ハイスクール・フリート ―霧の行く先―   作:銀河野郎のBOB

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皆様、しばらくぶりの本編投稿、第十七話です。
前の投稿からさらに1ヶ月、またまたお待たせしてしまいました。

今回のお話より、いよいよ比叡戦に突入いたします。
早速戦闘シーンだ! といこうと思っていたんですが、
今回はまだ戦闘に入りませんm(_ _;)m
当初は今回から戦闘に入るつもりだったのに、書き進めているうちに前準備でどんどん文字数が増えていってしまったので、分割することになってしまいました。

それでは、どうぞ!


第十七話 作戦でピンチ!

 2016年4月26日午前10時30分

 

 -ムサシside.-

 

 つい4時間ほど前、新橋商店街船の救助活動を終えたばかりの私たちと晴風であったが、晴風艦内は再び緊迫した雰囲気に包まれていた。アケノをはじめとする晴風艦橋メンバーと私は艦首方向に見える巨大な艦をずっと注視していた。

 すると、前方の艦、大型直教艦「比叡」から大きな発砲音が鳴り響いた。

 

 野間

「比叡、四番主砲より発砲! 着弾予測、左舷前方です」

 

 岬

「リンちゃん、面舵20。その後、比叡に艦側面を晒さないよう注意して舵を戻して」

 

 知床

「お、面舵20よーそろー」

 

 マチコからの報告を受け、アケノが操舵を行うリンに指示を出す。リンはこれにすぐ対応し、晴風は右の方へ流れるように舵を切った。その直後、左舷の方で大きな水柱が上がった。

 

 山下

「比叡主砲、着水を確認しました」

 

 艦橋近くで左舷監視にあたっているヒデコからの報告に艦橋メンバー達は少しホッとした様子を見せた。しかし再び表情を引き締め、比叡をしっかり見つめる。こんなことがすでに30分くらい続いている。

 

 西崎

「とりあえず、後ろについていればなんとかなりそうだね」

 

 立石

「うぃ」

 

 納沙

「だけどこのままだと一三○○にはトラック諸島に到達してしまいます。ブルーマーメイドの到着見込みが一四○○ですので、何か手を打たないといけませんね」

 

 比叡は現在、速力15ノットでトラック諸島へ向けて真っ直ぐ進路を取っている。そして比叡はこちらの呼びかけに応じず、一方的にこちらを攻撃してきている。この状況から、私たちは比叡が例のネズミもどきのウイルスに感染している疑いがあると判断した。

 コウコたちが心配しているのは、このまま比叡がトラック諸島に到達した場合、ウイルス感染がさらに広がることだ。この世界のトラック諸島は太平洋上の海洋交通、海上運輸の要所であり、居留人口が1万人を超える一大拠点となっている。そんな場所にウイルスが持ち込まれたとしたら、世界中に感染が広まることは必至だ。よって、比叡のトラック侵入はなんとしてでも阻止しなければならない。

 しかし当然、それは簡単なことではなかった。

 

 ミーナ

「そうじゃな。はようせんとトラックの人にウイルスが感染してしまうからの。アケノ、どうするつもりじゃ?」

 

 岬

「そ、それは……」

 

 ミーナからの質問に言葉を詰まらせるアケノ。比叡発見から30分ほどたっているが、アケノは未だ有効な手段を見出せずにいた。ミーナは副長のマシロにも目を向けるが、マシロも首を横に振っている。

 

 ムサシ

≪それにしてもよりによって、比叡、とはねぇ……≫

 

 私はかつて私の元で蒼き艦隊と戦った同じ名前を持つ大戦艦のことを思い出していた。この世界に来る直前に私が行った人類への最後通告、その布告を行った直後に彼女は私にある問いを投げかけてきた。

 

「幸せ」とは一体何なのか?

