ハイスクール・フリート ―霧の行く先―   作:銀河野郎のBOB

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ドーモ!
いつの間にか7月に突入していました。

私事ですが、7/3で本作品の投稿を始めて丸一年になります。
一年間でお気に入り登録250件、UA50000超えとなりました。
こうして一年間投稿を続けられたのも、読者の皆様の応援あってこそです。
本当にありがとうございます。
結局一年で本編終わらせられませんでしたが、今後も本編完結に向けて頑張りたいと思います。
今後も応援よろしくお願いいたします。

では本編
前回からシュペー戦開始、しかし作戦は失敗に終わった。
そこに現れた謎の黒い影、その正体は?
そしてムサシの第二プランが実行される。

それでは、どうぞ!


第二十四話 突入でピンチ!

 2016年4月27日午後1時25分

 

 -ミーナside.-

 

 シュペー奪還作戦の第一プランが失敗に終わり、一時は打つ手なしかと思われた晴風。そんな絶体絶命の私たちの前に、突如として海中から現れた黒い影。それは私らにとって希望となる存在だった。

 その黒い影は今、晴風の隣をピッタリと並走している。マシロとメイ、そして私の三人はその姿を晴風から眺めていた。

 

 西崎

「これって潜水艦? でもこの前の伊201に比べたらかなり小さいね」

 

 宗谷

「そうだな。こんなものは私も初めて見たぞ」

 

 二人は初めて見るに驚きと困惑の表情をあらわにしていた。全長12m、幅1.7mほどで円筒状の船体、中央部に艦橋のような突起状の構造物、その頭頂部には潜望鏡の姿も見られる。メイの言う通り、小さいながらも潜水艦と言える構造をしていた。

 二人は見たことはないようだが、私にはその姿に見覚えがあった。

 

 ミーナ

「これは、“ゼーフント”か? 随分珍しいものが出てきたもんじゃな」

 

 ムサシ

[さすがドイツ人のミーナね。その通りよ]

 

 私が黒い影の正体を言い当てると、ムサシは感心したように返事をしてくれた。

 

 今から70年以上前の独裁政権時代、世界大戦に敗れた後もフランスやイギリスなどの欧州の強国と関係悪化の一途を辿っていたドイツは、彼らに対抗するため大規模な戦力強化を図っていた。シュペーやビスマルクといった現在学園艦となっている艦艇はまさにこの時代に造られたのだが、その中でドイツの一大戦力となったのが“潜水艦”だった。数で劣るドイツ軍は海洋封鎖による欧州各国の補給線断絶を目論み、それを実現するべく潜水艦の技術発展に力を注ぐことになった。結局二度目の世界大戦は回避され、独裁政権も崩壊したため海洋封鎖計画は実行されることはなかった。しかし苦労の末に完成した潜水艦たちは“Uボート”の名で世界に衝撃を与え、現在に至るまでドイツが潜水艦技術において世界をリードしていくことになった。

 ムサシの用意したUボートⅩⅩⅤⅡ型“ゼーフント”もかつてのドイツが完成させた潜水艦の一つだ。

 

 ミーナ

「潜水艦ではなく、正確には『特殊潜航艇』というのじゃ。しかし霧にはこういった類の艦まで存在するとは驚いたぞ」

 

 ムサシ

[霧における特殊艦は艦隊をサポートする存在。彼女たちには霧の核であるユニオンコアはないから意思を持って行動することはできないけど、戦術という面でとても大きな力になるわ。この“ゼーフント”は霧の欧州艦隊に所属している『とある潜水艦』が人間の戦術を参考に造ったものなの。そのデータが私の中にも残っていたから、今回使わせてもらったというわけよ]

 

 ミーナ

「なるほどの。霧もドイツの群狼戦術には興味津々じゃったというわけか」

 

 西崎

「もー! 二人で勝手に盛り上がらないでよ!」

 

 私はムサシの話に大いに感心し、自然と会話が盛り上がっていた。そして二人だけの世界に入っていることに、メイが面白くないと思ったのは仕方のないことだった。

 

 宗谷

「この潜航艇については理解できました。つまりこの艦に突入メンバーを搭乗させて、シュペーに向かうというわけですね」

 

