ハイスクール・フリート ―霧の行く先― 作:銀河野郎のBOB
第十一話でございます。
前回の投稿が12日、十日近くも間が空いてしまいました。
言い訳は後書きにて。
前回、超戦艦ムサシの調査を開始した晴風クラス一同。
その続きとなります。
それでは、どうぞ!
2016年4月17日午後3時
-ムサシside.-
ムサシ
「そして、もう一つが……」
その先を言いかけたところで私は思わず口を止めてしまった。
これから話す「アレ」について本当に話してしまっていいか、私は少し悩んでしまった。
安全監督室からの依頼とはいえ、アレはこれまで説明してきた兵器とは比べ物にならないほど強力なものだ。
いたずらに恐怖心を煽ってしまい、ヤマトの描く未来を閉ざしてしまうかもしれない、そう考えてしまった。
晴風のみんなは、突然黙ってしまった私に対して心配と疑問の表情を浮かべている。
すると、私を心配したヤマトが近づいてきた。
ヤマト
「ムサシ、アレについて話すつもりなのね?」
ムサシ
「う、うん」
私の返答に対して、ヤマトは目を閉じて何かを考え始めた。
しばしの沈黙が続く。
短い時間だったが、私にとってはとても長い時間に感じた。
そして、再び私に向き合った時のヤマトの表情は、
笑顔だった。
ヤマト
「ムサシ、ありがとう。私のことを心配してくれて。でも、私のことは大丈夫だから。これくらいの困難、ちゃんと乗り切ってみせるわ。だって、私はムサシのお姉ちゃんだもの」
私はヤマトの頼もしい言葉に嬉しさを感じていた。
ヤマトが私の背中を押してくれている、そのことがただ嬉しい。
私はヤマトに感謝し、再びみんなと向き合った。
ムサシ
「ごめんなさい、少し話が途切れさせてしまって」
宗谷
「それで、クラインフィールドに対するもう一つの対抗手段とは?」
マシロの言葉に私は一呼吸おいた。
ムサシ
「もう一つの対抗手段、それが「超重力砲」。数ある霧の兵器の中でも最高の威力を誇る兵器よ」
岬
「霧で、最強の兵器……」
言葉を発したアケノだけでなく、この場にいる他のみんなもどういうものか気になっている様子だ。
私はさらに言葉を続ける。
ムサシ
「詳しい原理は省略するけど、長距離かつ広範囲に重力波、要は大口径のビームを照射する兵器ね。直撃したら例え超戦艦級でもクラインフィールドは一瞬で崩壊、運よく避けても掠っただけで強制波動装甲への蓄積エネルギー量は相当なものになるわ。連続して使用すると地球環境にすら甚大な影響を及ぼす、まさに超兵器ね」
人類では決して破れないクラインフィールドを一瞬で破る兵器、そう聞いた晴風のみんなは驚きの表情を隠せない。
納沙
「ちなみに、弱点とか止める手段はないんですか?」
ムサシ
「もちろん弱点がないわけではないわ。超重力砲の使用にはいくつかの発射シークエンスを順に踏んで行うけど、その際に非常に膨大な演算リソースを消費する。例え大戦艦級であっても、使用時には演算に集中する必要があるから、フィールドなどの他の演算処理は疎かになってしまうわ。さらに、発射の際には発射方向のクラインフィールドを解放しなければならないから、その穴から攻撃を通すことができれば、発射前に阻止することは可能ね」
要は撃たれる前に阻止するという手段だ。
基本的に超重力砲を防ぐ手段はこれしか存在しない。
西崎
「つまり、撃たれちゃったらおしまいってこと?」
確かにメイの言う通りだ。
だが、唯一の例外が存在する。
ムサシ
「発射された超重力砲を防ぐ方法はたった一つだけあるわ。それが「次元空間曲率変位システム」、通称「ミラーリングシステム」と呼ばれる兵装」
ヤマト
「ミラーリングシステムは、私達超戦艦級しか装備することができない対超重力砲専用の特殊兵装よ。展開すると、別次元への扉が開かれて、超重力砲をそこに相転移させて無効化することができるわ」
西崎
「え、ええとぉ……、ごめん、正直よくわかんないです」
立石
「……難解」
私とヤマトの説明にメイやシマだけでなく、ほとんどのみんながよくわからないといった様子だ。
数ある霧の兵装の中でもごく一部の例外を除いて装備しているのが私とヤマトしかいない特殊兵装、言葉だけで説明するのは難しい。
ムサシ
「超重力砲とミラーリングシステム、この二つの兵装は以前見せた「大海戦」の時には人類相手に一度も使用することのなかったわ。そして、この世界の戦力は私たちが元いた世界とは大して変わらない。つまり、この世界でも人類相手には使う必要のないものというわけね」
