ハイスクール・フリート ―霧の行く先―   作:銀河野郎のBOB

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皆様、あけましておめでとうございますm(_ _)m
今年も、「ハイスクール・フリート ―霧の行く先―」本編をどうぞよろしくお願いいたします。

ということで、2017年初の本編投稿になります。
ちょうど2か月ぶりです。お待たせして申し訳ありませんでした。
感想の方で沢山の本編投稿を望む声をいただき、ありがとうございました。
最近リアルで色々あってスランプ気味だったので、すごく励みになりました。
今後もどうぞよろしくお願いします。

さて、第十八話の今回は比叡戦前編、戦闘シーンに突入します。
初めての戦闘シーン、うまく表現できているかな?

それでは、どうぞ!


第十八話 誘導でピンチ!

 2016年4月26日午前12時50分

 

 -明乃side.-

 

 私たちが比叡の姿を捉えてからすでに2時間以上が経過していた。比叡は相変わらずトラック諸島に向けてまっすぐ進路をとっていた。

 そして私たちはヤマトさんが考案した比叡停止作戦、そのフェーズ1の真っ最中であった。

 

 野間

「比叡、進路変わらず南東方向。っ! 四番主砲より発砲!」

 

 宇田

「弾丸補足。着弾予測地点、艦首前方約70メートル」

 

 野間さんとメグちゃんからの報告を受けて、私は舵を取っているリンちゃんに指示を出す。

 

 岬

「リンちゃん、面舵30! 着弾予測地点から離れて」

 

 知床

「よ、ヨーソロー」

 

 リンちゃんは指示に従って素早く舵を切る。晴風は徐々に右へと進路をとっていく。そして数秒後、予測通りの場所に比叡の主砲弾が着水した。大きな水柱が三本あがり、発生した波が晴風の船体を揺らす。

 

 山下

「主砲弾、左舷より距離300の地点に着水」

 

 岬

「舵もどーせー。比叡の後方、距離2000の位置に」

 

 艦橋左舷の見張りを担当しているしゅうちゃんから着弾の報告が入った。すぐさまリンちゃんに再び支持を出して、比叡の真後ろに艦を戻した。

 

 岬

「ふぅ、とりあえず今のところは順調、なのかな?」

 

 納沙

「はい。比叡がこのままの速度と進路で進めば、30分後にはムサシさんとの合流地点に到達します」

 

 ココちゃんが手元のタブレットを操作すると、艦橋内に浮かんでいる大きな空中ディスプレが連動して動き、合流地点までの比叡と晴風の進路の詳細が表示された。

 今回の作戦を開始するにあたって、ヤマトさんの提案で晴風の各所にヤマトさんとムサシちゃんが構築した共同戦術ネットワークからの情報をリアルタイムで表示する空中ディスプレイ投影機を設置して、艦内にいるみんなに戦況の詳細がすぐにわかるようにしたのだ。ディスプレイで表示できるのは今映している海図だけでなく、周辺海域を通る船舶の情報や海底地形など様々だ。先ほどのメグちゃんの着弾予測はこの情報によるもので、かなり正確な着弾位置を特定することができるようになっている。

 

 納沙

「いやー、しかしこれは興奮しますね! SFの世界のものを自分の手で動かせるのは」

 

 ミーナ

「こら、今は作戦中じゃぞ。気持ちはわかるが、不要な私語は慎め」

 

 ディスプレイのメイン操作を務めるココちゃんは夢にも見た出来事に任務を忘れそうなくらい興奮していた。ミーちゃんはそんなココちゃんに落ち着くように声をかけている。

 

 西崎

「あーもう! なんかつまんなーい。ねぇ艦長、比叡に一発撃っちゃダメなの?」

 

 一方のメイちゃんはいつも通り撃ちたくて仕方がないといった様子だ。メイちゃんの隣ではタマちゃんが首を横に振って、それを否定していた。

 