 ムサシ

[そういうことよ。それが私の考えた作戦よ]

 

 ミーナ

「となると、突入隊の選定を急がねばならんな。マシロ、すぐにできるか?」

 

 宗谷

「ああ。まずはメンバー募集からだな。水雷長、晴風の皆にこのことを伝えてくれ」

 

 西崎

「オーケー! 任せといて」

 

 メイは急ぎ足で艦橋に戻っていく。そしてマシロはすぐに端末を取り出し、私とともに乗員リストを開き、突入メンバーを選ぶ準備を始めた。

 

 

 

 それから10分後、ゼーフント二隻が接舷されている左舷甲板上には突入隊に選出された8名が集まっていた。そしてマシロは突入隊全員に向き合っていた。

 

 宗谷

「これからみんなにはムサシさんが用意した潜航艇“ゼーフント”に乗ってもらい、シュペーへ乗り込んでもらう。あまり時間がないから、詳しい説明は出発後にさせてもらう」

 

 マシロの言葉に突入隊のメンバーはしっかり耳を傾けていた。

 

 宗谷

「それではメンバーを確認する。まず一号艇、隊長のミーナさん、松永さん、姫路さん、そして万里小路さんだ。松永さんには潜航艇の舵手を担当してもらう」

 

 一号艇で私と共に乗り込むのは、砲雷科のリツコ、カヨコ、カエデの三人だ。カヨコの手には海水の入った水鉄砲が、カエデは薙刀と木製の武器が握られていた。

 

 松永

「かよちゃん、頑張ろうねー」

 

 姫路

「そうだねりっちゃん。まりこーもよろしくね~」

 

 万里小路

「はい。少しでもミーナさんのお力になれるよう、この万里小路楓、精一杯頑張らせていただきます」

 

 見るからにゆるい雰囲気を醸し出す三人に私は少し不安を覚えた。しかし戦時にはやる時はやることを私は知っていたので、私は彼女たちに信頼を寄せている。

 そして一号艇にはもう一人?乗り込むメンバーがいた。

 

 五十六

「ぬっ」

 

 姫路

「お~、五十六も一緒だったね~。ゴメンゴメ~ン」

 

 リツコに抱えられていた五十六が自分の存在を主張するように鳴いていた。五十六はミナミの研究でネズミもどきに耐性があることがわかっていたため、今回ネズミもどき捕獲要員として連れていくことなった。

 

 宗谷

「続いて二号艇、等松さん、勝田さん、野間さん、みなみさんだ。こちらの舵手は勝田さん、みなみさんには」

 

 続いて二号艇に乗るメンバーが発表された。その二号艇メンバーの方に目をやると、何やら異様な雰囲気になっていた。

 

 等松

「キャー! マッチと一緒! 一緒よおおおおおおお!!」

 

 野間

「……うん。これでいい」

 

 勝田

「よっしゃ! スキッパーで培ったうちの腕を見せるときぞな!」

 

 鏑木

「……まったく騒がしいな」

 

 ゆるい雰囲気の一号艇に対してかなり騒がしい(二名のみ)二号艇。正直、こちらのメンバーは大丈夫なのだろうかと不安は拭えなかった。

 しかし私にはそれよりも大きな懸念があった。心配になった私はその当事者に尋ねることにした。

 

 ミーナ

「ところでミナミ、アケノのことは大丈夫なのか? お主が乗り込まんと抗体を投与できんのはわかるが」

 

 私が心配していたのは戦闘中に急に顔色が悪くなったアケノのことだ。非常事態とはいえ、この艦唯一の船医がこの場を離れることになるからだ。

 

 鏑木

「それなら問題ない。艦長は今、保健室のベッドに寝かせている。体調も安定している。私が晴風を離れている間はヤマトさんと杵崎さん姉妹に世話をお願いしておいた。安心してくれ」

 

 ミーナ

「そうか。それなら大丈夫じゃな」

 

 ミナミの言葉にホッと胸をなでおろす。私はアケノが重大な病になったわけではないことにとりあえず安心した。

 そしていよいよ私たちはゼーフントに乗り込むことになった。

 

