ハイスクール・フリート ―霧の行く先―   作:銀河野郎のBOB

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Happy Birthday! クロちゃん!

丁度1か月前のサトちゃん&ミーちゃんの誕生日から始まった
10月はいふりキャラ誕生日ラッシュ、Exステージという感じの真のラストでございます!

本日、11月1日はクロちゃんこと黒木洋美ちゃんの誕生日です!

実はこの小説を書き始めてから、自分の中でクロちゃんの株価急上昇してます。
アニメ本編だとツンツンしたイメージが強いですが、漫画版やいんたーばるっとか見てると結構可愛い一面があって、すごくいいなぁって思います。
そして、自分の作品では主人公ポジのムサシの一番の友達という立ち位置にしているので、書いているうちに益々好きになりました。

今回はそんなクロちゃんとムサシのお話です。

それでは、どうぞ!


特別篇⑫ 秋の夜長でハッピー!

 2016年11月1日午後9時

 

 -洋美side.-

 

 柳原

「クロちゃん、こっちは食器の片付け終わったよ」

 

 黒木

「ありがとう、マロン。こっちももうすぐ終わるわ」

 

 私はマロンとともに寮の自室の片づけをしていた。

 先ほどまでの喧騒はすでに無く、言葉通り後の祭りという雰囲気だ。

 

 黒木

「これをここに閉まってっと……、よし、終わり」

 

 柳原

「お、クロちゃんもおつかれぃ!」

 

 私の方も片づけを終えたタイミングで、マロンがお茶を持ってきてくれた。

 私は一言お礼を言って、お茶を受け取った。

 

 柳原

「クロちゃん今日は一日ずーっとクラスの皆に祝われっぱなしだったな。クラスメイト冥利に尽きるってもんでぃ!」

 

 黒木

「ちょっと過激すぎるけどね。特に艦長が」

 

 柳原

「艦長はそれがいいんじゃねぇか。クロちゃんだって満更じゃねぇだろ?」

 

 黒木

「まぁね」

 

 今日は私の誕生日だった。

 授業が終わるや否や、艦長の岬さんを筆頭に晴風クラスの皆に囲まれて、お祝いの言葉を沢山かけてもらった。

 クラスでは先日の土曜日に同じく誕生日を迎えた知床さんと一緒に盛大にお祝いしてもらっているが、それでもまだもの足りないと言わんばかりの勢いでみんな祝ってくれた。

 さらに先ほどまでは、この自室で機関室組だけで集まって小規模のパーティもしてもらった。

 こんなに祝ってもらったことは、たぶんこれまでになかったと思う。

 

 マロンから貰ったお茶をぐいっと飲んだ私は、ベッドの上に座ってカーテンの隙間から窓の外を眺めてみた。

 すでに夜の闇は深く、まさに「秋の夜長」という言葉に相応しい様子だ。

 窓の外には真っ黒の海と僅かな明かりが映り、遠くの方には艦の姿も見える。

 だが、そこに私が本当に見たかったものはいなかった。

 

 黒木

≪まぁ、当然よね……≫

 

 いるわけがないとわかっていても、ついつい期待してしまう。

 「あの子」とはもう1か月以上会えていない。

 連絡はいつもメール。 今日だって朝イチに私に誕生日祝いのメールをしてくれていた。

 それでも、私はやっぱり直接会ってその言葉が聞きたいと願ってしまう。

 

 黒木

「はぁ……」

 

 思わずため息をついてしまった。

 せっかくみんなにお祝いにしてもらったのに、「あの子」がいないってだけでため息をつくなんて、私は本当に失礼な人だと思ってしまう。

 

 すると、マロンが私の座る椅子の反対側に座った。

 

 柳原

「どうしたんでぃ? ため息なんてついちまってよ」

 

 どうやらマロンに先ほどのため息を聞かれてしまったようだ。

 何を言われるのかと身構えてしまう。

 

 柳原

「まぁ、なんとなく予想はつくよ。

 

 ムサシちゃん、だよな?」

 

 ずばりと私の思っていたあの子、ムサシを言い当ててくるマロン。

 

 黒木

「……やっぱり、わかっちゃう?」

 

 柳原

「当然でぃ。あたしだってクロちゃんに負けないくらいムサシちゃんとは親友だ。そんくらいはお見通しよ」

 

 椅子にふんぞり返って胸を張っているマロンを見て、先ほどまでの暗い気持ちが少し和らいだように感じた。

 本当に、マロンのお節介にはいつも助けられていると改めて思った。

 

 柳原

「ムサシちゃん、結局来れなかったなぁ」

 

 黒木

「ムサシもヤマトさんも、今は自分たちの未来のために頑張ってるんだもん。仕方ないよ」

 

 すると、突然マロンが立ち上がり私の目の前に顔を近づけてきた。

 

 柳原

「それでも、やっぱり会いたいって顔してんぞ、クロちゃん?」

 

 両の手で私の頬を挟むように包んでくる。

 ダメだ。これ以上優しくされると本音が零れてしまいそうになる。

 私はギュッと口元を締め、言葉が出ないような仕草をする。

 

 柳原

「クロちゃんは賢いから、本音がでねぇように無理してるんだろうよ。でもよ、時には本音を出してもいいんじゃねぇかな。少なくとも、あたしには出してほしいな」

 

 

「だって、あたしはクロちゃんの親友だからな」

 

 

 マロンの言葉に私はもう耐えられなかった。

 押し留めていた本音が堰を切ったようにあふれ出てくる。

 

 黒木

「私、ムサシに会いたいよ。会って、色々話したい。あの子の顔が見たいよ。マロン」

 

 柳原

「クロちゃん……」

 

