銀狼 銀魂版   作:支倉貢

119 / 205
人の名前も顔も忘れる人は周りに興味がない

「韋駄天の剛‼︎」

 

「毘沙門天の修輪‼︎」

 

「弁財天、薫よん」

 

「広目天、松尾‼︎」

 

「摩利支天、服部全蔵」

 

「「「「「五人合わせて、フリーター戦隊シノビ5(ファイブ)‼︎」」」」」

 

五人が決めポーズをした瞬間、バックに爆発が起こる。

なかなか派手だが意外とそうでもない演出だ。戦隊ヒーローあるある演出を見事再現したシノビ5に、志乃達ゴニンジャーは真顔を向けた。

その時、頭上から声が降りかかってくる。

 

「ワーッハッハッハッ!カーツラァァ‼︎いやゴニンジャーよ、年貢の納め時だな!」

 

志乃達が見上げると、上から遠山が勝ち誇ったように見下ろしていた。

その後ろには、縛られたエリザベスもいる。

 

「シノビ5はいずれもお庭番を務めていた猛者達ばかり!貴様らがひっくり返っても勝てる相手ではない!可愛いエリザベスちゃんの前で朽ち果てるがいい」

 

「エリザベスぅ‼︎」

 

その時床から鉄格子がせり上がって、志乃と時雪、桂とミサトと橘に分散されてしまった。

 

「志乃‼︎」

 

「ヅラ兄ィ、たっちー、ミサトさん‼︎」

 

「俺の心配は無いんですか⁉︎」

 

時雪がミサトにツッコミを入れると、志乃に全蔵が歩み寄る。

 

「てめーの相手は俺だ。クソガキぃぃぃ‼︎」

 

志乃は冷静に金属バットを抜き、斬りかかってきた全蔵の刀を受け止める。

鍔迫り合いの中、全蔵は志乃を押し出そうと力を込めた。

 

「まさかこんな所で会えるとはなァ。てめーのおかげで俺ァなァ、ジャンプ買う度にてめーが来ねェか怖くてビクビクして、買うまでになかなか踏ん切りがつかなくなっちまったんだよォ」

 

「は?待ちなって。…………えーと、ジャンプ……あっ!アレだ!ジャンプ借りパクした金沢君?悪かったってアレはホラ、あの後母ちゃんが倒れてジャンプ読みたいっつって……」

 

「服部って言ってんだろーが‼︎つーかわかりやすい嘘吐いてんじゃねーよ‼︎お前何⁉︎まさか俺のこと忘れたのかァ‼︎」

 

「悪いね、女と男の顔覚えんのは得意じゃねーんだ」

 

「それ全世界の人間じゃねーか‼︎いやっ待て!だったら俺も覚えてねェ!お前なんか知らねェ‼︎」

 

「じゃあ闘り合う理由もないでしょ」

 

「うるせェェ!覚えてねーけどなんか腹立つんだよォ‼︎」

 

全蔵の怒りの一閃が志乃を襲う。

志乃はトンと軽く床を蹴り、跳躍して全蔵の頭を踏み台にした。そのままさらに弾みをつけて、時雪の元へ跳ぶ。

 

「えっ?志乃?」

 

「ボーッとすんな‼︎」

 

時雪がキョトンとした瞬間、彼の足元に一輪のバラの花が飛んできた。

刹那、時雪は志乃に抱えられ、次々と飛んでくるバラから逃れる。

 

「なっ⁉︎」

 

「危ねっ」

 

時雪を抱えたまま空中で一回転し、着地する。その時、天井の梁から薫が降りてきた。

 

「アラなかなかやるじゃない、お嬢さん……」

 

「アンタさァ、人にモノ投げる時は相手に配慮して投げろって先生に教わらなかった?」

 

「お荷物抱えたままじゃ忍者に勝てないとも教わらなかったのん?」

 

時雪を下ろした志乃は、金属バットを構えて全蔵と薫と対峙する。

一方、桂達も剛達と対峙していた。剛が鉄格子越しに、時雪を庇いながら立つ志乃を鼻で笑う。

 

