銀狼 銀魂版   作:支倉貢

11 / 205
付き合いたいなら粘り強く「付き合って!」と言い続け「しつこい」と一蹴されてフられるくらいの勢いで行こう

その日、志乃は晩飯を買いに行った帰りだった。

いつものように垂直離着陸機能を搭載したスクーターで、風を切りながら走る。そして、自身の店の前にスクーターを止めると、鍵を取り出した。

ちなみに、志乃の万事屋メンバーは、基本的全員がなかなか揃わない。今日も、志乃一人でいたため、店には誰もいない。

 

ガチャ

 

「ただいま〜」

 

「おかえりなさい」

 

「…………………」

 

「ん?どうかした?」

 

そこには、さも当然のように応接間のソファに座って、ムシャムシャとレタスを貪る杉浦がいた。

思わぬ展開に、志乃は思わず両手に持ったビニール袋を落としてしまう。そんな彼女の動揺を無視して、杉浦はビニール袋の中を見た。

 

「おー、今日の晩飯は豚の生姜焼きか。あ、キャベツ増し増しでよろ……ぐぎゃああああああ!!」

 

哀れな事に、杉浦は混乱と衝撃でいっぱいになった志乃の一撃に沈んでいったーー。

 

********

 

「まったく、アンタどーいう教育受けてきたんだ?依頼人を金属バットで殴るなんて」

 

「白昼堂々と他人の店に侵入してきた犯罪者が言える台詞かよ!!今すぐ警察呼んでやる!!」

 

「俺がその警察だよ」

 

「世も末だね」

 

「ハハッ、違いないねェ」

 

志乃は呆れながら、杉浦の前のソファに座る。

 

「ねえ」

 

「何?」

 

「客に茶も出さないの?ったく、これだから今時の子供は……」

 

「出すわけねーだろ!!人の店に堂々と侵入した奴に出す茶なんてねーんだよ!!こちとらこれからの防犯対策に頭悩ませてんだよ!!」

 

「あっそ」

 

「ったく……んで、何?真選組の人が、何で万事屋(あたしら)に依頼を?」

 

これ以上話を拗らせたら面倒だ。志乃は、さっさと本題に入る。杉浦も、真面目な顔をした。

 

「ああ。実は、俺達の局長が居なくなっちまってな……探してこいって土方さんに言われたんだけど、探すの面倒くさいからアンタらに頼もうと思って」

 

「知るかバカタレ!!そんなん自分で探せっつーの!!」

 

「頼むよ。俺、このままじゃ土方さんに殺される」

 

「勝手に死んでろバーカ!!仕事しろ仕事!!」

 

「代金ははずむから」

 

「分かった、引き受ける」

 

あっ、こいつチョロい。杉浦は、差し出した金をナチュラルに奪って懐に仕舞う志乃を見て、そう思った。

 

********

 

志乃は、愛車に杉浦と一緒に乗り、スクーターを走らせていた。

 

「そもそもさァ、アンタらの局長ってあの瞳孔開いてたお兄さんじゃないの?」

 

「土方さんのこと?違う違う。あんなヘビースモーカー&マヨラーが局長だったら俺やってけない。すぐに辞めてるわ」

 

「あっそ……んで、その局長ってどんな顔?」

 

「えっと……ゴリラだな」

 

「……ガチで?」

 

「ガチで」

 

ぶっちゃけ言うと、志乃はゴリラが嫌いなのだ。特に他意はないが、よく分からないけど嫌いなものってみんなにもあるよね。そんな感じである。

 

「マジか〜私ゴリラだけは苦手なんだよね……昔、動物園に行ってゴリラを見る度にゴリラを半殺しにしてたくらい」

 

「え、大丈夫なのソレは」

 

「多分……見た目がゴリラでも一応人間……なんだよね?」

 

「まぁな」

 

「なら大丈夫だと思う……」

 

そんな会話をしながら、志乃達は橋の上までやってきた。よく見ると、そこには新八と神楽、お妙がいた。

 

「オーイ、新八ー!神楽ー!姐さーん!」

 

「あっ、志乃ちゃんアル!」

 

「どうしてこんな所に?何か始まるの?」

 

志乃はスクーターを止めて、降りる。それにならって、杉浦も降りた。

 

「姐御にしつこく付きまとうゴリラのストーカーと、銀ちゃんが決闘するアルよ」

 

「ゴリラのストーカー?え!?ゴリラって動物園に居るんじゃないの!?」

 

「多分、脱走してきたアル」

 

「神楽ちゃん、違うから」

 

新八のツッコミが入った所で、志乃と大輔は河原を見る。

そこには、真剣を持った男と、銀時が立っていた。男を見た杉浦が、声を上げる。

 

「あっ!アレだよ!あのゴリラが、俺の探していた局長だよ!」

 

「あの人アンタの上司だよね?アンタ尊敬してないの?つーか局長かゴリラかハッキリして。ゴリラだったら真っ先に私の金属バットが血塗れになるから」

 

「あ、うん……局長だよ、局長」

 

志乃のとんでもない殺気を目の当たりにした杉浦は、自身の言葉を撤回した。

そんな事をしている間にも、話は進む。

銀時は、お妙の代わりに自分の命を賭けると言い出したのだ。つまり、局長が勝ってもお妙は手に入らないが、邪魔者(銀時)は消えるため、障害は無くなるということだ。

銀時の意図を察したお妙が、橋から乗り出すように叫ぶ。

 

