グレモリー家の白龍皇   作:alnas

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どうもみなさんalnasです。
今回から新章スタートしました。
はい、章タイトルからわかる通り、ここでやります。
話の順序が入れ替わっているわけですね。
というわけで、はじまるよ!


策略校舎のフェニックス
その会談は唐突


 駒王町とここに暮らす人々さえも犠牲にしようとしたコカビエルとの戦闘も終え、しばらくは平穏が訪れるかと思った矢先の出来事だった。

「ヴァーリ、その……少し時間はありますか?」

 旧校舎の扉が控えめに開かれ、ソーナが部屋へと入ってきた。

 すぐ後ろには、彼女の「女王」である椿姫も控えている。

「珍しいな。個人でならともかく、椿姫を連れてとなると……干渉はしないはずだったが、眷属絡みか? それとも、おまえの問題か?」

「私の……となるのでしょうね。ヴァーリ、少し話を聞いてもらっても?」

 思えば、聖剣使いが来る前。新人悪魔同士のあいさつのときになにか言いたげな様子だったな。あのときは遠慮していたようだが、なにか問題が起きたのかもしれない。

「俺でよければ聞こう。幸い、いまは全員修行中だからね」

「ありがとう、ヴァーリ」

「いいさ。キミの話を聞かなかったとあっては、面倒なことにもあるからね」

 忘れもしない、彼女と初めて会ったときのことを。

 物陰から見守る、奇抜な衣装を纏った魔王の存在。あの方の手に持つ記録媒体。なにに使うのかもわからない様々な機器などと、あの魔王さまを相手にはしたくない。

 まあ、それ以前の問題として、俺が彼女の話を聞かないはずがないのだ。

 数少ない、事情を話し合える友なのだから。

「素直じゃないのは相変わらずね」

「遠回しに言ってくれるキミの方も相変わらずだと思うけれどね」

 軽口を言い合いながら、ソーナは前の席へと腰を下ろした。隣には、椿姫も一緒だ。

 こういうときに時間をかけるのはよくないかな。

「それで、話というのは?」

「…………明日、旧校舎を貸してもらいたいの」

 長い時間をかけて吐き出された言葉は、それだけだった。理由も、使用方法すら出てこないのは予想外だが、どうしたものか。

「貸すのはもちろん問題ない。だが、理由くらいは聞いてもいいか?」

 ソーナになら問題なく貸せるのだが、どうにも普段の様子とは違う。放っておくのはよくないだろう。

 彼女の隣に座る椿姫を見ても、やはり心配そうにソーナを見つめるだけだ。

「なにか重大な問題を抱えているなら、俺たちグレモリー眷属も手を貸すぞ」

「いえ、それは……ごめんなさい、ヴァーリ。でも、貴方たちを巻き込むわけにはいかないの。これは私がどうにかしなければならない問題なのよ」

 自分の体を抱きしめながら小さな声を絞り出すソーナ。

 コカビエルが襲撃してきたときでさえ、ここまで弱気な彼女を見ることはなかった。それどころか、彼女の弱い姿を見せられたのは、これが初めてかもしれない。

「おまえに事情があることはわかった」

 追い詰められているというよりは、覆しようがないといったところか。

「だが、仮におまえ自身の問題としても、眷属は気にするだろう。同時に、友である俺が心配しないはずがない」

「ヴァーリ……?」

 俯いていた顔が上がり、確かに視界に俺を捉える。

「話したくないならそれでもいい。そこはキミの意思を尊重するさ。でも覚えておいてほしい。俺も、キミの眷属たちも、全員がキミの味方だ。ソーナ、頼ってはいけない人なんて、キミの周りにはいないと思うけどね」