「愚かな娘だ。あの全蔵相手に、荷物を抱えて勝てるはずもない」

 

「私のデーターでは、勝率99.8%と出ました。あの娘が間違いなく叩きのめされます」

 

「ほう」

 

松尾が眼鏡を指で押し上げて言うと、橘が棒を手にする。

 

「なめられたものだな、俺達も」

 

「殺気立つな、剛三。貴様の悪い癖だ」

 

一歩進み出た橘の肩に、桂の手が置かれる。桂もまた抜刀していた。

 

「しかし、俺の娘をバカにしたからには、少々痛い目に遭ってもらわねばならんな」

 

「志乃はお前らなんぞに殺させない。殺すのは俺の元から離れるその時だ」

 

「おいテメーら聞こえてっぞ。たっちーはまだ良しとしよう。だが娘呼ばわりと殺す宣言は許さねー‼︎」

 

鉄格子越しに三人に叫ぶ志乃は、回し蹴りで跳んできた全蔵を蹴り飛ばし、薫のバラをバットで叩き落す。

剛は余裕の表情で、印を結んだ。

 

「フフフ、我が忍術の前に散るがいい‼︎」

 

「散れ」

 

ズバッ

 

「のぉぉぉぉ⁉︎」

 

忍法の名前を叫ぶ前に、桂が剛に斬りかかる。剛は体を反らして咄嗟にかわし、切っ先は剛の服を掠っただけだった。

 

「貴様ァァ何をする‼︎今技の名前を叫ぼうとしただろーがァ‼︎何故斬りかかった‼︎」

 

「何故?愚問だな、ヒーローが技名を叫ぶのをただ待っている怪人がどこにいる」

 

「スーパー戦隊か仮面ライダーを見ろォォォォ‼︎怪人みんな待ってるから‼︎ヒーローに倒されるの律儀に待ってるから‼︎」

 

「さらばだ」

 

剛のツッコミすら聞き留めず、さらに桂が跳び蹴りを食らわせた。

床に倒れた剛の前に、修輪が立つ。

 

「おのれ、よくも剛を‼︎ならば俺の番だ!忍法怒品愚(ドーピング)‼︎」

 

闘気を高めた修輪の前には、橘が棒を携えて眼前に現れた。右手に棒を持ち、左手をその先に添える。

 

「お前の番はもう終わりだ」

 

橘がボソッと呟いた瞬間、修輪の腹に棒が突き刺さった。修輪はそのまま壁に突き飛ばされ、後頭部を強打して気絶した。

倒した修輪を見下ろし悠々と棒を肩に担ぐ橘を見て、松尾は後退りした。

 

「まずい、私のデーターによるとこのままでは地の文挟んだ次のセリフで倒される確率が99.8……」

 

「残念、お前が倒されるのはここだ」

 

松尾の脳天に、ミサトの踵落としが炸裂する。

これでシノビ5の三人をノックアウトした。半数以上がやられ、遠山が流石に焦る。

 

「おっ……おいィィィ‼︎何やってんだてめーらァァ‼︎服部どーいうことだ、最強の五人じゃなかったのか⁉︎」

 

そう訊いて全蔵を振り返るが。

 

「ちげーよ、ペガサス流星斬はここから始まってだな」

 

「何言ってんだ。アレはペガサス座の軌跡を描いてんだよ。アンタのそれメチャクチャだから」

 

志乃と二人揃って、ペガサス流星斬のポーズについて議論を展開していた。

 

「服部ィィィ!てめっ何やってんだァァ‼︎中学生の休み時間かァァ‼︎」

 

「お奉行、昔ジャンプでやってた聖侍聖矢の技!アレこうですよね?」

 

「お奉行‼︎ガツンと言ってやって!バカだよコイツ、バカだよ!」

 

「二人共バカだろーが‼︎ちなみにあの技はこうだ!アニメ全部録画してた!」

 