 立石

「メイ、だめ。私たちの任務は、誘導」

 

 岬

「タマちゃんの言う通りだよ。私たちの役割は、合流地点まで比叡を誘導すること。交戦を極力避けて、準備が整ったムサシちゃんたちと合流しなくちゃいけないんだよ」

 

 そう、今私たちがやっていることは時間稼ぎと比叡を合流地点まで監視だ。ムサシちゃんとヤマトさんは晴風から超戦艦ムサシに移乗して、先行してこの後の作戦のための事前準備をしている。その準備が整うまで、私たちは比叡の注意をひきつけておき、合流地点まで誘導しなければならない。

 

 西崎

「わ、わかってるよ。ちょっと言ってみただけだって」

 

 メイちゃんは事情を理解して、しぶしぶながらこれ以上言うのをやめてくれた。

 

 そんな中、シロちゃんは心配そうにじっと前方を進む比叡の姿を見ていた。

 

 宗谷

「しかし、このまま順調に事が進んでくれればいいが」

 

 知床

「そ、そうだね。私たちに危険が及ばないようにってヤマトさんが考えてくれたんだし」

 

 今回の作戦ではムサシちゃん、つまり超戦艦ムサシを最高の状態で動かすためにヤマトさんも一緒に乗り込んでいる。そのため、前回の武蔵戦の時のようにヤマトさんのクラインフィールドによる保護がない。だから今の晴風では、比叡の主砲である35.6cm砲どころか副砲の15.2cm砲ですら直撃したら致命傷になりかねない。だからこそ、ヤマトさんは私たちへの危険を回避するために、誘導役という比較的安全な役割を与えてくれたのだろう。

 

 西崎

「まぁ、このまま上手いこと進んでくれればいいけどさ……」

 

 すると、メイちゃんがじーっとシロちゃんを見ながら話しだした。メイちゃんからの視線にシロちゃんは思わず怯んでいるようだ。

 

 宗谷

「な、なんだ?」

 

 西崎

「今副長がしゃべったせいで、フラグ立った気がする……」

 

 メイちゃんの一言に、艦橋内の空気が一瞬で凍り付く。

 

 納沙

「あー……」

 

 ミーナ

「たしかにのぅ」

 

 立石

「うぃ……」

 

 だけどみんなは口を揃えてメイちゃんの言葉を肯定する。シロちゃんの不運っぷりはもはやクラスの皆も周知になるほど有名なことだ。そんなシロちゃんがちょっと不吉なことを言ってしまったのだから、嫌な予感がしてしまうのはある意味仕方がないのかもしれない。

 

 宗谷

「な!? 何を言っているんだ! 確かに私は運が悪いかもしれないぞ。だけど、ちょっと喋っただけでそれが現実になるっていうのは、言いすぎじゃないのか!」

 

 シロちゃんは真っ向からメイちゃんの言葉を否定する。自分が疫病神みたいに言われてしまったのだ。当然の反応と言えるだろう。

 すると、シロちゃんは体の向きを変えて私に助けを求めるような視線を向けてきた。

 

 宗谷

「艦長からも、何か言ってやってください!」

 

 岬

「え! わ、私!?」

 

 シロちゃんからの突然のお願いに、私はどうしたらよいのか一瞬戸惑ってしまった。

 とにかくシロちゃんを励まさないと、そう思った私は口を開いた。

 

 岬

「だ、大丈夫だよシロちゃん。シロちゃんはちょっと不運かもしれないけど、それでネズミもどきさんが変な動きをするわけじゃないから!」

 

 西崎

「いや艦長、全然フォローになってない」

 

 宗谷

「か、艦長……」

 

 結果、シロちゃんはますます落ち込んでしまった。

その後、5分くらいかけてなんとかシロちゃんを立ち直らせたのだった。

 

 

 

