ハイスクール・フリート ―霧の行く先― 作:銀河野郎のBOB
今日から6月ですね。今日は二人のはいふりキャラのお誕生日です。
一人目はモモちゃんこと青木百々ちゃん。
赤いベレー帽とメガネが特徴で、その容姿の通り絵や漫画を描くことが大好きな子です。
語尾が「っす」であるのも特徴的で晴風の濃いメンツの中でしっかり自分のポジションを持っている印象があります。
二人目はめぐちゃんこと宇田慧ちゃん。
バッテン髪留めに身長低めと某マンガの主人公っぽい子です(個人の感想です)
そんなめぐちゃん、公式設定資料集でおっぱい星人キャラが確立されるという名誉な個性を手に入れました。
さらに、先週発売のOVAでも活躍してましたね。
今回はそんな二人のお話です。
実はネタに困った筆者が自分がかつて旅行したある場所をネタにしています。
それなりにどこのことかわかるように書いてみたのですが・・・
それでは、どうぞ!
2017年6月1日午後4時
-百々side.-
私、青木百々は悩んでいた。
中間考査は三日目が終わり、明日の最終日を残すのみとなっていた。教室にはチラホラとクラスメイトが残っており、明日の試験対策をしたり、明後日からの試験休みの予定を話し合っている声が聞こえてくる。
そんな中私はというと、何も描かれていない真っ白なスケッチブックと睨めっこしていた。その様子を私の向かいに座っているヒメちゃんが不思議そうに眺めていた。
和住
「モモー、中間考査は明日まであるんだから同人誌のネタ探しは終わってからにしなって」
青木
「わかってるっすよ。わかってるんすけど……」
私の悩み、それは今年の夏のビッグイベントに出す予定の同人誌のネタが未だに定まらないことだ。高い競争倍率を勝ち抜いて今年も確保したサークルスペースを無駄にしないためにも、夏の新刊はなんとしてでも完成させなければならない。しかしイベントまでもうすぐ2ヶ月になるこの時期に全くの白紙というのは非常にまずい状況なのだ。
和住
「そういうのは明日終わってから考えればいいの。ほらいくよ」
青木
「あ、ヒメちゃん待つっすよ」
私を置いて先に行こうとしていたヒメちゃんの姿を見て、私は慌ててスケッチブックを片付け始めた。とりあえず考えるのは明日以降にしようと気持ちを切り替えようとした。
その時だった。同じ教室内で何やら楽しそうに話している声が聞こえてきた。私はその声が気になり、その場所へ歩を進めた。
青木
「なんか盛り上がってるっすね。どうしたんすか、めぐちゃん、ミカンちゃん?」
伊良子
「あ、モモちゃん」
机を挟んで楽しそうに話していたのは、伊良子美甘ちゃんと宇田慧ちゃんの二人だった。机の上には二台のカメラが置かれていた。
伊良子
「実はね、明後日からの試験休みにめぐちゃんと一緒に旅行に行くことになっているんだ」
宇田
「誕生日祝いで両親から新しいカメラを買ってもらったから、その最初の撮影もするんだー」
伊良子
「めぐちゃんいいなー。そのモデル、私も欲しいよー」
めぐちゃんは新しく買ってもらったばかりのピンク色のカメラを手にして嬉しそうに教えてくれた。そういえば、めぐちゃんと私は今日が誕生日だった。中間考査期間中に誕生日があるということで、この前の日曜日に副長、ココちゃんと共に私たちもお誕生日会をしてもらったばかりだ。
そして、めぐちゃんとミカンちゃんは揃ってカメラや写真撮影を趣味としている。めぐちゃんはカメラそのものに、ミカンちゃんは撮影することに、と少し領域は違うが二人は意気投合して、二人でよく一緒に撮影に出かけているらしい。
しかし、試験休みに旅行とはなかなか楽しそうなことを考えている。私は二人の旅行に興味を持ち始めていた。
青木
「ちなみにどこに行く予定なんすか?」
宇田
「長野だよ。前にどこか写真撮りに行くならどこがいいかなって艦長に聞いたら、地元にいいところがあるよって教えてもらったんだ」
