ハイスクール・フリート ―霧の行く先― 作:銀河野郎のBOB
先週のサクラちゃんの誕生日記念に引き続き、また誕生日記念です。
本編の比叡戦の構想もとっくにできてるんです。が、筆は進まずorz
全ては艦これの秋イベの仕業なのじゃ……
本日12月1日は、ソラちゃんこと広田空ちゃんの誕生日です!
クロちゃん、そしてサクラちゃんに続き、三人連続で機関室組からのお誕生日です。
ソラちゃんといえば、頭の上の大きなリボンが特徴的ですよね。
初めて見た時、某有名な魔女さんを思い出しました。(あんなリボンつけてるキャラって他にいたかな?)
今回のお話、先週関東でまさかの雪が積もったということで、それにあやかった内容となっています。
それでは、どうぞ!
2016年12月1日午前7時
-空side.-
私は広田空。今年の春に横須賀女子海洋学校に入学した、いわゆる新入生というやつだ。
そして気が付けばもう12月、今年もあと1か月となっていた。今年は横須賀女子の受験から始まり、4月には入学、そして勉強は大変だけど楽しい楽しい高校生生活、そうなるはずだった。
しかし、入学してすぐ実施された航海演習であのネズミ騒動に巻き込まれ、さらに異世界からきたヤマトさんとムサシちゃんと出会うことになるなど、思い返せばとんでもない事件に巻き込まれ続けた一年だった。
そして今日、寮の自室のベッドから起き上がってきたばかりの私にまた一つ事件が発生していた。
広田
「……うそでしょ?」
思わず声が漏れてしまった。
なぜなら、寮の窓から見える景色が一面真っ白になっていたからだ。
有名な小説の冒頭で、「トンネルを抜けると雪国だった」という一文があったが、今の私に言い換えるなら「布団を抜けると雪景色だった」とでもいうのだろうか。
広田
≪そういえば昨日の天気予報で今日は雪だって言ってたっけ?≫
一面の雪景色に驚いていた私の頭は、外の冷気に当てられて冷静になれたのか、私は昨夜テレビで見た天気予報のことを思い出す。今日は関東一帯の上空に冷気がきているようで、その影響で雪が降るかもしれないと予報士が説明していた。だが、まさかあたり一面が雪景色になるほどの降雪になるとは思わなかった。
広田
「って、いつまでも呆けていられないじゃん。早く学校行く準備しよっと」
いくら珍しく雪が積もろうが、学校の授業がなくなるわけではない。私はいそいそと昨夜用意していた朝ごはんを食べ、歯を磨いて容姿を整え、学校の制服に袖を通す。さらにその上にいつも着ているパーカーを羽織る。暑かろうが寒かろうが関係なく羽織っているお気に入りのパーカーだが、今日は特に重宝することになるだろう。そして最後に、パーカーと同じく私がいつもつけている頭のリボンをセットする。高校生になってもこれだけは変えようとは思ったことがない、私の大切なものだ。
ピンポーン
着替えを終えて学校に持っていく教科書の準備をしていた時、チャイムと共にドンドンと入口のドアを叩く音が聞こえてきた。私は誰が部屋を訪ねてきたのかすぐに予測がついた。
広田
「全く、チャイムだけでいいってのに……」
私はため息混じりで部屋の入り口に向かい、ドアを開けた。
駿河
「ソラちゃん、おっはよー!」
広田
「朝からうっさい」
駿河
「へぶぅ!?」
私は訪問者、ルナの脳天にチョップを一発かましてやった。
駿河
「いきなりチョップなんてひどいよ、ソラちゃん」
広田
「朝っぱらから大声出すルナが悪い」
ルナはいつもテンションが高いが、今日はいつにも増してハイテンションになっていた。そして、その理由は容易に想像できた。
駿河
「それよりも、窓の外見た? 雪だよ、雪! すっごい積もってるよ!」
広田
「はいはい、知ってるってば」
するとルナは私の右手を掴み、グイグイ引っ張って外へ連れ出そうとする。
駿河
「ほらほら、早く行こうよ! はやくはやく!」
広田
「ちょ、私まだコート着てないし。っていうか、学校行く準備してる途中だって」
私は一度ルナをなだめ、急いで学校へ行く準備を整えた。
ルナに引っ張られるように外へ出てみると、寮の庭も学校への道も真っ白な雪に覆われていた。関東では滅多にお目にかかれない光景に思わず見入ってしまう。
そんな中、ルナは早速積もった雪を掴み、手の中で球体状にしていた。私はまたしても、この後ルナが何をしてくるのか予想し、すぐに対処できるよう身構えた。
駿河
「それー!」
そして案の定、ルナは作った雪玉を私目掛けて投げてきた。しかし、それを予測していた私はさっと身体を傾けて雪玉を避ける。目標を失った雪玉はそのまま何事もなく地面に落ちる、はずだった。
べちゃ
広田
「あ……」
しかし予想は外れた。丁度寮から人が四人出てきたところで、不幸にもそのうちの一人に流れ弾が直撃してしまった。しかもその人は、私たちがよく知っている人だった。
柳原
「…………」
駿河
「き、機関長!?」
すると、黙っていた我らが晴風の機関長はしゃがみこんで大量の雪を鷲掴みにした。そして十は下らない数の雪玉を手にして、ルナの方をキッっと睨んだ。
柳原
「よぉくもやってくれやがったなぁ、こんちきしょー!!」
駿河
「わあああああああ、ごめんなさああああああああい!!」
機関長はルナを追いかけながら、ものすごい勢いで雪玉を投げていく。ルナは謝りながら逃げるので精一杯といった様子だ。
私はその様子を機関長と一緒に寮から出てきたクロちゃん、レオ、サクラと呆れ混じりに傍観する。
広田
「まぁ、自業自得ってやつだよね?」
黒木
「マロンもマロンよ。何ムキになっているのよ、全く」
伊勢
「あはは」
若狭
「でもさ、こんだけ雪が積もっていたら雪合戦したくもなるよね」
レオの言うこともわからないでもない。ここにいる機関室組六人は揃って関東出身、雪を見ることさえまずなかった。気が付けば私たちは未だ追いかけっこをしているルナと機関長を横目に雪景色をじっくり眺めていた。
そしていつの間にか時間は過ぎていた。
広田
「あ、もうこんな時間。そろそろ学校行こうよ」
若狭
「あーそうだった。何かもったいない気もするけどねー」
伊勢
「そうだね。というか、機関長とルナはいつの間にか雪合戦してるんだけど」
黒木
「全くもう。二人とも! そろそろやめないと遅刻するわよー!」
クロちゃんがそういうと、ルナと機関長が慌てた様子でこちらに戻ってきた。
柳原
「わりぃわりぃ、つい夢中になっちまったよ」
駿河
「えへへ、ごめんねみんな」
二人と合流した私たちは、六人そろって学校へと向かう。今日は通学路が真っ白な雪に覆われているせいか、いつもとは違う何かを感じていた。
すると、なぜかレオが私の方をじーっと見ていた。どうしたのだろう?