 そんなやり取りをしてから、さらに時間がたった。

 比叡はその後もちょくちょく晴風へ砲撃をしてきたが、進路を変えることはなかった。合流地点まではあと10分くらいで到着する場所まできていた。この時、艦橋の皆だけでなく、晴風に乗るクラスの皆が、のまま何事もなく予定通りムサシちゃんと合流して、次の作戦に進むことができると確信していた。

 

 しかしそれは、野間さんからの報告によって突然崩れ去った。

 

 野間

「! 比叡、回頭! 南東方向からさらに南の方へ転進しています!」

 

 岬

「え!?」

 

 比叡の突然の方針転換に私は驚きを隠せなかった。その姿を補足してからこれまで舵を切ることなく真っ直ぐにトラック諸島方面へ進んでいたのに、ここにきてまさかの行動だった。

 

 岬

≪な、なんで? どうして突然?≫

 

 周りの艦橋メンバーを見渡しても、私と同じく突然の出来事についていけず混乱している様子だった。

 

 知床

「な、なんで? 突然向きを変えちゃったの?」

 

 立石

「わかんない……」

 

 西崎

「ほらー! 副長があんなこと言うからー!」

 

 宗谷

「な! 私のせいだと言うのか!」

 

 ミーナ

「あほぅ! 冗談を言うとる場合じゃなかろうが!」

 

 慌てふためく艦橋メンバーたち。その様子を見て、私は混乱していた頭を一度落ち着かせた。このままではいけないと思い直し、すぐさまココちゃんに指示を出す。

 

 岬

「ココちゃん! 比叡の予想進路を割り出して! それと、周辺の船舶情報も」

 

 納沙

「は、はい! わかりました」

 

 ココちゃんはすぐにタブレットを操作しはじめた。私が大声で指示を出したことで、他の艦橋メンバーたちも一度落ち着きを取り戻すことができたようだ。そしてシロちゃんとミーちゃんが私に尋ねてきた。

 

 宗谷

「艦長、どうしますか? このままでは合流地点へのコースから外れてしまいます」

 

 ミーナ

「そうじゃな。わしらの手で比叡の進路を戻さねば」

 

 このまま何もせず手をこまねいていると比叡はあらぬ方向に進んでしまい、ムサシちゃんとの合流も停止作戦も全てが水の泡となってしまう。

 私は少し考えた後、一つ決断を下すことにした。

 

 岬

「……タマちゃん、砲戦用意。射撃指揮所のみんなにも伝えて。リンちゃん、晴風を比叡の前に出す準備を」

 

 知床

「え、えぇ!」

 

 立石

「……うぃ」

 

 私の指示にリンちゃんを始め艦橋メンバーは驚きの表情を見せていた。ただ一人、タマちゃんだけは冷静に指示に従って砲戦の準備に取り掛かっていた。

 

 西崎

「おぉ! 撃っちゃう? 撃っちゃうの?」

 

 宗谷

「艦長、正気ですか!? 交戦は極力避けるという話だったではないですか。比叡との戦力差は圧倒的に我々が不利です。危険すぎます!」

 

 シロちゃんは私の考えにすぐ異を唱えてきた。

 彼女の言い分はもっともだ。私たちへの危険を最小限にするためにヤマトさんが考えてくれた作戦を自ら破ろうとしているのだ。自ら比叡に突っ込むなど、普通では自殺行為だろう。

 しかし、私はそう思わなかった。そのことをシロちゃんに伝える。

 

 岬

「危険なのはわかってる。でも、フェーズ1での私たちの役割は、比叡を合流地点まで誘導すること。もし不測の事態が発生したら、自分たちの判断でそれを修正しなくちゃいけない。それが、今なんだよ」

 

 私はシロちゃんの目を真っ直ぐ見つめて訴えた。私よりもずっと賢いシロちゃんならきっとわかってくれる、そんな確信にも似たものが私にはあった。

 

 宗谷

「追尾に比べると被弾の危険性が格段に上がりますが、それでもやりますか?」

 

 シロちゃんはじっと私を見つめて問いかけてきた。もちろん、私の答えは決まっていた。

 

