銀狼 銀魂版   作:支倉貢

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前回言っていた通り、小銭形のアニキの話です。
いやね、志乃ちゃんと会わせてないと、さっちゃんの時みたいな感じになるじゃないですか。それがめんどくさかったんでメチャクチャな形ですが書こうと思いました。


男はハードボイルドの精神で

この日、志乃は店に来ていた客から依頼を受けていた。

 

「客引き?」

 

「そーなんですよ。実は今日、従業員が風邪でたくさん休んじゃってね。バイトとして一日だけ客引きをお願いしたいんですけど」

 

「……まぁ、構わないけど」

 

今日の依頼は、客引きの手伝い。

志乃の営む万事屋では、店のアルバイトとしての手伝いの他にも、浮気調査、その揉み消しなど探偵のような仕事もこなしている。

今回も例によって、仕事の入らない銀時に回そうと思ったが、今日は朝から別の仕事が入っていると聞いたのを思い出した。

 

「で、おたくの店って確か……」

 

志乃が先程貰った名刺に目を落とすと、「イメクラ化け狐 店長」と書いてあった。

 

「……何するお店なの?結局」

 

「あれ?お嬢さんかぶき町に住んでるのに知らないの?えーとつまりはねェ……」

 

店長が仕事内容を説明しようとした次の瞬間。

 

ーーダァン‼︎

 

ソファに座っている店長の顔のすぐ横の背もたれに、包丁が刺さった。

 

「ぎゃあああああああ‼︎なっ、なななっ……何してんだァァお前ェェェ‼︎」

 

「あっすみません。料理してたらつい手元が狂いました」

 

台所から笑顔で現れたのは、我らがオカン・時雪。しかし目が笑っていない。

その笑顔のまま、ゆらりと店長に歩み寄ってくる。おどろおどろしいオーラを醸し出していた時雪に、志乃は何も言わず煎餅を食べ、現実逃避をした。めんどくさかったのである。

 

「申し訳ありませんが、ウチの社長に変な事教えないでください。今日は俺ですから命はありましたけど、俺以外の4人の前で、今度こそその話をしたら……わかってますよね?」

 

「ひ……ひぃぃっ‼︎」

 

「おーいトッキー。その辺にしときな。久々に来た仕事パーにするつもり?」

 

いつになく殺気立つ時雪を宥め、引き下がらせる。

 

「すいませんね、突然。ま、仕事はちゃんとしますんで安心してください」

 

「え……えと、その…………」

 

店長は、もうこの店で仕事を頼むのはやめようかと思っていた。そりゃそうだ。仕事内容を教えようとした瞬間、殺されかけたのだ。ここは悪魔の巣窟に違いない、と。

しかし、再び時雪と目が合ってしまう。時雪は視線で店長を脅した。

 

ーーここまで来ておいて依頼を取り下げるなんて……そんな事しませんよね?

 

「…………お、お願いします……」

 

「え?あの、ちょっと。何で泣いてんの……?」

 

店長は恐怖に泣きながら、俯いた。志乃の後ろに立つ時雪は、満足そうに頷いていた。

 

********

 

そして、夜中。志乃は小春と八雲を連れて、依頼主の店に向かった。相変わらず店の仕事内容は全くわからないが、取り敢えず支給された狐の着ぐるみに手を通す。

 

「志乃、私仕事嫌なんですけど。帰っていいですか?」

 

「ダメ。たっちーは源外のじーちゃんの元で忙しいみたいだし、タッキーもバーさんとこで働いてるから」

 

「時雪くんは?」

 

「アイツ連れてくと店長が怯えるからダメ」

 

「あら、時雪ちゃんもついに恫喝を覚えたのね?偉いわ」

 

「褒めるトコ違う」

 

最後に狐の被り物をスッポリ被る。そして、プラカードを持って店の外へ繰り出した。

 

「うー、重い〜。それに暑い」

 

「攘夷戦争の頃着てた鎧よりかはマシですね」

 

「さてと、誰がいいかしら?」

 

「ちょっと待って〜!」

 

