銀狼 銀魂版   作:支倉貢

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100話だァ‼︎うへェあっはー‼︎


借りたものは必ず返すべし

「てっ……てめェは……‼︎」

 

京次郎の声が、驚きに震える。

目の前に立つ男は、確かにあの時始末したはずなのに。肩と腹を撃たれ、背中を斬られていたのに。それが今は無傷で、自分の目の前にいる。

 

「水くさいな。こんな豪華な宴があるなら俺も誘ってくれてもいいだろう」

 

橘は肩に提げていた棒を手に取り、一瞬で京次郎を吹っ飛ばした。

 

「この間の借り、きっちり返させてもらうぞ」

 

襖を壊し、仰向けに畳の上に倒れる。額から血を流し、京次郎は上体を起こした。

 

「ククク……ワシも長いことこの世界で豪傑共を見てきたが、鉛玉ブチ込まれて叩き斬られて帰ってきた奴を見るのは初めてじゃ。お前が極道でなくてよかったわ」

 

「…………」

 

「派手にやってくれたのう。ありゃウチと同盟を組んどる組織の幹部共じゃ。お前……もう生きてシャバには帰れんぞ」

 

「……………………」

 

「……オジキか?たった一度会った極道者のために、組織とやり合おうってのか」

 

「ヤクザだろうがカタギだろうが関係ない。俺やお前みたいな無法者は、自分の仁義を見失えば終わりだろう」

 

京次郎に何と言われようと、彼は自分の意志を貫き通しに来ただけだ。その意志がすげ変わることはない。

京次郎が床の間に置いてある刀を手に取った。

 

「お前の言う通りよ。腐っても極道。仁義を欠いたとあっちゃあこの世界では生きていけんわ」

 

京次郎の刀が、障子を斬る。外には、京次郎を狙う魔死呂威組の組員達が集まっていた。

 

「ワシの所業は組の内外に伝わっとる。組織はハナからワシに組なんぞ任せる気はない。ワシの(たま)が狙いだったのよ」

 

この襲名披露も、全てただの建前。京次郎は、それも察していたのか。

京次郎が、刀を橘の足元に投げ捨てる。

 

「斬れ」

 

そう言って、京次郎は開け放たれた障子の真ん中にどかっと座り込んだ。

 

「どてっ腹に穴開けた貸しじゃ。お前にワシの(たま)やるわ。あんな連中に殺られるより、お前のような男に(たま)()られる方が、あの世で自慢出来そうじゃけーの」

 

「………………お前……わかっててここに来たんだろう。お前、死にに来たんだろう」

 

橘の考えは、京次郎の心を見透かしていた。

京次郎は全て呑み込んで立ち上がり、刀を手に組員達の前に出る。その瞬間、一斉に京次郎に斬りかかってきた。

黙って殺られるはずもなく、京次郎は組員達と大立ち回りを繰り広げる。それでも大勢の刀に押され、傷が増えていった。

背後から、刀が振り下ろされる。

その時。

 

黒髪を靡かせ、組員を吹っ飛ばす。

圧倒的な力をもってして、飛び込んできた橘は組員達を突き飛ばしていった。

 

「なっ……何を……⁉︎何をしとるんじゃ……お前‼︎」

 

このまま死ぬと思っていた。思わぬ乱入者に、京次郎は目を見開いて着流しの背中を見る。

 

「撃たれた借りならばもう返した。あとは俺の仁義を通すだけだ。……約束したからな。バカ息子を必ず連れていくと」

 

長い棒を振り回し、相手を突き、薙ぎ払う。バッタバッタと敵を倒していく橘に、京次郎が叫んだ。

 

「お前っ‼︎わかっとるのか‼︎ワシゃお前の(たま)()ろうとした男じゃぞ‼︎」

 

戦う内に、二人は背中合わせになる。そのまま、橘は答えた。

 

「あの程度で俺は死なん。お前の大根芝居に付き合ってやっただけだ」

 

「‼︎」

 

「俺を殺してでも隠し通し、自分で泥を被ってでも庇い通す。その上そのまま死んで全て墓場まで持っていく算段か。カッコばかりつけおって‼︎ホンマに親父じゃ思とんなら、ホンマにあの人のこと思とんなら、生きてダサい花ば一つでも持って墓参りにでも行っちゃれ‼︎」

 

普段物静かな橘が、土佐弁で叫ぶ。それは長年共にいる獣衆の仲間にでさえ、見せたことのない姿であった。

京次郎の手を引き、組員達を払っていく。

 

「これ以上あの人の息子は死なせん‼︎引きずってでも必ず墓の前連れてっちゃる‼︎邪魔じゃ、どけェェェ‼︎」

 

走り出した彼らの背中に、一発の銃声が鳴り響いた。京次郎の後に、血の雫がポタポタと落ちる。

 

「京次郎‼︎」

 

体を撃ち抜かれ、吐血する京次郎は、痛みに耐えかね膝をついた。それに合わせて、橘もしゃがむ。

 

「しっかりするぜよ‼︎クソッ、待っとれ‼︎すぐ医者に……」

 

「放っとけ。どうも……当たりどころが悪かったらしい」

 

「何を言うがか‼︎おんしゃ極道じゃろう、腹に穴開いたくらいで弱気になるな‼︎」

 

橘は京次郎の腕を肩にまわし、彼を支えて墓まで歩き出す。掠れた声で、京次郎が言った。

 

「これで……これで……良かったんじゃ。ワシゃ……オジキに会わせる顔なんぞない。ワシは……オジキの大切なものを護れんかった。罰だと思うとる。世話になっておきながらワシゃ……何一つあの人の役に立てなんだ。ワシは役立たずの番犬じゃ。所詮野良犬は野良犬じゃ」

 

雨が降り出した中、濡れながら傘もささずに歩く二人。橘は京次郎の言葉を黙って聞いていた。

 

「ワシが死んだら、路地裏に捨て置いてくれ。野良犬には野良犬らしい死に方ちゅーもんがある」

 

「野良犬なんかじゃなか」

 

肩を貸す橘は、京次郎を見ることなく続けた。雨に濡れた髪が、はねた黒髪を落ち着かせていた。

 

「世界中の奴がお前を蔑もうと、わしだけは知っちょる。おんしが護ったもんを。おんしが汚名を着てまで、最後まで護り通したもんを。おんしは野良犬なんかじゃなか。気高い狛犬ぜよ」

 

ポツリ、ポツリと雨が降る。それでも彼らの行く道の後には、血の足跡が続いていた。

父親の墓の前。墓石に体を預け、京次郎は穏やかな笑顔で眠っていた。




お瀧を中心に書いた話があったので、今回はほとんど出番のない橘でやってみました。
書き直した点もありますけど、橘は坂本と友達です。忘れてましたごめんなさい。
獣衆全制覇、いつかしたいです。

次回、吉原炎上篇。ヘタ踏まねーか心配だ……。

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