グレモリー家の白龍皇   作:alnas

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どうもみなさんalnasです。
最初に言っておこう。2章はすぐに終わります。ええ、もう後半に入ります。2章はパッと終わらせても問題なさそうだったので。
3章は……実は3章はある理由でとても大変になりそうと相方と話し合っているところです。
きっと3章に入ればわかることですね。
では、どうぞ!


決着から

 目の前の光景は、悪くないものだった。

 握っていた聖剣は彼方に吹き飛び地にうずくまるゼノヴィア。そして、彼女を見下ろす兵藤一誠。

 特に目立った傷もなく、聖剣の脅威をものともしなかったようだ。

「俺の勝ちだな。勝負で決着はつけたし、これ以上はなにも言わない」

 そう言い残し、俺たちのもとへと戻って来る。

「イッセーさん!」

 が、待ちきれなかったのかアーシア・アルジェントが駆け出し、彼へと飛び込む。

「微笑ましいですね」

「アーサーにもそういう気持ちはあるのか」

「ヴァーリ、貴方はいったい私をなんだと思っているのですか……それくらいは思いますよ」

 隣でルフェイが笑っているところを見るに、本当のことなのだろう。戦闘がすべてではないとは思っていたが、思いの外人間らしいさの多い男だ。

 もっとも、妹を大事にしているのを知っているのに失礼な言葉だったか。

「それにしても、赤龍帝は簡単に勝ちましたね。もう少し手こずるかと思っていましたよ」

 まるで気にしていない様子のアーサーが先にいる兵藤一誠に視線を向けながら口を開く。

「ここ数日はアーサーとの特訓を詰めていたからな。剣士との闘い方を模索する時間も多かっただろう。おまけに普段の相手も聖剣使いで、さらに今日より速いとくれば、いまの結果はわかりきっていたことさ」

「随分と彼に信頼を置いているようですね」

「兵藤一誠だけじゃない。俺は俺の眷属の実力は認めているし、信じているさ」

「フッ……では、私も頑張らなければいけませんね」

「そうしてくれるとありがたい」

 まだまだ兵藤一誠の特訓は続くし、日を重ねるごとに苛烈になっていくことは明白。

 彼に守りたいものがある限り、守るための力を伸ばさなければならないからな。時期に、自分の望む力の扱い方にも気づくことになるだろうが、そのときが楽しみだな。

「どうあれ、よくやってくれた」

 模擬戦には違いないが、先ほどの言葉の暴力に対しては十分にやり返せただろう。

 誰にも迷惑をかけず、しかしやられたままでは終わらせないにはこの辺りが無難だ。

「試合は終わった。これでアーシア・アルジェントへの侮辱には目を瞑ろう。話は終りだ」

 倒れたままのゼノヴィアを一瞥し、踵を返す。

 もう彼女たちには一切の用がない。

「兵藤一誠、構わないな?」

「はい。正直、まだまだ言いたいことはありますけど、これ以上続けたら自分を抑え込める自信がないんで。ありがとうございました、ヴァーリ先輩」

「気にしなくていい。俺も自分の眷属が傷つけられるのを見ていられる性質じゃないからね。さあ、旧校舎に戻ろうか」

「わかりました!」

 ルフェイに結界を解除してもらい、あとは帰るだけとなったとき。

「……ま、待て!」

 こちらに静止をかける声がひとつ。

 振り向けば、イリナに支えられたゼノヴィアが手を伸ばしながら兵藤一誠とアーサーを睨んでいた。

「そこの男、なぜイリナの聖剣を握れた! 貴様もだ赤龍帝! なぜ、なぜ私の聖剣が当たらない!? その程度の実力しかないのに、なぜ……!」

 激昂するように叫ぶが、自分の実力を素直に認められないのは弱い証だ。同じ弱いであっても、兵藤一誠のそれとはまるで違う。

「あまり俺たちをガッカリさせないでくれ」

「なにを!」

「こちらの情報をおまえたちに渡す必要性は感じない。もう戦いも、当初の話し合いも終えている。お引取り願おう」

 ルフェイにひとつ視線を送ると、彼女は即座に行動を開始する。

「お引取りだと? いい加減にしてもらおう。そもそも、一介の悪魔が聖剣に選ばれることなどあってはならない! いったいなにをしたと言うんだ! 答えられないのなら――なんだ!?」