「ちょっ止めなさい!!銀さん!!」

 

「待って、姐さん」

 

そんなお妙を、志乃が制する。お妙は驚きながら志乃を見やるが、志乃は銀時から目を離さない。

 

「あいつなら大丈夫だよ。それに、男同士の決闘に、他人の口出しは無用って昔から決まってんのさ」

 

「志乃ちゃん……でも」

 

「まぁ、あいつを信じてやんなよ。万事屋銀さんはやる時はやる男だよ?」

 

そう言い切り、不敵に笑う志乃。

一方河原では、木刀同士の決闘が決まり、銀時は自分の木刀を局長に貸し出した。代わりに自分は新八の木刀を借り、お互い対峙した。

 

「勝っても負けてもお互い遺恨はなさそーだな」

 

「ああ。純粋に男として勝負しよう。いざ!!」

 

「尋常に」

 

「「勝負!!」」

 

2人が、一斉に駆け出す。

局長が木刀を振り上げるが、よく見てみると木刀の柄の付近から上がいつのまにか無くなっていた。

 

「あれ?あれェェェェェェ!?ちょっと待て、先っちょが……ねェェェェェェェェェェェェェェ!!」

 

局長の制止も混乱も全てを無視し、銀時は局長に強烈な一撃をおみまいした。外野陣は、銀時のあまりにも汚い勝ち方に呆然としていた。

 

「…………銀の奴、決闘前に自分の木刀に細工しやがったな」

 

「こんな決闘あるのかよ……」

 

「やる時はやる男だなんて言った自分が恥ずかしい……少しでもあいつの肩を持った自分がめちゃくちゃ恥ずかしい土に埋もれたい」

 

志乃が頭を抱えて、橋の手すりに突っ伏す。そんな中、銀時は仰向けに倒れた局長に歩み寄る。

 

「甘ェ……天津甘栗より甘ェ。敵から得物借りるなんざよォ〜。厠で削っといた。ブン回しただけで折れるぐらいにな」

 

「貴様ァ、そこまでやるか!」

 

「こんなことのために誰かが何かを失うのはバカげてるぜ。全て丸く収めるにゃコイツが一番だろ」

 

「コレ……丸いか?……」

 

局長はそれだけ言うと、気を失ってしまった。そして、今度は外野陣に向かって歩いてくる。

 

「よォ〜。どうだい、この鮮やかな手ぐ……ちゃぶァ!!」

 

しかし、言い切る前に新八と神楽が飛び降り、銀時を踏みつけた。

 

「あんなことまでして勝って嬉しいんですかこの卑怯者!!」

 

「見損なったヨ!!侍の風上にも置けないネ!!」

 

「お前、姉ちゃん護ってやったのにそりゃないんじゃないの!!」

 

2人に蹴られ締められた銀時は、うつ伏せになって倒れる。それを無視して、新八と神楽は去っていった。

 

「もう帰る。二度と私の前に現れないで」

 

「しばらく休暇もらいます」

 

志乃はスクーターを飛ばして、河原に降り立つ。一緒に乗っていた杉浦は、局長を背負って立った。

 

「ほら、近藤局長帰りますよ。みんな心配してるんだから。あ、ありがとう万事屋志乃ちゃん」

 

「またよろしくね〜」

 

志乃は依頼人を見送ってから、銀時を振り返る。銀時は何とか起き上がっていた。

 

「銀〜、大丈夫?結局アンタが一番泥かぶったね」

 

「痛てて……オイ志乃。ソレに乗せろ。俺立てねえんだ……ん?」

 

銀時は、志乃がスクーターをこちらに向けて、何やらエンジンを吹かしているのを見て真っ青になった。

 

「銀、そこ動かないでね……今から轢くから」

 

ニコッと笑った志乃は、フルスピードでスクーターを飛ばした。銀時は立てないと言ったクセに立ち上がり、全速力で逃げる。

 

「ギャァァァァァァ!!助けてェェェ殺されるぅぅぅぅぅぅ!!」

 

「待ちやがれこの腐れ外道!!てめーなんか侍じゃねェ!!今すぐこのスクーターでアンタの腹突き破って切腹させてやる!!」

 

河原に、男の悲鳴と少女の怒号が、いつまでも響いていたーー。




新撰組を束ねた男、局長近藤勇。実は彼は、京の人々からそこまでいい目で見られてませんでした。

元々新撰組の厳しい掟やそれに背いた場合のペナルティ(切腹)が過激なモンで、京の治安を維持するっつーかそもそも組織の治安が悪いわけですから。何でも暴力で解決する田舎侍と疎まれていたそうです。
同門且つ二番隊隊長の永倉新八からも、「蛮骨をもって鳴らしただけ、おうおうにしてわがままの挙動」と言われる始末。まぁ彼は元より近藤と考えや意見が食い違っていたそうなので、こんなに辛辣な言葉になるのも納得がいきます。

近藤の生まれ故郷である多摩は幕府の直轄地で、将軍に仕える精神が染み付いていたのでしょう。近藤にとって武士とは徳川幕府と共にあるもの、という考えがあったそうです。
純粋な精神が逆に身を滅ぼしてしまうことがあるんですね……。

こちらもまだまだ語る要素が多いので、また次回。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。