ハイスクール・フリート ―霧の行く先― 作:銀河野郎のBOB
今回はお誕生日記念。
いよいよ晴風クラス全員コンプリートまで残り3人となりました。
今日は一気に2人いきますよ。
今日、6月16日は杵崎ほまれちゃんと杵崎あかねちゃんの双子姉妹のお誕生日でございます。
皆さんは、ほっちゃんとあっちゃんの違いはちゃんとわかりますよね?
赤いエプロンで二つの髪留めをしているのが姉のほっちゃん
青いエプロンで髪を結っているのが妹のあっちゃん、ですよ。
2人は友達のミカンちゃんと晴風の炊事委員として毎日クラスの皆の食と健康を支えています。
先月発売のOVAでは、今やはいふりファンの聖地と化した某和菓子屋で三人揃ってお菓子作り修行をしていましたね。
筆者はここ最近毎週のようにお邪魔しております。
(また明日も二人のお祝いをしに行って参ります)
今回はほっちゃんとあっちゃんが和菓子屋さんに恩返しするお話です。
それでは、どうぞ!
2017年6月16日午後8時半
-ほまれside.-
杵崎ほ
「それじゃお疲れ様です! お先に失礼します」
杵崎あ、伊良子
「お疲れさまです!」
私とあっちゃん、ミカンちゃんの三人は元気良く挨拶をしてお店の勝手口から外へ出た。今日は週に二日入れている和菓子屋でのアルバイトの日だった。一仕事終えた私は程よい疲労感と大きな幸福感を感じていた。そしてその手にはお菓子の詰め合わせが入った紙袋があった。
杵崎あ
「えへへー。お菓子いっぱいもらっちゃったね、ほっちゃん」
杵崎ほ
「そうだね。店長さんちょっとサービスしすぎ気もするけど」
伊良子
「いいじゃない。今日は二人の誕生日なんだから」
今日の仕事が終わった後、店長さんに呼び出されてお店の控室に行くと従業員さんたちとミカンちゃんが待っていた。そこで私たち姉妹はお誕生日のお祝いをしてもらった。店長さんをはじめ沢山の人におめでとうの言葉をかけてもらい、私とあっちゃんはとても嬉しかった。そして店長さんからもらったのが今手にしているお菓子の詰め合わせというわけだ。
杵崎あ
「でもさ、あのお店でアルバイトさせてもらって本当に良かったよね」
杵崎ほ
「うん。あれからもうはじめて一年たつんだね」
普段は晴風の厨房でクラスの皆に料理やお菓子を振る舞っている私たち炊事班。しかし航海実習のない間は学科での授業を除いてお料理をする機会が大きく減ってしまい、自主的に練習をするにも学生寮での使用制限もあって思うように練習できないことが多かった。
そこで私たちは横須賀市街にある親戚の人が経営する老舗和菓子屋さんでアルバイトをしながら、お菓子作りの修行をすることにしたのだ。
伊良子
「店長さんには本当に感謝の気持ちでいっぱいだよ。おかげでお菓子作りはもっと上手くなったと思うな」
杵崎あ
「そうだね。私も色んな新作作れるようになったよ!」
杵崎ほ
「あっちゃんの新作はどれも攻めすぎな気もするけど……。でも、いっぱい練習させてもらてるのは本当に助かってるよ」
店長さんや従業員さんは学生である私たちに時に厳しく、時には優しく指導をしてくれている。それはお菓子作りだけでなく、料理全般に関すること、さらには店頭での接客や食材管理など多岐に渡っている。なぜこんなに良くしてくれているのか。その理由を店長さんに聞いたところ、将来私たちがブルーマーメイドになって職員さんたちに料理をお出しする立場になった時、それに相応しい人物になってほしいからだと教えてくれた。こういったこともあり、私たちにとって店長さんや従業員さんたちはとっても大切な存在になっていた。
そんなことを考えていると、あっちゃんが私とミカンちゃんにある提案をしてきた。
杵崎あ
「ねぇ。店長さんたちに何か恩返しできないかな?」
杵崎ほ、伊良子
「恩返し?」
杵崎あ
「私たち、この一年間で店長さんたちにたっくさんおせわになってきたじゃない? だから、一年間ありがとうってことで何かしたいなって思ったの」
あっちゃんからの突然の提案に私とミカンちゃんは驚きを隠せなかった。しかし、すぐにその提案に乗った。
杵崎ほ
「それいいかも。それなら、店長さんたちにたくさん喜んでもらいたいな」
伊良子
「よーし。そうと決まれば寮に戻って作戦会議よ!」
杵崎姉妹
「おー!」
私たちは店長たちの喜ぶ顔を想像しながら、学生寮への帰路を急ぐことにした。
-あかねside.-
