ハイスクール・フリート ―霧の行く先― 作:銀河野郎のBOB
第二十話でございます。
この作品もついに本編二十話まで書き進めることができました。
これからシュペー戦、赤道祭、武蔵戦とまだまだ続きますが、引き続き頑張ってまいりたいと思います!
前回、比叡停船作戦を無事に成功させたムサシと晴風クラス。
今回はあの方が登場しますよ。
それでは、どうぞ!
2016年4月26日午後4時
-ムサシside.-
私は自分の艦の艦橋から隣に停泊している晴風と比叡を見下ろしていた。隣にはヤマトも一緒にいる。
EMP弾頭による電磁パルス照射によって比叡の停船させた後、晴風と合流した私たちは直ちに比叡の制圧に取り掛かった。ミナミが精製したネズミもどきの抗体を比叡の全生徒に投与するのはそんなに時間はかからなかった。電磁パルスによって電磁波ネットワークが崩壊し、その影響で比叡の生徒のほとんどは気を失っていたからだ。そのおかげで、1時間もかからないうちに比叡の制圧は完了、それからは学校の要請で派遣されたブルーマーメイドと合流するべく、比叡の停止した場所で晴風と共に待機していた。
ムサシ
「初めての作戦、無事に成功してよかったわね」
ヤマト
「ええ。でもまだまだね。もっと上手くできる方法があったかもしれないって今でも考えてしまうわ。もっともっと経験値を積まないと」
ヤマトは今回の結果に納得できていないという様子だった。作戦が終了してからすでに2時間近く経過しているが、ずっと比叡との戦闘記録を振り返りながら戦闘シミュレーションを繰り返していた。ヤマトにとっても初めての作戦行動だった今回は彼女に大きな刺激をもたらしたようで、熱心に改善を試みている。
そんなヤマトの姿に、私は頼もしさを感じていた。誰よりも霧と人類を愛し、こんな私を大切にしてくれる、大好きなおねえちゃん。私はそんなおねえちゃんの隣に立てる喜びを感じていた。
そんな幸せという暖かい気持ちに浸っている時だった。私が張っていたレーダーがこちらに向かってくる艦船の存在をキャッチした。すぐに共同戦術ネットワーク上に情報をアップしてヤマトと共有することにした。
ムサシ
「こちらに真っ直ぐ向かってくるわね。派遣されたブルーマーメイドかしら?」
ヤマト
「おそらくね。ムサシ、光学カメラで姿を捉えられない?」
ムサシ
「わかった、やってみるわ」
私は艦船が向かってくる北西方向に光学カメラを向け、姿を補足しようと試みた。すると北西方向の距離およそ20000に比較的小さな黒い艦が進んできているのが見えた。私はその映像をすぐにヤマトに見せた。
ヤマト
「形状からして改インディペンデンス級ね。でもブルーマーメイドの正規色ではないわね」
ムサシ
「艦首に識別番号が見えるわ。……BPF10、ね。おねえちゃん、データベースとの照合をお願い」
ヤマト
「ええと……、海上安全整備局 保安監督隊 強制執行課 戦術執行部隊所属の『べんてん』という艦ね。艦長は……あら?」
ヤマトは近づいてくる艦『べんてん』情報を検索して、少し驚いたように声を上げた。どうしたのかと思い、私はヤマトが見ていた情報を確認してみた。そしてすぐに、ヤマトが驚いた理由に気が付いた。
ムサシ
「なるほどね。これは艦長に会うのが楽しみね」
ヤマト
「ええ。せっかくだから、晴風の皆さんにはちょっと内緒にしていましょう」
ムサシ
「そうね。もしかしたらあの子の面白い反応が見られるかもしれないわ」
私とヤマトはイタズラを画策している子供のような顔をしてお互いを見ていた。
-ましろside.-
比叡の制圧という大きな仕事が終わってから、晴風艦内はすっかりゆるみきった雰囲気になっていた。私はこんなことでいいのだろうか、と疑問を感じずにはいられなかった。
宗谷
≪もうすぐブルーマーメイドの派遣隊が到着するというのに……≫
時刻は午後4時を過ぎていた。もうすぐ母さん、宗谷校長からの要請を受けたブルーマーメイドの派遣隊がここに到着する予定時刻だ。比叡の制圧を終えた後の報告の際に聞いた話では、当初派遣されるはずだった制圧部隊から旗艦の1隻だけが先行してこちらに向かっているそうだ。その話をしている時の真霜姉さんの声が上ずっていることが少し気になったが、その後すぐに通信を終えてしまったため結局真意はわからなかった。