伊良子
「せっかくだから、一泊して思いっきり撮影を楽しんじゃおうって」
青木
「へー、一泊するんすか。本格的っすね……あ!」
その時、私は一つの考えが生まれた。私は早速二人に尋ねてみることにした。
青木
「ねぇ二人とも。その旅行、私も一緒についていっていいっすか?」
伊良子
「え!? モモちゃんも?」
宇田
「ず、ずいぶん急だね」
青木
「ごめんなさいっす。実は――」
私は二人に自分が夏の新刊のネタに行き詰っていることを話した。
私は二人の旅行に同行して、新刊のネタ探しをしようと思いついたのだ。
青木
「そういうわけで、お願いするっすよー」
伊良子
「うーん、どうしようか、めぐちゃん?」
宇田
「いいじゃん。泊まるとこは一部屋4人までOKだったし、今すぐ連絡したら大丈夫だよ。旅をするなら人数多い方がもっと楽しいよ」
伊良子
「そうだね。それじゃモモちゃん、明後日からよろしくね」
青木
「あ、ありがとうっす! めぐちゃん、ミカンちゃん!」
こうして、私は土曜日から一泊のネタ探し旅に参加することになった。
和住
「こらー! いつまで油売ってるの! 勉強するよ」
青木
「あ、すっかり忘れてたっす」
-慧side.-
6月3日午前10時
昨日中間考査を終えた私たちは今、特急列車に乗って目的地を目指している。朝一番で出発する定期船で東京方面へ、そこからいくつかの船を乗り継ぎ、甲府からは鉄道に乗って長野を目指している。
青木
「今までずっと海の上にいたっすからね。山に行くのってなんか新鮮っすね」
伊良子
「そうだねー。長野はお蕎麦や野沢菜が美味しいらしいから今から楽しみだよ」
宇田
「さすがミカンちゃん、お料理は詳しいね」
モモちゃんとミカンちゃんとそんな話をしていると、車窓の景色が一気に明るくなった。私たちは窓から外を見る。そこには大きな湖が広がっていた。
青木
「おー! すっごく大きな湖っすね! あそこが今回の目的地っすよね?」
伊良子
「そうだよ。早速写真撮っちゃおうっと」
宇田
「あ、私も私も」
私とミカンちゃんはバッグからカメラを取り出して、車窓越しに撮影し始めた。
地盤沈下の影響で日本各地の湖が海と一体化している中、この湖は山の奥地にあるため昔のままの形を保っている。元々観光地として有名な場所であったが、近年はさらに人気が増してきているらしい。
そうこうしているうちに列車は目的の駅に到着した。そして駅に降りてすぐモモちゃんがあることに気が付いた。
青木
「めぐちゃん、ミカンちゃん、あそこに足湯があるっすよ! 駅のホームに足湯っすよ」
宇田
「本当だ。早く行ってみよう!」
私たちは早速日本でもここにしかないという駅のホームの足湯に浸かることにした。温泉の温度は50℃ほどで、少し熱めだが足湯として楽しむには快適な温度だった。
宇田
「ふわぁ、気持ちいい~」
青木
「このままずっと入っていたいっすね~」
私たちはこの足湯で30分程満喫したのであった。
-百々side.-
早速足湯を楽しんだ私たちは、駅から一度今日宿泊する宿でチェックインをして大きな荷物を部屋に預けた。そこで動きやすい服装に着替えた後、私はスケッチブックを、めぐちゃんとミカンちゃんはカメラを持って再び駅前へ戻ってきた。今は駅前のレンタサイクル屋さんで自転車を借りてきたところだ。
伊良子
「よーし。みんな準備できたね。それじゃ、しゅっぱーつ!」
青木、宇田
「おー!」
私たちは湖畔沿いのサイクリングに出かけた。梅雨入り前の今はサイクリングにはピッタリだった。
駅前を出発してすぐに湖畔沿いを通る道路へ出てきた。目の前には湖の雄大な景色が広がっていた。
青木
「サイクリングもいいっすねー」
宇田
「うん、湖からの風が気持ちいいよ」
伊良子
「ホントだね。来てよかったよ」
三人それぞれが湖畔のサイクリングを楽しんでいた。
