ハイスクール・フリート ―霧の行く先― 作:銀河野郎のBOB
昨夜の本編から二日連続の投稿! 今回は誕生日記念です。
今回は二人の誕生日をお祝いしますよ!
(本当は一人ずつやりたかったけど、時間がないから二人纏めてやった、なんて言えない……)
本日、12月13日はしゅうちゃんこと山下秀子ちゃんの
そして明日、12月14日はルナちゃんこと駿河留奈ちゃんの
誕生日でございます!
まずはしゅうちゃんから。
先週のまゆちゃんの時にも言いましたが、しゅうちゃんといえばまゆちゃんとコンビという印象がありますね。
すごくお似合いの二人だと私は思っています。
そして、前髪をまとめたピンクのリボンとおでこがかわいい。
あと、コウカイラップでセンターやってて、意外とああいうの好きなのかなーって思ったりもします。
そして明日誕生日のルナちゃん。
ルナちゃんと言えば、おバカな子、バカわいい、というのが皆さんのイメージではないでしょうか?
入学試験で一人だけ合格欄に名前がなくて、海に飛び込んじゃう漫画版のあのシーンは面白かった。
そんなバカっぽいけど、なぜか憎めないルナちゃんの魅力なのかもしれませんね。
今回は普段あまり絡みのなさそうなこの二人を思いっきり絡ませてみました。
それでは、どうぞ!
2016年12月13日午後4時
-秀子side.-
気が付けば12月も中旬、今年も残り3週間足らずとなっていた。
ここ横須賀も日に日に寒さを増しており、毎日防寒対策が欠かせなくなってきた。
私、山下秀子は教室に戻ってきていた。寮へ戻る途中に教室に忘れ物をしていることに気づいたからだ。私は自分の机の中にあった忘れ物を急いでカバンの中にしまう。
そして教室を出ようとした時、ふと隣の机が目に映った。ここに座っているのは、この横須賀女子海洋学校でできた私の親友、まゆちゃんこと内田まゆみちゃんだ。
私はちょうど一週間前のまゆちゃんの誕生日でのことを思い出した。あの時、まゆちゃんは私にこう言ってくれた。
まゆみ
「しゅうちゃんがいなかったら、きっと私こんなに強くなれなかったと思う。だから、しゅうちゃんには感謝しきれないよ」
端から見れば告白にも聞こえるような言葉だった。私はその時笑ってその言葉を受け入れる素振りをしてみせた。
しかし、実は内心ではすごくドキドキしていた。まゆちゃんにそんな風に思われていたことが嬉しくてたまらなかった。顔に出すまいと、わざと大げさに笑ってなんとかその場をごまかすことはできたが、あれからまゆちゃんの顔を見ると、どうしても恥ずかしさが込み上げてきてしまう。何とか表情をごまかして普段通り接するようにはしてきたけど、いつまでもこのままじゃいけないとは思う。
山下
≪でも、今更恥ずかしかったなんて言いづらいよぉ≫
あの時、素直に恥ずかしかったことを言っておけばよかったのかな、そう思ってしまう。
私はまゆちゃんの机に右手で触れる。いつもまゆちゃんが使っている机、普段からよく触っているはずなのに、いざ意識してしまうとただ触っているだけでも、ドキドキしてしまう。
幸い、教室には私以外に誰もいない。私は高ぶる気持ちを抑えられなくなっていた。
山下
「まゆ、ちゃん……」
私はまゆちゃんの机に座ろうと思った、その時だった。
ガラッ!