それよりも私が気になっているのは艦長だ。普段なら誰よりも真っ先にこのゆるみ切った雰囲気を楽しみそうなものだが、囮役を終えてからずっと元気がなくずっとうつむき気味だ。これまでどんなに厳しい状況で誰よりも頑張ってきた艦長。私は心配せずにはいられなかった。
宗谷
「あの、艦長――」
野間
「北西方向にこちらに向かってくる艦影あり!」
私が艦長に話しかけようとした時だった。見張り台の野間さんから船舶接近の一報が入ってきた。
すると、先ほどまで元気がなさそうだった艦長が普段通りの声で指示を出していた。
岬
「野間さん、合流予定のブルーマーメイドかもしれないから艦種と番号の確認をお願い。あ、つぐちゃんに通信室に戻ってもらわなくちゃ」
いつも通りの様子で動き回る艦長を見て、私はとりあえず一安心した。艦長は一通り指示を出し終えると、私の元へ近寄ってきた。
岬
「シロちゃん、さっき私に何か言いかけていたけどなんだったの?」
宗谷
「……いえ、何でもないですよ、艦長」
岬
「?」
今は艦長に余計なことを考えさせまいと思い、私は言いかけていた言葉をそっと胸の奥へとしまい込んだ。艦長は何があったのかよくわからないという顔をしていた。
そんなことをしていると、再び野間さんから報告が艦橋にあがってきた。
野間
「艦の形状から、改インディペンデンス級と思われます。おそらく先行してきたブルーマーメイドの派遣隊だと思うのですが……」
どうしたことか、突如野間さんの言葉が途切れてしまった。いつでもはっきりと報告してくれる野間さんには珍しいことだ。
宗谷
「どうしたんだ野間さん? 続きを頼む」
野間
「あ、はい。それが、艦の色が黒色なんです。ブルーマーメイドの標準色とは違うので」
宗谷
「……なんだって?」
私はこの時、非常に嫌な予感がよぎった。野間さんから報告のあった黒色の改インディペンデンス級、そして派遣隊の話をしていた時の真霜姉さんの上ずった声、これらから考えられることは一つだった。
八木
「今、接近する艦艇から通信が入りました。「こちら、海上安全整備局 保安監督隊 強制執行課 戦術執行部隊の『べんてん』。これより晴風と合流する」とのことです」
さらに追い打ちをかけるように、通信室の八木さんから例の艦からの通信報告。艦名を聞いた瞬間に全てが確信に変わった、いや変わってしまった。私は思わず足をふらつかせる。
岬
「わ!? シロちゃん、大丈夫?」
艦長が私を心配して肩を貸してくれた。私はすぐに自分の脚で立ち直した。
宗谷
「あ、ありがとうございます。大丈夫です」
岬
「ほ、ほんとに? なんだか顔色が悪いよ?」
宗谷
「本当に大丈夫だ。さぁ、派遣隊を迎える準備をするぞ」
岬
「う、うん」
心配してくれる艦長の気持ちは嬉しいが、今は迎える準備をしなくてはいけない。だが正直、私は全然乗り気にはなれなかった。
そんなこんなで準備をしていたら、『べんてん』はすでにすぐ目の前まできていた。今は晴風の右舷に接舷するべく準備をしているところだ。晴風の甲板にはクラスメイトの半数ほどが整列して迎え入れる準備をしている。
西崎
「黒いブルマーの艦なんて初めて見たよ。艦長はどんな人だろう? 楽しみだね」
立石
「うぃ!」
水雷長と砲術長が期待に目を輝かせている様子を見て、私は頭が痛くなりそうだった。なぜなら私はこの『べんてん』の艦長を知っているからだ。そして、きっとその期待は裏切られることになるとわかってしまっていた。
岬
「シロちゃん、さっきから様子が変だよ? もしかして体調が悪いとか?」
隣にいる艦長は相変わらず私を心配してくれている。それはとても嬉しいことなのだが、それ以上にこれから起きるであろう一騒動の方が私には心配だった。
しかしいつまでも悩んでいても仕方がない。私は思い切って、艦長にそのことを話すことにした。
宗谷
「じ、実はですね、この『べんてん』はですね――」
???
