ハイスクール・フリート ―霧の行く先― 作:銀河野郎のBOB
第八話でございます。
先週長めの本編2本と誕生日記念の特別編2本をアップして疲れたのか、今週は少々筆の進みが遅くなってしまいました・o・;
今回も前回に引き続きアニメ6話のお話
クロちゃんがミケちゃんに謝りに行くところからスタートです。
それでは、どうぞ!
2016年4月14日午後9時
-ムサシside.-
クロとの話を終えた私は、クロと一緒にアケノのいる艦橋に向かっている。
先ほどクロに自分の過去と胸の内を話した時、感情的になって思わず大泣きをしてしまったことが、今になってすごく恥ずかしくなってきた。
でもクロは私のことを許してくれて、受け入れてくれた。
そのことが私にはとても嬉しかった。
おかげで今では、クロとは晴風のみんなの中で特に仲が良くなったように思う。
今はまだクロにしか明かしていない私の過去、いずれはみんなにも言うことになるだろう。
でも、ちゃんと正直に言えばきっとみんなにも許してもらえる、そう思えるようになった。
クロには本当に感謝しないといけないわね。
そんなことを考えているうちに、私たちは艦橋への階段を上り終えていた。
クロの顔を見上げると、少し難しい様子の顔をしていた。
いざアケノと面と向かって話すとなって、緊張してしまったようだ。
私はそんなクロの手をそっと握ってあげた。
黒木
「ムサシ?」
ムサシ
「大丈夫よ。アケノはちょっと言われたくらいでクロを避けたりするような人じゃないわ。だから、ちゃんと謝って仲直りしましょう?」
黒木
「ムサシ……、そうだよね、ありがとう」
クロの顔から緊張した様子はなくなった。
クロが意を決し、艦橋の中へ入ろうとした。
その時、
岬
「みんな、ごめんなさい!」
艦橋の中から、アケノが艦橋にいる子たちに謝っている姿が見えた。
私とクロは何が起きているのかわからず、艦橋の入口付近から様子を伺うことにした。
岬
「私、あの時もかちゃんのことで頭がいっぱいになっちゃって、他のことを全然考えていなかった。シロちゃんがあんなに一生懸命私を止めてくれようとしてくれたのに、全然耳に入ってなかった……」
宗谷
「艦長……」
岬
「ムサシちゃんが止めてくれなかったら、晴風のみんなを危険な目に合わせていたかもしれない。それなのに、私はもかちゃんのことばかりで、晴風のことを考えもしなかった。今のままじゃ、海の仲間は家族なんて言えないよね。晴風の艦長、失格だよね」
暴走する武蔵を前にして、焦って艦から飛び出そうとしたことをアケノは心底後悔している様子だった。
自分がしてしまった失敗、寸前で思いとどまることができたとはいえ、アケノにとっては重くのしかかっていたようだ。
私の横にいるクロは、すごく心配した様子でアケノを見ていた。
岬
「でも、今日のことでようやく気付くことができたの。今までは艦長の私一人が頑張ればみんなを守れるって思ってた。でも、そうじゃない。ムサシちゃんが言っていた通り、一人じゃどうしようもないことだってある。でも、みんなと一緒なら乗り越えることができるんだって。」
宗谷
「!」
黒木
「……」
岬
「だから、これからはみんなと一緒に頑張りたい! まだまだ未熟で、全然ダメな艦長だけど、もっと艦長らしくなれるように頑張るから。もう一度、みんなの力を貸してください!」
アケノは艦橋にいるみんなに、いや晴風にいるみんなに対して大きく頭を下げた。
しばしの静寂が流れる。
みんなは、どうするんだろう?