 

 その問いに対して、私は霧には元々個の概念がなくアドミラリティ・コードによって全てが定まった存在であると説いた。そして、最後にこう付け加えた。

 

 ムサシ

≪「私たちはすでに幸せなの」、ね。今考えればとんでもないことを言ったものね≫

 

 あの時の私はただアドミラリティ・コードに従うことが全てと決めつけながら、ヤマトに会いたい一心で執拗に401を狙い続けていた。そんな私が「幸せ」など当然知るはずもなかった。だが、霧の超戦艦としてそう答えることしかできなかった。

 今となっては過ちを正すことも、彼女に謝ることもできない。せめて、アドミラリティ・コードから解放された彼女やその仲間たちが本当の「幸せ」を掴めることをこの世界から祈る他なかった。

 

 ムサシ

≪あの子、私以上の堅物だからね。苦労していなきゃいいけど≫

 

 

 そんな昔を懐かしむのをやめ、私は隣に立つ私の姉、ヤマトに目を向けた。

 ヤマトは比叡がトラック諸島に到達する可能性があるというコウコの報告を受けてから、ずっと演算リングを展開して考え込んでいた。おそらく、比叡をどうにかするためのシミュレーションを行っているのだろう。

 ヤマトは霧の艦隊の総旗艦、そのユニオンコアは同型艦である私のそれをさらに上回る演算能力を有している。その桁外れの力を存分に使い、この状況を打破しようとしている。さらに、ヤマトにはイ401の中にいた時に得た蒼き艦隊の膨大な対霧戦の記憶がある。私たち霧の艦隊を散々苦しめてきた千早群像の戦略が、今ヤマトの手によってこの世界で花咲こうとしている。

 

 ヤマト

「……よし、これなら、いけるかしら」

 

 ようやく考えがまとまったのだろう。ヤマトはリングを収納して口を開いた。そして、私に対して概念伝達で私に話しかけてきた。

 

 ヤマト

【ムサシ、ちょっといいかしら?】

 

 ムサシ

【そろそろ来る頃だと思っていたわ。それで、作戦は纏まったのかしら?】

 

 ヤマト

【とりあえずね。今から作戦案を共同戦術ネットワークにアップロードするわ】

 

 ヤマトがそういうと、共同戦術ネットワークに膨大な作戦データが一瞬の内にアップロードされる。私はそのデータをすぐさま自分のコアに格納した。

 人間の技術や能力ならば、この作戦の全容を完璧に把握するにはそれなりの時間と労力が必要となるだろう。しかし、私たちは霧の艦隊。高い演算能力を有するユニオンコアとあらゆる情報をほぼタイムラグなしにやり取りできる概念伝達を用いることで、1秒足らずの時間で作戦の全容を把握することができた。

 しかし、その作戦内容に私は驚いた。

 

 ムサシ

【おねえちゃん、これって……】

 

 ヤマト

【そう。これが私の考えうる最善手。明乃さんたちにも、ましろさんのお母様にも納得してもらうための作戦よ】

 

 この時、私はその作戦は千早群像の影を見たような気がした。おそらくヤマトは、彼ならどうするだろう、ということを意識して作戦を立てたのだろう。

 すると、ヤマトは私の考えを察したのか、苦笑いをしながらさらに続けた。

 

 ヤマト

【でも、群像さんの作戦に比べたら穴だらけで稚拙なものだけどね。やっぱり私はまだまだね】

 

 ヤマトは少し落ち込んだ様子だった。私はヤマトが少し焦っていることが気になった。その理由を聞いてみようと思ったが、今は時間がない。とりあえずヤマトを落ち着かせることを優先することにした。

 

 ムサシ

【焦る必要はないんじゃない? 千早群像は私たち霧との命がけの戦いの中で、その戦術を昇華させていった。いくら私たちでも、それを一日二日で習得するのは不可能ということよ】

 

 ヤマト

【そうね。ごめんなさい、少し急ぎすぎていたのかもしれないわね】

 

 私の言葉でヤマトは落ち着いたようで、いつもの優しい笑顔に戻ってくれた。

 

 その後、私はヤマトとともに作戦の詳細を詰めていくことになった。ヤマトが立案した作戦には、私がこれまで使用したことのない新兵器がいくつか使用されている。それらの準備に必要なナノマテリアルの量、時間を確認した。さらに戦闘シミュレーションを入念に行い、不測の事態にも対応できるようにした。

 こうして纏めた作戦立案書のデータを携えて、ヤマトと私はアケノのところへ向かった。どうやらアケノ達の方も作戦を考えていたようで、アケノの手元には手書きの作戦立案書が握られていた。

 

 岬

「ヤマトさん、ムサシちゃん、ちょっといいですか? 比叡を止めるための作戦を考えてみたんです。聞いてもらえますか?」

 

 ヤマト

「ええ。私たちも比叡への対抗策を考えていたの。お互いの作戦を確認し合いましょう」

 

 岬

「は、はい!」

 

 

 