 宗谷

「それではみんな、シュペーの乗員たちのことを頼む。ミーナさん、現場の指揮をお願いします」

 

 ミーナ

「任せておけ!」

 

 私はゼーフントに乗り込むとともに、決意を新たにするのだった。

 

 ミーナ

≪テア、今いくぞ!≫

 

 

 

 -ムサシside.-

 

 ゼーフントへの突入隊全員の乗り込みを確認した私は、量子通信の回線を開いた。

 

 ムサシ

「全員乗り込んだわね。リツコにサトコ、それの操縦はほとんど中型スキッパーと同じにしておいたわ。万が一の時はこっちでコントロールするから安心して動かして」

 

 松永

[うん。わかったよームサシちゃん]

 

 勝田

[助かるぞな!]

 

 宗谷

[それではムサシさん、行動を開始してくれ]

 

 ムサシ

「了解。任せて」

 

 私はマシロからの指示を受けて、無人の三、四、五、六号艇のゼーフントのコントロールを開始した。そして、晴風に接舷されていた一号艇と二号艇が潜航するのを確認した。

 

 ムサシ

≪あっちは心配なさそうね。さてと、まずは……≫

 

 私は三号艇と四号艇をシュペー左舷側に移動させ、少しずつ浮上させるよう指示を出す。

 潜航艇のコントロールは基本的には霧の潜水艦が使用するアクティブデコイと要領は同じだ。しかし私は戦艦、通常はアクティブデコイを使用することはない。しかしそこは超戦艦としての能力と演算能力でアクティブデコイの操作方法をユニオンコアに組み込んだ。さらにゼーフントには群狼戦術を可能とするためのプログラムが組み込まれており、アクティブデコイよりもはるかに高度な連携行動が可能となっている。

 

 ムサシ

≪これを自ら組んだ“あの子”は本当にすごいわね。もし彼女に人間が乗り込んで私に叛逆していたら、きっと401以上の脅威になっていたでしょうね……≫

 

 私はありもしない過去に思いながら、ゼーフントの操舵に集中し直した。

 

 ムサシ

【三号艇、四号艇、潜望鏡深度でシュペー左舷から距離100まで接近。向こうの動きをかき乱しなさい】

 

 私が量子通信で指示を飛ばすと、二隻は速力をあげて一気にシュペーに接近する。水中を進んでいるとはいえこちらは霧の艦、追いつくのは容易であった。

 しかし潜航艇の潜望鏡深度でそれだけ接近されたため、シュペーがその姿を補足できないはずがなかった。シュペーは接近される前に対応しようと、副砲を二隻に向けてきた。

 

 ムサシ

【対潜装備のないシュペーはそうするしか手はない。予想通りね。四号艇、取り舵いっぱい。砲撃をかわしなさい。三号艇は速力を上げてそのまま直進、回避の後に音響魚雷を発射】

 

 二隻は指示された通り行動し、シュペーからの砲撃を難なく躱した。そして三号艇の左舷側に装備された魚雷がシュペーに向けて発射された。

 

 ムサシ

「一号艇のカエデ、もし聴音器に耳を当てているならミュートにしなさい。耳がやられるわよ」

 

 万里小路

[かしこまりました]

 

 そしてシュペーに接近した魚雷は船体にあたる直前にさく裂した。同時に水中に高周波を伴う大きな音が鳴り響いた。シュペーの真下にいる私自身にもその音は聞こえていた。

 私が使用したのは音響魚雷と呼ばれる兵器。その効果は水中で爆発すると同時に、音波をかき乱して潜水艦などの水中に潜む艦の位置をロストさせる。今回の作戦ではシュペーに気づかれず突入隊を乗り込ませるために使用することになった。

 

 ムサシ

【これでシュペーの耳を一時的に奪ったわ。五号艇、六号艇、深度100でシュペーの前に出なさい。三、四号艇はそのままシュペーを引き付けて。そして――】

 

 「リツコ! サトコ! シュペーの耳を奪ったわ。今のうちにシュペーに接近しなさい」

 

 松永

「りょーかーい」

 

 勝田

「よっしゃ! いくぞなー!」

 

