銀狼 銀魂版   作:支倉貢

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疲れた時はホットミルクを飲んで早く寝なさい

この日、志乃は久しぶりに銀時の店へ遊びに行った。今回は余分に貰った米一俵を持って。

 

「よォ」

 

「あ、いらっしゃい志乃ちゃん」

 

「はい、これ。また貰ったからおすそ分け」

 

「いつもありがとう」

 

志乃から貰った米を受け取り、部屋に置く新八。銀時はソファに寝転んで、ジャンプを顔に置いて寝ている。あと一人の姿がどこにも見当たらない。

 

「あれ?そーいえば神楽は?」

 

「ああ、今買い物に行ってるよ」

 

「へぇ〜」

 

「ただいまヨ〜」

 

「あ、おかえり」

 

「よォ神楽。おじゃましてまーす」

 

話題の人物が帰ってきたところで、新八はおつかいを頼んだ物を貰おうとする。

 

「トイレットペーパー買ってきてくれた?」

 

「はいヨ」

 

だが、渡されたのはトイレットペーパー1個のみ。それも袋に六つほど入ったものではなく、トイレットペーパーロール単品である。こんな売られ方あまり見たことない……。

 

「……神楽ちゃんあのさァ……普通何ロールか入った奴買ってくるんじゃないの。これじゃあ誰かお腹壊したら対応しきれないよ」

 

「便所紙くらいでガタガタ煩いアル姑かお前!世の中には新聞紙をトイレットペーパーと呼んで暮らす貧しい侍だっているアル」

 

「あ、それ銀の受け売り?」

 

「そうアル」

 

「ダメだよ、あの人の言う事信じちゃ……ん?」

 

「?」

 

新八と志乃が、傍らに感じる気配に気付き、目を向ける。

そこには、大きな白い犬がいた。ビッグサイズ。何はともあれビッグサイズ。それを見るなり、二人は叫ぶ。

 

「ぎゃああああああああ!!」

 

「え、何コレェェェェ!!」

 

「表に落ちてたアル。カワイイでしょ?」

 

「いや、確かにカワイイけどさ」

 

神楽が巨大犬の顎を撫でる。そこに銀時もやってきた。

 

「落ちてたじゃねーよ。お前拾ってくんならせめて名称の分かるもん拾ってこいや」

 

「定春」

 

「今付けたろ!明らかに今付けたろ!!」

 

「これ……首輪に挟まってたヨ」

 

神楽が差し出した手紙を、新八が受け取ってそれを読む。

 

「えーと……万事屋さんへ。申し訳ありませんが、ウチのペット貰って下さい」

 

「…………それだけか?」

 

「(笑)と書いてあります」

 

「笑えるかァァァァァァ!!(怒)」

 

「うわっ!!」

 

銀時の怒りの一撃は、手紙を破ってしまった。彼の怒りも尤もだ。(笑)って何だ、(笑)って。

 

「要するに捨ててっただけじゃねーか!!万事屋つったってなァ、ボランティアじゃねーんだよ!!捨ててこい!!」

 

「嫌アル!!こんな寒空の下放っぽいたら、死んでしまうヨ!!」

 

「大丈夫だよ、オメー。定春なら一人でもやっていけるさ」

 

「アンタ定春の何を知ってんの!?」

 

「銀、アンタこの子を飼いたくないだけでしょ。エサ代とかエサ代とかかかるから」

 

こんなサイズの犬ならば、きっと食べる量も半端ない。元々ドカ食いの食い扶持を抱える万事屋にとって、この犬の加入は家計を火の車どころか丸ごと燃やし尽くし、灰すら残さないだろう。

志乃が銀時の本音を代弁するが、銀時はそれを無視して定春に近付く。

 

「分かってくれるよな、定は……」

 

バグン

 

「あ」

 

次の瞬間銀時は、定春に頭を丸ごと齧られていた。

 

********

 

「定春ぅ〜!!こっち来るアルよ〜!!ウフフフフフ!!」

 

公園では、神楽と定春が仲良く追いかけっこをしていた。

いやはや、微笑ましい光景である。それを、ベンチに座った銀時と新八、志乃が見守っていた。ちなみに銀時と新八は、何故か満身創痍で手当てを施されていた。

 