私は少し威圧気味に言った。
でも、これでいい。
これから人類と共存していく上で、この二つは必要のないものだ。
危険性さえ匂わせておけば、安全監督室も下手に手を出してこないだろう。
日置
「でもさ、その二つの武器ってどこにあるの? 見た感じ甲板上には無さそうなんだけど? どんなものか見てみたいな」
まっすぐに手を挙げてジュンコが質問してきた。
そんなジュンコに対して、近くにいるミチルは止めるよう訴えている。
超重力砲とミラーリングシステムは通常時、艦の中に収納されているため、今の状態ではその姿を見ることはできないようになっている。
ムサシ
「そうね、見せるだけなら大丈夫かしら?」
ヤマト
「そうね。ここまで説明して実物を見せないのも変な話だし、見せてもいいんじゃないかしら」
ヤマトの賛同を得たところで、私はムサシ艦内全域に対して呼びかける。
ムサシ
「ムサシ艦内にいるみんな、ちょっと見せたいものがあるから、一度甲板に出てもらえないかしら」
-明乃side.-
ムサシちゃんの呼びかけで艦の中で調査をしていた人たちを甲板上に集められた後、私たちは晴風の甲板に移動した。
ムサシちゃん曰く、艦の甲板上からは見えない場所に兵装があるため、艦全体が見える晴風に場所を移したのだという。
日置
「いよいよだね! ヒカリちゃん、楽しみだね」
小笠原
「うん! ワクワクするよぉ」
武田
「もう、二人とも仕方ないんだから」
見たいと最初に言ったじゅんちゃん、そしてヒカリちゃんは今か今かと楽しみにしている様子だ。
実は私もワクワクしているのだが、あえて口には出していない。
でもシロちゃんにはバレていたみたいで、呆れ顔をされてしまった。
どうやら顔に出てしまったようだ。。
ムサシ
「それじゃ、今から兵装を展開するわよ」
ムサシちゃんはそう言うと、体から光のリングを出して両手を広げた。
すると、それに合わせて超戦艦ムサシの船体からゴゥゴゥという音が鳴り響いた。
そして、私たちは信じられない光景を目にした。
なんと、艦が吃水線付近から上下に割れ始めたのだ。
さらに同時に左右にあるバルジ付近も左右に展開している。
あまりに現実離れした光景に、先ほどまではしゃいでいたじゅんちゃん達を含めクラスのみんなも唖然としてしまっている。
納沙
「おおおおお! すごいです、これぞロマンあふれる変形シーン! アニメでは見慣れたものですが、実際に見ると迫力が違いますね!!」
ミーナ
「あぁ、こいつはすごい! こんなことが現実で見れる日がくるとはなぁ」
最近共通の趣味ですっかり意気投合したココちゃんとミーちゃんは興奮気味だ。
二人は普段ココちゃんが小芝居でよくやっている任侠モノの他に、SFモノも好きなようで、目の前の光景はまさに夢の実現そのものなのだろう。
上下に大きく割れた超戦艦ムサシがその動きを止めると、割れた部分の中から円形の機械が起き上がってきた。
どうやら艦の中に収納されていたものを展開しているようだ。
起き上がった円形の機械はレンズのような形状をしており、私たちが見ている左舷側には青色のものが8つと少し大きい赤色のものが4つ、合計12個が見える。
右舷にも同じものが配置されており、さらに艦橋下の中央付近には金色のあばら骨のような構造のパーツが見える。
ムサシ
「これが超戦艦ムサシの展開形態。超重力砲とミラーリングシステムを使用する際にはこの形態に変形する必要があるの」
変形が終わり、ムサシちゃんの説明が再開された。
ただでさえ巨大なムサシの船体が上下に大きく展開されたことで、さらに威圧感が増したように感じる。
ムサシ
「今見えているレンズ状のユニット、その中で青色のものが超重力砲の発射口で超戦艦ムサシには全部で16門装備しているわ。少し大きめの赤色のユニットが、ミラーリングシステムを展開するものね。これは8個一組として運用しているわ」
遠目から見てもわかるくらい大きな発射ユニット、あの一つ一つから強力な超重力砲が放たれるということだ。
その光景がどんなものか、私には全く想像できなかった。
すると、私のムサシちゃんの傍にいるココちゃんの隣に、メイちゃんとタマちゃんが近付いて何かを話しているようだ。
西崎
「ねぇ、ダメ元でいいからお願いしてみようよ」
納沙
「確かにお願いするだけなら簡単ですが、さっきまでの話を聞いているととても許可されるとは思いませんよ?」
立石
「玉砕、覚悟」
何の話をしているのだろう?