 岬

「うん。足はこっちの方が速いし、なんとかなると思う」

 

 私がそう答えると、シロちゃんは頭を縦に振ってうなずいてくれた。私はすぐさま機関室への伝声管を手に取った。

 

 岬

「機関室、これから速力いっぱい出すけど、どれくらい持ちこたえられる?」

 

 柳原

「全力は20分保証してやらぁ。いつものことだけど、無茶言ってくれるねぇ」

 

 マロンちゃんは呆れ半分ながら、納得した様子で答えてくれた。マロンちゃんとの会話が終わると、タブレットの操作を終えたココちゃんが私の元へ駆け寄ってきた。

 

 納沙

「艦長、比叡の誘導コースの割り出しできました」

 

 同時に空中ディスプレイの海図に晴風の誘導コースと比叡の予想進路が複数表示される。私はその中から一つを選びだした。

 

 岬

「よし、このルートでいこう。リンちゃん、お願い」

 

 知床

「は、はい!」

 

 これで準備は整った。私はもう一度艦橋内を見渡した。みんなはすでに覚悟を決め、しっかりと私を見ていた。私は一つ深呼吸をして、号令をかけた

 

 岬

「これより、比叡の注意を引き付けて合流地点まで誘導します。機関、最大船速!」

 

 

 

 晴風は比叡の左舷を回って、比叡の前方へ出る進路を取り始めた。これに気が付いた比叡は即座に主砲と左舷側の副砲を回頭、晴風へ照準を合わせてきた。

 

 野間

「比叡、副砲より発砲! 続けて二番、三番主砲がこちらに指向中」

 

 内田

「こちらも副砲の発砲、確認しました!」

 

 宇田

「レーダー、副砲弾7発補足。着弾予想地点と時刻、海図に出します」

 

 比叡からの攻撃に対して、艦橋には各所から情報が次々と舞い込んでくる。メグちゃんの出した着弾予想地点から、7発のうち2発が至近弾になる可能性が高いことが判明した。

 

 岬

「取り舵いっぱい! 回避行動、比叡から離れる!」

 

 すぐさま指示を出して、比叡からの副砲弾をなんとか回避する。しかし、一息つく間もなく次の攻撃が飛んでくる。

 

 野間

「二番、三番主砲より発砲確認!」

 

 宇田

「主砲弾4発確認。予測地点、すぐに計算します!」

 

 慌ただしく動く見張りと電探室。それでも彼女たちは冷静に正確な情報を私たちにもたらしてくれた。

 幸いにも主砲弾は晴風の進路から大きく外れた場所に着水した。

 

 岬

「タマちゃん、主砲発射用意。比叡に当てるつもりで撃って。こっちに注意を引き付けて」

 

 立石

「うぃ」

 

 副砲と主砲が再装填されている今がチャンスと思い、すぐさまタマちゃんに指示を出した。タマちゃんはすぐさま射撃指揮所にいるひかりちゃん、みっちん、じゅんちゃんに連絡する。

 

 立石

「主砲塔回頭、右60度、射角50度、一斉射用意」

 

 主砲が旋回を開始し、発射準備が着々と整っていく。しかし、それを悠長に待ってくれるほど比叡は甘くない。

 

 野間

「比叡の一番主砲回頭、こちらに照準合わせてきています」

 

 岬

「リンちゃん、主砲斉射後に回避運動取れるようにして。メグちゃんは着弾予測の計算を準備を」

 

 比叡もこちらを狙ってきていた。早く撃たなければと焦りが出てきてしまう。すると、丁度こちらの主砲発射準備が整ったようで、タマちゃんが指で丸を作ってサインを出していた。シロちゃんはそれにすぐ反応した。

 

 宗谷

「よし、主砲一斉射、はじめ!」

 

 立石

「てー!」

 