 合図とともにシュペー後方で身を潜めていた突入隊の乗る一号艇と二号艇がシュペーとの距離をつめていく。なんとか乗り込みの御膳立ては上手くいったようだ。

 

 ムサシ

≪ミーナ、みんな、あとは頼んだわよ≫

 

 私はみんなのことを信じて、引き続きゼーフントの操舵を行うことにした。

 

 

 

 -ミーナside.-

 

  ムサシによるかく乱は成功したようで、シュペーの速力はかなり落ちていることをマシロからの報告で私は知った。

 

 宗谷

[晴風は引き続き、シュペーの引き付けを続けます。ミーナさんたちは乗員の保護と艦の制圧を頼みます]

 

 ミーナ

「ああ。リツコ、どうだ? シュペーに接舷できそうか?」

 

 私はゼーフントの操縦桿を握っているリツコに尋ねた。

 

 松永

「あともうちょっとだよー。まかせといてー」

 

 リツコの操縦テクニックはなかなかのものだった。スキッパーの腕前もなかなかのものだと彼女の親友のカヨコも言っていたが、その言葉はまことだったようだ。

 

 勝田

[ミーナさん! た、大変ぞなー!]

 

 と、突如室内に大きな声が鳴り響いた。それは二号艇を操縦しているサトコからの通信だった。

 

 ミーナ

「どうした!? まさかトラブルか?」

 

 勝田

[そ、それが、接舷する前に野間さんが一人で先にシュペーに乗り込んでしまったぞな!]

 

 ミーナ

「な、なんじゃと!?」

 

 普段寡黙なマチコがそんな先走った行動を取ったことに私は驚きを隠せなかった。私は接舷を急ぐようにリツコとサトコに指示を出した。

 それからしばらくして一号艇と二号艇はシュペーへの接舷に成功していた。すでにハッチは開かれ、乗り込むための縄梯子の準備も完了していた。

 

 ミーナ

「よし、乗り込むぞ。マチコを一人にしておくのは危険じゃ。舵手の二人は潜航艇に残って一度シュペーから離れるんじゃ」

 

 松永

「了解だよー。かよちゃん、まりこー、頑張ってねー。怪我しないようにねー」

 

 姫路

「うん。りっちゃんも気をつけてね~」

 

 万里小路

「任されましたわ」

 

 ワシら三人は縄梯子を昇り、シュペー甲板を目指す。前から、ワシ、カヨコ、カエデの順番だ。マチコのことが心配だった私は急がなければと少し焦っていた。そして、ようやく甲板に到達した。

 

 ミーナ

「マチコ! 無事か? 怪我は、ない、か……?」

 

 そこで私は驚愕の光景を目の当たりにした。

 甲板上には10人を超える人が気を失い、倒れていた。その制服は私が見慣れたヴィルヘルムスハーフェン校のもの。そして、その中央に大型の水鉄砲を二丁構えたマチコが一人立っていた。

 

 野間

「あ、ミーナさん。やっときた。外の連中は大体片付けましたよ」

 

 マチコは待ちわびていたかのように私に話しかけてきた。その言動には余裕すら感じられる。

 

 ミーナ

「ま、まさか、その倒れとるのは全員マチコがやったのか?」

 

 野間

「そ、そうだけど?」

 

 私はマチコの言葉は信じられなかった。しかし目の前に広がっている光景を見ると、もはや彼女の言葉を信じるほかなかった。

 

 姫路

「お~。さすがマッチだね~。まさか一人でやっつけてしまうとは」

 

 等松

「キャー! さすがマッチー! 素敵すぎるわあああああ!!」

 

 鏑木

「吃驚仰天」

 

 私と同様の感想を後から到着したカヨコや二号艇のミナミたちも口にしていた。ミミについてはいつも通りで、カエデだけは特に驚いた様子はなかったのだが。

 

 野間

「それより、はやく中の制圧を急いだほうがいいんじゃないか?」

 

 ミーナ

「そうじゃな。みんなワシに続け。艦橋に向かうぞ」

 

 気を取り直した私は、突入メンバーを引き連れて艦橋へ続く通路に突入した。

 

