」

 

「仕方あるまい。『クリフトつかうな』で手を打とう」

 

「オメーも結局クリフト邪魔なんかい‼︎」

 

この二人に任せていたらダメだと判断したらしい。神楽が一人、崖から飛び降りた。

 

「バカ勇者どもに任せてたら埒があかないアル。私が奴等を引きつけるネ、その間にお前達は城に向かうアル」

 

「えっ?」

 

志乃が振り返った時には、神楽はもう獏達から逃げていた。

 

「神楽ァァァァ‼︎」

 

「あの娘が一番の勇者だよ‼︎メチャメチャ男前なんですけど‼︎どっかの誰かさん達より全然カッコいいんですけど‼︎」

 

囮役を買って出た神楽のおかげで、崖下の警備が甘くなる。その隙を見た銀時が、真っ先に飛び降りた。

 

「待てェいい‼︎」

 

次の瞬間、白血球王が降りてきて、銀時の頭を踏みつけ着地する。

 

「先陣は勇者の指定席‼︎たま様を救う勇者はこの俺だァァ‼︎」

 

今度は銀時が駆け出した白血球王の足首を掴んで、引っ張り倒させる。

 

「何しやがんだこのコスプレ勇者がァ‼︎てめーみてーなイカレポンチに率いられてたらパーティーは全滅だ、この俺が……」

 

その隙に銀時が走り出したが、またしても白血球王が今度はスライディングをしかけ、銀時を転ばせる。そしてお互い掴み合って、ゴロゴロと転げ回った。

 

「遊び人はアッサラームでぱふぱふに勤しんでろと言ってるんだ、このパーティーのリーダーはこの俺だ‼︎」

 

「ふざけんな、ロトの勇者は引っ込んでろ!これからは天空の勇者の時代なんだよ‼︎」

 

「ちょっとォォォ何やってんですかァ二人ともォォ‼︎んな事やってる場合ですかァ‼︎」

 

ギャーギャーと喧嘩し合う二人。敵地だというのにこの緊張感のなさは一体何なのか。

 

「なんだよあの二人、全く同じ顔してるのに全く合わないよ‼︎たまさん、ホントに白血球王(あのひと)銀さんがモデルなんですか⁉︎相性最悪ですよ、最強のコンビどころか最悪のコンビですよ‼︎あの人ら‼︎」

 

「ケーキとラーメンが美味しいからといって、二つを合わせてケーキラーメンを作ってもかえってお互いの味を殺し合い、大変不味い料理が出来上がってしまう。私は大変な計算ミスをしてしまったのかもしれません」

 

「何その頭悪い計算⁉︎アンタそんな浅はかな計算で二人を会わせたんですかァ⁉︎」

 

そんなことをしているうちに、どんどん敵が攻め込んでくる。それにも構わず、白血球王と銀時は喧嘩を続けていた。

 

「おのれはァァァァ雑菌だらけの手で俺に気安く…触るなァァァァァァ!」

 

その時、ついに白血球王が剣に手をかけて、光属性の必殺技を放った。なんで属性がついてるって?知らないです。

周りにいた獏もまとめて消し去った大技を銀時はまともに浴びたが、なんとか立ち上がる。

 

「ククク、その程度か勇者様の実力は。こんなモンじゃカンダタはおろかスライムにも勝てやしねぇ。今度は、俺の番だ。食らいやがれェェェェ!」

 

仕返しに、銀時が闇属性の必殺技を放った。なんで属性がついてるって?知らないです。

これまた周りの獏を消滅させる大技だったが、白血球王はなんとか無事であった。

 

「フッ、貴様こそこの程度か。こんなモノじゃスライムはおろか朝お母さんが起こしに来たら既にただの屍だ」

 

さらに二人の喧嘩は発展し、お互いに必殺技を出し合う。攻撃はどれも周りの獏達を巻き込んだ大規模なものだが、言わずもがなその被害は志乃達にも降りかかる。

 

「ギイャアアアアア⁉︎」

 

「何やってんだァァあいつらァァもうメチャクチャだァ‼︎」

 