着ぐるみを物ともせず、夜の街を闊歩する二人を追いかける。ようやく追いつくと、志乃は黒い羽織を着たグラサンヒゲ男を見かけた。男は酒に酔っているのか、足元が覚束ない。

 

「ねぇねぇ、あの人にしない?」

 

「あら、良いじゃない」

 

「ちょうど誘いやすそうなカモですね」

 

志乃が指さした男を見た二人も、彼女に賛同する。それから三人の行動は早かった。素早く、男の背後に立つ。

 

「大丈夫ですか?貴方」

 

「だいぶ酔ってるみたいだけど……」

 

「吐いた方がいいよ、おじさん」

 

「どうです?ウチの店でちょっと休んでいかれたら」

 

「可愛い娘いっぱいいるよー」

 

男がこちらを振り返る。見た目はすごくちゃんとした人みたいだ。チョイ悪風の雰囲気が醸し出されるが、それもまたハードボイルドなカンジで悪くない。右手を見ると、十手が握られていた。

男は葉巻を咥えて、立ち上がる。

 

ーー……何で私の周りには喫煙者が多いんだろう…………。

 

「ネズミならぬ狐が、ようやく尻尾を見せたか」

 

「?」

 

「神妙にお縄につけい、キツネめが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……なんていうプレイとかしたいんですけどいけますかね?」

 

「ああ。同心プレイ、岡っ引きプレイもありますよ」

 

「マジっすか。基本僕Mなんで結構キツめにやってほしいんですけど」

 

八雲が行く気満々の男の肩に手をまわして、店へ誘導する。何はともあれ、客引き成功だ。志乃は八雲と小春に視線を送り、小さくサムズアップをして見せた。

 

********

 

その後、そのハードボイルドっぽい男に志乃達は警察署に連行された。中に入って他の同心に事情徴収をされるかと思っていたが、ハードボイルドっぽい男は早速上司に蹴飛ばされていた。

 

「何やり遂げた顔してんだァァ‼︎仕事中イメクラ行ってただけだろーがァァてめーは‼︎」

 

どうやらこのグラサン男は仕事中だったらしく、しかも小銭形平次という同心らしい。

仕事中にも関わらず誘ってしまった志乃は少し罪悪感を感じたが、それにまんまと乗ってノリノリで店に向かった小銭形の方が悪いか、と思い直し、罪悪感はすぐに消えて無くなった。

 

「挙句酔っ払ってあんなもん連れてくる始末‼︎狐面って言ったんだよ俺ァ、なんで着ぐるみ⁉︎どうしてお前はいつもいつも……」

 

はぁ、と溜息を吐く上司。見ているこっちが哀れに思えてくる。もちろん上司が、だが。

 

「前から思っていたがな………………お前は顔と仕事の能力のバランスがおかしい‼︎その顔はなァどう考えても仕事できる奴の顔だろう!なのにどうして全然ダメなの、どーしてバカなの!なんで無駄にハードボイルド⁉︎」

 

『他人から見れば無駄に見えるこだわり……しかし、そこに男の全てがある』

 

「うるせーんだよ!存在そのものが無駄な奴が言うな!オイ葉巻やめろそれ!なんで上司から説教されてんのに葉巻吹かしてんだよ!ブッ飛ばすぞ‼︎」

 

ーーあのモノローグっぽい喋り方もウゼェな……。

 

志乃は上司のイライラを汲み取って、哀れみの目で怒られている小銭形を見下ろした。

 

それからの話は大体聞き流していたが、小銭形は狐と呼ばれる盗賊を捕まえようとしていたらしい。その狐が盗んだ店の丁稚や店主に至るまで一人残らず皆殺しにされたというのだ。

小銭形は十年以上狐を捕まえようと追いかけていたのだが、一度も捕まえられないまま。彼が狐を捕まえていたら、死ぬ者もいなかった。

 

「てめーは立派な罪人だ。無能というのも罪目に加えたいもんだね」

 

上司は呆れて、奥に入っていく。志乃達は、残された小銭形の背中を見つめていた。

 

********

 