サイクリングを始めて数分程した時、湖畔に立つある施設へとたどり着いた。その施設名は――。
宇田
「“間欠泉センター“?」
私は持ってきていたガイドブックを開いて、この場所について調べてみた。
青木
「えーと。ここは大きな間欠泉があるらしいっすよ。2時間おきに温泉が噴出するところを見せてくれるらしいっす」
宇田
「え、なにそれ! 見たいみたーい!」
目をキラキラさせて興奮しているめぐちゃんがとても可愛らしかった。丁度次の噴出時間が近かったので、自転車を置き場に預けて施設に入ることにした。
施設の中はちょっとした温泉施設になっていて、そこを通り抜けて外に出るとお目当ての間欠泉があった。すでに多くのお客さんが噴き出すのを待っていた。
私はバッグからスケッチブックを取り出して写生の準備を始めた。噴き出した瞬間をスケッチするためだ。めぐちゃんとミカンちゃんもカメラを構えて準備をしていた。
しばらくすると間欠泉の噴出口から湧き出る湯気の量が増えていき、同時にゴゴゴという音が鳴り始めた。そして次の瞬間、一気にお湯が天高く噴き出した。高さにして約5mほど、ものすごい勢いでお湯の柱が出来上がっていた。
周りにしたお客さんたちはお湯が噴き出すと、驚きの声をあげていた。そしてカメラやスマホで撮影を始めていた。めぐちゃんとミカンちゃんも一心にシャッターを押している。
私は間欠泉の光景を見ながらスケッチを続けていた。私が描いたのはこの間欠泉のかつての姿だ。ここはかつて今の10倍、高さ50mまでお湯が自噴していたそうだ。私はその姿を想像しながら筆を走らせていた。
噴出し始めてから数分もするとお湯の勢いは弱くなっていった。お客さんたちはそれと同時に満足そうな顔をして施設を後にしていく。そんな中、私はその場に留まってスケッチに集中していた。すると、撮影を終えためぐちゃんとミカンちゃんが私の下へ戻ってきた。
宇田
「わーモモちゃん相変わらず上手いね」
伊良子
「ホントだね。写真では表現できない迫力を感じるよー」
二人が私に声をかけてくれたが、スケッチに集中していた私にはその声が全く届いていなかった。そんな私の様子を察してくれたのか、二人は私のスケッチが終わるまで隣に座って待ってくれた。
-慧side.-
10分ほどでモモちゃんの絵が完成して、私たちはサイクリングを再開した。
青木
「ごめんなさいっす。二人には随分お待たせしてしまったっす」
伊良子
「いいよいいよ。気にしないで」
宇田
「そうだよモモちゃん。それに――」
私はスケッチをしていた時のモモちゃんの姿を思い浮かべながら言葉を続けた。
宇田
「絵を描いてた時のモモちゃん、とってもいい顔してたよ。最近スケブ見ながら悩んでたみたいだったけど、モモちゃんはやっぱり絵を描いてる時が一番いいと思うな」
青木
「そ、そうっすか。ありがとう、めぐちゃん」
モモちゃんは少し顔を赤くしていた。モモちゃんは絵を描いている時は本当に真剣で、ちょっとかっこいいと思ってしまうこともある。そんなモモちゃんの姿に私は憧れを抱いているのかもしれない。
青木
「そ、それより、次の目的地はどこなんすか?」
伊良子
「えーとね。あと30分程走ったら右に曲がるよ。そこにパワースポットの神社があるんだって」
宇田
「パワースポット! いい響きだね。よーし、どんどん行っちゃうよー!」
私はペダルを漕ぐスピードを上げて、二人を追い抜いていった。
伊良子
「めぐちゃん待ってよー」
青木
「めぐちゃん元気いっぱいっすねー」
そして自転車を走らせること30分ちょっと。私たちは湖畔から少し山の方に入っていく。最近舗装された綺麗な道を進んでいくと、目の前に鳥居が見えてきた。どうやら目的の神社に着いたようだ。神社の前のある売店の側に自転車を停め、私たちは境内を目指す。
宇田
「ぜぇ、ぜぇ、ちょっと、頑張りすぎたかな……」