すると、メイちゃんとタマちゃんがムサシちゃんの元に移動し、何かを決意したような表情で正面に立った。
ムサシ
「メイ? どうしたの?」
ムサシちゃんがメイちゃんに尋ねる。
そして、メイちゃんの口からとんでもない言葉が飛び出した。
西崎
「ムサシちゃん、1回だけ、1回だけでいい! 実際に超重力砲を撃っているところを見てみたい! 無茶なお願いだってわかってるけど、お願い!」
立石
「おねがい、します」
なんと、ムサシちゃんが最強の兵器と言った超重力砲を試射してほしいというのだ。
メイちゃんとタマちゃんがムサシちゃんに向かって大きく頭を下げて懇願している。
そして、他の晴風クラスのみんなは突然のメイちゃんのお願いに言葉を失っている。
私も予想外の言葉にどうすればいいのかわからないでいた。
宗谷
「西崎さん! 何を言っているんだ。そんなこと、ムサシさんもヤマトさんも許可するはずがないだろう」
西崎
「わかってるよ。でも、どんなものかもわからないままじゃなんかモヤモヤするもん。それに、水雷長として責任を持ってちゃんと見ておきたいんだよ」
立石
「私も、同じく」
西崎
「タマだってこう言ってる。それに、副長だって私たちと同じ砲雷科でしょ。ちゃんと実物を見たいって思わない?」
宗谷
「ま、まぁそうだが……」
いつも撃て撃て魂で艦橋を盛り上げてくれるメイちゃん、そして静かだけど秘めたる熱い心を持つタマちゃん、二人の力強い説得にさすがのシロちゃんも押されてしまっている。
確かに、実際に見ることができるのなら私だって見てみたいと思う。
でも、超重力砲は地球環境にさえ影響を及ぼしてしまうほどの超兵器だ。
試射とはいえ、そう簡単に撃たせてもらえるはずがない。
ムサシ
「メイ、それにシマ、あなた達の気持ちはよくわかったわ。でも、これは試射であっても簡単に撃っていいものではないということは、これまでの説明でわかるわよね?」
西崎
「う、うん。わかってるよ」
立石
「う、うぃ」
ムサシちゃんの問いかけにメイちゃんとタマちゃんは少し言葉を濁しながらも答えた。
先ほどメイちゃんも言っていたが、無茶なお願いだということ二人だってわかっている。
それでも二人はお願いした。
それだけ見たい気持ちが強いということだ。
こういう時、艦長である私はどうしたらいいんだろう。
ムサシ
「私は、やっぱり反対ね。さっきも言った通り、超重力砲はこの世界で――」
ヤマト
「待って。ムサシ、ちょっといいかしら?」
すると、これまで黙っていたヤマトさんが突然ムサシちゃんの言葉を遮って話し出した。
ムサシ
「ヤ、ヤマト? どうしたの急に」
戸惑いながらもムサシちゃんがヤマトさんに尋ねる。
ヤマト
「ねぇ、ムサシは本当にみんなに超重力砲を隠したままでいいと思っている?」
ムサシ
「え!?」
ヤマトさんの予想外の言葉にムサシちゃんは驚きの表情を隠せないでいる。
まさか、ヤマトさんは試射に賛成だというのだろうか。
ヤマト
「確かにムサシの言うことは間違いないと思う。超重力砲はこの世界、いえ元いた世界ですらあまりに強力な兵器。だから、下手に見せたら人類に恐怖を植え付けるだけ」
ムサシ
「だったらどうして? 見せずに事が上手く進むなら、それで何も問題ないじゃない」
ヤマト
「でも、あなたは自分から超重力砲の存在を明かした。それはここにいるみんなには隠し事をしたくないというあなたの気持ちがあったから。そうよね?」
ムサシ
「そ、それは……」
そう、明かす必要がないなら最初から私達に超重力砲の存在を話す必要なんてなかったはずだ。
なのに、ムサシちゃんはその存在をヤマトさんに相談してまで明かした。
ムサシ
