ハイスクール・フリート ―霧の行く先― 作:銀河野郎のBOB
約10日ぶりでございます。
10月のはいふりキャラ誕生日ラッシュもいよいよ後半戦突入。
そのトップバッターを務めるのは、本日10月23日が誕生日!
晴風のお財布の守護神、主計長の等松美海ちゃんです!
そしてミミちゃんといえば、マッチ大好きでお馴染みですよね。
今回のお話は、そんなミミちゃんとマッチのお話です。
それでは、どうぞ!
2016年10月23日午前9時30分
-美海side.-
等松
≪や、やばい。今になってめちゃ緊張してきた≫
私、等松美海は横須賀女子海洋学校の学生寮の門の前である人と待ち合わせをしている。
待ち合わせ時間は10時なのだが、絶対遅れてはいけないと思って9時から門の前にいたので、すでに30分ここで待っている。
すると、学生寮の扉が開き一人の女学生が現れた。
彼女の格好は、白のシャツに黒のパンツ、頭には男物の帽子をかぶっており、遠目から見たら男子のような容姿だ。
その人は門を出ると、私に声をかけてきた。
野間
「等松さん、おはよう」
等松
「お、おはよう、マッチ」
その人こそが私の待ち人であり、大好きな人であるマッチこと野間マチコさん。
そして今日、私はマッチとデートする約束をしたのだ。
野間
「待ち合わせは10時だったと記憶してたけど、もしかして間違ってた?」
等松
「いやいやいや! 私が早く来ちゃっただけだよ!」
野間
「そっか」
マッチは普段通りのそっけない返事を返す。
私と違って、まるで緊張した様子を全く見せていない。
これでは私が一人で暴走しているだけではないかと思い直し、大きく深呼吸をしてみた。
等松
「んー、よしっ! それじゃ行こうか、マッチ」
野間
「うん。今日はいっぱいエスコートするから、任せて」
こうして、私とマッチのデートが始まった。
そもそもどうして私とマッチがデートをすることになったのか?
事の始まりは3日前の出来事だった。
授業も終わり、放課後の教室で私はクラスの友人であるモモちゃんと話をしていた。
青木
「ミミちゃん、そういえばもうすぐ誕生日っすよね?」
等松
「うん、10月23日。今度の日曜日だよ」
丁度私は3日後に16歳の誕生日を迎える直前だった。
すでにクラスの皆からもちょくちょく話題にされており、晴風艦長の岬さんに至っては私へのプレゼントをどうするかをすでに考え始めていた。
青木
「ちなみに、ミミちゃんはどんな誕生日プレゼントが欲しいっすか?」
等松
「うーん、そうだねぇ」
その時、私の脳裏に一つの妙案が浮かんだ。
等松
「マッチとお誕生日デートとかしてみたいなぁ」
青木
「おおっ、ミミちゃん抜け駆けっすか?」
等松
「だってぇ、マッチと知り合って初めて迎える誕生日だよ? 一緒に過ごしたいと思うのは当然じゃん?」
青木
「そういうことをさらっと言えちゃうのが、ミミちゃんのすごいとこっす」
この時は自分でも大胆なことを言っている自覚はあったが、今では軽率であったと思う。
何せ話している場所がクラスの教室なのだ。
そこに当の本人がいることがあってもおかしくなかった。
野間
「等松さん、私と誕生日にデートしたいの?」
等松
「……え?」
私の真後ろに、話題のマッチがいた。
この時ほど、直前の自分の発言を悔いたことはなかった。
もうマッチにドン引きされたかもしれない、そう思っていたが、マッチから返ってきた言葉は意外なものだった。
野間
「うん、いいよ。日曜日だよね。予定あけておくよ」
等松
「……え??」
私はマッチの言葉に耳を疑った。
マッチの方から私にデートしようと言ってきたのだ。
これまで私の方からマッチへ一方的にアタックしまくってきたが、マッチから私へのお誘いというのは一度もなかった。
野間
「それじゃ、等松さん。日曜日の予定決まったらまた連絡するね」