すると、クロが艦橋の中に入っていき、アケノの前に立った。
隣に居るマシロと一度顔を合わせると、アケノに話しかける。
黒木
「岬さん、頭をあげて」
岬
「え? クロ、ちゃん?」
先ほどまでいなかったクロが目の前に現れたことで、アケノは少し驚いていた。
黒木
「私も、さっきは岬さんに色々言っちゃって、ごめんなさい。ちょっと、自分勝手すぎたよね」
岬
「そ、そんなことないよ。クロちゃんや機関科のみんなにはずっと苦労させちゃったし、それに飛び出して迷惑かけちゃったから」
すると、クロはアケノをしっかり見つめた。
黒木
「岬さん、私もさっきまでムサシと話をしていて、その時に気づいたの。私は岬さんに自分の理想を押し付けていたんだって。ずっと宗谷さんばかり見てて、岬さんのことを全然考えていなかった。だから、これからはちゃんと岬さんを、艦長のことを見て、そして支えてきたい」
岬
「クロちゃん……」
黒木
「未熟なのは私も同じ。だから、これから一緒に頑張ろう。私だけじゃない、晴風のみんなと一緒に、ね?」
話し終えると、クロはアケノに手を差しだした。
アケノはすぐにクロの手を握り返した。
岬
「ありがとう、クロちゃん」
すると、二人の握り合った手の上に、マシロが自分の手を重ねてきた。
それに続かんと、メイ、シマ、リン、コウコ、ミーナも手を差し出す。
宗谷
「艦長、私も先ほどはつい熱くなってしまいました。正直言いすぎたと思ってます。でも、もうあんな無茶はしないでくださいね」
西崎
「そうそう、これからはみんなで頑張ろうよ! そうだよね、タマ?」
立石
「うぃ!」
知床
「私も、もう逃げないよ。岬さん、みんなと一緒に進んでいこうよ」
納沙
「そうですよ。私だって、今まで以上に頑張っちゃいますよ!」
ミーナ
「ワシもやるぞ。今は晴風の客員じゃからな」
岬
「みんな……、ありがとう!」
ようやくアケノに笑顔が戻ってきた。
その様子をヒデコ、マユミ、そしてリンに代わって操舵をしているサトコ(勝田聡子)が微笑ましそうに見ていた。
勝田
「これで、一件落着ぞな!」
山下
「そうだねー。みんな仲直りできてよかったよ」
内田
「うん。よーし、私たちも頑張らなきゃ!」
艦橋内にとても暖かい空気が流れている。
私もあの時、ヤマトとちゃんと向き合って胸の内を話すことができれば、こんなふうになれたのかな。
あんなことをしなくてもよかったかもしれない。
そう考えてしまうと、少し悔しかった。
私はしばらく、艦橋の入り口からみんなの様子を見守っていた。
すると突然、艦橋の下からドタドタと足音を立てて階段を上がってくる音がした。
私の近くにある扉が開くと、そこにはツグミ、メグミ、カエデ(万里小路楓)の三人の姿があった。
宇田
「か、艦長! 大変だよ!」
メグミが大きな声でアケノに訴えてきた。
先ほどまでの空気は一気に霧散し、みんなの注目がメグミに集まる。
岬
「どうしたの、めぐちゃん? 下でなにかあったの?」
宇田
「それが、電探の様子がまた突然おかしくなっちゃって、何も検知できなくなっちゃったの」
八木
「通信の方もダメ。全然通じなくなっちゃった」
万里小路
「ソナーもノイズがひどくて、聴音機も水中の音が全く聞き取れなくなってしまいました」
三人がそれぞれ、自分の担当する装置の不調を訴えてきた。
同時に三つの装置が動かなくなるなんて、こんなことはあるのだろうか。
すると、私の存在に気付いたマシロが若干の疑惑の目を向けてきていた。
宗谷
「まさかとは思いますが、ムサシさんのせいじゃないですよね?」
私は晴風と初めて遭遇した際、広域ジャミングを使って通信妨害をしていた。
おそらく、その時と状況が酷似しているため、私を疑っているのだろう。
ムサシ
「残念だけど、今回は私じゃないわ。私の艦は今海中にあるから、その状態では広域ジャミングは使用できないの」
私が説明すると、マシロは納得してくれたようだ。
西崎
「でもさ、ムサシちゃんのせいじゃないとすると、何が原因なのさ? 3つ同時に故障なんて普通あり得ないだろうし」
納沙
「そうですね。電子機器が全部ダメになっているようですし、他の装置も心配ですね」
艦橋内にいるみんながどうしたものかと、頭を悩ませていた。
しかし、私だけは違った。