敵同士でなんともアホな話題で討論を繰り広げる二人にツッコミを入れつつ、遠山はちゃんとポーズも説明した。

呆れた遠山が、今度は薫と時雪を見やる。

 

「最近ねェ、昔付き合ってた彼氏にヨリ戻そうって迫られてて……」

 

「未練がましい男もいるもんですね。そんな奴、ガツンと言って思いっきりフっちゃえばいいんですよ」

 

「てめーらは何ありがちな恋愛相談してんだァァ‼︎」

 

溜息を吐く薫の肩に時雪が手を起き、アドバイスをしていた。敵同士でプライベートな会話をする二人に、またしても遠山のツッコミが入った。

敵を一掃した桂、ミサト、橘が鉄格子に手をかけてブーイングする。

 

「志乃、いつまでやっているんだ。さっさと片付けろ」

 

「……眠い」

 

「志乃、早く決着をつけてくれ。そしてこの後一緒にホテルに行こう」

 

「アンタ志乃に何つー誘いしてんですかァ‼︎行っちゃダメだからね、絶対に行っちゃダメだからね志乃‼︎」

 

ミサトの誘いを、時雪がシャウトで叩き落す。さらに志乃にも忠告するが、志乃は振り返ることなく、溜息を吐いて金属バットを肩に置いた。

 

「さーて、外野もうるさくなってきたし。ケリつけますかァ」

 

「そうだな」

 

対峙した志乃は金属バットを、全蔵はクナイを構える。

 

「アンタとはヤケに話が合うね。もっと違う出会い方したかったよ、お兄さん」

 

「いやだから、前に違う会い方してるって言ってんだろーが‼︎」

 

突如、全蔵が床の爆発と共に姿を消した。志乃は眉をひそめたが、足元から殺気を感じた。

殺気の正体を認める前に、反発的に志乃は跳躍して前転する。それとほぼ同時に、床下からクナイが飛んできたのだ。

 

「チッ、こざかしいマネしやがって……」

 

舌打ちを立てた志乃の鼻を、甘い匂いが掠める。それを嗅いだ時、身体中を痺れが駆け巡った。まるで呪われたように、身体が動かなくなったのだ。

薫の高笑いが、動けない志乃の耳に入る。

 

「ホーホホホ、私のバラの香りはどう?忍法『呪縛旋花』!私の毒バラの香りを嗅いだ者は身動き一つとれなくなるわよん!さァ今よん全蔵!トドメをさしなさい!」

 

どうやら身体が動かないのは、薫の忍法にかかったせいらしい。毒バラの香りが身体中に蔓延し、さしもの銀狼も身動きがとれなかった。

今の状態で、全蔵が襲いかかってきたら……間違いなく、お陀仏だ。

 

ーーくそッ、どうすりゃいいんだよ……!

 

自問自答を繰り返しても、答えは出ない。心臓の音がやけに大きく聞こえた。

 

時雪はこの状況を見て、何とか志乃を救えないかと考えていた。

志乃は今、毒バラの匂いにより身体の自由を奪われている。

匂いというものは意外と単純で、どんなにいい匂いを嗅いでもその次に異臭を嗅げば、すぐに脳はそれに順応する。ならば、毒バラよりも匂いのキツいものを嗅がせればいいのだ。

しかし、匂いのキツいものなど、そんな簡単にあるわけがない。何か、何かないか。

ゴソゴソと服を探っていると、懐からタッパーが現れた。その中にはーー。

 

「そうだっ!志乃‼︎」

 

時雪はタッパーを抱えて、志乃に駆け寄る。しかしその時、時雪の鼻にも毒バラの匂いがやってくる。とにかく、志乃を助けなければ。

時雪がタッパーを開けると、中からとても酸っぱい匂いがした。

 

「なっ、なにィ⁉︎」

 

「まさかアレは………………‼︎」

 

「そう!茂野家特製、梅干しだァァァ‼︎」

 

時雪がタッパーごと梅干しを志乃に投げつけたその時、彼女の背後から全蔵が床を破壊して躍り出る。

 

「死ねェェェ!クソガキ‼︎」

 