「とぉう!!」
私が話そうと口を開いた時、まだ節減の準備中のはずの『べんてん』の甲板から一つの黒い影が掛け声とともに私たちのいる晴風の甲板後方に落ちてきた。甲板にいたクラスメイトは突然のことに困惑している様子だった。すると、艦長がその正体を確かめようと私の言葉も聞かずに走り出した。私は納沙さん、ミーナさんと共に慌ててその後を追った。
そして三番主砲付近まで行くと、降り立ったその黒い影はスッと立ち上がった。艦長たちは不思議そうな目でそれを見ていた。私はもう目を逸らさずにはいられなかった。
そして、黒い影は高らかに私たちに話しかけてきた。
真冬
「待たせたな、晴風クラスの諸君。私はブルーマーメイドの宗谷真冬だ。この『べんてん』の艦長をしている。後のことは任せろ!」
黒い影の正体、それは『べんてん』の艦長であり、そして私のもう一人の姉、宗谷真冬であった。そのいで立ちは黒色のブルーマーメイドの制服に、特注で作らせた端が破れているようなデザインの黒いマントと、まさに黒一色。その見た目やさっぱりとした性格から、ブルーマーメイドの中でも特に目立つ存在になっていると、前に真霜姉さんに聞いたことがある。だがこんな異端だらけにも関わらず、ブルーマーメイドの中では大変人気が高いらしい。
真冬
「ん? お前もしかして……」
ついに真冬姉さんが私の存在に気づいてしまったようだ。私は相変わらず目を逸らしている。そして姉さんは私のそばに近づきてきた。
真冬
「シロじゃねぇか! ひっさしぶりだなぁ、おい!」
真霜姉さんが右腕で私の首をガシッと掴んできた。
宗谷
「ちょ、ちょっと姉さん、やめてって!」
私は抵抗しようとするが、しっかりと組まれた姉さんの腕を振りほどくことはできなかった。その様子を艦長や納沙さん達は呑気に眺めていた。
納沙
「あー、なるほど。苗字が同じですしね」
岬
「シロちゃん、もう一人お姉さんがいたんだね。しかも二人ともブルーマーメイドだなんて、すごいなぁ」
確かに私にとって二人の姉は憧れであり、目標にしている人物である。
真霜姉さんは海洋学校を主席入学、主席卒業の偉業を達成。ブルーマーメイドに入隊してからも多方面で活躍し、今では統括官としてその才能を振るっている。私生活ではずぼらなところが目立つが、私にいつも優しくしてくれる面倒見のよい姉さんだ。
一方の真冬姉さんだが、その性格のせいで私は振り回されることが多かった。小さい頃はよくケンカもして、その度に真霜姉さんに止められていた。でも、誰よりも明るくて、みんなから好かれている真冬姉さんが、私には輝いて見えた。私がなりたいと思っている理想像を真冬姉さんはたくさん持っていた。だから、真冬姉さんは今でも私にとって憧れの存在になっている。そのことは本人には絶対口にはできないけど。
そんなことを思い返している、真冬姉さんが不穏なことを言い始めた。
真冬
「ん? なんだぁ、シロ。久しぶりに会ったっていうのに縮こまりやがって」
宗谷
「い、いや、そんなことは……」
真冬
「いよぉし、久しぶりに姉ちゃんが根性を注入してやろうか!」
私の背筋にゾッとする感覚が走った。クラスの皆がいるところで姉さんの「根性注入」という痴態を晒すことになってしまうことは、何としてでも避けなければならない。
宗谷
「い、いらないわよ!」
私は大きな声で拒否を宣言した。しかしこのくらいでは姉さんはやめてくれないだろう。私は次の策に移そうとした。
しかしその時だった。
岬
「あ、あの! お願いしてもいいですか?」
宗谷
「なっ!? バカ、やめっ」
様子を見ていた艦長が突然姉さんに「根性注入」をお願いしてきた。何も知らない彼女があの辱めを受ける姿など、他のクラスメイトに見られてしまっては示しがつかない。私はなんとか阻止しようとするが、すでに遅かった。
真冬
「お、威勢がいいねぇ。艦長帽してるってことは、あんたが晴風の艦長か?」
