グレモリー家の白龍皇   作:alnas

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どうもみなさんalnasです。
駆け足で進む2章。すまないゼノヴィア、イリナ。キミたちの出番はかなり減った! 協力する必要もなかったしコカビエルには勝てないし、これも仕方のないことだったんだ。
いや、マジですまん。
という回になります。では、どうぞ。


その襲来は必然

 聖剣使いの来訪があってから数日。

 あれからいくら待とうと解決の話は来ず、そろそろ動き出そうとした矢先だった。

「力が跳ねましたね」

「そのようだな。しかし、コカビエルにしてはあまりに弱い……となれば」

「ええ。ヴァーリたちにはわかりづらいかもしれませんが、これは紛れもない聖剣の力ですね」

 アーサーがいち早く察知したのか、そう報告を寄越す。

「コカビエルでないとすれば、恐らく奪われた聖剣を与えられた部下。もしくは協力者となりますが、どうしますか?」

「彼女たちに任せるさ。この町に被害が及ぶことになったとき以外は出ない。もちろん、駒王町に留まり続ける限り、最優先事項に変わりはないけれど」

「あくまで干渉せずですか。わかりました。では私は赤龍帝の相手でもしてきましょう。ルフェイ、ヴァーリの相手は任せましたよ」

 ルフェイが頷くのを確認し、アーサーは兵藤一誠の特訓に参加しに行ってしまった。

 今日は全員が思い思いに体を動かし、術を試したりと朝から修行続きだったのだが、どうやらまだまだ動き足りなかったらしい。

 しかしここ最近の修行でそれなりに疲労もたまっているはずだが……俺の予想よりも成長スピードが速いのかもしれないな。嬉しい誤算だ。あとは無理し過ぎないように調整だけしておいてやるか。倒れられたら元も子もない。

「アーサー相手に動けているからそう心配はしていないが……ああ、怪我は多いから最近アーシア・アルジェントの回復も力を増していたな。そろそろ遠くに離れた対象にも効果を発揮できるか試してみないとな」

 回復の限界を超えてきたのなら、次のステージに進めなくては。眷属のことをしっかりと見ておくのも主たる俺の務めだ。

「ヴァーリさん、シトリー眷属の『女王』から連絡です」

「なに? 椿姫からとは珍しいな」

 ルフェイが展開した連絡用の魔法陣に耳を傾けると、ソーナの「女王」であり、駒王学園の副生徒会長でもある真羅椿姫の声が聞こえて来る。

「ソーナからではなくキミが連絡を寄越すとはね。なにかあったのかな?」

『詳しいことはいまそちらに送っているサジから聞いてもらえると助かります。ですので、私からは簡潔にお話ししますが、先日駒王学園に来ていた教会側のお二人が、路地裏で倒れているのを保護しました』

「――本当か?」

『はい。会長と私たちで彼女の傷の手当をしますので、サジからは会長の見解を聞いていただければと』

「そうか。いや、ソーナの話であれば非常に助かる。そちらも人手がいるだろう。わざわざすまない。ソーナにも礼を伝えておいてくれ」

『わかりました。それでは』

 展開していた魔法陣は彼女の言葉を最後に消えた。

 さて、どうしたものか。

 事は急ぐべきであるか否か。

「ルフェイ、すまないが修行しているみんなを呼んできてくれ。話は全員で聞いたほうがいいだろう」

「はい、ヴァーリさん」

 すぐさま部屋を出て行く彼女と入れ替わるように、匙元士郎が駆け入ってくる。

「ヴァーリ先輩! すいません、すぐに話を――」

「すまないが、全員揃うまで待ってくれ。頭の中で話をまとめる時間だとでも思ってくれるとありがたい」

「は、はい」

 適当な椅子に座ることを勧め、待つこと数分。

 外の廊下を走ってくる足音がいくつも耳に届いた。

 扉はすぐに開かれ、各々散っていた俺の眷属たちが入ってくる。

「ヴァーリ先輩、話ってなんですか? って、あれ、サジじゃん。どうしたんだ、そんな汗だくで」

「おお、兵藤か。いや、ちょっとな。とりあえず説明してやるからさっさと座れ」

 兵藤一誠が部屋に入ってくるなり疑問を口にするが、それ以上は追求せず、おとなしく自分の席に腰を下ろした。続けて入ってきたみんなも首を傾げたりしながらも椅子に座る。

「全員に伝えておくが、つい先ほど、ソーナの眷属たる『女王』から連絡が入った。内容は、俺たちの元を訪れた聖剣使い二人を路地裏で発見したということ。その件について、ここにいる匙元士郎から説明をしてもらう」

