ハイスクール・フリート ―霧の行く先―   作:銀河野郎のBOB

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Happy Birthday!! みなみちゃん!!

本日、9月4日は晴風の誇る天才ドクター鏑木美波ちゃんの誕生日です!
マロンちゃん以来、約一か月ぶりのお誕生日記念です。

今回は同時アップの本編十三話と若干連動した内容になっています。
よろしければ、本編の方も読んでいただけると嬉しいです

それでは、どうぞ!


特別編⑥ お姉ちゃんでハッピー!

 2016年9月4日午後6時

 

 -美波side.-

 

 日曜日の夕暮れ時の大学の研究室で、私は一人黙々と研究に没頭していた。

 一区切りついて窓の外を見ると、すでに空は赤く染まっていた。

 

 鏑木

≪もうこんな時間か。研究を始めると時間を忘れてしまうのは、悪い癖だな≫

 

 私は研究に使っていたパソコン端末の電源を落とし、帰宅の準備を始めた。

 その作業の途中、もう一度夕焼けに染まった窓の景色に視線を移してみた。

 窓からは海が見え、赤く染まった空の色が反射している。

 

 鏑木

≪そういえば、晴風に乗っていた時もこんな海を見ていたな≫

 

 私は5か月前の晴風での海洋実習の事を思い出していた。

 

 12歳という異例の若さで横須賀海洋医大に飛び級してしまったおかげで海洋実習を済ませていなかった私は、今年の横須賀女子海洋学校の新入生に混じって海洋実習を履修することになった。

 そして、私が船医として配属されたのが航洋艦「晴風」だった。

 正直、配属した当初はさほどメンバーに興味もなかったし、さっさと二週間の実習を終えてまた研究に戻りたいと思っていた。

 しかし、晴風を含む横須賀女子の新入生たちは例のネズミもどき、RATtの騒動に巻き込まれ、波乱の高校生活の幕開けとなった。

 そんな騒動の中で、晴風に乗っていた私は思いがけない出会いをすることになった。

 

 鏑木

≪岬艦長、宗谷副長をはじめ、晴風クラスのみんなは本当に面白く楽しい人たちばかりだったな≫

 

 私はあの艦でこれまでの12年間で体験したことがないほど楽しい経験をしたと思っている。

 今でも世間を騒がせている騒動に巻き込まれたのにも関わらず、私はあの1か月間は私にとってとても新鮮な時間だった。

 

 鏑木

≪その中心にいたのは、やはりあの姉妹だろうな≫

 

 私が思い浮かべたのは、実習中に偶然出会った異世界からの訪問者、霧の艦隊のヤマトさんとムサシさんだ。

 彼女たちはこの世界には存在しない無機物生命体という未知の存在であった。

 さらに人間の技術をはるかに上回る戦力を持った強力な侵略者でもあった。

 私はそんな未知の高知能生命体である彼女たちにすぐに興味を持った。

 だが、時間が経つにつれて私の興味は彼女たちの別の所に移っていくようになった。

 

 鏑木

≪彼女たちは人間じゃない。だが、一緒に過ごしているうちに私は彼女たちをいつの間にか人間の姉妹として見ていたのかもしれないな≫

 

 私はいつしかそんな二人と一緒に過ごす時間を楽しむようになっていった。

 

 鏑木

≪特にヤマトさん、あの人と一緒に過ごしたあの日々は本当によかった≫

 

 私は姉のヤマトさんと一緒に、RATtウイルスの抗体を精製するために約1週間ほぼずっと晴風の医務室で過ごしていた。

 彼女は、晴風メンバーの中で一人精神年齢が高かったこともあり、周りに比べて年齢高めに見られていた私のことを優しく見守ってくれていた。

 気の配り方もよくできていて、私は彼女の助けもあってスムーズに抗体精製を行うことができた。

 

 鏑木

≪そして、いつからだろうか。私はヤマトさんのことを姉のような存在だと思うようになっていたんだ≫

 

 私はヤマトさんのことをすごく慕うようになっていた。

 今まで他人に興味を持つこともなかった私が、人間でもない未知の生命体であるヤマトさんのことを姉と思うようになっていた。

 だが、私にはそれがごく自然のことのように思えるのだ。

 人間じゃないとかは関係なく、一人の存在として、私はヤマトさんのことが大好きなのだ。

 

 そして予定よりも長い1か月の海洋実習を終えた私は、晴風を降りて元の海洋医大の研究室へと戻っていった。

 クラスのみんな、特に岬艦長に泣きつかれたのは今では良い思い出だ。

 今でもクラスのみんなとは携帯端末でよく連絡を取っているし、時々会いに行くこともある。

 そして、同時に私はヤマトさんとムサシさんとも別れることになった。

 ヤマトさんとムサシさんは、その後宗谷校長たちとともに霧の艦隊の代表としてこの世界で生きていくために、日本政府や海上安全委員会などの主要機関との交渉の場へ臨むこととなった。