突然、教室の扉が開く音がした。
私は慌ててまゆちゃんの机から離れる。そして、音のした扉の方を見てみる。そこには、青みがかった黒髪を二本の黄色のリボンで纏めた女の子の姿があった。
駿河
「いっけなーい! 宿題に使う教科書忘れてきちゃったよー……って、あれ? しゅうちゃん?」
教室に慌ただしい様子で入ってきたのは機関科四人組の一人、駿河留奈ちゃんだった。ルナちゃんは私の存在に気づいて傍に近づいてきた。
駿河
「しゅうちゃんが残っているなんて珍しいね。もしかして私と同じで忘れ物?」
山下
「う、うん。そうなんだ」
ルナちゃんからの質問に、未だ乱れている心をなんとか隠しつつ答える。
別に悪いことをしようとしていたわけではなかったけど、今思えばとても恥ずかしいことをしようとしていたのかもしれない。そう思うと、穴があったら入りたいと思うくらい恥ずかしくなってきた。
駿河
「えーっと、確か机の中にあったはず……、お、あったあった」
私が自分のしようとしたことを恥じている間に、ルナちゃんは忘れ物の教科書をカバンの中へ詰めていた。そして、再び私の元へ近寄ってきた。
駿河
「ねぇねぇ。せっかくだから、一緒に寮まで帰らない?」
山下
「え?」
ルナちゃんからの誘いに、未だ動揺している私はすぐに返事を返すことができなかった。ルナちゃんはそんな私の様子を不思議に思ったのか、顔を覗き込んできた。
駿河
「しゅうちゃんどうしたの? もしかして、まだ何かやることあったりした?」
山下
「え、いやいや。何にもないよ。一緒に帰ろう、うん」
動揺する気持ちをなんとか抑え込んで、私はルナちゃんに返事をした。
駿河
「そう? それじゃ行こうか」
そういうと、ルナちゃんは私の手を掴んだ。そして、二人で一緒に教室を後にしたのだった。
学校を出て、学生寮へと続く道を私とルナちゃんは二人横並びになって歩いていく。私は教室を出て何とか平常心を取り戻すことができていた。一方、ルナちゃんは鼻歌混じりでご機嫌な様子で歩いている。教室で掴まれた私の左手はまだルナちゃんと繋がったままだ。
駿河
「そういえば、しゅうちゃんと一緒に帰るのってあんまりなかったね? もしかして初めてかな?」
山下
「うーん。そうかも、しれないね」
確かに、私は普段はまゆちゃんやサトちゃんなどの航海科メンバーと一緒に帰ることが多い。一方、ルナちゃんは機関長や黒木さんといった同じ機関室メンバーたちと一緒に帰っている姿を何度も目撃している。専攻科が同じだと自然と仲良くなるもので、仲良しグループも多くの人が同じ専攻科どうしになることが多い。
そう考えると、ルナちゃんと一緒に帰ることは今までほとんどなかったかもしれない。
すると、いつの間にかルナちゃんが私の前に立っていた。
駿河
「ねぇ? なんかしゅうちゃん、いつもと違う感じがするよ?」
山下
「え? そうかな?」
ルナちゃんは私が先ほどまで動揺していたことに気がついていたのか、核心をつくような質問をしてきた。
彼女は普段はバカっぽいけど、妙なところでするどいことがあると、同じ機関室組のレオちゃんあたりから聞いたことがあった。
駿河
「ねぇ? もし何か悩んでるんだったら、ルナに話してみてよ?」
山下
「で、でも……」
駿河
「いいから、遠慮しないでドーンと聞いてよ!」
ルナちゃんは左手で胸をドンと叩いて、自信満々な様子を見せる。
そういえば、私の方から誰かに相談事をすることはあまりなかったような気がする。
私は周りのみんなから聞き上手だと言われることが多かった。それは今になっても変わらない。自分はそんな聞き上手だという自覚はなく、ただみんなの話を聞いてあげてちょっと手助けをしてあげようと思っているだけだった。
せっかくだし、ルナちゃんに話してみるのも悪くないかもしれない。私は思い切って打ち明けてみることにした。
山下
「実は先週のまゆちゃんの誕生日会の時に――」
私はルナちゃんに先週あったことを話した。まゆちゃんに感謝されて驚いたこと、自分の気持ちを素直に出せなかったこと、そのせいでこの一週間まゆちゃんとの付き合いで内心戸惑っていたこと、他にも色々と打ち明けた。今まで口にすることが恥ずかしいと思っていたのに、いざ話し出すと意外なほどにすんなり打ち明けることができてしまった。
どうして今まで黙っていたんだろう、もっと早く打ち明ければよかった、そう後悔をしていた。
私の話が全て終わり、ルナちゃんの様子を見てみると、下を向いて黙ったままでその表情を伺うことはできない。
山下
「えと、ルナちゃん?」
不安になった私はルナちゃんに呼びかけてみた。
すると、ルナちゃんはゆっくりと顔を上げてきた。
その表情は……
何もわかっていない、という感じの真顔だった。
駿河
「ごめん、しゅうちゃん。私、なんでしゅうちゃんが悩んでいるのかわからないよ」
山下
「え……」
ルナちゃんが真顔のままで返した言葉は、全く予想外の内容だった。
なぜ悩んでいるかわからない、この一週間悩んでいたことが全く理解されなかったことに私は軽くショックを受けていた。
駿河
「ああ、ごめんね。しゅうちゃんの気を悪くするつもりなんてなかったの」
慌てて釈明するルナちゃん。
しかしなぜ、ルナちゃんは私の悩みが理解できなかったのだろう?