若狭
「そういえばさ、ソラ? 今日誕生日だよね?」
広田
「え? うん、そうだけど」
黒木
「え!? そうだったの? なんで教えてくれなかったのよ」
広田
「いや、別に理由はないよ。単に教えるのを忘れてただけで」
そう、レオの言う通り今日は私の誕生日だ。正直、レオに言われるまで全く意識していなかったので、機関長やクロちゃんに教えることをすっかり忘れてしまっていた。
すると、機関長が不満げな顔をして私を見ていた。めでたいことが大好きな機関長のことだ。きっと誕生日を教えてくれなかったことに不満を抱いているのだろう。
駿河
「じゃあさ、今日学校終わったら誕生日パーティやらない?」
伊勢
「うん、いいんじゃないかな」
広田
「いや、この前サクラの誕生日やったばかりだし、その前はクロちゃんだったじゃん。三人続けてっていうのはちょっと悪い気がするよ」
柳原
「何いってんでぃ! 誕生日が何人続こうが祝ってやるのはあたりめぇだろう!」
機関長がそう言うと、他の皆もうなずいて私の方を見てきた。私は何だか急に恥ずかしくなってきてしまった。
広田
「あーもう! わかったから、ちゃんとお祝いされてやるから。ほら、早く学校行こう!」
若狭
「あはは、ソラったら照れてやんの」
からかっているレオを無視して私は先へ進もうとする。すると、機関長が私の手を取ってくる。
柳原
「まぁ待ちな、ソラちゃん。とりあえず、これだけは言わせてくれよ」
機関長はそう言うと、他の四人と視線を一度合わせた。私はこれからみんなから言われるであろう言葉を静かに待つ。そう、祝福の言葉を。
柳原
「ソラちゃん、お誕生日おめでとう!」
黒木
「ソラ、おめでとう」
若狭
「おめでとー、ソラ」
伊勢
「お誕生日、おめでとう」
駿河
「ソラちゃん、おめでとう!」
みんなからの祝いの言葉は私の心に大きく響いた。思えばこの六人で一緒にいるようになってもうすぐ丸一年、大変な事件に巻き込まれた時だっていつも一緒に頑張ってきた。もしかしたら、この六人で一緒に過ごしてきたことこそが私にとっての今年一番の事件だったのかもしれない。
広田
「みんな、ありがとう!」
私はみんなに出会えたこと、一緒に過ごしてきたこと、そしてみんなと一緒に誕生日を迎えられたことに感謝した。
すると、私の鼻の上に冷たい何かが触れた感覚が走った。ふと上を見上げてみると、一度止んでいた雪が再び空からヒラヒラと舞い降りてきているのが見えた。皆も上を見上げてその光景を見ている。
駿河
「うわー、すごいね。きっとお空もソラちゃんのことをお祝いしてくれているんだよ」
伊勢
「空がソラをお祝いって、なんだか変な感じね。なんかいい言葉ないかな?」
若狭
「それじゃ、ホワイトバースデー! これいい感じじゃない?」
黒木
「うん、それ悪くないかも」
柳原
「よっしゃ! 今日はホワイトバースデーだ。盛り上がっていくんでぃ!」
いつの間にかみんな揃って大はしゃぎになっていた。
しかし皆さん、揃いに揃って大事なことを忘れていることに気づいていないようだ。
広田
「はいはい。ホワイトバースデーで盛り上がってるところなんだけど、そろそろ学校行かなくていいの?」
黒木、若狭、伊勢、駿河
「……あ」
時計はすでに8時を指していた。あと15分で授業が始まってしまう。
柳原
「うぉぉ! はしゃぎすぎて忘れちまっていた。みんな、急ぐぞー!」
機関長の慌ただしい言葉で、みんな一斉に雪で真っ白な通学路を走り出した。
ホワイトバースデー
それは、私の中で今年一の大事件、そして今年で一番の喜びをくれた日となった。
これからもこの六人で歩んでいこう。この真っ白で美しい道を。