結果、小銭形は自宅謹慎の身となった。志乃達はそのまま彼についていき、彼の行きつけのバー……ではなく屋台に向かった。

 

「自宅謹慎……なんかごめんね、おじさん。私がアンタ誘えばいいなんて思っちゃったせいで、こんな事になっちゃって。……ま、でもアンタも私ら犯人と勘違いしたんだからおあいこだよね」

 

『落ち込みはしない……。いつものことだ。人生は様々なことが起こる。いい事があろうと悪い事があろうと、そいつを肴にカミュを傾ける……………………俺の一日に変わりはない』

 

「もういい、ウザいです」

 

小銭形の隣に座っていた八雲が、モノローグの文章を括弧(『』)ごと掴んで、小銭形の頭に突き刺した。小銭形の頭からは、血が吹き出た。

 

「ギャアアアア‼︎」

 

小説の世界を破壊するような荒事をあっさりこなした八雲に、小銭形が突っかかる。

 

「ちょっ……何をするんだ貴様ァァァ‼︎俺のハードボイルドをを‼︎」

 

「もういいです。しつこいハードボイルド」

 

「しつこいハードボイルドって!仕方ないだろハードボイルドなんだから‼︎っていうか何この攻撃の仕方⁉︎わかりづらすぎるだろ‼︎」

 

「うるさいですね。そんなもの読者の想像力やイマジネーションが補ってくれますよ。それ以前に誰もこんなバカげた小説読んでませんから問題ありません」

 

人の頭をとんでもないやり方で攻撃しといて、八雲は悠々と御猪口を傾ける。小春も八雲に重ねて言った。

 

「そんなねェ、ハードボイルドで頭いっぱいで仕事も手につかないならねェ、ハードボイルドなんてやめちゃいなさい‼︎このバカチンが‼︎」

 

「お母さん?」

 

「その方が貴方にとってもハードボイルドにとっても幸せよ!」

 

「んんんん‼︎できるもん‼︎ハードボイルドも仕事もっ……俺っ両立するもん‼︎」

 

「最早ハードボイルドも仕事も両立できてねーよ。テストの点数低くて親に部活やめさせられそうになる子供か」

 

小春には八雲が、小銭形には志乃がツッコミを入れる。すると今度は、屋台の親父が口を挟んだ。

 

「旦那、その辺にしとかなきゃまた奥さんにどやされますぜ」

 

『家庭に仕事のグチは持ち込まない、それが男の作法だ』

 

「またやってるわよ」

 

『妻の前ではいつも身ギレイでいる、それが夫婦円満のコツ。だから今日も俺はこうしてカミュで身を清めるのだ』

 

「コイツ、カミュって言いたいだけですよ。カミュって言えばハードボイルドになると思ってますよ」

 

小春も八雲も、だんだんこのハードボイルドがめんどくさくなってきた。親父が、屋台の中からキセルと煙草を取り出してくる。

 

「たまには女房にグチ零して話聞いて花持たしてやんのも夫婦円満のコツですよ。どーせまた狐に逃げられたんでしょ」

 

「フン」

 

小銭形が小さく笑って、葉巻を取り出す。

 

『まったく、このマスターには敵わない。何でも俺の事はお見通し。思えば十年来の付き合いかミュ』

 

「カミュって言った‼︎無理矢理ハードボイルドにしたぞ!」

 

『もう本当の親父のようなものだな。向こうもおそらくそう思っているだろう』

 

「思ってねーよ」

 

『くたばれジジィカミュ』

 

「最早ハードボイルドでもなんでもないよコイツ」

 

隣でツッコんでいた志乃も疲れ果て、親父に出された牛すじを食べた。美味い。

味の染みた牛すじを堪能しつつ、志乃は気になっていたことを尋ねた。

 

「あのさ、おじさんが追ってるその"狐"って一体何なの?」

 

「あり?嬢ちゃん知らねェのかい?」

 

キセルから煙が立ち上る。志乃は牛すじを噛み締めながら、コクリと頷いた。

 

「まァ、嬢ちゃん見た所まだ子供だし、知らなくて当然かもしれねェが……」

 

