グレモリー家の白龍皇   作:alnas

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久々の? 投稿です。
どうもみなさんalnasです。最近は私しか書いてないけど二人で考えてますよ。
今回はちょっと休憩がてらの話になります。
おそらくあと1話挟むかどうかでライザー戦になるかと。
では、どうぞ。


その時間は嵐の前の

 ソーナとライザー・フェニックスのレーティングゲームまで残り10日。ソーナの眷属のことは大体把握したが、やはり現状ではライザー・フェニックスにはおろか、彼の眷属にさえ及ばない。唯一、椿姫が対抗できそうではあるが、彼女一人ではすぐに限界が来る。

「それこそ、もしライザー・フェニックスが動き出せば……」

 ソーナは頭の回転がずば抜けているし、魔力も多い。いずれは大成する器であることは確かだ。けれど、どう足掻いてもこの10日間で劇的な成長は見込めない。

 唯一、その可能性があるとすれば――どう見てもただ一人、彼しかありえない。

 椅子に深く座り込みながら、この先を考える。

 明日からは過酷な特訓が始まる。

 どこまで追い込めばいい? どれだけ力をつけさせればいい? いいや、後回しだ。俺はやることは匙元士郎が戦えるようにすること。このひとつを達成すれば、必ず勝機は見いだせる。彼の頭脳はソーナに迫るものがあることは証明された。ならばあとは、度胸と技術さえあれば!

「とは言ったものの、これではな……」

 旧校舎の一室――特訓で使われる特殊な部屋の隅で気絶している匙元士郎を見る限り、厳しい。ソーナとの打ち合わせの間から、その後まで続いたイッセーとアーサーの二人との戦闘。出会った頃のイッセーのように防御や回避が抜きん出ているわけでもなく、攻撃特化でもなく。凡庸の手本のような動きだった。

「厳しいな」

 再度、その言葉が口から漏れる。

 このままでは鍛える間に匙元士郎が潰れてしまう。今日もアーサーが一度剣を振った剣圧で吹き飛ばされていたか? あれでは本番で使い物にならない。

「様子見と思って神器も使ってもらったが、強度が足りないな。イッセーとアーサー相手では部が悪いことは悪いが、ああも簡単に切られてしまっては」

 魂の抜けたようなまぬけ面を晒す匙元士郎を心配そうに見ているイッセーと、この程度なら平気だろうと部屋を後にするアーサー。

 どちらも強い。

 彼らが鍛えていけば、いずれは匙元士郎も必ず強くなる。だが、足りないのはやはり時間。10日でソーナたちシトリー眷属の核にまで成長して貰うのはお世辞にもきつい。

「なにか激情を……いや、そうじゃないな。彼の神器は確か――――試してみる価値はあるか」

 限られた時間だ。やれることはやるべきだろう。

 明日、イッセーにも協力してもらうとするか。

「イッセー、俺は戻るが、キミはどうする?」

「はい、俺はサジは見てます。こいつが起きたら明日からの予定を伝えますんで、ヴァーリ先輩は先に休んでください!」

「そうか。ならあとは頼む」

「了解!」

 この場をイッセーに任せ、俺も部屋を出る。

 さあ、明日からが本番だぞ、匙元士郎。

 

 

 

 学校を休んで特訓するというのに、旧校舎にいるところを他の生徒に目撃されても困るのでグレモリー家が所有している山で特訓することになった。

 俺が見るのは匙元士郎とソーナのみだが、向かう先はひとつなので全員で移動することになるのだが、結構な大所帯だな。

 俺たちグレモリー眷属と、ソーナたちシトリー眷属全員でとなると、さすがに多い。

「サジ、頑張りなさい!」

「は、はい! 俺、まだまだ行けます!」

「よし、よく言ったサジ! これ追加分な」

「ちっくしょぉぉぉぉっ! まだありやがった!?」

 山を登りがてら、匙元士郎の基礎体力を上げるために荷物を増やしながら進んでいるのだが、これで6人分か。ふむ……。

「イッセー、もう一人分追加だ」

「はい!」

「ちょ、おい待――」

 やるべきことはたくさんある。無駄な時間なんてないということだ。

「あの、私も手伝いますから」

 見かねたアーシアが匙元士郎にそう尋ねるが、自分よりもひ弱そうな彼女に荷物を持ってもらうのは抵抗があったのか、それとも意地を張ったのか。どうあれ、匙元士郎は首を横に振った。