ムサシ
「私、原因に思い当たるものがあるわ」
私の発言にみんなの注目が私に向けられる。
岬
「本当なの? ムサシちゃん」
ムサシ
「ええ。ただ、今3つの装置が動かない原因になっているものは、私が知っているものとは別の存在だと思うの。だから、ちゃんと艦内を探さないといけないわ」
私の言葉にみんなはよくわからないという様子だった。
ミーナ
「すまん、ムサシ。もうちょっとわかりやすく言うてくれんか?」
ムサシ
「ごめんなさい、少しわかりにくい説明だったわね。原因はおそらく、以前シマが持っていたあのネズミのような生き物よ」
立石
「え?」
西崎
「あのハムスターみたいなやつ? そういえばあの子って今どこにいるの?」
ムサシ
「今はミナミが医務室で預かっているわ。そしてヤマトと私も協力して、そいつについて調べているの。でも、今電子機器がおかしくなるってことは、そいつ以外の別の同種族が晴風に紛れ込んだ可能性が高いってことよ」
私の説明でみんなは事態を飲み込めたようだ。
だが、現状ではあの生き物が何匹紛れ込んでいるのかわからない。
宗谷
「艦長、このままでは他の装置も故障してしまう可能性があります。一度艦内を総点検して確認するべきかと」
岬
「うん、そうだね。シロちゃん、ココちゃん、ミーちゃんはみんなにネズミっぽい子がいないか探すように連絡回してくれるかな?」
納沙
「了解です!」
宗谷
「わかりました」
ミーナ
「任せておけ!」
岬
「リンちゃん、メイちゃん、サトちゃん、しゅうちゃん、まゆちゃんは艦橋で待機。周囲を警戒しつつ、ネズミっぽい子を見つけたら捕まえて。タマちゃん、つぐちゃん、めぐちゃん、万里小路さん、そしてムサシちゃんは私と一緒に艦橋下を中心に艦内捜索を手伝ってもらえるかな?」
黒木
「艦長、私は機関室に戻ってマロンたちに機関室内を探すように伝えてくる」
岬
「クロちゃん、お願いね」
アケノの指示でみんながそれぞれ動き出した。
その様子を見て、やっぱりアケノは晴風の艦長なんだと改めて思った。
きっとアケノならみんなと一緒に上手くやっていける。
私はそう感じた。
アケノたちと艦内を捜索することになった私は、艦橋下から艦尾に向かってあの生き物を探している。
先頭には二本の金属棒を手にしたツグミが、左右に身を振りながら探索している。
メグミに聞いたところ、ツグミはダウジングでモノを探すことが得意らしく、今回もそれで生き物を探してみようと思い立ったらしい。
万里小路
「でも、それでおわかりになりますの?」
カエデがツグミに質問するのも無理はない。
ダウジングとはそもそも水脈や鉱脈を探す手段であり、そのほとんどがオカルトめいた話しか存在しないというものだ。
正直、私にはこれで探せるとは思えない。
そして、私にはもう一つ気になっていることがあった。
ムサシ
「ねぇ、シマ? その腕の子はなんで連れてきたの?」
立石
「うぃ?」
シマの腕には、この晴風になぜかいる猫の五十六が抱えられていた。
なんでもこのデカい猫、晴風の大艦長と階級上はアケノより上という存在にされているらしい。
岬
「あ、五十六はね、最初にあのネズミを捕まえてきたんだって。だから、今回も役に立つかもと思って」
ムサシ
「なるほど。猫はネズミ取りによく使われる手段ってやつね」
あいつを最初に捕まえたのは五十六だったのね。
デカい身体をしていて、意外と動けるやつなのかもしれないわね。
すると、ツグミのダウジングが何かに反応を示したようだ。
八木
「あ、こっち!」
宇田
「え? うそ、見つかったの!?」
まさか、本当に見つかった?
私たちはツグミのダウジングの示した方向へ進んでいく。
すると、ダウジングの棒はある部屋の前を示していた。
岬
「医務室?」
そう、医務室だった。
メグミとカエデがそっと医務室の扉を開けた。
するとそこには、暗い部屋の中でメスを持ったミナミが妖しい笑みを浮かべて立っていた。
宇田
「うぎゃあああああああ!!??」
万里小路
「あらあら、お化けですわ」
メグミの反応はわかるが、カエデ、あなたのその反応はよくわからないわ。
日本の東海地方で絶大な力を持つ財閥の経営者一家のご息女ということは情報で知っているが、そういう身分の人ってカエデみたいな人ばかりなのかしら?