フゥッと煙を吐いてから、親父は説明を始めた。

 

「嬢ちゃん聞いたことあるかィ?神出鬼没の伝説の盗賊、狐火の長五郎。人を殺さず、女を犯さず、貧しき者から盗まず、悪党から金を巻き上げ、貧しき民にばらまく義賊なんてもてはやされた時代もあったんだがねェ。今や殺し押し込み、何でもやる凶賊に成り果てちまった。まァ、元々盗人なんてやって、ロクな奴じゃなかったんでしょうが」

 

「……………………」

 

「…………奴は違う」

 

志乃が黙って話を聞いていると、突如小銭形が呟いた。それに、八雲と小春は小銭形を見つめ、志乃は相変わらず牛すじを頬張りながら横目で一瞥する。

 

『思わずそう口走った自分に、内心驚きを隠せなかった』

 

「嘘吐け、冷静じゃねーか」

 

『盗人、それも十年追いかけ続けた敵の肩を持つとはカミュ』

 

「うっざい‼︎それやめろうっざい‼︎」

 

いつもツッコむ時、師匠はこんな気持ちなのだろうか。志乃は毎回迷惑をかけている師匠に想いを馳せる。そして、小銭形が珍しく普通に喋り出した。

 

「あれは……俺の知ってる狐じゃない。てめーのルールも持ち合わせてない野郎は、悪事だろうが善事だろうが、何やったってダメなのさ。悪人か善人か知らんが、少なくとも俺の知ってる狐は自分の流儀は持ち合わせていた。盗み入った屋敷に、食いかけのお揚げと書き置き必ず残していくような、泥棒のくせに茶目っ気があって、どこか粋な奴だった。そんな奴が殺しなんぞ………………」

 

「アニキぃぃぃ‼︎」

 

こちらへ一直線に駆けてくる少女が、紙を一枚手にして小銭形を呼んだ。

 

「ハジ!どうした」

 

「大変なんです‼︎見てくだせェこいつを!」

 

ハジと呼ばれた少女は、小銭形に持っていた紙を手渡した。

紙には、「次の標的は大江戸美術館の金の油揚げ像 止められるものなら止めてみろ幕府」と書かれていた。手紙の最後には、狐の面の絵が。

 

「こいつは……犯行予告状⁉︎」

 

「今晩、狐が盗み入った屋敷に……完全にナメられてやす。こんなもんバラまかれて取り逃がした日にゃあちきら……」

 

「おのれェェェェ!ハードボイルドな真似をををを‼︎」

 

怒りに叫んだ小銭形は、犯行予告状を破り、ハジと共にどこかへ向かおうとしていた。屋台で牛すじを噛み締めながら、小銭形を呼び止める。

 

「待ちなよ。謹慎破ってまで、わざわざ敵の汚名晴らそうってのかい」

 

小銭形は振り返ることなく、十手を握りしめて答えた。

 

「そんなんじゃない。ただ……俺にも俺の流儀があるだけだ。腐った卵は俺の十手でぶっ潰す‼︎それが俺のハードボイル道だ‼︎」

 

「旦那、勘定まだです」

 

「あ、すんません」

 

ちょうどカッコつけてるタイミングで屋台の親父に呼び止められ、小銭形は代金を支払う。しかも何故か全部小銭で払っていた。

 

「もう戻ってこねーかもしれねーんで、今までのツケの分も」

 

「親父が一番ハードボイルドですよ、渇いてますよ‼︎」

 

笑顔でツケを要求する親父。その笑顔はカラッカラに渇いていた。

 

「うん。ほいじゃあ、コイツはこのまま銀髪の嬢ちゃんへ」

 

親父はお代の小銭を、志乃の目の前に置く。

 

「?何これ、親父」

 

「嬢ちゃん、さっき何でもやる万事屋だとおっしゃってやしたね。さっきも言った通り、わしも十年もの間そこの旦那にグチ聞かされててねェ。やれ狐だ狸だって。もうウンザリでねェ、聞きたかねーんですよ。さっさとケリつけてもらいたくてねェ。どうぞ、小銭形の旦那をよろしくお願いしまさァ」