学生寮に戻ってきた私たちは、早速ミカンちゃんを部屋に呼んで作戦会議を始めていた。
杵崎あ
「それで、恩返しって言っても具体的に何をすればいいんだろう?」
杵崎ほ
「え? あっちゃん何も考えてなかったの!?」
杵崎あ
「だって、ちょっとした思い付きだったんだもーん」
伊良子
「まぁまぁ、これからみんなで考えようよ」
私は勢いまかせで提案したことを少し後悔したが、気を取り直して今度は本気で考えることにした。でもまとめるのは三人の中で一番しっかり者のミカンちゃんに任せることにした。
伊良子
「無難にいくなら、やっぱりプレゼントがいいよね」
杵崎あ
「プレゼントかー。どんなのが店長さん喜んでくれるかな?」
杵崎ほ
「店長さんなら何でも喜んでくれそうだけど、やっぱりちゃんと気持ちが伝わるものじゃないと、だね」
そんな感じで私たち三人はいろんな意見を出し合っていった。
そして、一つの結論へとたどり着いた。
杵崎ほ
「やっぱり私たちができる最高の感謝といえば――」
杵崎あ
「お料理、だよね!」
伊良子
「そうだね。私たちの成長を見てもらうのが一番いいと思うな」
アルバイトを始めたきっかけもお料理の修行が目的だった。修行の成果を店長たちに披露してあげることこそが一番の恩返しになるという結論に至るのは、必然だったのかもしれない。
伊良子
「それじゃ次は何を作るかだね。和菓子屋さんで修行させてもらったんだから、やっぱりお菓子がいいのかな?」
杵崎あ
「いいね。どうせなら、新作のお菓子とか作ってみるのはどう?」
私はここぞとばかりにこれまで書き溜めてきた新作洋菓子レシピ本を二人に見せた。ミカンちゃんは興味津々の様子だ。
伊良子
「すっごーい! こんなに考えたんだね」
一方ほっちゃんはミカンちゃんとは対照的に冷めた目線で私を見ていた。
杵崎ほ
「あっちゃん、これって昔にほとんど失敗したやつばかりじゃない……」
杵崎あ
「そ、そんなことないよ! ちゃんと美味しくできたのだってあるんだから! 例えば――この飴細工ケーキとかどう?」
私は必死にレシピ本の中から上手くいったと思う自信作の一つを二人に紹介してみた。これで何とか賛成を得られるかと思った。しかし――
杵崎ほ
「でもこれ、ここからお店までどうやって持っていくの?」
杵崎あ
「うぐぅ!?」
ほっちゃんの鋭い指摘にあえなく撃沈してしまった。
その後も30分ほど三人で色んなアイデアを出し合ってみたが、なかなか決められずにいた。
杵崎あ
「うーん。感謝を伝えるって思ってた以上に難しいね」
伊良子
「なんかどれもありきたりになっちゃうもんねー」
私とミカンちゃんは思わず弱音を吐いてしまった。
店長さんや従業員の皆さんによろこんでもらいたい。その想いはどんどん大きくなっているのに、それを表現することができないことがとてももどかしかった。
そんな時だった。ほっちゃんが何かに気が付いたように手をポンと叩いた。
杵崎ほ
「ねぇ二人とも。あんまり難しく考えずに、もっとシンプルなものにしてみない?」
伊良子
「シンプル? どういうこと、ほっちゃん?」
杵崎ほ
「私たちが伝える感謝の気持ちって、一年間で教えてもらったことを表現できるものであればいいんだよね。それって何か特別なものを作ったりするんじゃなくて、私たちが普段作っているものでも伝えられるんじゃないかなって」
杵崎あ
「普段作ってるもの……あ!」
私はほっちゃんが何を言いたいのかをようやく理解した。ミカンちゃんも同じく気が付いたようだ。
伊良子
「私たちが普段作ってるものっていえば、アレだよね?」
杵崎ほ
「うん、アレだよ。私たちの自慢の味」
杵崎あ
「うんうん。きっと店長さんたちも喜んでくれるよ」
これまでの悩みっぷりがウソのように、ほっちゃんの一言で私たちが作るものはすんなりと決まっていた。
杵崎あ
「それじゃ明日材料を買ってきて準備しなくちゃ」
杵崎ほ
「次のシフトは日曜日だから、その日の仕事終わりに渡すってことにしよう」
伊良子
「そうだね。あ、明日の調理場の使用許可取ってこなくちゃ」
私たちは消灯時間ギリギリまで話し合いを続けたのだった。
-ほまれside.-
そして日曜日。
今日もいつもと同じようにアルバイトの仕事をこなしていた。日曜日というだけあって、平日よりも客足は多く、レジ担当も厨房担当もいつも以上に忙しかった。それでも何とかやりきり、夜7時半でお店は無事閉店時刻を迎えたのだった。