「…………いや〜スッカリ懐いちゃって、微笑ましい限りだね、新八君」

 

「そーっスね。女の子にはやっぱり大きな犬が似合いますよ銀さん」

 

「僕らには何で懐かないんだろうか、新八君」

 

「何とか捨てようとしているのが野生の勘で分かるんですよ銀さん」

 

「何でアイツには懐くんだろう新八君」

 

「懐いてはいませんよ銀さん。襲われてるけど神楽ちゃんがものともしてないんですよ銀さん」

 

「なるほどそーなのか新八君」

 

志乃は知らなかったが、あれから二人は生きていくため、定春を捨てようとしていたらしい。返り討ちに遭った様子だが。

仲良く遊ぶ神楽と定春ーーだが、定春は今にでも神楽を食らおうと襲いかかっている。戯れているというレベルではない。誰だこんな乱暴な犬捨てた奴。元の飼い主のツラを拝みたいもんだ。

だが、夜兎族の神楽にとっては何ともないのだ。こんな凶暴なデカい犬と均衡を保てるのは他でもない彼女だけかもしれない。

神楽は休憩しに、銀時達が座るベンチに座った。

 

「フー」

 

「楽しそうだね、神楽」

 

「ウン。私動物好きネ。女の子はみんなカワイイもの好きヨ。そこに理由イラナイ」

 

「……アレカワイイか?」

 

定春が、こちらに向かって突進しようとしてくる。銀時と新八と志乃は、危険を察してベンチから離れた。

 

「カワイイヨ!こんなに動物に懐かれたの初めて」

 

「神楽ちゃんいいかげん気付いたら?」

 

神楽は定春に突進され、遠くへ吹っ飛ばされた。しかし、すぐに戻ってきて蹴りをおみまいする。

 

「私、昔ペット飼ってたことアル。定春一号。ごっさ可愛かった定春一号。私もごっさ可愛がったネ。定春一号外で飼ってたんだけど、ある日私どーしても一緒に寝たくて、親に内緒で抱いて眠ったネ。そしたら思いの外寝苦しくて、悪夢見たヨ。散々うなされて起きたら定春……カッチコッチになってたアル」

 

ぐすん……と涙ぐむ神楽。

一方銀時達は、泣くべきか笑うべきか迷っていた。

 

「あれから私、動物に触れるの自ら禁じたネ。力のコントロール下手な私じゃみんな不幸にしてしまう。でも、この定春なら私とでも釣り合いが取れるかもしれない……コレ、神様のプレゼントアル、きっと……」

 

神楽はそう言いながら、定春の頭を撫でた。

と、そこであることに気付く。

 

「あ、酢昆布きれてるの忘れてたネ。ちょっと買ってくるヨ。定春のことヨロシクアル」

 

「オイ、ちょっとまっ……」

 

銀時達の背中に冷や汗が、背後から定春の呼吸が聞こえてきた。

嫌な予感しかしない。銀時は志乃を振り返る。

 

「オイ志乃。こいつと遊べ」

 

「はァ!?嫌だ!!絶対嫌だ!!死ぬ!!私まだ死にたくない!!」

 

「お願いだよ志乃ちゃん!!僕らもう限界寸前なんだ」

 

「だからって私売る気か!!私の差し入れのおかげでアンタらの食費を浮かせてやってるっつーのに!!その恩を仇で返すってか!!」

 

銀時だけならまだしも、新八まで恩を仇で返す思考、略して恩仇思考に染まったか。あんな純朴な少年にまで手を出すとは……おのれクソ兄貴め……!!

なんて喧嘩をしている間に、定春はどんどん近付いてくる。それに合わせるように、志乃達はジリジリと下がった。

 

「ねー銀、こういう時どうすればいいか知ってる?」

 

「あ?」

 

志乃はその答えを言う前に、銀時と新八を置いて一目散に逃げ出した。

それを見た二人も少し遅れて逃げ出す。それを皮切りに、定春が追ってきた。

 

「あ"ーーー!!てっ、てんめっ何置いてきぼりにしてんだ!!」

 

「猛獣に出くわしたらねェ、逃げるが勝ちなんだよ!!」

 

「黙ってろクソガキがァ!!お前が猛獣対策の何について知ってるってんだ!!」

 

「「「ぎゃあああああ!!」」」

 