「私、本当はこれ以上みんなに隠し事をしたくないの。まだ自分のことすらみんなに明かせていないけど、この前ちょっと色々あってようやくみんなに私のことを話せそうになっているの。でも、ここで隠し事をしたらまた逆戻りしそうで……」
黒木
「ムサシ……」
ムサシちゃんはまだクラスのみんなに話せていないことがあるようだ。
そして、そのことに後ろめたさを感じている。
だから、ここでさらに隠し事を増やすことに不安を感じているんだ。
ヤマトさんはそのことに気づいていた。
なら、私がしてあげられることはある。
私は一歩踏み出してムサシちゃんに近づいた。
岬
「ムサシちゃん、私もいいかな?」
ムサシ
「アケノ?」
ムサシちゃんが不安と戸惑いの表情で私を見つめてくる。
岬
「私ね、ムサシちゃんがみんなに隠し事をしたくないって気持ち、すごく嬉しかった。本当なら話さなくてもいいことをみんなに教えてくれた。だから、メイちゃんには悪いけど、ムサシちゃんにこれ以上無理に聞き出そうなんて思わないよ」
西崎
「艦長……。ごめんねムサシちゃん、ちょっと軽率だったかも」
立石
「う、ごめん」
ムサシ
「そ、そんな。二人が謝ることじゃないわ」
私の言葉に、ムサシちゃんへ謝罪したメイちゃんとタマちゃん。
私はそんな様子を見た後、自分は言葉をつづけた。
岬
「でね、私考えたの。超重力砲の試射、もしやるとするなら私達だけの秘密にしようと思うの。報告書にはとりあえず存在だけ記録しておいて、後は私から校長先生とシロちゃんのお姉さんには説明しておくよ。こうすれば、ムサシちゃんの気持ちにも応えられるんじゃないかな?」
ムサシ
「それで、いいの?」
岬
「うん。ちょっと無茶言っているかもしれないけど、これならムサシちゃんもみんなも納得できるんじゃないかな?」
ヤマト
「私も、明乃さんの考えに賛同するわ。幸い、この島は人類からはあまり認知されていないようだから、密かに試射するにはうってつけね。撃たれた超重力砲は、ミラーリングシステムでなんとかできるし、いけるんじゃないかしら」
私の考えにヤマトさんが賛同してくれた。
ムサシちゃんは少し目を閉じて考えた後、再び私とヤマトさんに向き合ってくれた。
その顔にもう戸惑いの色はなかった。
ムサシ
「二人とも、ありがとう。私のことも考えてくれて。おかげで決心がついたわ」
こうして、この世界で初めての超重力砲の試射が行われることになった。
ムサシ
「こちらムサシ、所定地点に移動完了。周囲半径100kmに他の船の姿は確認できないわ。こちらは発射準備、いつでもいけるわ」
ヤマト
「こちらヤマト、標的用デコイの設置完了。ミラーリングシステム展開場所への移動も完了しているわ」
晴風甲板上に映し出されている空中ディスプレイにムサシちゃんとヤマトさんの映像が流れている。
空中ディスプレイには、超戦艦ムサシや発射線軸上の海の映像など、ムサシちゃんが用意したカメラからの映像がいくつも映っている。
超戦艦ムサシはすでに展開状態となっている。
そして、晴風の真正面には標的となるデコイが海上に浮いている。
宗谷
「しかし外見だけとはいえ、こんなものまで作ってしまうとは驚きだな」
岬
「うん、まさか武蔵を作っちゃうなんてね」
デコイとして作られたのは、ムサシちゃんが先日スキャンした直教艦武蔵、その実物大の模型だ。
先ほどまでのこの島にあるナノマテリアルをかき集めて作られる姿は、銀色の粒子が空中を舞うとても幻想的で綺麗な光景だった。
ムサシ
「ヤマト、ミラーリングシステムのレンズユニット1番と2番のコントロールキーを譲渡するわ。キーを受信したらユニットを自由に動かせるわ」
ヤマト
「うん、キーコードを受信したわ。ムサシのミラーリングシステムのコントロール開始、レンズユニット二基を私の傍に」
ヤマトさんの声とともに超戦艦ムサシの艦首下にある大きな赤いユニットが2つ分離された。