 まずは、アケノたちが考えた作戦について艦橋メンバーと私たちで確認を行った。

 

 アケノたちの作戦は、比叡を深度の浅い海域に誘導し座礁させて動きを封じるというものだった。これは真下にある海図室から多聞丸と五十六が追い出された時に、五十六が穴に詰まって動けなくなったのを見たアケノが思いついたものだという。

 この作戦のキモは、晴風と比叡の吃水の違いだ。晴風の吃水は3.8メートル、それに対し比叡の吃水は9.7メートル、その差は約6メートルある。この吃水の差を利用し、深度10メートルほどの海域に比叡をおびき寄せて座礁させようという魂胆だ。そして吃水が比叡よりも大きい私ことムサシには作戦海域の外からの攻撃などで晴風を援護してもらうとなっていた。

 しかし、この作戦にはリスクが二つ存在する。

 一つは座礁させるまでの間に晴風は比叡の攻撃に晒され続ける。晴風は速力で上回るとはいえ、比叡の主砲または副砲を一発でも当たれば致命傷だ。それに対してアケノは以前武蔵と対峙した時のようにヤマトのクラインフィールドで対策したいとのことだ。

 そしてもう一つのリスクは、晴風メンバーの疲労だ。晴風乗員は先ほどまで新橋救助活動で徹夜の救助活動を行っており、その疲れを取る暇もなく比叡追跡の任務に就いている。そのような万全でない状態で、これだけギリギリな作戦を遂行することができるかは正直難しいかもしれない。

 しかしそれらのリスクを差し引いても、アケノたちの案はしっかりまとめられており、実行可能な作戦であった。

 

 アケノたちから説明を受けた後、続けて私とヤマトの作戦について説明した。詳細は立案者であるヤマトが中心となって行い、私はその補助をする形式を取った。

 説明の中で次々と出てくる未知の兵器の数々に、アケノたち艦橋メンバーは驚くと同時に興味津々といった様子だ。特にメイは目を輝かせて「私も撃ちたい!」と言ってくるが、それをシマが宥めている。

 

 そして全ての説明を終え、全員が二つの作戦について把握したタイミングでマシロが口を開いた。

 

 宗谷

「それでは艦長。どちらの作戦で進めますか?」

 

 岬

「うん、そうだね……」

 

 マシロの問いに対して、アケノは右手を口元に寄せて考え込む。

 1分ほど考えた後、アケノは決断を下した。

 

 岬

「私たちで一つに絞るのも悪くないけど、まずは両方の作戦を校長先生に伝えてみるのはどうかな? 最後は校長先生の許可が必要なんだから、両方評価してもらおうよ」

 

 アケノの言う通り、作戦実行の承認を出すのは晴風の所属する横須賀女子海洋学校の校長であり、マシロのお母様である宗谷真雪だ。彼女に二つの作戦から判断してもらうのは、悪くないことだと思った。

 

 宗谷

「私は艦長のご意見に異存はありません。ヤマトさんたちはどうですか?」

 

 ヤマト

「私も異存ないわ」

 

 ムサシ

「私も同じくよ」

 

 艦橋メンバー達の確認を取り、まずは宗谷真雪の判断を仰ぐこととなった。

 

 岬

「つぐちゃん、学校への回線を開いて。校長先生へ連絡します」

 

 

 

 -真雪side.-

 

 晴風より比叡発見の一報を受けてから、すでに1時間半近くが経過していた。

 私と真霜は校長室でその状況を確認し合っていた。すでに真霜の指示で次女の真冬が率いるブルーマーメイド任務部隊を派遣しているが、到着までまだ時間がかかる。その間、監視の任務に就いている晴風は比叡からの攻撃に晒され続けることになる。安全を最優先にするよう指示を出しているとはいえ、いつ不測の事態が起こるかわからない現状に、私も真霜も歯がゆい思いを噛み締めていた。

 

 そんな状況の中、教頭から私に晴風からの通信が入ったという連絡がきた。

 私はすぐに晴風につなげるよう指示を出すと、回線が切り替わり、晴風の岬艦長の声が校長室内に響いた。

 

 岬

 [晴風艦長の岬明乃です。現在、私たちは比叡監視の任に就いていますが、校長先生に至急報告したいことがあります]

 

 岬艦長の声色から、不測の事態が起きたのではないかと推測し、私と真霜は一層気を引き締めて次の言葉を待った。

 