「はい!」

 俺が最低限の報告をすると、集まった兵藤一誠たちは表情を引き締め、匙元士郎へと視線を集中させる。

「では、頼む」

「聞いての通り、協会側の女性二人が倒れているところを俺たちが発見しました。二人の容体は悪く、体の至るところに切り傷や火傷がありました。意識のなかった二人は現在会長たちが保護。傷の手当をおこなっているかと思います」

 その言葉に緊張を覗かせる兵藤一誠とアーシア・アルジェント。

「二人は無事か?」

「なんとかなりそう、と会長は言っていました」

「そうか。それと、二人は聖剣を所持していたはずなんだが聖剣は側にあったのか?」

 俺の問いかけに安堵の表情を見せる眷属たちとは裏腹に、匙元士郎の表情が曇る。

「それが……辺りを探しても聖剣が見つからなくてですね。おそらくコカビエルに奪われただろう、と会長はおっしゃっていました。ここからはすべて会長の言葉になりますが、コカビエルを探していた二人は彼に接触するも敗北。聖剣を奪われながらも、命からがら逃走に成功し、力尽きた。聖剣を集めたコカビエルはそれらを使い、何事かを起こす可能性がある――と」

「ってことは、コカビエルは駒王町でなにかをしようってのか!?」

 兵藤一誠が焦ったように立ち上がるが、それをアーサーが止める。放っておけば、そのまま町に出ていただろう。

「闇雲に動いてもどうしようもないでしょう。元に、今日まで私たちは奴らの居場所を突き止めることができていない。後手に回っている時点で下手に動くのは愚策ですよ、赤龍帝」

「でも、放っておけばみんなが危険な目に遭うかもしれない!」

「ですから、余計に事を急いてはなりません。第一、私たちの王がそんなことを許すと思っているんですか?」

 アーサーが俺を見ると、兵藤一誠もつられて視線をこちらに向けてくる。

 正直な話、聖剣使いが二人とも破れるのは想定内だ。むしろよく生き延びた、と言った方がいいだろう。

 聖剣もない以上ここから先は立ち入ってこれないと見ていいはず。

「ソーナの立てた話からも、コカビエルがなにかしらの理由があってこの駒王町に潜んでいるのは間違いない。追っ手が迫っているにも関わらず敢えてこの地に留まっていることからも明らかだ。だからこそ、教会が失敗したのなら、俺たちが動くべきだろう」