ユニットはそのまま空を飛び、私たちの前を通過してヤマトさんの元へ移動していった。
ムサシ
「よし、準備完了ね。晴風のみんな、これから発射準備に入るわ。もう一度言っておくけど、覚悟して見なさいね」
いよいよ超重力砲の発射体制に入る。
超戦艦ムサシの映像を見ると、船体から分離した左右8個ずつの青いユニットが縦一列に並んでいく。
ムサシ
「超重力砲、左舷8門および右舷8門を縦斉射形態へ。砲門のエネルギーライフリングの同調を開始、重力子エネルギー縮退域へ」
左右に展開された超重力砲ユニットから赤い粒子が収縮するように集まり、ものすごいエネルギーを発しているのが映像だけでなく、肉眼でも確認できる。
納沙
「すごいです。こんな光景、記録に残せないのが悔やまれます」
ミーナ
「それはムサシたちのためじゃ。せめてしっかり目に焼き付けておかんとな」
隣に居るココちゃんとミーちゃんも今流れている光景に圧倒されている。
そして、こうしている間にもエネルギーはどんどん収束していく。
ムサシ
「エネルギー縮退率、40%。照準を正面5km先のデコイの武蔵にセット、完了。ロックビーム射出!」
すると、超戦艦ムサシの正面から光の柱が海上を走り、デコイを貫通して通過していった。
そしてその直後、私たちはまた信じられない光景を目にすることになった。
光の柱は左右に割れ、そのまま海を割ったのだ。
西崎
「う、海が……」
立石
「割れ、た……」
聖書のモーセの十戒の一説にある光景が今私たちの目の前で繰り広げられている。
六角形状のパネルがいくつも並べられた壁が海を押し広げ、それがデコイ目掛けて進んでいく。
そして、割れ目はデコイを超えてその先にいるヤマトさんの場所まで一本の大きな道となった。
その割れ目の中には雷のようなものが無数に迸っている。
宗谷
「む、ムサシさん! この現象は、一体!?」
ムサシ
「これはロックビーム。大戦艦級以上が超重力砲発射の際に、強力な重力場を放って対象を固定するものよ。これに捉えられたら、そう簡単に逃げられない」
目標である武蔵のデコイは完全にロックビームに捉えられ、船体が宙に浮いた状態となっている。
ムサシ
「エネルギー縮退、80%到達。臨界まで、あと20秒」
いよいよ、発射の時は迫ってきている。
晴風のみんなも固唾を飲んでその時を待っている。
そして、ついに
ムサシ
「エネルギー縮退100%! 臨界到達! ヤマト、いくわよ! ちゃんとやってよね」
ヤマト
「ええ! いつでもきなさい」
そして、それは解き放たれた。
ムサシ
「超重力砲、発射!!」
ムサシちゃんの号令とともに、左右のレンズユニットから膨大なエネルギーの塊が赤黒い2本のビームとなって放たれた。
ビームはものすごい速度でロックビームの中をデコイ目掛けて一直線に進んでいく。
周囲の海水は、超重力砲の影響を受けて水しぶきとなって宙を舞う。
そして、私たちの目の前でビームが武蔵型のデコイに直撃した。
一番主砲付近と艦尾に直撃したビームは速度を落とすことなく船体を貫通し、そのまま直進していく。
デコイは直撃した場所からビキビキと赤いひび割れが発生し、数秒と経たず263mの巨大な船体全体に広がっていった。
そして、一気に崩れてバラバラになってしまった。
岬
「あ、あんなに大きなデコイが、一瞬で……」
宗谷
「これが、超重力砲……」
ムサシちゃん曰く、今回の試射で放つ超重力砲は30%まで威力を抑えたものだという。
それでこの威力なのだ。
フルパワーで放たれたら、一体どれだけのパワーになるのか、想像するだけでゾッとしてしまう。
知床
「ヤ、ヤマトさん!」
私はリンちゃんの大きな声でハッとする。
超重力砲の射線上の先にはヤマトさんがいることを思い出し、空中ディスプレイのヤマトさんの画面を見た。
すでに超重力砲が目の前にまで迫っていた。