 

そう言って、親父は志乃に頭を下げた。そのハードボイルドっぷりに、志乃と八雲は驚愕する。

 

「もうやってらんねーよ!マスターが一番ハードボイルドじゃん!」

 

「マスターじゃねェ、親父です嬢ちゃん」

 

「ハードボイルドぉぉ‼︎やっぱ親父ハードボイルド‼︎」

 

「今のハードボイルドですか⁉︎てか、ハードボイルド言いすぎてゲシュタルト崩壊引き起こし始めましたよ!」

 

というわけで、志乃達は親父の依頼を受け、小銭形に協力することとなった。

 

********

 

深夜、大江戸美術館前。そこには、町奉行の役人達が、大勢で警備を固めていた。志乃、八雲、キャッツアイのコスプレをした小春、ハジが近くの茂みに隠れて、その様子を見ている。

 

「スゴイ警備の数ですね……」

 

「そりゃそーですよ。町奉行の威信がかかってやすからね」

 

「ここに忍び入って、奴らより先に狐捕まえるのか。まるで私らが泥棒だね」

 

「心配いりやせんよ、あちきが手引きをするんで。あちきら目明かしってのは、その多くが軽い罪を犯した者で構成されてんです。泥棒捕まえるには泥棒ってヤツです。かくいうあちきも昔は……だから、こういうの得意なんです」

 

「心配直撃なんだけど‼︎だれかこの娘連れてってェェ‼︎」

 

「オイ、大きな声を出すな。警備に気づかれたらどうするんだ」

 

ハジにツッコミを入れた志乃の後ろから、小銭形が注意する。しかし、小銭形は何故かバイクに乗っていた。

 

「てめーがどうするんだァァァ!お前こんな時ぐらいハードボイルド脱ぎ捨てて来い‼︎バカなのか?お前はバカなのか?」

 

しかも小銭形が乗ってきたバイクは、エンジン音がすごい奴。志乃は小銭形の頭を叩いた。

 

「バカヤロー、このバイクは落ちてたんだよ。ハードボイルドな奴の前にはバイクが落ちてるもんなんだ。『あぶない刑事』でもタカがよく落ちてるバイク乗って敵追跡してたろ。まァあいつも結構ハードボイルドだからなァ」

 

「アンタはマジで危ないから!『マジであぶないからどいてェ!みんな寄らないでェ刑事』だから‼︎」

 

「わかったよ。降りりゃいいんだろ降りりゃ」

 

「オイぃぃぃ‼︎もうツッコむのもめんどくせーよ‼︎」

 

仕方なさそうにバイクを降りた小銭形。しかし、何故かバスローブを着ていた。

志乃がツッコミを入れている間、バイクに興味を示した小春がそれに跨る。

 

「オメーはどんだけハードボイルドで武装してんだよ!何でバスローブ着てんだコラァ‼︎お前それはもう一仕事終えた後のハードボイルドだろーが!」

 

「タカが……仕事場行く時もバスローブって言ってたから」

 

「お前何やかんやでちょっとタカに憧れてんじゃねーか!オイいいから取り敢えずそれ脱げ」

 

「えっ脱ぐの?」

 

「いいから脱げっつってんだよ。腹立つんだよなんかそれ見てたら。全身タイツに着替えろコラ」

 

「いやタイツは勘弁してください。キャッツアイじゃないですか」

 

「いーんだよ。スペースコブラも着てただろーが。ハードボイルドだろーが。ハル、もう一着それ貸して……」

 

志乃が小春を振り返った瞬間、彼女を乗せたバイクが茂みを貫いて急発進する。小春はそのまま単身、警備員の中を切り込んでいく。

 

「よし。陽動作戦成功」

 

「嘘吐け‼︎」

 

美術館を破壊して突き進む小春を遠目に見ていた志乃が呟くが、すかさず八雲がそれを叩き落とす。

ともかく見張りの意識が小春に集中している内に、志乃達は裏口から見事侵入を果たしたのだった。


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