 黒木

「あの子はあのネズミ騒動の後もずっと戦っている。ヤマトさんとこの世界で生きていくために、頑張っている。でも、私はムサシを助けてあげられない。あの子を守ってあげるって言ってあげたのに、今までムサシのためにしてあげられたことなんて全然なかった。だからせめて、会って笑顔にしてあげたかった」

 

 私は思ってることを感情のままマロンにぶつけた。

 そして、マロンはそれをしっかりと受け止めてくれた。

 

 柳原

「それでいいだよ、クロちゃん。何も隠す必要なんてねぇ。あたしがちゃんと受け止めてやっからよ」

 

 黒木

「マロン、うん、うん」

 

 私はマロンにすがるように泣いた。

 それだけムサシに会いたいという気持ちは強かったということだろう。

 私はしばらくそのまま泣き続けた。

 

 

 

 しばらくたってようやく落ち着いてきた時、私の携帯からメール着信を知らせる呼び出し音が鳴り響いた。

 

 黒木

「あ、ごめんねマロン。ちょっと見てくる」

 

 私は勉強机の上にあった携帯を手に取り、メールを確認する。

 

 黒木

「えーと、「クロへ 今すぐ窓の外を見てほしい」、って何これ? しかも送信者不明って」

 

 柳原

「なんでぃそれ? 変な奴のいたずらか?」

 

 黒木

「でもこれ、クロって書いてあるってことは、私のこと知ってるよね」

 

 私は仲のいい人からはクロちゃんと呼ばれている。

 実際に、ここにいるマロンはそう呼んでくれている。

 

 その時、私はある一人の顔を思い浮かべた。

 でも、そんなことはあり得ないはずだ。

 だってあの子は、くるはずがない。

 

 その時、窓の外の海の方から、ごぅごぅと音がし始めた。

 私は急ぎカーテンを開いて、外の様子を確かめた。

 

 その目の前にはそのあり得ない光景が広がっていた。

 

 黒木

「うそっ!? これって、まさか!」

 

 柳原

「クロちゃん!」

 

 隣でその光景を見ているマロンは笑顔でこちらに話しかけてくる。

 

 目の前に見えたのは、大きな大きな艦が海中から浮上してくる姿だった。

 その艦は、夜の闇に紛れてしまいそうなほど黒かった。

 そして、まるで芸術のように美しいオレンジ色に輝く模様、バイナルパターンが煌々と光り輝いている。

 甲板の上には巨大な主砲、その砲身は金色の光を放っている。

 

 そう、目の前にいる艦は紛れもなく、霧の超戦艦ムサシだ。

 

 すると、浮上を終えた超戦艦ムサシの艦橋から一本の光の階段が私の部屋のベランダまで伸びて、その階段の上を一人の小さな少女が歩いてくる姿が見えた。

 私とマロンは窓を開け、ベランダに出た。

 どんどん少女との距離は縮まる。

 そして、少女は私の目の前に立った。

 少女は私に語りかけてくる。

 

 ムサシ

「お待たせ、クロ!」

 

 黒木

「ムサシ……」

 

 私は突然の出来事に言葉を失っていた。

 ずっと会いたくて、会いたくて、会いたくて仕方なかったムサシが今、目の前にいる。

 話したいことがいっぱいあったはずなのに、言葉が出なくなっていた。

 

 柳原

「ムサシちゃん! ひさしぶりだなぁ!」

 

 ムサシ

「マロン! あなたも一緒だったね。ひさしぶり!」

 

 そんな私を横目に、ムサシとマロンが再開の喜びを分かち合っていた。

 それでも私は動けずにいた。

 

 すると、ムサシが私の元に再び近づいてきた。

 

 ムサシ

「クロ、ごめんなさい。本当はもっと早く到着する予定だったの。でも、向こうでの会議が長引いちゃって、結局こんな時間になっちゃった。でも、ギリギリ間に合ってよかった」

 

 ムサシは私の真正面に立ち、下から見上げるように私に向かい合った。

 そして、私がずっと聞きたかったあの言葉を贈る。

 

 

 ムサシ

「クロ、お誕生日おめでとう!」

 

 

 黒木

「ムサシ、ムサシ!」

 

 私はムサシに抱き着いた。

 やっと会えたことを実感し、嬉しさのあまりに起こした行動だった。

 

 ムサシ

「ふふっ、クロったら泣いてるの?」

 

 黒木

「そ、そうよ! だって私、ずっとムサシと会いたかったんだから!」

 

 ムサシ

「私だって、ずっとみんなと、クロと会いたかったよ」

 

 ムサシも私に抱き着いてきた。

 その目にはうっすらと涙が浮かんでいた。

 私とムサシは再開の喜びをお互いに噛み締めて、抱き合った。

 

 

 柳原

「おーい、お二人さんよぉ。久しぶりに再開して嬉しいのはわかるが、いつまでもそんな寒いとこで抱き合わなくたっていいんじゃねぇか?」

 

 黒木

「え? っあ!」

 

 ムサシ

「っ!?」

 

 マロンの言葉にハッとした私とムサシは、抱き合うのをやめて少し距離を取った。

 お互いに恥ずかしさで顔が赤くなっている。

 

 柳原

「まぁ、積もる話もあるだろうから、今晩は親友三人で存分に語り合おうじゃねぇか!」

 

 ムサシ

「ふふっ、そうね。クロ、今日はいっぱいお話ししましょう」

 

 黒木

「もう、二人とも。よし、こうなったら徹夜よ! それでも足りないくらいなんだから!」

 

 こうして私たちは部屋に戻っていった。

 

 「秋の夜長」という言葉があるが、今日はまさしくそんな日だ。

 今夜はきっと長い長い夜になるだろう。

 許されるなら、この夜がいつまでも続きますように


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