 退く姿勢を見せないゼノヴィアたちの足元に魔法陣が展開する。

「ごめんなさい。ちょっとやりすぎなので、飛ばしますね」

 ルフェイが申し訳なさそうな笑顔を浮かべると、瞬間。

 それまで目の前にいたはずの聖剣使いたちは忽然と姿を消した。

「移動先は駒王町内の公園です。あそこなら問題ないでしょう」

「強制転移ですか。さすがですね、ルフェイ」

「やっぱりルフェイちゃんもすげーよなぁ……」

 ルフェイの報告を聞いていたアーサーと兵藤一誠はそのやり口にか、ルフェイの実力になのか感嘆の声を漏らしていた。

「ダメダメな人たちです」

 白音は彼らのことをそう評価していたが、聞こえていないらしい。

 アーシア・アルジェントも苦笑いを浮かべていた。

「彼女たちはどうでもいいが、情報としてはいいものが手に入ったな」

「ヴァーリ先輩……」

「わかっている。あくまでも、彼女たちが作戦失敗したときの話さ。まあ、どんなに高く見積もっても、作戦を遂行する確率は1割もないけどね」

 白音に釘を刺されそうだったので理解していることはアピールしておこう。

 けれど本当に、放っておくは悪手だと思えてしまう。

 十中八九、彼女たち二人でコカビエルから聖剣を奪い返すのは不可能。まして、コカビエルに協力者がいた場合はより困難になるだろう。どこで戦おうと向こうの勝手ではあるが、ここは俺の管理する町だ。

「やはり、あまり自由にさせるのはよくないかもしれないな」

 どうにか割り込む方法を考えながら、俺たちは旧校舎へと戻った。

 

 

 

 

 

 聖剣使いの二人組――イリナとゼノヴィアが訪れた日の夜。

「どうだった、兵藤一誠?」

「なにがっすか?」

 俺たちは全員旧校舎に集まり、昼間の話をしていた。

「彼女たちと戦ってみてだ。強かったか?」

「……いえ、強くはなかったです。というか、俺の周りにいる人たちが強すぎて感覚が麻痺してるだけかもしれないっすけど」

 兵藤一誠とアーサー、両名との模擬戦が終了してすぐ、イリナとゼノヴィアは駒王学園から立ち去ってもらった。

 転移際に見せた怒気を孕んだ顔はよく覚えているが、何に怒っていたのかは終ぞわからなかった。

 ちなみに、試合はアーサーが完勝……もといあれは試合にすらなっていなかったが。兵藤一誠も普通に勝利を飾った。最後の聖剣を弾いてから攻撃への転換は悪くなかった。あれは実践でなければできない動きだ。そういう意味では意味のある試合だったな。

「しかし、数回の倍加の一撃にも耐えられないか……コカビエルにどう対抗するつもりだ?」

 兵藤一誠のあの一撃で沈むとなれば、すべての攻撃を回避しなければ到底敵うまい。コカビエル自身に会ったことはないが、いまの兵藤一誠より弱いはずがない。

「捨て駒、か……」

 教会側の思惑がどうあれ、力量差はわかってしまう。だが、この結末を選んだのは彼女たちであり、俺には関係のないことだ。あとはこの町に被害が出ることなく終わるのを祈るのみ。

「そうと決まれば、やることはひとつか」

 各々が思い思いの行動を取っている中、兵藤一誠とアーシア・アルジェント。それにアーサーを一組で修行させ、白音とルフェイにはそれぞれの長所を伸ばしてもらうために別室に行ってもらった。

「早く強くなれ、兵藤一誠。もっと、もっとな」

 幸いにも、俺たちには力がある。

 兵藤一誠の力を伸ばすために協力してくれる仲間がいる。

 ならばキミは、もっとその手を広く、遠くに伸ばせるはずだ。

「アーサーの速さに慣れてきたら、次は白音と重点的に戦わせてみるか。彼女の力をどう捌けばいいのかはきっとかなりの修行になるだろう。絶対に避けなければならない攻撃と、あえて受けることで次の攻撃へと繋げる防御。それが仕上がったらルフェイの――ん?」

 考えをまとめているところに、通信用の魔法陣が展開した。

「ソーナか?」

『ええ。仕事中だったかしら?』

「いや、問題ない。どうかしたのか?」

『昼間訪ねてきた人たちの話を聞いておこうと思っただけよ』

 なるほど。確かに模擬戦と修行をおこなってしまったから、情報の共有ができていなかったか。

「よし、話そうか。少し長くなるかもしれないからね」

『そう。お願いね、ヴァーリ。それと、今度でいいのだけれど……よければ、私の話も聞いてもらえないかしら? できれば、貴方の意見も聞きたいわ』

「珍しいな。ああ、もちろん聞こう。では、今日の話だが、まず――」

 

 

 

 

 

 ソーナに聖剣使いたちの話を報告してから数日後。

 俺たちグレモリー眷属に、シトリー眷属からある報告が上がってくることになる。

 町の路地裏で、教会の関係者と思しき女性が倒れていると――。

 


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