全蔵は動けない志乃に向かって、クナイを振るう。しかし、クナイを突き出した瞬間、シソが顔にべったりと付いた笑顔が現れた。

動けないはずの志乃が、こちらを見てニヤリと笑っている。

それを彼が認めた瞬間、志乃は振り返って金属バットを全蔵の尻めがけて突き出した。

 

「死ぬのは……てめーだァァァァ‼︎」

 

金属バットは見事全蔵の尻に直撃し、そのまま吹っ飛ばす。全蔵はあまりの痛みに耐えかね、床に転がって悶えていた。彼に薫が駆け寄る。

 

「全蔵!全蔵ォォ‼︎ひどいじゃない!全蔵はね、痔を患っているのよォ!」

 

「知るか」

 

振り返って怒りの声を上げる薫の顔面を、志乃が踏みつける。

遠山は最強の五忍を倒した五人に恐れおののいていた。

 

「バ……バカな。シノビ5が……そんなバカな……」

 

「じゃァあとは、あいつ倒せば大団円だな。たっちー」

 

「任せろ」

 

時雪に貰った手拭いで顔を拭く志乃が、橘を呼びつける。

それだけで彼女の意を察した橘は、出口までに至る鉄格子の一部分を引き抜き、遠山に投げつけた。

 

「ぎゃあああああ‼︎」

 

「そこで眠れ。そして自らの誤ちを悔いることだ」

 

「わー、たっちーかっくいー」

 

棒読みで賞賛の拍手を送り、ひしゃげた鉄格子を乗り越えて桂達と合流する。

と、ここで重要な事を思い出した。

 

「……あれ?エリザベスって確か……お奉行と一緒にいましたよね……?」

 

その場にいた全員が、固まる。そして、ゆっくりと上を見上げた。

そこには、鉄格子により突き刺されたエリザベスの姿が。絶望のあまり、桂が頭を抱えて絶叫する。

 

「エッ……エリザベスぅぅ‼︎なんてこったァァ‼︎エリザベスがァァァ‼︎ひどい!ひどいぞォォォ‼︎そんな……アレだ……ひどいぞォォ‼︎」

 

「…………ん?」

 

しかし、志乃はエリザベスのおかしな点に気がついた。

 

「ねぇヅラ兄ィ、アレおかしくない?中からアレ……綿みたいなのが」

 

「あっホントだ。血とか全然出てませんよ」

 

「あり?」

 

錯乱しかけていた桂が、一瞬にして落ち着く。そこに、第三者の声が入ってきた。

 

「だから言っただろう。ここにはエリザベスちゃんはいねーって」

 

声の主を振り返ると、全蔵が尻を押さえて体を起こしていた。

 

「最初からエリザベスちゃんなんていねーんだよ。まだわかんないの?あのオッさんはなァ、桂、お前の首をとるためにわざわざあんな人形作ってお前を誘き出したんだよ。お前ら騙されてたんだよ。ププッ」

 

ーーってことは、私ら今まで何でこんな苦労してまでやってきたんだ?その意味は?

 

志乃達の怒りの矛先は、自然と桂一人に向けられる。

 

「ヅラ兄ィヅラ兄ィ。どーいうこと?」

 

「…………そういえば、前日に蕎麦のお揚げ取り合って喧嘩したの忘れてた」

 

プチン

 

桂の一言により、全員の堪忍袋の緒が切れた。

 

「お前それただ喧嘩して出てっただけじゃねーか‼︎」

 

「ふざけんじゃねェェェ今までの苦労を返せェェェェ‼︎」

 

こうして桂は見事袋叩きに遭い、しかもそのまま放置された。

この後、エリザベスとは無事再会。事なきことを得たものの、しばらくは志乃により一層冷たい対応を受けることとなるのだった。

 

ちなみに、実家からの贈り物であった梅干しを、仕方のないこととはいえあろうことか彼女に投げつけてしまった時雪は、弟妹達にこき使われる日々が一ヶ月近く続いたというーー。




次回、新八が文通します。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。