 岬

 [比叡はなおも我々に砲撃を続けており、呼びかけにも応答しません。以上の状況から、比叡の乗員は今朝送付させていただきました報告書のウイルスに感染しているものと推測いたします]

 

 真霜はその報告に、やはりそうか、と納得の表情をしていた。先ほどまで真霜と話していたRATtの持つウイルスに生徒が感染したという推測が、岬艦長からの報告で確信に変わった。

 しかし、岬艦長からの報告はまだ終わらなかった。

 

 岬

 [さらに、比叡は現在トラック諸島に向けてまっすぐ進路を取っています。到達予想時刻は一三○○、ブルーマーメイドの部隊の到着に間に合いません。このままでは、トラック諸島の住人にウイルスが感染し、さらに出入りする船舶を通じて世界中にウイルスが広まる可能性が高いと思われます]

 

 あまりにも急を要する事態に私も真霜もさすがに驚きの表情を隠すことができなかった。ウイルスに感染した生徒を乗せた艦が陸地に到達したときに起こることを想定していないわけではなかった。しかし、こんなにも早く現実になると、否応なく慌ててしまった。しかし、私はこれを事前に察知することができたと考え直し、なんとか落ち着きを取り戻した。

 そして、岬艦長がこの状況下で落ち着いた様子で報告していることから、彼女にはすでに策があることを察した。

 

 真雪

「それで岬艦長、あなたはこの事態に何か対抗策があるというのですね?」

 

 岬

 [はい。今お送りしたメールに比叡を止める作戦立案書を添付してあります。確認していただいて、実行の許可を願います]

 

 机の上のパソコン端末を開くと、岬艦長からの報告メールが届いていた。そこには二つの作戦立案書のデータが添付されていた。一つは「岬明乃案」、もう一つには「ヤマト案」という題名がつけられていた。

 

 真雪

「あなた達がそれぞれ考えてくれたのね。感謝するわ」

 

 私は岬艦長に礼を述べ、真霜とともに報告書を開いて確認する。

 二つの報告書は要点を押さえてしっかりと纏められており、時間が惜しいこの状況下でも作戦の概要を理解しやすいものとなっていた。さらに、作戦内容も二つともよく考えてられており、私も真霜もよく考えてくれたと感心してしまった。

 

 15分ほどで二つの立案書を読んだところで、真霜は返答を待ってもらっていた岬艦長に声をかけた。

 

 真霜

「岬艦長、宗谷一等監察官です。ヤマトさんの案で確認したいことがあるので、換わってもらえないかしら?」

 

 岬

 [わかりました。ヤマトさん、宗谷監察官が換わってほしいって]

 

 岬艦長の呼びかけから少しすると、電話越しから凛とした声が聞こえてきた。

 

 ヤマト

 [お待たせしました。霧の艦隊、総旗艦ヤマトです]

 

 初めて聞いた霧の艦隊総旗艦、ヤマトさんの声。以前真霜から自分と声がそっくりだと聞いていたが、それは本当だった。ここまで似ているものか、と驚いてしまった。

 しかし、今はそうしている場合ではなかった。私は気を取り直して、ヤマトさんに問いかけた。

 

 真霜

「ヤマトさん、あなたの作戦案について確認したいことがあります」

 

 真霜はヤマトさんの案に強い興味を示していた。決して岬艦長の案が悪いと思ってはいないだろう。しかし、人間とはこれまでにない技術に惹かれるもの。ヤマトさんの案にはそれらが数多く使用されており、真霜もそれらに魅力を感じたのだろう。

 

 真霜

「あなたの作戦の要である「兵器」、これは間違いなく比叡の生徒たちを傷つけることがないという確証はあるのでしょうか?」

 

 真霜が気にかけていたのは、比叡を止める際の要となる「兵器」の安全性についてだった。立案書には、その「兵器」は艦には大きな効果を発揮するが、中に乗る人間に対しては影響がほとんどないという画期的なものだと記されていた。さらに、ウイルスに感染した生徒の動きも封じることもできるとも謳っていた。もしこれが本当ならば、比叡に乗る生徒の安全を確保しつつ動きを封じることができる。

 しかし、それを簡単に信じて実行に移すことは指揮官として愚かなことだ。真霜はヤマトさんにその確たる証拠を求めているのだ。

 

 ヤマト

 [その質問に対しては、立案書の後ろに添付している検証結果が証明しています。晴風の衛生委員、鏑木美波さんも検証にご参加されてその効果を確認しております]