 少なくとも、ソーナの眷属はみな彼女を慕っている。

 新しく入った匙元士郎がいい例だろう。この前もまた話してみたが、どうにもソーナに好意があるように思う。彼が裏切るところは想像できないな。

「眷属には話をしたのかい?」

「今回の話は、眷属内でも椿姫にしか話していません。話せば必ず、巻き込むことになりますから」

 実のところ、俺にはひとつだけ心当たりがある。

 イッセーに悪魔として初めて会ったときに生徒会に立ち寄ったあの日。彼女の机に置かれていた手紙。確かあれは――。

「フェニックス」

「――ッ!?」

 呟くと、あからさまな反応が返ってきた。

「ヴァーリ、貴方どこまで知って!?」

「いや、落ち着けソーナ。残念ながら、俺はなにも知らない」

「そんな!」

「イッセーと出会ったとき、教室の鍵を借りに生徒会室に寄っただろう? あのときキミの机にあった手紙に記されていたフェニックスの紋を思い出したから言ってみただけだ」

 当時のことを思い出しているようで、頭を抱え出したソーナ。

 今日は彼女の珍しい場面ばかり観れるな。不思議なことに、楽しいことだ。

「会長、この際お話になっては?」

 見るに見かねたのか、椿姫がフォローに入る。しかも、俺に話すようにだ。「女王」がこちらを巻き込もうとするということは、やはりそれなりに面倒事か大事なのだろう。

「話してくれるなら、協力はするぞ」

「……本当ですか?」

 不覚……などとつぶやいていたソーナが俺を見る。

 もしも俺がサーゼクスに拾われないまま大きくなっていれば、すがる相手に反応すらしなかったかもしれない。ただ強さだけを求め、戦闘狂となっていた可能性だってある。

 いまの俺があるのは、サーゼクスとグレイフィア、グレモリー家の人々だけのおかげじゃない。目の前にいるソーナが俺に会ってくれたから。今日まで共にいることを許してくれていたからであるはずだ。

「俺にできることなら、喜んで手を貸そう。俺の答えは変わらない」

「――わかったわ、ヴァーリ。椿姫もありがとう。なら私も、話さないとダメね……実は」

 

 

 

 

 

 ソーナの話を聞かされてから1日が経った。

 今日の放課後。つまりいまからなのだが、ソーナと彼女の眷属には、旧校舎に来てもらうことになっている。

「事前に伝えた通り、今日はソーナたちが全員で来る。一応、場所を提供することと駒王町の管理者という立場もあり同席を許されたが、成り行きは見守るだけ。余計な口を挟まないように頼む」

 集まってる自分の眷属たちにも忠告しておき、彼女を待つ。

「あの、ヴァーリ先輩」

 手を挙げたイッセーが口を開く。

「今日ってここでなにが行われるんですか?」

「会談だ」

「会談? 俺たちグレモリー眷属と、会長たちシトリー眷属の合同で?」

「いいや、あくまでソーナと彼女の相手のだ。俺たちはその場に居合わせるだけになるな」

 最悪のケースを想定してのストッパーでもあるが、いま伝えて不安を煽る必要もないだろう。そのときが来たのなら、どの道俺の仲間は動けるだろうし、なによりイッセーには不確定な事態への対処としての特訓にもなる。

 もっとも、そうなった場合はかなり面倒な事態に陥ったことを意味するのだが……。

「なんの会談ですか?」

 次に質問してきたのはルフェイだ。

「始まればわかる。ソーナにも事前に伝えられるのは居心地が悪いから控えてくれと頼まれていてな。よくわからない状況だとは思うが、つきあってくれ」

「いえ、だいじょうぶです!」

 素直なルフェイはここでも特に追求することはなく、アーサーと共になんの話がされるのかの会話を始めてしまった。アーサーが楽しそうなので彼らはこのままそっとしておこう。

「あの……」

「アーシア、キミもか。別に順番に質問をしていく時間ではないんだが?」

「違うんですか?」

「質問があれば聞こう」

 彼女、アーシア・アルジェントも、兵藤一誠をイッセーと呼ぶようになってからはアーシアと全員が呼んでいる。眷属間での遠慮もなくなってきているようで、本人が望む名前を呼びあうのは悪いことではないな。