岬
「あれは美波さんだから……」
さすがのアケノもカエデの反応はよくわからなかったみたい。
すると、ミナミの横からもう一人の人影が現れた。
ヤマト
「あら? ムサシに明乃さんたちじゃない。どうしたの?」
もう一人の影の正体、ヤマトが私たちに尋ねてきた。
そういえば、私と別れた後、医務室へ行っていたわね。
ムサシ
「実はね――」
私がヤマトの問いに答えようとした時、足元を何か小さなものが通過したのを感じた。
ミナミとヤマトもそれに気づいたらしく、私たちは一斉に足元に視線を移した。
そこには色違いではあるが、あの生き物がいた。
すると突然、
五十六
「ぬぅおぅ!!」
シマの腕にいた五十六が猫らしからぬ声をあげて、生き物に向かって飛びかかった。
生き物は危険を察知して五十六の襲撃を回避、そのまま医務室を出て逃げていった。
五十六も負けまいと素早い動きで生き物の後を追っていった。
本当にあの身体であんなに動けたのね。
岬
「ああ!? 待ってよ、五十六ー!」
アケノたちは突然飛び出していった五十六を追って医務室から一斉に出て行ってしまった。
残されたのは、私とミナミ、ヤマトの三人だけとなった。
鏑木
「さっきのは、色が違ったがこいつの同類か?」
ミナミは今まさに解剖されそうになっていた生き物を、手にしたメスで指し示しながら言った。
ムサシ
「そうね。ここへ来たのは、艦橋下の電子機器類が一斉におかしくなっちゃったから、原因がそいつの同類じゃないかと思ったの。で、さっきのやつがここにいると思って入ってきたのよ」
ヤマト
「そうだったの。でも、逃げて行っちゃったわね」
私が問いに答えると、ヤマトも納得してくれた。
しかし、ここでまた私は別のことが気になってしまった。
ムサシ
「ところでヤマト? その恰好はどうしたのよ?」
ヤマト
「あ、これ? 美波さんに教えてもらって作ってみたの。どうかな? お医者様って感じになっているでしょ」
ヤマトは白いブラウスに茶色のミニスカート、その上に白衣を纏ったまさに女医さんという格好をしている。
しかも眼鏡まで完備している。
ムサシ
「まぁ、いいんじゃないの?」
私はそっけなく返しておいた。
ヤマトはショッピングモールでの買い足しの一件で、服装に興味を持ったらしく、時間があれば人類の服飾史を調べている。
今のところ、私にはあれこれ着せたいって話をしてこないが、いずれしてきそうでもうすでに不安だ。
鏑木
「しかし、こいつの同類がまだ艦内に紛れていたとはな。しかもそいつの生体電流が放つ電磁波で電子機器がやられてしまうとは、驚愕に値する」
ヤマト
「そうね。とりあえず、明乃さん達を追いましょう。あの生き物に直接触れると大変なことになってしまうわ」
ムサシ
「そうね、行きましょう」
私たちは医務室から出て、アケノたちを追った。
甲板に出てみると、すでに五十六が生き物を捕まえていた。
生き物は捕まえられたことで弱ったのか、ぐったりした様子だった。
その周りにはアケノ、シマ、マシロ、コウコ、ミーナがいる。
すると、アケノがその生き物に触れようとしていた。
鏑木
「触るな。そいつに直接触れないでくれ」
岬
「え?」
ミナミが咄嗟にアケノに忠告したおかげで、直接の接触は避けられた。
すると、伝声管越しに声が聞こえてきた。
八木
「艦長、通信復活しました!」
宇田
「電探も復活したよ。これで何でも見える!」
万里小路
「ソナーと聴音機も問題なくなりました。水中の音がよく聞こえます」
持ち場に戻っていたツグミたちからの装置復旧の報告だった。
やはり、この生き物の生体電流による電磁波が原因だったようね。
岬
「ほんとに原因ってこの子だったんだ」
宗谷
「信じられませんが、そのようですね」
アケノたちも驚いているようだ。
こんな小さな生き物が原因だとは普通気が付かないでしょうね。
鏑木
「艦長、少しいいか?」
すると、ミナミがアケノたちに話しかけてきた。
鏑木
「私とヤマトさん達でそいつについて調べて、色々とわかったことがある。だから、一度みんなを集めて報告がしたい」
ミナミはこの生き物について、晴風のみんなに報告するつもりのようだ。
確かに、この生き物は危険だし、今この海で起きている現象にも関係あることだと思うから、ちゃんとみんなに説明する必要があるわね。
岬
「わかったよ、美波さん。とりあえずもう夜も遅くなってきたから、明日の朝にどこかの島に停泊して、そこでみんなに報告でいいかな?」
鏑木
「心得た。それで問題ない」
アケノの提案をミナミは二つ返事で許可した。
岬
「ココちゃん、この付近で停泊できそうな島を探してルートを出しておいて。
それじゃ、みんな一度持ち場に戻ってね」
アケノの指示でこの場は一度解散となった。
私たちが偶然見つけたこの生き物は見た目とは裏腹に、想像以上に厄介な存在だ。
でもようやく、今起きていることの謎の多くが解けたと思う。
私は、明日の報告に向けて今一度情報の整理をするべく、ミナミ、ヤマトとともに医務室へ戻っていった。
第八話、いかがだったでしょうか?
アニメだとミケちゃんとシロちゃんが余所余所しくなる展開ですが、本作ではクロちゃん含めてここで一致団結させました。
やっぱりみんな仲良くしてほしいですもんね!
(この後の展開が書きづらくなるから、っていうのは内緒……)
次回、第九話は、美波ちゃん+ヤマトさん+ムサシさんの超すごい研究チームから語られる黒幕ネズミの真実!
ひさしぶりの説明回になりそうです ^^;
アニメ通りならこの後、機雷でピンチ!、になるのですが、本作では回避しちゃいます。
(あの話はなぜあったのか未だによくわからんw
次回も読んでいただけると嬉しいです。