岬
「はい。航洋艦晴風艦長、岬明乃です」
姉さんの質問に敬礼をして答える艦長。そして姉さんは手をパキパキと鳴らしながら彼女に近づいていく。
真冬
「そうか。うちのシロが世話になってるな。それじゃ早速、覚悟はいいな?」
岬
「はい、お願いします!」
真冬
「よぉし、まずは回れ右だ!」
姉さんの言葉に従って艦長は即座に回れ右をした。艦長は今、姉さんに背を向けている状態だ。この状態、姉さんは間違いなくアレをやるつもりだ。
真冬
「いくぜ! 根性―、ちゅー……」
このままでは艦長が危ない。私の体は考えるよりも先に動いていた。
真冬
「にゅう!」
姉さんの手が艦長に伸びる直前、私はそれを遮るように艦長の後ろに立った。そして、姉さんの手は私のお尻をガシッと掴んだ。
宗谷
「ふぐっ」
私は思わず口から声が出てしまった。同時に、周囲にいた人から驚きの声が上がる。その原因たる姉さんはそんなことを気にせず、根性根性と言いながらワシワシと私のお尻を揉んでいく。
宗谷
「ふ、ふむぅ。むぅ……」
これこそが姉さん流の「根性注入」。その実態はお尻を揉むだけというただのセクハラだ。私は事あるごとに姉さんからこの「根性注入」を食らっていて、毎回毎回迷惑していた。しかし、まさか身内以外にもこんな恥ずかしいことを平然とやるとは思っていなかった。
しばらくすると、姉さんがようやく私が艦長との間に立っていることに気が付いた。
真冬
「あれ? なんでシロが代わりに根性注入されてるんだ?」
宗谷
「当たり前だ! こんな辱めは身内で止めておかないと」
真冬
「ふぅん。まぁ、おめぇがそれでいいなら構わねぇけど……」
姉さんはニヤッとした顔を私に向けてきた。私はもうこの後にされることを覚悟するしかなかった。
真冬
「おめぇ、ちょいとヤワになってんじゃねぇのか、この尻? こんな尻じゃ、シケの海は超えられねぇぞ!」
姉さんが私のお尻を掴む力を強めてきた。そしてそのままさらに揉みしごいてく。
宗谷
「ちょ、ちょっと姉さん! やめ、ふっ、やめて! ねえさあああああん!!」
その後しばらく、私は姉さんに為すが為されるまま姉さんにお尻を揉まれるしかなかった。そしてその様子は、いつの間にか集まっていたクラスメイトのみんなにしっかりとみられてしまうこととなった。
岬
「……ごめんね、シロちゃん……」
-ムサシside.-
『べんてん』が到着すると同時に、晴風の方から賑やかな声が聞こえてくるようになった。先ほど『べんてん』から晴風に降り立つ人影が見えたが、おそらくそれが原因だろう。
ヤマト
「ムサシ、そろそろ『べんてん』の方にご挨拶にいきましょう」
ムサシ
「そうね」
すでに晴風との間にはナノマテリアルで構築した階段が設置されていた。私とヤマトは二人並んで階段を降りていく。
ムサシ
「マシロの二人目のお姉さん、マフユね。どんな人か楽しみね」
ヤマト
「そうね。でもましろさんのお姉様ならきっと素敵な方だと思うわ」
ヤマトと話しながら私はマフユへの期待を高めていった。
晴風に降り立った私たちは、早速みんなが集まっている場所に向かった。
人だかりになっているところの一番後ろから様子を伺ってみると、そこには黒いマントと黒い制服を纏った女性にお尻を揉まれているマシロの姿があった。
ムサシ
「……おねえちゃん、これは、どういう状況なのかしら?」
ヤマト
「さ、さぁ……」
演算能力なら誰にも負けない自信があった私もヤマトも今の全く状況が分からず、ただ混乱するしかなかった。
すると、人だかりの中から一際背の高い人が私に声をかけてきた。
黒木
「あ、ムサシ。こっちに来てたのね」
ムサシ
「クロ。ええ、たった今きたところよ」
クロは私とヤマトを手招きして傍に来るように言ってくれた。私たちは人だかりをかき分けて、クロの傍まで移動した。すると早速ヤマトが切り出した。