 最早放ってはおけない。

 これまでは問題を起こさまいと黙っていたが、自分たちの問題を解決できずにこの地を危険に晒そうというのなら。

「コカビエルを発見次第叩く。しばらく夜の仕事は休んで、奴の迎撃に専念しようか」

「フッ、面白くなってきましたね」

 アーサーが腰に下げた聖剣の鞘をなぞる。

 そうか、集めた聖剣があったな。もしかしたら、新しい聖剣使いに出会う可能性もあるか。アーサーが笑みを浮かべるのも当然か。

「誰が相手だとしても、俺はみんなを傷つける奴がいたら倒すだけです!」

 兵藤一誠も戦う気があるな。もっとも、敵が強大だとしても彼が簡単に逃げ出すとは微塵も思っていないが。

 俺の言葉に頷く面々を見ていればよくわかる。誰一人として、コカビエル相手に怯えていないこと。

 普通に戦うことを受け入れ、なおかつ勝つ気であること。

「さ、さすがグレモリー眷属……会長が信頼するのもわかるぜ」

 匙元士郎がなにごとかを呟いているが、眷属たちの声でかき消されてよく聞き取れなかった。

 しかし彼もこの駒王町に住む悪魔の一人だ。もちろんソーナもな。

 一応声をかけておかなければ、いざというときの連携もできないか。

「匙元士郎。すぐに戻り、ソーナに伝えてもらいたい」

「なにを、ですか?」

「コカビエルとは聖剣使いに代わり、俺たち悪魔が決着をつける。必要に応じて力を借りたい、とな」

「は、はい!? お、おおおお俺たちもですか!?」

 これまでは話を聞きながらときおり笑顔さえ浮かべていた彼は一転、急に取り乱したように叫び声をあげた。

「当然だろう? キミたちもこの町に暮らす悪魔だ。駒王町にいる人々が危険に晒される可能性があるのなら、俺たちが出張ならくてどうする。協会側からはもう戦力の投入は見込めない。ここにいる俺たちでコカビエルを倒さなければいけない局面が来ないとは言い切れないだろう」

 サーゼクスたちに頼る手もないわけではないが、相手がいつ動くかわからない以上、多忙な魔王やその配下をこの地に縛ってはおけない。

 コカビエルを発見してから来てもらうのも時間がかかりすぎる。その間に戦闘に事が発展しないとも言い切れない。結局、俺たちグレモリー眷属とシトリー眷属がどうにかしなければならない可能性が高いのだ。

「別に、直接コカビエルと戦えと言っているわけじゃない。力を借りるかもというだけの話だ。伝えてくれるな?」

 問いかけると、目を瞑り、なにごとかをぼそぼそと口にしながら眉間にシワを寄せる。

 しばらく黙していた彼はため息をひとつ吐き、諦めたように口を開く。

「…………わかりました。会長には俺から言っておきます。では、俺はこれで」

 渋々といった様子が見られたが、了承は得られた。

 そのまま立ち上がり、部屋を去る匙元士郎。最後に見えた彼の横顔には、それなりの覚悟が見て取れた。

 彼も悪魔になって日が浅いが、どうやら弱者ではないようだ。ソーナもいい眷属を持ったな。

 ただの下級悪魔にあの決断はそうできるものではない。

「十中八九、コカビエルとの戦闘は起きる」

 俺の眷属たちだけになった部屋の中で、そう彼らに告げる。

 全員を見渡しても、驚きの声はない。

 ここにいるのはアーシア・アルジェントを除き、強大な力に以前から接してきた赤龍帝である兵藤一誠。

 仙術の使い手である姉を持ち、いまなお成長を遂げる白音。

 聖王剣の所有者にして、俺と互角に渡り合ったアーサー。

 幼いながらに俺を呼び出し、禁術を容易に使いこなすルフェイ。

 日頃から戦いに身を置き、力と接してきた彼らにもわかるのだろう。

 この戦いが避けられないと。

 

 

 

 

「では、いざというときのサポートは任せて」

「俺たちも、やれることはやろう」

 その後、ソーナから協力するとの返事を貰い、旧校舎でシトリー眷属を含めてのミーティングをし、切り上げようとした直後。

 鋭く圧縮された殺気が向けられたのがわかった。

「思いのほか、早かったかもしれないな……」

 久々に感じる、強者からのプレッシャー。

 俺だけでなく、この場にいた者すべてが感じていたらしく、特に、シトリー眷属には強すぎたのか、怯えた表情を浮かべる者もいた。

「これは……まさか!」

 兵藤一誠が険しい顔をしながら、籠手を出現させる。

 白音も猫耳と尻尾を生やし、アーサーは聖剣の柄に手をかけた。

 ルフェイはアーシア・アルジェントの近くに寄り、放たれるプレッシャーから彼女を落ち着かせている。

「予想以上に難物かもしれないな。まずは様子を確認するとしようか」

「行きましょう、ヴァーリ先輩!」

 ソーナたちにバックアップを任せ走りだすと、あとを兵藤一誠たちがついてくる。

 なにか強大な存在が、駒王学園に降り立ったことを、俺たちは悟った。

 


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