 マチコが甲板上で生徒の半分近くを制圧してくれたおかげで、通路にはほとんど人はいなかった。おかげで誰とも戦うことなく艦橋の真下まで到達することができた。

 しかし直線の通路の途切れるT字路に差し掛かろうとした時、道の両側から3人の生徒が私たちの前に立ちふさがった。その中には私がよく知った顔がいた。ちゃ

 

 ミーナ

「レターナっ……!?」

 

 短くて少しクセっ毛のある茶髪、背は自分より小さくボーイッシュな印象のある女子だ。彼女の名はレターナ・ハーデガン。シュペー乗員の中で唯一中学入学以前から付き合いのある友人だ。男勝りでいつも明るい彼女だが、今はその面影はない。いつもの笑顔は消え、その瞳は真っ赤に染まっていた。

 私はそんな友人の変わり果てた姿に動揺してしまっていた。足がすくみ、テアがいるであろう艦橋へ進むことができなくなっていた。

 すると、後ろから私の横を一人の人影が通り過ぎた。カエデだった。

 

 万里小路

「ミーナさん、ここは私におまかせを」

 

 カエデレターナたち三人の前に立つと、手にしていた薙刀を構える。その雰囲気は普段のおっとりした彼女とはかけ離れたものだった。

 

 万里小路

「万里小路流薙刀術……」

 

 武術の流派の名前だろうか? カエデはそうつぶやくと、目を閉じて神経を集中させる。

 すると本能的に危機を察したのか、レターナたち三人は人とは思えない唸り声をあげながらカエデに迫った。しかしカエデは慌てることなく、三人が間合いに入ってくるのを待った。そして――

 

 万里小路

「当たると、痛いですよ!!」

 

 一瞬の出来事だった。一気に前進した彼女はすれ違いざまに三人に薙刀を的確に当て、意識を刈り取ってしまった。この狭い通路で自身の背丈よりも長い薙刀を自在に操ってみせたことも驚きだ。

 私を含め、後ろで見ていた他のみんなも、この光景に言葉を失っていた。

 

 ミーナ

≪まさか、カエデがこれほどの使い手だったとは……≫

 

 姫路

「お~。さすがまりこー、やるね~」

 

 カヨコの気の抜けた声でようやく私は現実に返ってきた。私は倒れたレターナたちの側に近寄り、手を触れようとした。

 

 ミーナ

「レターナ!――」

 

 しかし誰かが私の上着の袖をつかんでそれを阻止した。

 

 鏑木

「彼女たちはウイルスに感染している。下手に触れるとミーナさんも感染する危険がある。心苦しいが今は我慢してほしい」

 

 ミーナ

「ミナミ……。わかった」

 

 私がレターナたちから離れると同時に、ミナミは見事な手際で三人に抗体を打ち込んだ。このまま安静にしていれば大丈夫だということだ。

 しかしミナミが抗体の打ち込みを終えた時だった。レターナの制服のポケットから何かがもぞもぞと動いて、外へ飛び出した。近くにいたミナミはその存在にいち早く気が付いた。

 

 鏑木

「むっ、あれは、ネズミもどきか!」

 

 ミーナ

「なんじゃと!?」

 

 ミナミの一言で私はようやくネズミもどきの存在に気が付いた。しかしすでにネズミもどきは逃走を始め、もう追いつけないかと思われた。

 しかし誰よりも素早くネズミもどきを追いかける者が一人、いや一匹存在した。

 

 五十六

「ぬぅぅおぅ!」

 

 五十六は目をギラリと光らせ、その巨体からは想像できない素早い動きでネズミもどきの後を追っていく。

 

 姫路

「あ~待ってよ五十六~。ごめんね、私は五十六を追いかけるから~」

 

 五十六を連れてきたカヨコは彼の後を追ってそのまま先へ進んでしまった。そんなカヨコと五十六のことをミミは心配していた。

 

 等松

「カヨちゃんと五十六、大丈夫かな?」

 

 鏑木

「姫路さんには海水入り水鉄砲を持たせてある。狭い艦内ならそれで対応できるだろう。そして五十六にはウイルスは効かない。このままネズミ退治をしてもらうのが良いだろう」

 