従業員の皆さんより一足早く控室に戻っていた私たち三人は、昨日作ったものを手にして店長たちが来るのを待っていた。
杵崎あ
「なんだか、ちょっと緊張してきちゃったよ」
杵崎ほ
「う、うん。私もちょっと」
伊良子
「大丈夫だよ。皆さんきっと喜んでくれるよ」
緊張気味の私たち姉妹と違い、ミカンちゃんは普段通りの明るい笑顔だった。そんなミカンちゃんが今はとても頼もしく感じていた。
それから少し経った時、控室の扉が開いた。そこに立っていたの、いつも私たちをあたたく見守ってくれる人だった。
店長
「おや? 三人ともまだ帰っていなかったんですか?」
杵崎ほ
「て、店長さん」
店長さんはいつもと変わらない笑顔で私たちを見ていた。この店長さん、背は結構高くて体型も細身、さらにはなかなかのイケメンさんなのだ。一年前に初めて会った時は正直ドキッとしてしまった。そんなイケてる店長さんの笑顔が眩しくて、私もあっちゃんもなかなか次の言葉が切り出せずにいた。
すると、ミカンちゃんが一歩前へ踏み出していた。
伊良子
「店長さん。今日は店長さんたちに感謝の気持ちを伝えたいんです」
店長
「感謝の気持ち、ですか?」
ミカンちゃんがきっかけを作ってくれたおかげで、私たち姉妹もそれに続けと店長さんに話しかけていく。
杵崎あ
「私たちがこのお店で和菓子作りの修行をさせてもらって一年になりました。店長さんや従業員の皆さんには色々教えてもらって、私たち一年前よりもずっと成長できたと思うんです」
杵崎ほ
「店長さんたちにはいくら感謝してもし足りないくらいです。でも今まで口にする機会がありませんでした。だから、一年という節目の今にちゃんとお伝えしたいと思います」
私たちは姿勢を正して、店長さんにしっかりと向き合った。
杵崎姉妹、伊良子
「店長さん、一年間ありがとうございます。そして、これからもよろしくお願いします」
三人揃って深々と頭を下げた。これが私たちにできる最大限の感謝の表現だ。
店長
「ほまれさん、あかねさん、ミカンさん、頭をあげてください」
店長さんに言われるまま、私たちは頭をあげた。いつの間にか私たちの側に来ていた店長さん。その表情はいつもの優しい笑顔だった。
店長
「こんな風に面と向かって感謝の気持ちを言われるのは、とても久しぶりな気がします。三人の気持ち、とてもよく伝わりましたよ。ありがとうございます」
店長さんの言葉で、それまで緊張気味だった私たち三人にようやく笑顔が戻った。私たちは間髪を入れず次の行動に移った。
杵崎ほ
「店長さん、これ私たちが作ったんです。よかったら食べてください」
私は手にしていた紙袋を店長さんに手渡した。店長さんは袋の中に手を突っ込むと中に入っていたものを取り出した。
店長
「これは、プリンとどら焼き、ですか?」
杵崎あ
「はい。これ、私たちが乗っている晴風って艦でおやつとして出しているものなんです」
伊良子
「一年生の頃からクラスのみんなに喜んでもらっているんですよ。きっとお店の皆さんにも気に入ってくれるかなって」
すると店長さんは手にしていた五十六印のどら焼きをひと口ほおばった。私たちは再び緊張した様子で店長さんの言葉を待った。
店長さんはじっくりとどら焼きを味わうと、ようやく口を開いた。
店長
「……うん。とても美味しいですね。三人の心遣いが伝わってきます。きっとクラスの皆さんにもその気持ちが伝わっているのでしょうね。本当に三人ともよく成長しましたね」
店長さんからの言葉で、嬉しさと感動の気持ちで満たされていく。私ははこの人のお店で修行させてもらえていることの素晴らしさをしっかり噛みしめていた。
杵崎あ
「やったね、ほっちゃん、ミカンちゃん。大成功!」
杵崎ほ
「うん! やったね!」
伊良子
「いえーい」
私たちは三人で肩を組んで喜びを分かち合った。店長さんはそんな私たちを優しく見ていてくれた。
店長
「さて、そろそろ従業員の皆さんも戻ってきますよ。そうしたら、ここで皆さんの作ったお菓子でちょっとしたパーティをやりましょうか」
杵崎あ
「いいですね。やりましょう」
杵崎ほ
「それじゃ私、紙皿を用意しますね」
伊良子
「私はお茶の用意をしなくちゃ」
その後、仕事を終えた従業員さんたちも交えて、お菓子パーティは大盛り上がりしたのであった。
さぁ、甘くて楽しいパーティを、始めましょう。