伊良子
「もぅ、めぐちゃんはりきりすぎだよ」
青木
「あはは。ほら、行くっすよ」
鳥居の側の手水舎で手を清め、私たちは鳥居をくぐって境内へと入った。そこに入った時、私は周りに空気が大きく変わったように感じた。今までいた世界がすごく騒がしいと思えるくらい境内は静かで、神聖な雰囲気を漂わせていた。これがパワースポットというものなのだろうか。
境内を進んでいくと、目の前に大きな注連縄を掲げた建物が見えてきた。その奥には拝殿が見える。
青木
「はー……」
モモちゃんを見ると、彼女は何かを見つめていた。その視線の先にあったのは大きな木の柱だった。拝殿の左右に立っていた二本の大きな柱は、それそのものが大きな力を放っているかのように存在感を示していた。私は自然とカメラを構えてシャッターを切っていた。
宇田
「……すごい」
隣を見るとミカンちゃんも同じようにカメラを持って静かに撮影していた。モモちゃんは少し離れた場所でスケッチに勤しんでいた。私は二人の表情がとても綺麗に見えた。そして思わず、二人に向けてシャッターを切っていた。
伊良子
「あ、めぐちゃん私たちのこと撮ったの?」
宇田
「え? 二人を見てたら、思わずね」
伊良子
「そっか。でもここ、なんかすごい雰囲気だよね」
ミカンちゃんも私と同じものを感じているのだろう。それだけの力がここにはあるということだ。
私たちはしばらくの間、神社の持つパワーを感じながらただ静かに立ち尽くしていた。
-百々side.-
パワースポットの神社を満喫した私たちは、その後不思議な顔をした石の仏様を発見したり、湖の見える美味しい信州そばを堪能しながらサイクリングを楽しんだ。
そして今は夜。私たち三人は宿に戻ってきて温泉に入っていた。
伊良子
「今日はいっぱい走ったね。おかげで温泉が気持ちいいよ」
青木
「私は疲れて足が棒になっちゃいそうっすよ~」
宇田
「明日もまた走るから、今日は温泉でしっかり休もう」
駅の足湯とはまた違う温泉を楽しみながら私たちは今日のことを振り返っていた。その時、めぐちゃんが私の様子を伺っていた。
宇田
「ねぇモモちゃん。悩みは吹っ切れた?」
私はめぐちゃんの一言で私は思い出した。この旅は夏のイベントのネタ探しをするためにきたことを。でも、いつの間にかそんなことは抜きに私は旅を楽しんでいた。そして私は今日一日を振り返ってみてあることに気が付いた。
青木
「そうっすね。今日色んな所を回って思ったっす。こうやって楽しいって思えることをただ楽しむことが一番なんだって。同人誌を描くこともきっと同じっす。私はいつの間にかそのことを忘れてたみたいっすね」
宇田
「そっか。なんかわかるかも。きっとモモちゃんにはこの旅そのものが漫画のお話みたいなものなのかもねー」
青木
「そうっすねー……あ!」
その時、私はある一つの考えが浮かんでいた。
青木
「そうだ! このお話を漫画にすればいいっすよ。夏の同人誌は今回の旅行記にしてみるっす。めぐちゃん、ありがとうっす!」
私は興奮の余り、めぐちゃんの手を思いっきり握っていた。
宇田
「う、うん。なんかいい感じに解決出来ちゃったみたいだね」
伊良子
「よかったね、モモちゃん」
めぐちゃんもミカンちゃんも嬉しそうに私のことを見ていた。
青木
「そうと決まれば、温泉からあがったら早速描き始めるっすよ。めぐちゃん、ミカンちゃん、後で今日撮った写真を見せてほしいっす」
宇田
「わかったよ。でも張りきりすぎて夜更かしはダメだよ」
伊良子
「そうだよ。明日もまたサイクリングなんだからね」
青木
「わ、わかってるっすよー」
温泉の中で私たちは笑いあうのであった。
後日、東京のとある場所で行われたイベントである同人誌が頒布された。
その内容は、三人の少女たちが旅行先の大きな湖を巡っていく中で不思議な体験をするというものだったらしい。