しかし、次にルナちゃんから発せられた言葉に私は大きく突き動かされることになった。
駿河
「だってしゅうちゃん、まゆちゃんに友達でよかったって言われて嬉しかったんだよね? なのになんで悩んでいるのかなーって」
山下
「あ……」
ずれていた歯車がぴったりとかみ合った、そんな感覚だった。
「嬉しかった」、まゆちゃんに友達になれてよかったと正面から言われた時、私は真っ先にそう思っていたのかもしれない。だけど、その後から襲ってきた恥ずかしいという感情に飲み込まれ、その後一週間もの間ずっとそれに気づくことがなかった。
しかし今、ルナちゃんと話すことで恥ずかしさは消えてなくなり、さらにルナちゃんの一言でようやく私の本心を見つけることができた。
山下
≪そっか、私も、嬉しかったんだ。まゆちゃんとお友達になれたことが嬉しくて仕方なかったんだ≫
私はようやく自分の本心に気づくことができた。
そして、それに気づかせてくれたのは相談に乗ってくれたルナちゃんだ。
きっと私に話を聞いてもらっていた人も、こんな感覚を味わっていたのかもしれない。でも、今の今まで当の本人がその感覚を全く知らなかったのだ。本当に滑稽なことだと思う。
私はまだ納得できてないという表情のルナちゃんに向き合った。
山下
「ありがとう。ルナちゃんのさっきの言葉でもやもやしていたのがスッキリ晴れたよ。私も、まゆちゃんと友達になれて嬉しかったんだ。それを気づかせてくれたのはルナちゃんだよ。本当にありがとう」
駿河
「え!? あ、あーうん、よかったよ。しゅうちゃんが元気になれたなら、うん!」
ルナちゃんが少し慌てた様子なのが少し気になったが、私はようやく一週間抱え続けていたものをすっきりすることができた。
もしかしたら、ルナちゃんは私よりも聞き上手なんじゃないか、そう思えてきた。
山下
「でもルナちゃんはすごいね。私の言葉だけで本心を見抜くなんて」
駿河
「……え? 本心?」
ルナちゃんを素直に褒めたつもりが、返ってきた言葉はなんとも歯切れの悪いものだった。
すると、ルナちゃんの口からとんでもない発言が飛び出してきた。
駿河
「いや、実はしゅうちゃんの話、聞いても結局よくわからなくって。私ってバカだからさー。それで、なんか適当にそうなんじゃないのかなーって思ったことを言ったんだけど……」
山下
「え……、ええええええええ!!」
なんと、ルナちゃんのさっきの言葉は口から出まかせで言ったことだったという。あまりにも拍子抜けな彼女の言葉に思わず驚いてしまった。
駿河
「わ、うわああああああん。ごめんねごめんね! 私が悪かったよー」
ルナちゃんは私が気を悪くしたと思ったのか、猛烈に謝ってきた。
その姿はまるで小動物が怯えて、縮こまっているようでなんだか可愛かった。そして、それがなんとも滑稽だった。
山下
「あ、あははは。ちがうちがう。別に怒ってなんかいないよ。ただちょっと驚いただけだよ」
駿河
「ほ、ほんと? よかったぁぁ」
私の言葉を聞いて安心したのか、ルナちゃんはその場で座り込んでしまった。
私はルナちゃんにそっと手を差し伸べた。
山下
「大丈夫? ほら、立って」
駿河
「うん、ありがとう」
ルナちゃんは私の手を掴んで立ち上がる。そしてお互いの顔を見て笑い合った。
ルナちゃんの勘違いというなんとも締まらない感じではあったが、私がずっと悩んでいたことを解決してくれたのは間違いなく事実だ。だからやっぱり、ルナちゃんには感謝の気持ちでいっぱいだった。だから、もう一度伝えよう。
山下
「あらためて、ありがとうルナちゃん」
駿河
「うん、どういたしまして!」
今度ははっきりとした口調で、とびっきりの笑顔とともに返ってきた。
私はそんなルナちゃんの顔がまぶしく見えた。
そんな幸せムードな中、突然私のスマホから呼び出し音が鳴り響いた。慌てて画面を見ると、まゆちゃんからの通話を伝える表示が出ていた。私は手袋を外して通話ボタンを押した。
山下
「はーい、まゆちゃん」
内田
[はーい、じゃないよ! 忘れ物取りに行くのにどれだけかかってるのさ? そろそろしゅうちゃんの誕生日会始める時間なのに、主役がいないと始まらないよー]
山下
「……あ」
ルナちゃんと相談していてすっかり忘れていた。今日はこれから私の誕生日パーティをしてもらうことになっていたのだ。
山下
「ごめん! もうすぐ着くからもうちょっとだけ待ってて!」
内田
[そう? それじゃ早く戻ってきてね]
私はまゆちゃんの言葉を聞いて通話を切る。
すると、隣で会話を聞いていたのかルナちゃんが尋ねてきた。
駿河
「もしかして、しゅうちゃん今日が誕生日?」
山下
「うん。この後、寮の部屋で誕生日会をやるんだ。急いで戻らないと」
駿河
「そうなんだ! ねぇねぇ、私も参加していいかな?」
山下
「え? 別にいいけど」
駿河
「やったー! そうと決まれば、善は急げ! いっくよー、しゅうちゃん!」
ルナちゃんは私の手を取って、寮へと向かってグイグイ引っ張る。
山下
「あ、待ってよルナちゃーん!」
私は大慌てでルナちゃんについていくのだった。