ヤマト
「随分盛り上がっていますね。洋美さん、これは一体?」
黒木
「実は派遣隊のブルーマーメイドの艦長が宗谷さんのお姉さんでして、宗谷さんと久しぶりに会ったからスキンシップをしているみたい、です」
ムサシ
「そ、そうなのね。私が認識しているスキンシップとは随分違うようだけど……」
黒木
「でも、宗谷さんの新しい一面を知れたから、私はちょっと嬉しいかな」
クロの意外な返答に私は少し驚いたが、クロはマシロに憧れを持っていたことを思い出して、なんとか納得した。
しかし、このままお尻を揉まれているマシロを見ているだけでは話が進まない。そう思ったのか、ヤマトがマフユの元へ一歩進み出た。私はその後に続く。
ヤマト
「失礼します。『べんてん』艦長の宗谷真冬さんとお見受けいたしますが」
真冬
「お? なんだいあんたらは? 学生には見えないが」
マフユは私たちの存在に気が付くと、マシロを解放して興味津々に見つめてきている。
ヤマト
「申し遅れました。私は霧の艦隊の総旗艦、ヤマトと申します。今はこちらの妹のムサシと共に、こちらの晴風と行動を共にさせていただいています」
ムサシ
「初めまして。私は総旗艦直属艦隊旗艦で、ヤマトの妹のムサシよ。よろしく」
すると、マフユは何かを思い出したかのか胸の前で両の手を合わせた。
真冬
「そうか。あんたらが例の霧の艦隊か! そうかそうか!」
宗谷
「姉さん、絶対忘れていたでしょ……」
豪快に笑って誤魔化している様子のマフユに、先ほどまでお尻を揉まれていたマシロが呆れた表情でツッコミを入れていた。どうやらマフユはマシロや上の姉のマシモとは違って随分サッパリした性格をしているようだ。少しだけだが、かつての部下だった霧の生徒会の騒がしい重巡洋艦の姿を重ねていた。
真冬
「そんじゃ、改めて。ブルーマーメイド派遣隊、『べんてん』艦長の宗谷真冬と言います。初めまして、霧の艦隊のお二方」
ヤマト
「こちらこそ、よろしくお願いします」
姿勢を正したマフユは、先ほどまでとは違うキチンとした口調で自己紹介をして、握手を求めてきた。ヤマトは彼女の手をそっと握り返した。
真冬
「話は真霜ね……宗谷一等監察官から伺っています。今回の比叡の件ではご協力ありがとうございます。一等監察官に代わりまして、お礼申し上げます」
深々とお礼をしてきたマフユ。その姿はとても綺麗なものだった。その姿を見て、やはりマシロやマシモの姉妹なのだと、私は感じた。
ヤマト
「いえ、これは私たちが望んだことですから。それと、話し方は普段通りで構いませんよ。そちらの方が私たちも話しやすいですから」
真冬
「そうか。そんじゃ、お言葉に甘えさせてもらうよ。こういうのはあまり苦手でな」
ヤマトに促されると、マフユはリラックスしたように先ほどまでのフランクな口調に戻った。改めて聞き比べてみると、彼女には普段通りの口調の方がお似合いのように思えた。
真冬
「比叡の件もそうだけど、これまでシロや晴風のことを助けてくれたことには礼を言うよ。今後も仲良くしてくれたら、私は嬉しい。改めてよろしくな、ヤマト、ムサシ」
ヤマト
「はい。私も、真冬さんと仲良くできたら嬉しいです」
ムサシ
「私もよ。マフユ、こちらこそよろしくね」
真冬
「おう!」
私たち三人はもう一度握手を交わした。まだ会って間もないのに、マフユはそれを感じさせない程私たちに寄り添ってくれている。それがマフユの持つ魅力なのだろう。
真冬
「しっかしあれだな。ヤマトは本当に真霜姉と声がそっくりだな。最初に声をかけられた時は、そこに真霜姉がいるのかと思ったぜ」
ヤマト
「ましろさんもお母様の宗谷校長も、同じことを仰っていましたね。私も真霜さんと初めてお話しした時は驚いたものです」
真冬
「でも、真霜姉よりはずぼらじゃなさそうだな。何より出てるオーラが全然違う」
宗谷