 

 ここで再び稀代の才女、鏑木美波の名前が出てきた。ヤマトさんは鏑木美波とともにRATtについて調べあげ、その詳細な報告書を我々に提出してくれた功労者だ。その際に、RATtに対する対抗手段を検証していたとしてもおかしくはない。

 真霜はヤマトさんが示した検証結果のページを読み終えると、納得した表情をしていた。

 

 真霜

「ありがとうございます。では、私の意見を述べさせていただきますね」

 

 一呼吸を置いて、真霜は自分の決断を述べた。

 

 真霜

「私は、ヤマトさんの作戦を支持いたします」

 

 真霜はヤマトさんの作戦案を選択した。ブルーマーメイドの指揮官として、人的被害を最小限に抑えることを考えたのだろう。

 しかし同時に、真霜はさらに考えがあるようだ。

 

 真霜

「ただし、条件としてあなた方霧の艦隊の戦闘を映像として記録していただきたいのです。いかがでしょうか?」

 

 真霜は比叡との戦闘で霧の超戦艦ムサシの実力を測ろうとしている。先ほど読んだムサシの報告書の真偽を確かめ、彼女たちが人類と共存するに足る存在かを見極めようとしていた。

 

 真霜からの要望にヤマトさんはわずかに沈黙していたが、すぐに口を開いた。

 

 ヤマト

 [……わかりました。宗谷監察官の要求を呑みましょう]

 

 真霜

「ご協力感謝します」

 

 ヤマトさんは真霜の要求を飲み、これで真霜はヤマトさんの案に賛同することになった。

 

 後は私の判断を残すのみとなった。

 

 私は当初、岬艦長の案を選ぼうと考えていた。入学してまだ1か月足らずでこのような事件に巻き込まれたにも関わらず、晴風の新入生たちはいくつもの困難を自分たちの力で乗り越えてきている。そんな素晴らしい生徒の立てた作戦を承認してあげたい、そう考えていた。

 しかし、それは私の感情だ。指揮官としての判断としては不適切だろう。そして、どちらが生徒たちに危険が及ばないかと考えると、やはりヤマトさんの案の方が間違いなく良いのだ。もちろん超戦艦ムサシに危険が及ぶことになるが、彼女たちは先の報告書で比叡程度は脅威ではないことを示している。

 そして、先ほどの真霜とヤマトさんとのやり取りを聞いて、私の心は固まっていた。

 私は、岬艦長達に最終判断を述べることにした。

 

 真雪

「私も、ヤマトさんの案を採用したいと思います。しかし、岬艦長の示した案もよくできています。私は岬艦長の案を、ヤマトさんの案が失敗した際の保険として作戦に組み込むこととします」

 

 この判断は、晴風の生徒たちと霧の艦隊、そして私自身の気持ちを納得させるためのものだ。所詮は私の我儘なのかもしれない。それでも、私は生徒たちの想いを無駄にしたくないと思ってしまった。

 

 岬

 [わかりました。では、ヤマトさんの作戦が失敗した際には私たちの作戦が実行できるよう、作戦をすぐに組み直します]

 

 こうして、私と真霜を交えて話し合いを実施し、最終的な作戦を組み上げた。

 

 真雪

「それでは、現時刻より晴風ならびに超戦艦ムサシは比叡停止の作戦行動に入ってください。フェーズ1開始時刻は一二四○!」

 

 真霜

「作戦の指揮は、岬艦長とヤマトさんのお二人にお願いします」

 

 岬

 [了解です!]

 

 ヤマト

 [こちらも了解いたしました]

 

 こうして、この世界における霧の艦隊の初陣であり、人類との初の共同戦線となる比叡停止作戦が決行されることとなった。

 

 

 

 

 そしてこの作戦で、私たち人類は思い知ることとなった。

 

 霧の艦隊の持つ圧倒的な力と、人類との圧倒的戦力差を。

 




第十七話、いかがだったでしょうか?

今回は作戦立案というシーンのみでしたが、これから本格的に霧の艦隊を動かしたいのなら、真雪さんや真霜さんとの交流を持っておく必要があるのでは?と思ったので、こういう話を間に挟んでみました。

次回、十八話は
いよいよ比叡との戦闘が切って落とされた。
作戦の第一フェーズ、晴風に課せられた任務は……
その時、超戦艦ムサシは!?

次回も読んでいただけるとありがたいです。

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