等松
「う、うん。ばいばいマッチ」
青木
「……なんか、突然の展開にモモはついていけないっす……」
こんなことがあって決まった今回のデート。
学校を出た私たちは歩いて10分ほどの場所にある横須賀市街に到着していた。
最初は混乱したし、待ち合わせの時は緊張しまくっていたが、いざ始まってしまうと普段通りのノリで会話できるようになっていた。
等松
「ねぇねぇマッチ? どこ行こうか? 私はマッチが行きたいところならどこでも行くよ」
いつものように積極的にマッチにアタックをしていく。
でもマッチはスマホで何かを確認しているらしく、私のアタックはいつも通り流された。
野間
「あ、ここだ。ごめん等松さん、待たせちゃったね」
等松
「マッチ、何調べてたの?」
するとマッチは、私たちが歩いている通りの反対側を指差した。
その先を見ると、古そうな看板を掲げたアクセサリーショップがあった。
等松
「アクセショップ?」
野間
「勝田さんに教えてもらったところなんけど、行ってみる?」
等松
「もちろん! 行こうよ、マッチ!」
私はマッチの手を引っ張って、アクセサリーショップの中へと入った。
店内は外の看板同様、少し古臭い感じの雰囲気があり、棚や机には所狭しと商品のアクセサリーが並んでいる。
私は店内のあちこちに視線を移しながら、アクセサリーを見定めていく。
等松
「なんかどれもいい感じで迷っちゃうなぁ。マッチは何か見つけた?」
野間
「私普段アクセサリーとか全然しないから、等松さんが好きなのを選んでいいよ」
等松
「えー、マッチもったいないよ! うーんと……」
私はさらに店内を回る。
すると、あるイヤリングが私の目に留まった。
そのイヤリングは所謂カップル用ので、黄色と青色の小さなガラス玉をあしらったものだった。
その美しさに目を奪われた私はイヤリングに手を伸ばそうとしたが、すぐに手を引っ込めた。
いくら私がマッチを大好きだからと言って、マッチの気持ちを無視してペアルックのものを買うのは気が引けてしまった。
私はイヤリングを諦めて他を探そうとした。
その時だった。
野間
「あ、これ……」
マッチがそのイヤリングに気づき、すぐに手に取っていた。
メガネを外して目を細めながら、真剣にイヤリングを見つめているマッチ。
普段マッチと仲良くしているサトちゃんとかは、マッチがメガネを外すとちょっと怖いって言うけど、私はそうは思わなかった。
そういう面も含めて、私はマッチが大好きなんだろう。
野間
「うん、これかな? 等松さん、これどうかな?」
等松
「え? でもそれカップル用だよ? 私、彼氏とかいないし――」
野間
「ううん、私と等松さんとで分けてつけたいって思ったんだけど」
私はマッチから出た意外な言葉に一瞬戸惑ってしまった。
マッチが、私とペアのイヤリングをつけたい、そう言ってくれた。
嬉しさと驚きが同時に溢れてきて、私はただ思うままこう口にした。
等松
「じゃあ、それでいい。ううん、それがいい、かな」
野間
「それじゃ、これにしようか」
そういうとマッチはイヤリングを手にしてレジの方へ向かっていった。
私はただ、その様子を眺めることしかできなかった。
その後、なんとか立ち直った私はマッチのリードでデートを楽しんだ。
良い感じのお店でお昼したり、ゲーセンでガンシューティングしたり(ほとんどマッチが全部倒していた)、カフェで色々お話したり。
プランはほとんどマッチが自分で考えいたようで、私はマッチとの楽しい時を存分に味わうことができた。
そして、気づいたら太陽がもうすぐ沈む時間になっていた。
私とマッチは学生寮への帰路についていた。
もうすぐこの時間も終わってしまうと思うと寂しくなるが、これ以上求めるのは欲張りだと思うくらい私は充実していた。
だが同時に、私にはどうしてもマッチに聞いておきたいことがあった。