 思いの外根性があるのは昨日のイッセーとアーサーとの特訓の中でわかっている。自身の限界が来るまで粘ったのが証拠だしな。だが、足りない。まだ足りない。

「アーシア、匙元士郎のためにならないから、やめておくんだ。キミの優しさは、彼が傷ついたときまでとっておけ」

「は、はい。わかりました」

 匙元士郎は残念そうにしていたが、少し安心したような表情をしていた。

 彼もまがいなりにも男か。

「イッセーさんもあんな特訓をしてきたんですか?」

「いや、俺のときは基礎はドライグが教えてくれたから基礎を固める必要がなくて、ヴァーリ先輩と会ってからの特訓は……特訓はその――もっと過激だったな。最初っから実践方式だったし、相手ヴァーリ先輩だけじゃないし」

「おい、やめろ兵藤! 俺はまだそっちの世界を知りたくない!」

「うるさい! これから知る奴に親切心からだなぁ!」

「絶っっっ対ウソだろ! 顔におまえもこうなればいいってかいてあるじゃねえか!」

 随分と仲が良くなったな。

 顔合わせのときは棘があったが、やはり同期。話が合うのだろう。

「いいものですね」

「ソーナ……ああ、悪くない。これでお互いにライバル意識を持ってくれれば更にいいんだが、果たしてどうなることか」

「ふふっ、いいわね、それ。サジのライバルが赤龍帝だなんて、願ってもないことよ」

「そうだな」

 先のことなんてわからない。そうなるかもしれないし、ならないかもしれない。だが、いまは。

 目先のことに集中するべきだろう。

「おや、これは?」

「それは食べられるものですから、少し頂いていきましょう、お兄さま」

「そうでしたか。それでしたら頂きましょう」

 集中できていないのは俺の眷属だけみたいだがな。

「白音ちゃん、甘い物食べすぎじゃないか?」

「イッセー先輩とアーシア先輩もいりますか?」

「いや、俺はちょっと……」

「いいんですか? ありがとうございます、白音ちゃん」

 …………いいか。修行前の束の間の休息と思えばこんなものだろう。みんな度胸は十分だと知っているしな。

 さて、さっさと頂上で特訓を始めるとするか。

「今回は積極的に協力するんですね」

 指示を出し終え再び歩き出すと、横を歩いていた白音が話しかけてくる。後ろには甘いものを貰って喜んでいるアーシアと、無理やり渡されたのかどう消化しようか悩んでいる様子のイッセーが横目に映った。

 白音が通常運転らしいがな。

「不満か?」

「いえ、そんなことはないです。普段は不可侵と言っていますが、お互いの危機にはしっかり協力しあえるのはいいと思います」

「別に、敵対関係ではないからな。俺もよくソーナとは話しているぞ?」

「ヴァーリ先輩とは学年が違うので普段の生活はあまり把握していないので知りませんでした」

「そんなものか」

「そんなものです。でも、こんな関係を保てているのは嬉しいものですね」

 珍しく、しっかりとした笑みを浮かべる白音。

「ヴァーリ先輩がみんなの関係を結びつけているんです。それが私は嬉しいです」

 これまた珍しいことに、以前カッパが歌っていた曲を口ずさみながら歩く白音は、新しい甘味に手を伸ばす。まったく、まさか俺のことだとは。

 最初の眷属というのは侮れないな。

 俺たちはそのまま、談笑しながら上へと上がっていく。

 その後、みんなより30分遅れで匙元士郎が屋上にたどり着いたのだが、彼は既に体力の大半を失っていたとか。

 

 

 