 その様子は連日テレビなどで報道されている。

 つい先日、霧の艦隊のヤマトさんと日本国の楓首相との間で友好条約が結ばれたことが記憶に新しい。

 しかし、私は彼女がテレビで報道されるたびに、彼女との距離が離れていくようで寂しい気持ちになっていた。

 

 鏑木

≪できることなら、また彼女と一緒に研究がしたかったな。そして、姉さんと呼んでみたかったな≫

 

 もうそれは叶わない夢なのだろう。

 私は嫌な気持ちになるのを払うため、手早く片づけを済ませ研究室を出ようとした。

 

 

 すると、突然研究室の扉が開く音がした。

 今日は日曜日で誰も来ないはずなのに、一体誰だろうか。

 扉の方に視線を向けるとそこには思いがけない人が立っていた。

 

 ヤマト

「あ、いたいた。みなみちゃん、ひさしぶりね!」

 

 鏑木

「ヤマトさん!?」

 

 つい先ほどまで会いたいと思っていたヤマトさんが目の前に現れて、私は柄にもなく動揺してしまった。

 ヤマトさんは私の傍に近寄ってきて、私をギュッと抱きしめた。

 

 ヤマト

「やっと会えたね、みなみちゃん。本当にひさしぶり。私、みなみちゃんにずっと会いたかったんだから」

 

 鏑木

「え?」

 

 私はヤマトさんの意外な言葉に驚いてしまった。

 彼女は今や日本、ひいては世界でも注目される重要人物だ。

 そんな彼女は私のことなど、もうとっくに忘れているのだと思っていた。

 

 ヤマト

「あら、意外って顔しているわね。私はみなみちゃんのこと一日も忘れたことないんだからね」

 

 鏑木

「ヤマトさん、ありがとう。とても嬉しいよ」

 

 私は感極まってしまった。

 ヤマトさんが私のことを忘れずにいてくれたことが本当に嬉しかった。

 

 ヤマト

「それとみなみちゃん、お誕生日おめでとう! 今日から13歳ね」

 

 鏑木

「え? あ、あぁそうか、今日は私の誕生日、だったか」

 

 ヤマト

「ふふ、もしかして忘れてたのかしら?」

 

 ヤマトさんに言われて私は今日が自分の誕生日であったことをようやく思い出した。

 最近研究に没頭しすぎて、自分の誕生日のことなどすっかり忘れていた。

 

 ヤマト

「ということは、最近の携帯の連絡も全然見ていないわね。せっかくお誕生日会をやるって言ってるのに、みなみちゃんから返信がこないから心配していたのよ。研究に没頭するのはいいけど、ほどほどにね」

 

 私は実に久しぶりに自分の携帯端末の画面を開いた。

 SNSアプリを開くと、そこには晴風クラスやヤマトさん、ムサシさんなどからの大量の通知履歴が表示されていた。

 特に岬艦長なんて、端末を見ていないこの3日間で500回以上私に連絡していた。

 

 鏑木

「そうか。すまない、心配をかけた」

 

 ヤマト

「ほんとよ。だから私が直接迎えに来たんだからね」

 

 頬を膨らませながらヤマトさんが少し怒っている。

 でもその表情はかわいらしく、私は思わず笑ってしまった。

 

 ヤマト

「さて、ここでみなみちゃんに朗報があります!」

 

 鏑木

「ほう、それは?」

 

 ヤマトさんが私の前に手を差し伸べた。

 

 ヤマト

「鏑木美波さん、あなたを国主催のナノマテリアル研究チームのメンバーに引き抜きたいの。政府との交渉でも推薦して、楓首相からも許可をもらったわ。どうかな、みなみちゃん?」

 

 なんと、私を国家プロジェクトのメンバーとして推薦してくれたというのだ。

 私の返事はすぐに決まった。

 私はヤマトさんの手を取った。

 

 鏑木

「ああ、もちろんだ! ありがとう、最高の誕生日プレゼントだ」

 

 ヤマト

「ふふ、良かった」

 

 ヤマトさんが万弁の笑みを浮かべている。

 この表情が私を幸せにしてくれる。

 

 ヤマト

「さて、それじゃ行きましょうか。これから晴風クラスのみんなと一緒にみなみちゃんのお誕生日会よ。もちろん、ムサシとあの子も一緒よ」

 

 鏑木

「ああ、行こうか」

 

 私はヤマトさんと手をつないだまま、研究室を後にした。

 私はその時、ヤマトさんには聞こえない小さな声でこう言った。

 

 鏑木

「ありがとう、姉さん。大好きだ」

 

 

 私はこんなに優しい姉と出会えて本当によかった。

 きっとこれこそが、私にとって本当の最高の誕生日プレゼントなのかもしれないな。


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