三人は定春から逃げようと道路に飛び出す。そこに、丁度来ていた車と接触事故を起こしてしまった。

轢かれた三人と定春は、気を失ってしまう。彼らを轢いたのは、第四話に出てきたハタ皇子とそのじいだった。

 

「じぃィィィィィィ!!何ということをォォォ!!」

 

「落ち着きなされ皇子!!取り敢えず私めがタイムマシンを探してくるので!!」

 

「じぃぃぃぃぃぃ!!お前が落ち着けェェ!!」

 

どこかで見たことがあるような、デジャヴな光景が広がる中、ハタ皇子は定春を見て驚いていた。

 

「こっ……これは、何ということだ」

 

「どうされた皇子、タイムマシンが見つかりましたか!!」

 

「ちげェェェクソジジィ!!これを見よ!!」

 

「これは……狛神(いぬがみ)!?何故このような珍種が……」

 

「じぃ、縄はあるか!?」

 

ハタ皇子はじいに命令して、気を失った定春を車の上に縛り付ける。

 

「こんなことして良いんですか皇子?私らただのチンピラですな」

 

「これは保護だ、こんな貴重な生物を野放しには出来ん!!」

 

皇子は断固保護だと言い切り、車を発進させた。

その車と、酢昆布を買ってきた神楽の横を通り過ぎる。神楽は、車の上に縛り付けられている定春を見つけた。

 

********

 

定春を誘拐したハタ皇子とじいは、車で帰路を急いでいた。

 

「すごいものを手に入れてしまった。前回来た時はひどい目に遭ったが、これでペスを失った傷も癒えるというもの。のう、じぃ」

 

「左様で……!!」

 

皇子の言葉に頷こうとしたじいは、車のフロントガラスに張り付いている銀時と志乃に悲鳴を上げた。

 

「ギャアアアアアアア!!ゾンビだァァァァ!!しかも2体ィィィ!!」

 

「オーイ、車止めろボケ」

 

「この子は勘弁してやってくんない?神楽が相当気に入ってるみたいだから」

 

「何を訳の分からんことを!どけェ!!前見えねーんだよチクショッ」

 

「うオオオオオオ!!」

 

じいが銀時達に抗議しようと窓から顔を出すと、後方からものすごいスピードで神楽が走ってきた。

 

「なっ……!!チャイナ娘がものスゴイスピードで……!!」

 

「定春返せェェェェェ!!」

 

「誰だ定春って!?」

 

「くっ……来るなァァ!!」

 

じいが、神楽に向かって拳銃を向ける。神楽は傘をバットのように持ち、車を薙ぎ倒した。

 

「ほァちゃアアアア!!あっ」

 

だが、ここで重要なことを思い出す。定春が車の上に縛り付けられたままだということを。

車は無情にも、そのまま池に落ちてしまい、沈んでいった。

神楽は涙を流し、膝をつく。

 

(私……また同じこと繰り返してしまったヨ)

 

「お嬢さん」

 

「!」

 

ふと、頭上から聞き慣れた声が降ってくる。見上げると、木の上には銀時と志乃、そして定春がいた。

 

「何がそんなに悲しいんだィ」

 

カッコいい台詞の後、銀時の手は定春に齧られていた。

 

「ぎぃやぁぁぁぁ!!」

 

「銀ー!!」

 

「銀ちゃん、志乃ちゃん、定春!!」

 

神楽は嬉しさのあまり、定春に抱きつく。その時、神楽の右腕が齧られた。

いつの間にか齧られることがステータスになっている。これはかなり異常な光景のような気がするが、ここにツッコミ要員はいなかった。

 

「定春ゥゥゥ!!よかった、ホントによかったヨ!!銀ちゃん、飼うの反対してたのに何で」

 

神楽はどうして定春を救ってくれたのか、と銀時に問う。

銀時はその場を去りながら理由を語った。

 

「俺ァ知らねーよ。面倒見んならてめーで見な。オメーの給料からそいつのエサ代キッチリ引いとくからな」

 

「あはは。素直じゃねーの」

 

不器用な銀時の後ろ姿を、志乃が笑う。神楽は彼の背に礼を言った。

 

「……アリガト銀ちゃん。給料なんて貰ったことないけど」




次回、あの人の過去がちょろっと明らかになります。

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