「……それ、後で真霜姉さんに知られたら怒られるわよ」
早速ヤマトとマフユは親しげに話を始めていた。マシロは相変わらずマフユに警戒心剝き出しのようだが、仲が悪いという雰囲気は微塵も感じられなかった。私も、周りにいたアケノたち晴風クラスのみんなもその様子をそんな風に眺めていた、
すると、ヤマトとの会話をそこそこに終えたマフユは、今度は私の方に歩み寄ってきた。
真冬
「ところでよムサシ。あそこにある黒い大和型は、真霜姉から聞いた超戦艦ムサシってことで合っているんだよな?」
ムサシ
「そうよ。あれこそが私の本体というべき艦、超戦艦ムサシよ」
すると突然、マフユは目を輝かせて私にジッと見つめていた。
真冬
「そうかそうか! いやぁ私は嬉しいぜ! 黒い艦ってのはやっぱり最高だよな! この制服やマントだってわざわざ頼み込んで特注で用意してもらったんだ。『べんてん』だって元は普通のグレーだったんだけど、私が艦長になった時に黒にしてもらったんだ。でも、真霜姉やシロにはどうも不評なんだよなぁ」
宗谷
「当たり前だ! 自分が好きだからって何でもかんでも黒一色にされちゃたまったもんじゃないわよ!」
ムサシ
「私の場合は別に好き嫌いで決めた色ではないけれどね。でも、気に入ってもらえたのなら嬉しいわ」
真冬
「ああ! 気に入った! 超気に入った! よっしゃ、もっと近くで見るぜ!」
宗谷
「あ、ちょっと姉さん!」
大興奮の様子のマシモ。すると、もっと近くで見たいと思ったのかマフユは左舷側へと走っていってしまった。慌ててマシロが追いかけていく。
ムサシ
「なんだか嵐のような人ね。すごくパワフルというか、元気いっぱいというか」
ヤマト
「でもすごく親しみやすい方だと思うわ。それに……」
ムサシ
「それに?」
ヤマト
「妹は少しくらいヤンチャの方が、お姉ちゃん的にはお世話のし甲斐があるというものよ。ね、ムサシ?」
ムサシ
「ふ、フン。私はあんなにヤンチャじゃ、ないわよ。……たぶん」
私はヤマトの言葉を否定しようとしたが、私は昔の自分を思い出してしまった。そのせいでヤマトに視線を合わせることができない。
岬
「あ、ムサシちゃん照れてる」
黒木
「ふふっ、照れてるムサシも可愛いわね」
ヤマト
「本当。やっぱりヤンチャするほど可愛いってものね」
追い打ちをかけるようにアケノ、クロ、そしてヤマトからの言葉が続く。感情シミュレータがこれまでにないほど激しく演算を繰り返している。これが、恥ずかしいという感情なのだろう。演算能力にはまだまだ余裕があるはずなのに、私はいつの間にかその感情に耐えられる余裕がなくなっていた。
ムサシ
「も、もう! 三人とも意地悪よ! ほら、マフユとこれからのことを話さないといけないんでしょ。早く追うわよ!」
岬
「あ、ムサシちゃん待ってよー」
黒木
「あぁムサシ、ごめん、ごめんってば」
ヤマト
「ふふっ、しょうがないわね」
恥ずかしさの余り、早くこの場から逃げようとする私。それを追ってアケノやクロ、ヤマトたちが続いてくる。
こうして、マフユとの初会合はなんとか成功に終わったのだった。
第二十話、いかがだったでしょうか?
今回は完全に真冬さんのターンでした。
文字数のわりに全然話が進んでいない……。
前回の予告で書いていた「黒い艦」とは真冬さんの乗る「べんてん」のことでした。
しかし感想の方で、アルペジオの「コ〇ゴ〇」や艦これの「深〇〇艦」という予想が飛び出した時、もしかして「べんてん」ってわかりづらかった?という疑問を抱かずにはいられませんでしたw
分かってくれると思っていたんですがねー
次回、第二十一話は
真冬さんと今後の方針を決めたムサシたちの元に所属不明の艦艇発見の一報が入る。
ムサシと晴風は真冬とわかれ、その所属不明艦を追うことになったが、その正体はなんと、かつて戦ったあの艦だった……
次回も読んでいただけるとありがたいです。