「それで、なにが気になるんだ?」

「はい。ここに来るのは会長さんたちと、その相手がいるんですよね?」

「そうだ」

「相手は誰になるんでしょうか?」

 そういえば、相手が来るとしか説明していなかったな。

 特に隠せとは言われていないが……この程度なら問題ないか。

「今日来るのはフェニックス家の者だ。俺も直接会ったことはないが、フェニックス家の三男――ライザー・フェニックス」

「フェニックス……」

 イッセーが反応を示すが、おそらく不死鳥か火の鳥あたりのことを連想したのだろう。

「それなりに強いといった噂は耳にしたことがある」

「同時に、無類の女好きだとも」

 俺の言葉に付け足すようにした白音。

 彼女は今日も買い置きしてある菓子類を口に運ぶ作業で忙しそうだが、しっかり話を聞いているあたりさすがだ。

「そのペースで食べて夕飯はだいじょうぶか?」

「平気です。甘いものは別腹なので」

「……そうか」

 今日はルフェイが食事を作りに来てくれると言っていたが、本人が言うならいいか。

 ああ、アーサーとルフェイの暮らしている部屋もそろそろ改築しないといけないな。いっそのこと、うちを広くしてこちらに呼んだ方が白音とルフェイにとってはいい環境になるやもしれん。

 近々本人たちの意思を聞くとしよう。

 それよりもだ。

「ヴァーリ、それにみなさん」

「来たか、ソーナ。話し合いの席ならすでに用意してある。隣の部屋に移ろう」

 ソーナが旧校舎へと入ってきたので、早々に部屋を移す。

 中にいるのは、俺たちグレモリー眷属と、ソーナたちシトリー眷属の全員。

 普段ではあり得ないメンバーが揃っていることになる。コカビエルのような異例のケース以外ではないと思っていたが、そうでもなかったな。

 ソーナからしてみれば、事はコカビエルのときとそう大差ないことかもしれないが。

「あとは待つだけか」

「今日はごめんなさいね……」

「そう気にするな、ソーナ。俺たちは誰も、文句を言ってないだろ。キミこそ、眷属たちとはしっかり話してきたのか?」

「ええ、だいじょうぶよ。私だって、彼女たちの王だもの」

 一人で抱え込むのはやめたか。

 それでいい。急な話ではあったが、彼女は相当前から抱え込んでいたのだろうからな。

「だいじょうぶっすよ、会長! なにがあっても、俺が解決してみせますから!」

 なにより、やる気のある眷属がいることだしな。

「頼りにしているわ、サジ」

「はい!」

 やり取りを不思議そうに、もしくはなにが起きているのかなんとなく察しているような俺の眷属たち。

 これから起きることを見聞きしていれば、すぐに知れる。

「もう一度確認だ。これはあくまで、ソーナたちの問題だ。俺たちグレモリー眷属はあくまでこの場を提供しているだけにすぎない。おまえたちはなにがあったとしても、手は出すな」

「本当に、なにが起きるっていうんですか……?」

「俺にも、どうなるかはわからない。ひとつ言えることがあるとすれば――」

 瞬間、部屋の床にフェニックス家の紋様が描かれた魔法陣が出現する。

 室内を眩い光が覆い、魔法陣から人影が姿を現わす。

 炎を巻き上げ、その中で佇む男性のシルエット。腕を横に薙ぐことによって炎を振り払った彼は、赤いスーツを身にまといながら室内を見渡す。

「ホスト?」

 イッセーがそんな言葉を漏らすが、スーツは着崩され、胸までシャツを開いているからこその感想なのか? 俺にはよくわからないな。

 そんな男はソーナを捉えると、口元をにやけさせた。

「やあ、愛しのソーナ。やっと俺に会う気になってくれて嬉しいよ」

 そうしてソーナに近づくと、

「さあ、俺たちの婚約について、ゆっくり話そうか」

 ソーナに触れるか触れないかの距離でささやく男こそ、今日の会談の相手――ライザー・フェニックス。

「イッセー、ひとつ言えることがあるとすれば、面倒なことになる。それだけは覚悟しておけ」

「……なんとなく、わかりました」

 なぜなら、ライザー・フェニックスと向かい合うソーナの表情は、ひどく冷たいものであったのだから。

 


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