「いえ、見てください。二人の喧嘩に巻き込まれ、ウィルス軍が次々に消滅していきます。やはり私の計算は間違っていませんでした。あの二人こそ最強の……」

 

たまが勝利を確信した次の瞬間、銀時と白血球王の攻撃が混ざり合った。そして眩しい光を放ち、超爆発を引き起こした。

 

********

 

一部瓦礫の山と化した魔王の城に入り、最深部の魔王目指して歩く。

 

「なーにが最強の二人だよ。明らかにこいつら……まぜるな危険じゃねーか」

 

志乃は呆れて、後ろに続く銀時と白血球王を振り返る。二人は既にボロボロで、自身の得物を杖代わりにして辛うじて歩いていた。

志乃の言葉に上乗せする形で、神楽も言う。

 

「会わせたのが間違いだったアル。ドッペルゲンガーは出会ったら死ぬって言うアルからな。このままじゃ私達も道連れネ」

 

「しかし、おかげでウィルス軍に多大なダメージを与え、城内に侵入することもできました。ほぼ私の計算通りです」

 

「嘘吐けェ‼︎魔王を前にHPMP1桁みたいなモンですよ、画面真っ赤ですよどーすんですかコレ‼︎」

 

呑気に進むたまに、新八がツッコミを入れる。白血球王も口を開いた。

 

「心配するな。最近の魔王(ラスボス)はな、決戦を前に、『全力で来るがいい……ジワジワと嬲り殺してくれる』などと言い、HPMPを全回復してくれる者も多い。そこに賭けよう」

 

「何で勇者がラスボスに依存してんだコラァ‼︎」

 

ようやく普通に歩き出した白血球王に、志乃は背中を叩いて叫んだ。新八も銀時と白血球王を窘める。

 

「言っとくけどこれはゲームじゃないんですよ。セーブデータも復活の呪文もないんです。死んだら一巻の終わりなんです。頼むからもう喧嘩しないでくださいよ、仲間同士で命削り合ってる場合じゃないんですから」

 

「フン、そんなに命が惜しいか。ならばさっさと帰れ。最初から言ってるはずだ。俺一人で充分だと」

 

相変わらず一人でやろうとする白血球王。その態度に苛立ち、志乃は彼を咎めようとした。しかし、彼女より先に神楽が出る。

 

「お前、なんでそんなにツンケンツンケンするアルか。銀ちゃんとお前……いや私達は、分身みたいなモノアル。見た目だけじゃない、たまを内側と外側で護ってきた同じ仲間ネ。なのになんで協力しようとしないアルか、たまが壊れてもいいアルか」

 

それでも白血球王は神楽達の思いを突っぱねた。

 

「だから帰れと言っているんだ。確かに貴様らはたま様を救うために体内(ここ)にやってきた、確かにたま様を大切に思っているのだろう。だがそんな貴様らだからこそ……機械(からくり)のためにそこまでできる貴様らだからこそ、他にもあるはずだ。護るものが、外にももっとたくさんあるはずだ」

 

白血球王は語りながら一人先に進み、曲がり角の先に宝箱を見つけた。

 

「俺は違う。俺はたま様と妹を護るためだけに創られた。俺の生きる目的はたま様と妹を護ることだけだ。たま様と妹以外どうなろうと知ったことじゃない」

 

「オイ待て何で私が入るんだよ。オイ聞いてんのかオイ」

 

「たま様と妹以外のものに何も興味はありはしな……」

 

見つけた宝箱に手を出すと、宝箱に目と口が現れ、白血球王の腕にガブリと噛みついた。

 

「ぐあ"あ"あ"あ"あ"あ"」

 

「たま様と妹以外に興味あったァァァァ‼︎」

 

「何欲出して安いブービートラップに引っかかってるアルかァ‼︎」

 

見ての通り、白血球王は見事ブービートラップに騙された。おかげで元々少なかったHPが、さらに削られる。血が吹き出るそれでも白血球王は見栄を張った。

 

「わ……わかっただろう。たま様と妹を護るのは俺一人で充分なんだ」

 