 野間

「そうだな。等松さん、きっと大丈夫だよ」

 

 等松

「マッチとみなみさんがそういうなら、私は信じるよ」

 

 ミミは二人の言葉にとりあえず納得してくれたようだ。

 

 ミーナ

「随分足止めを食らってしまったな。残るワシらは艦橋を目指すぞ」

 

 私はそう言って、4人とともに再び走り出した。

 

 ミーナ

≪レターナ、今はそこで休んでてくれ。必ずみんなを、テアを救い出してくるから!≫

 

 

 

 -ましろside.-

 

 ミーナさんたちがシュペーに乗り込んでからすでに20分ちかくが経過していた。制圧が完了したら、ミーナさんが白旗をあげてくれる手筈になっている。しかし未だに制圧完了の報告は入ってきていない。私の中では少しずつ不安が大きくなってきていた。

 

 宗谷

「シュペーからの報告はまだなのか?」

 

 山下

「シュペーの白旗、確認できません」

 

 宇田

「通信もまだ入ってきません」

 

 宗谷

「クソッ……」

 

 第二プランが開始以降、ムサシの操るゼーフントの働きによってシュペーの動きを大きく制限することができた。おかげでシュペーの速力は目に見えて落ちていた。しかしシュペーは囮のゼーフントに対して副砲で激しく応戦している。そして主砲や副砲の一部は晴風に向けられている。晴風は砲弾の雨をくぐり抜けなければならない状況が続いていた。

 

 宗谷

≪今はミーナさんたちがシュペーに乗り込んでいるから、弱点を狙い撃つことはできない。できることはシュペーをけん制して主砲を撃つことだけ。クソッ、もどかしいな≫

 

 私は心の中で悪態をついていた。シュペーの制圧を終えたら、晴風は突入メンバーの回収しシュペー乗員を保護するため、すぐに接舷できる状態にしておかなければならない。そのためにシュペーから遠く離れることができなかった。しかし晴風にとってそれは死と隣り合わせの状態だ。いつまでのこの状況のままでいるわけにはいかない。

 心理的に追い詰められていく中、私はある人のことを思い浮かべていた。

 

 宗谷

≪艦長、あなたならこんな時どうしていたんでしょうか……≫

 

 今はこの場にいない艦長。入学当初はよく意見の違いで対立していたのに、今ではすっかり仲良くなっていた。いや、私が彼女の考えに賛同していった、というのが正しいのだろう。そしていつの頃から、彼女のことが気になって仕方なくなっていた。私は今ここに艦長が、岬さんがいないことに大きな不安を感じていた。

 

 宗谷

≪そうか、私は、岬さんのことが……≫

 

 私は自分の本当の気持ちに気づきかけていた。

 

 ……その時だった。

 

 内田

「副長! シュペーの副砲二発、晴風への直撃コースです!」

 

 宗谷

「な、なんだと!?」

 

 それは野間さんに代わって見張り台に入った内田さんからの報告だった。突然の緊急事態に私は焦ってしまった。そのせいか、判断が少し遅れてしまった。

 

 宗谷

「と、取り舵! 回避を!」

 

 急ぎ知床さんに回避指示を出した。

 

 しかし、時すでに遅しだった。

 

 「戦場では一瞬の判断が命取りとなる」

 

 その言葉の正しさを私たちは身をもって味わうことになった。

 




第二十四話、いかがだったでしょうか?

アルペジオ原作を読んでる方はご存知かと思いますが、今回ムサシが用意した”ゼーフント”は原作漫画にたびたび登場しています。
ドイツ艦相手でということで、ドイツ繋がりで今回登場させてみました
文中の”あの潜水艦”というのも、モデルは原作に出てくるあの子です。
(残念ながらアニメ版、劇場版では未登場なので、オリジナル設定となっています)

次回、第二十五話は
シュペーの攻撃が直撃してしまった晴風、果たして無事なのか。
一方ミーナたちはついに艦橋に到達。
そこで待っていたのは、ウイルスのせいですっかり変わり果てた大切な友の姿だった……。
果たしてミーナはシュペーを取り戻すことができるのか?

次回も読んでいただけるとありがたいです。

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