岬
「ヤマトさん! はやく逃げ――」
ヤマト
「大丈夫よ。ミラーリングシステム起動!」
ヤマトさんが両手を挙げて光るリングを展開すると、左右に浮いていた赤いユニットが光を放つ。
すると、ユニットの上下に突如大きな黒い穴のようなものが出現した。
穴は左右それぞれで2つずつ、合計4つ確認できる。
あれが先ほど言っていた別次元への扉というものだろうか。
そして、ムサシちゃんから放たれた超重力砲のビームがヤマトさんに直撃するかと思われたその時、
ビームは突如上下に引き裂かれ、方向を変えて先ほど出現した穴の中へと吸い込まれていった。
その後もビームが止まるまでその光景は続いた。
これが、ヤマトさんとムサシちゃんしか持ちえない、超重力砲に対する唯一の対抗手段であるミラーリングシステムの実力ということだろう。
やがてビームは収まり、ムサシちゃんが展開していたロックビームも解除され、割れていた海は元の姿に戻った。
目の前にあった武蔵型のデコイは完全に崩れ、残骸が赤黒い痕を残して浮いている状態になっている。
ムサシ
「全シークエンス、完了。ふぅ、うまくいってよかった。ヤマト、お疲れ様」
ヤマト
「ムサシもお疲れ様。ミラーリングシステムのユニット、今から返すわね」
ムサシ
「ええ、お願い」
空中ディスプレイではヤマトさんとムサシちゃんが何か話しているようだが、私を含めた晴風クラスのみんなは先ほどまでの光景に完全に圧倒され、言葉を発することができなくなってしまった。
あまりに現実離れした、とてつもない威力の攻撃を目の当たりにしてしまった。
みんな頭が混乱し、今起きたことを受け入れられずにいた。
ムサシ
「アケノたちは……、あらら、みんな呆けてしまっているわね」
ヤマト
「まぁ、無理もないわね」
ムサシ
「とりあえず、片づけ終わったらみんなのフォローしてあげないとね」
ヤマト
「うん、そうね」
その後、私たちはムサシちゃん達が戻ってくるまでずっと動けずにいた。
安全監督室からの依頼で始まった超戦艦ムサシの調査。
調べれば調べるほど、人類の兵器との圧倒的な戦力差に驚かされ続けるばかりであった。
そして極めつけは、超重力砲の絶大なまでの威力。
私たちはこれから作成する報告書が、ちゃんと安全監督室に受け入れてもらえるか、不安になっていた。
そして最後に、超重力砲を目の当たりにした私たちはみんなこう思った。
ムサシちゃんを敵に回さなくてよかった、と。
第十一話、いかがだったでしょうか?
霧の艦隊、ひいては蒼き鋼のアルペジオを語る上では欠かせない要素である超重力砲にスポットを当ててみた今回でした。
正直、どういう形で超重力砲を出して、実際に撃つかを色々考えたんですが、こういう形に。
もっとうまい場面とかあったかもしれないなぁ、と書き終わってから考えてしまいます。
今後、ムサシがどう晴風と一緒に戦うのか、是非ご期待ください!
(なお現状、ノープランである)
次回、十二話は、
ムサシvs.マロン、仁義なきクロちゃん争奪戦勃発か!?
をお届け?予定
次回も読んでいただけるとありがたいです。
さて、ここから投稿が空いた言い訳です。
興味ない人は以降スルーでお願いします。
この一週間何をやっていたかというと、13日から夏休みに突入し、人生初のコミケ参加、艦隊これくしょんの夏イベント攻略&新艦娘掘り、そして17日~20日まで実家に帰省、という感じでイベント盛りだくさんでした。
その結果、執筆に力が入りませんでしたorz
16日頃から少しずつは書き進めてはいたんですけどね。
でも、おかげで充実した夏休みにはなりました。
艦これも新艦娘全員取れたし、満足かな。
長くなりましたが、今後は最低でも1週間に1話は投稿するよう頑張りますので、どうぞよろしくお願いいたします。