 晴風の長10cm連装砲が一斉に火を噴いた。それから少し遅れて比叡の一番主砲からも弾が発射された。予め回避行動を指示していた晴風はすぐさま進路を変え、回避した。結果、比叡の主砲弾は当たることなく海に着水した。一方、晴風の主砲弾は6発1発が比叡の側面装甲に命中、しかし威力が低いため装甲を抜くことはなかった。しかし私たちの狙いは比叡にダメージを与えることではない。

 

 内田

「比叡、回頭しています。晴風の後ろにつくようです」

 

 主砲斉射が功を奏したのか比叡は狙い通りこちらの誘いに乗り、晴風を追う進路を取り始めた。まずは目的の一つはクリアした。

 

 宗谷

「あとは、合流地点まで比叡を誘導ですね」

 

 岬

「うん。リンちゃんは比叡と離れすぎない程度に距離を取って、蛇行して」

 

 知床

「よ、ヨーソロー」

 

 ここからは逃げの一手だ。比叡からの攻撃をかわして、ムサシちゃんとの合流地点まで誘導しなければならない。

緊張のせいか、ギュッと握りしめていた左手を開くとすでに汗で濡れていた。

すると、シロちゃんがスカートのポケットからハンカチを取り出して、私に差し出した。

 

宗谷

「艦長、これで拭いてください」

 

 岬

「あ、ありがとうシロちゃん」

 

 私はシロちゃんからハンカチを受け取り、さっと手を拭いた。

 

 ミーナ

「ここまではなんとか上手くいったのぅ。じゃが、いつまでも回避だけじゃそう長くはもたんぞ」

 

 ミーちゃんの言う通り、これはあくまでも急場しのぎ。ここからは時間との勝負になる。

 すると、機関室へ通ずる伝声管から二つの怒号が飛んできた。

 

 柳原

「おい、比叡の誘導には成功したみてぇだけどよぉ、いつまでいっぱいなんでぃ! さっきは20分保証するって言ったけど、そう長くはもたせらんねぇよ!」

 

 黒木

「油もバカ食いしてるんだけど! さっさとしてよね!」

 

 マロンちゃんとクロちゃんの悲痛な叫びだった。比叡と事を構えてから、全速の状態でかなり無茶な回避行動を取っているため、機関にかかる負荷は相当なものになっていた。

 私はチラリとココちゃんの方を見て、状況報告を求めた。

 

 納沙

「合流地点まであと5分です。ですから、5分だけ頑張ってもらえれば」

 

 岬

「5分だね。マロンちゃん、あと5分くらいだけなんとかして」

 

 柳原

「わかった! なんとかしてやらぁ!」

 

 

 その後も晴風は比叡からの激しい攻撃に晒され続けた。比叡は晴風の真後ろにぴったりとついて、一番、二番主砲による攻撃を次々と行っていた。一方こちらは主砲の射程外の距離にいるため攻撃は出来ず、ひたすら逃げ回っていた。

 

 納沙

「艦長、間もなく合流地点です!」

 

 すると、ココちゃんから嬉しい報告が届いた。なんとか無事に合流地点まで辿り着けて、艦橋内の緊張で張りつめていた空気が少し和らいだように感じた。

 しかし安心したのも束の間、シロちゃんが不安そうな声を上げた。

 

 宗谷

「な、なぁ。ムサシさんは? 姿が見えないんだが……」

 

 私は急いで外の様子を確認したが、周辺に艦影はなかった。見張り台の野間さんからも超戦艦ムサシの姿は確認できないという報告が上がってきた。

 

 西崎

「まさか、予定より早すぎたとか」

 

 納沙

「いえ、比叡がコースから逸れたおかげでむしろ予定時刻より5分遅れていますよ」

 

 知床

「そ、そんなぁ。まさか、ムサシちゃんが遅刻?」

 

 立石

「うぅ……」

 

 艦橋内に一気に不安な空気が漂い始めていた。ここまでギリギリの状態で比叡を誘導してきたのに、肝心のムサシちゃんがここにいないのでは意味がない。私自身も予想もしていなかった事態に大きな焦りを感じていた。