私はさりげなく、マッチに聞いてみた。
等松
「ねぇ、マッチ? どうして今日は私とデートしてくれたの?」
教室で軽い気持ちで出してしまった本音を、マッチは受け止めてくれた。
普段のマッチならこんなことをするとは思えなかったので、私は気になっていた。
そして、マッチは静かに話し始めた。
野間
「私ってあんまり人と話すことが苦手で、出会ってすぐの頃は興味本位で近づいてきてくれる人も多いんだけど、ある程度経ったらみんな離れていくんだ。横須賀女子に入ってからもそう。他のクラスの子たちが寄ってきていたのは、あの事件があってから1か月くらいだけ」
あの事件、つまり私たちが乗る航洋艦晴風が初めての航海演習で巻き込まれたRATt騒動の後、学校ではマッチの活躍ぶりが話題になり他のクラスからマッチに言い寄る人がすごくいた時期があった。
だが、それも一時的なもので1か月もしたらみんな興味をなくしていった。
マッチは昔から同じような経験を何度もしてきたようだ。
野間
「でも、晴風クラスの皆は違った。私が全然しゃべらなくても、積極的に声をかけてくれた。みんなが私なんかを気にかけてくれたんだ。そして、一番気にかけてくれたのが等松さん、君だよ。それが私には嬉しかったんだ」
マッチが私の顔をしっかり見て、そう言った。
確かに私は事件の後もずっとマッチに声をかけ続けていた。
私が一方的に声をかけているだけで、もしかしたら迷惑してるんじゃないかと思っていたこともあったが、まさか嬉しいと言ってくれるとは思ってもいなかった。
野間
「だから、その感謝を込めて今日のデートをOKしたんだ。等松さん、いつもありがとう」
等松
「そ、そんな。私はただ、マッチとお話しできればって思っただけで」
野間
「それでも、だよ」
私はすごく嬉しかった。
マッチから感謝されるなんて思わなかった。
今日のデートで満たされていた充実感がさらに大きくなっていく。
野間
「あ、もうすぐ寮だね」
気が付くと、私たちは最初に待ち合わせをした学生寮の入り口に着いていた。
するとマッチは、手にしていた袋からあるものを取り出した。
あのペアのイヤリングだった。
野間
「等松さん、耳貸して?」
私は言われるまま、マッチに耳を差し出した。
マッチは不慣れな手つきで苦戦しつつも、黄色のガラス玉が装飾されたイヤリングを私につけてくれた。
私から離れると、そのまま自分の耳にもう一つの青色のガラス玉のイヤリングをつけた。
私とマッチの耳のイヤリングは、学生寮から漏れる明かりで綺麗に輝いていた。
野間
「等松さん、お誕生日おめでとう。今日はとても楽しかったよ。それじゃ、また明日」
そういうと、マッチは学生寮の方へと歩いていく。
私はマッチに向かって大きな声で言った。
等松
「私の方こそ、今日はありがとう! こんなに素敵なイヤリングまでつけてもらって、デートもしてもらって、すごく嬉しかった! また、明日学校で!」
私の言葉に、マッチは小さく手を振りながら寮の中へと消えていった。
私は嬉しくてしばらくその場で立ち尽くしていた。
そしてマッチがつけてくれたイヤリングに手を添える。
これはマッチから初めて貰ったプレゼント。
そして、大切な絆の証。
等松
「……よしっ! 帰ろうっと」
一言だけつぶやいて、私は寮へと歩みを進めた。
翌日からしばらく、私とマッチはペアのイヤリングをして学校に登校した。
二人ともクラスの皆から質問攻めにあったが、マッチはいつもの調子で話を流していた。
そして、私もマッチから買ってもらったことは隠して、自分がマッチと合わせたのだとウソの釈明をした。
入学試験の時に運命的な出会いをして、入学して同じクラスになれて、今でも想い続けている大好きなマッチ。
これからも、私はマッチにアタックしていく。
もっともっと、マッチと仲良くなるために。