「全然充分じゃないんですけど、頼りなくて仕方ないんですけど‼︎」

 

「貴様らとは覚悟も潜ってきた修羅場の数も違うんだ」

 

「そりゃ修羅場だらけだよね、こんな安い罠に引っかかってたら命いくつあっても足りないよね」

 

「わかったらさっさと帰れェェェ‼︎」

 

「いや、じゃ放してください!思いっきり人の事掴んでるんですけど」

 

(コレ)をなんとかしたらさっさと帰れェェ邪魔者共が!たま様と妹を護る勇者は俺だけで充分だァァァ‼︎」

 

「だから何で私が追加されてんだよ‼︎ムカつくんだけど!」

 

志乃は弱冠、というかかなり苛立ちを覚えた。ツカツカと白血球王のすぐ後ろまで歩いて、後頭部を容赦なく蹴っ飛ばす。

 

「いつ私があんたの妹になった!」

 

「何を言っている!俺の妹は世界で貴様ただ一人だ!」

 

「余計イラつく‼︎会ってさほど経ってねーだろーが‼︎腹立つんだよ!」

 

もう一発白血球王の頭を蹴りつけ、満足した志乃はそのまま背を向けた。しかし、白血球王が助けを求め、ジーッと見つめてくる。

……銀からでさえ、そんな目で見つめられたことなんかないのに。ズルイなァ、私の新しい兄貴は。

ハァと溜息を吐いて、志乃は仕方なく振り返った。

 

「師匠、神楽、もうそいつ助けなくていいよ。私がやる」

 

「えっ?」

 

「志乃ちゃん平気アルか」

 

心配する新八と神楽を下がらせ、ブービートラップを睨みつける。そして、ブービートラップの頭を拳で殴りつけた。

ここで、解説しよう。白血球王の手は今、ブービートラップに噛まれている。上顎とも繋がっている頭を叩くとはこれ即ち。

 

「ぎぃやあああああああ‼︎」

 

噛まれている白血球王にも、多大なダメージがいくということである。

白血球王の悲鳴を聞こえないフリで乗り切り、志乃の拳骨で気絶したブービートラップの口を手で引っ張り、大きく開けさせた。

 

「ハイ、これでいいでしょ?」

 

「い、妹よ……せめてもっと優しく奴を倒してほしかったぞ……」

 

「手っ取り早い方法はコレでしょ。せっかく妹が助けてやったんだから、文句言わないで」

 

腕を押さえている白血球王に背を向け、さっさと魔王の元へ急ごうと歩き出す。彼女の小さな背中を、白血球王は優しげな目で見つめていた。

 

********

 

ついに、最深部。所謂王の間とも呼ばれそうな場所に辿り着いた。銀時、志乃、白血球王の三人が、それぞれ必殺技を放ち、ウィルス軍団を全滅させる。中にいた魔王の側近らしきウィルスが、驚いていた。

 

「なっ、なァァァァァァァァにィィィ‼︎ゆけって……そーいう意味じゃないよォォォ‼︎そっちの逝けじゃないよォォォォォ‼︎オイィ戻ってこいお前らァァァァ‼︎」

 

絶叫する側近に、爪楊枝を突き出した志乃が声をかけた。

 

「よォ魔王さん。一度聞いてみたかったんだけどさァ、魔王ってレベル99の勇者が攻め込んできた時、どういう気分なの?」

 

彼女の後に続いて、銀時と白血球王もやってくる。

 

「ケツまくって逃げてェ気分なのか、それとも地道に自分もレベル上げようとか思うのか」

 

「だったら西の毛細血管洞窟がオススメだ。はぐれメタルウィルスが出やすいぞ。まァレベルなどいくら上げてもムダだがな」

 

そして三人揃って、ビシッと得物を魔王に向けた。

 

「なんせ俺達99×3……レベル297の勇者だから」

 

「俺は100だけどね」

 

「俺も実は101だけど」

 

「いや俺ホントは103だけど」

 

「オメーら黙ってろ。私が最強の200だ」


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