 しかし悪い報告はこれだけではなかった。

 

 野間

「! 比叡、一番主砲発砲!」

 

 山下

「え、これって……」

 

 宇田

「着弾予測……、っ! 主砲弾、本艦直撃コースです!」

 

 混乱していた状況でさらに追い打ちをかけるような報告だった。

 

 岬

≪え!? 直撃? か、回避しなくちゃ……≫

 

 しかし、二度も続いた事態に私は憔悴してしまい、すぐに指示を出すことができなかった。

 

 宗谷

「艦長! しっかりしてください! 早く指示を!」

 

 シロちゃんの声で私はようやく我に返った。しかし、すでに時遅しだった。

 

 山下

「ダメです! 間に合いません!」

 

 一気に血の気が引いた感覚がした。私は最後の最後で判断を誤った。そのせいで、取り返しのつかないことになってしまった。もう、どうしようもなかった。

 

 岬

≪私は、私は……。みんな、ごめん……≫

 

 その時私は、完全に諦めてしまっていた。あるのは後悔とみんなへの謝罪だった。

 

 

 

 と、その時だった。

 

 万里小路

「艦長、海底より推進音多数。これは、海面に向かって直上しています」

 

 突然、水測室の万里小路さんから報告が入った。

 慌てて後方を確認すると、晴風と比叡の間の海面から十本以上の弾頭が飛び出していく姿が見えた。そのうち数本はそのまま直上した後に爆発、白い煙幕の壁が晴風と比叡の間にできていた。残りは空中で向きを変えて比叡の主砲弾と衝突、こちらも空中で爆発した。爆風は晴風まで届き、船体が縦に大きく揺れた。私たちは壁や床にしがみついてなんとか事なきを得た。

 

 宇田

「ひ、比叡の主砲弾、消滅しました……」

 

 そしてメグちゃんから、比叡の主砲弾が先ほどの衝突で破壊されたという報告が入ってきた。私は気が抜けてその場で倒れそうになったが、シロちゃんが慌てて肩を貸してくれた。

 

 宗谷

「艦長、大丈夫ですか?」

 

 岬

「シロちゃん、ごめん。ありがとう」

 

 私はシロちゃんに一礼して、再び自分の足で立った。

 

 宗谷

「しかし、助かったのか? 今のは一体……」

 

 納沙

「艦長、あれを見てください」

 

 ココちゃんが指差す空中ディスプレイを見ると、そこには晴風と比叡の間にもう一隻の艦が存在することを示すマーカーが記されていた。しかも、その大きさは比叡よりも大きかった。

 

 万里小路

「海底より何かが浮上します。とても大きいです!」

 

 万里小路さんの報告を受けて、私と艦橋メンバーは再び艦橋の後方を確認した。

 

 すると、海中から巨大な何か、いや軍艦が浮かび上がってきた。その姿は黒くそびえたつ鉄の城、その表面にはオレンジ色に光る不思議な模様「バイナルパターン」が浮かび上がっていた。それはまさに、「超戦艦」の名を冠するに相応しい姿だった。

 

 岬

「ムサシちゃん! ヤマトさん!」

 

 ヤマト

[皆さん、比叡の誘導ありがとうございます。ここからは]

 

 ムサシ

[私たちが引き継ぐわ!]




第十八話、いかがだったでしょうか?

艦船の戦闘シーンでおなじみの専門用語ですが、自分は知識がほとんどないのでできる限り避けながら書いてみました。
それでも多少は入れておりますが、正しく使えている気がしない。
感想等でご指摘いただければ幸いです。

次回、第十九話は
超戦艦ムサシvs.直教艦比叡 開幕!
果たして比叡はムサシとまともに勝負できるのか!?
そして、アニメとは違う比叡停止作戦の結末は?

次回も読んでいただけるとありがたいです。

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