 頂上に到着後、荷物を一旦グレモリー家の所有している別荘に置き、動きやすい服装に着替えて集まり直した。

 近接戦闘組は白音とアーサーが。

 遠距離、魔力の扱いはルフェイに。

 匙元士郎は俺とイッセーへ。

 アーシアは各組を見て回り、その都度回復の必要な者に神器を使っていく。

 大まかにはこのような構図が出来上がっているわけだが。

「もちろんそれで終わりとはいかない。だが、ソーナが納得していた以上問題ないだろう」

 匙元士郎にも、俺やイッセー、アーシアのように神器が宿っている。ソーナの眷属の中には他にも神器を宿している者はいるが、その中でも匙元士郎は俺たちに近い部類だろう。

「匙元士郎、まずは神器を出してくれ。昨日の模擬戦を見ていてわかったことだが、キミの神器は俺たちと相性がいいはずだ」

「相性?」

「そうだ。キミの神器のことは、過去に資料で見た覚えがある。昨晩確認し直したが、間違いない」

 イッセーが知り得ることではないかもしれないが、補足はドライグがしてくれるだろう。

「とりあえず、神器を出してくれ。実際に見ながらの方が理解しやすいだろう」

「は、はあ?」

 いくら頭の回転が早くても、知らないことは考えられない。だから教えなければな。彼のためにも、ソーナのためにも。

 匙元士郎が意識を高めるように目を瞑ると、彼の神器が姿を現す。

「やはりか」

「やはり、ですか?」

「ああ、イッセー。これは紛れもなく、五大龍王の一角であるヴリトラの力を宿した神器のひとつだ」

「「えぇっ!?」」

 イッセーと匙元士郎の驚く声が重なる。

 当然と言えば当然だが、こんな身近に結構なビッグネームが隠れていれば。しかし、俺たちもそれこそ神器の中ではトップレベルのものを宿しているんだが、驚きはまた別なのかもしれないな。

「さ、サジの宿している神器が龍王!? マジですか!」

「お、おおおお俺にもそんな力が!? これならライザーも!」

 盛り上がっているな……盛り上がるのはいいんだが、

「このままではどう足掻いてもライザー・フェニックスには勝てない」

「え?」

 匙元士郎の動きが止まる。

 説明前に、少し夢を持たせすぎたか? いくら事実とはいえ、配慮がなかったか。これで気落ちされたらモチベーションが下がり、特訓の効率にも響く。

「まずは聞いて欲しいんだが、勝てないと言ったのは、『まだ』勝てないというまでだ」

 落ちこみかけていた匙元士郎が、俯けていた顔を上げた。

 頭は切れるくせに、素直な男だ。ソーナが好感を持っているのもわかるというものだな。

「その神器は『黒い龍脈』。話したように、龍王であるヴリトラの力を宿す神器なのは間違いない。扱いに慣れていけばできることはそれなりに多いうえ、キミやソーナなら機転を効かすことも、突拍子のない使い方も思いつくかもな。と、それはさておきだ。匙元士郎、強くなる覚悟はあるか?」

「――……あります。俺は、会長を勝てせます。あんな焼き鳥野郎に会長は渡しません。俺が、会長を助けるんです!」

 覚悟あり。

 他人のために力を求める心あり。

 無鉄砲で無謀、か。

 だが、いい。本当に、いい眷属を持ったものだな、ソーナ。

「わかった。ならば、俺たちは本気でキミを強くするために協力は惜しまない。イッセー、それでいいな?」

「もちろんです! 自分の好きな女は自分で守る! 男じゃねえかサジ!」

「ちょ、バカ! そそそそんなんじゃねえよ!? ヴァーリ先輩も忘れていいですからね!? おい兵藤、あんまり変なこと言うなっての!」

「悪い、悪い。それで、俺はどうしたらいいんですかね?」

 匙元士郎の思いはさておき、修行に意欲を見せるイッセーが問いかけてくる。

 二人ともジャージに着替え、長袖長ズボン。

「そうだな、修行を始める前にひとつ。イッセー、とりあえず――脱げ」

 


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