グレモリー家の白龍皇   作:alnas

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こんばんはalnasです。
2章は木場くん不在なので特にやることがない。というわけでもないのですが、見せ場がひとつ減っている状態なので他で盛り上げつつ、わりとどんどん話が進むと思います。
しかし、どこかで教会側の二人とぶつけたいものですね。次かな?
では、どうぞ。


この訪問は冒涜

 俺たちは悪魔とはいえ、なにも朝遅くまで寝静まっているとは限らない。

 特に、交渉事が控えている今日なんかは、眷属の全員が旧校舎の一室に集まっていた。

「それで、兵藤一誠。俺たちに伝えたいことがあるらしいな」

「はい……」

 いま集まっているのは、俺たちの「女王」である兵藤一誠の頼みがあったからこそなのだ。どうにも、昨日の放課後に昔馴染みに会ったときの話と聞いているが。

「実は昨日、家に帰ってみたら小さい頃一緒になって遊んだ奴が久しぶりにこっちに来ていてうちに寄ってくれたんですけど……その、教会関係者でした」

「その教会側の人間が、どうしたのですか?」

 アーサーが続きを話すよう促すと、兵藤一誠はアーサーの腰に帯剣された聖剣を見ながら口を開く。

「昔馴染みとその友人? みたいな奴から変な感じっていうか、悪寒を感じまして。いまはアーサーさんとルフェイちゃんのおかげで聖剣も抜かなければなにも感じないけど、そう、ちょうど聖剣と対面しているときのような危険信号を体から感じました」

「わ、私もです! 不安になって、怖いって思う感じが膨れ上がるような……」

 確か、アーシア・アルジェントは兵藤一誠と共に暮らしていたな。

 であれば同じ体験をしていて当然か。

 にしても、聖剣と似たような感覚を……今回の一件、なにかあるとはソーナと話していたが、放ってはおけなそうだな。

「報告ありがとう。だがまずは、キミたちが無事でよかった。教会の関係者と出会ったのが兵藤一誠の家で幸いだったな。そうでなければ、戦闘になっていた恐れだってある。キミたちは二人とも、俺の大切な眷属だからね。戦闘になれば逃げることはできただろうが、大怪我じゃ済まなかったかもしれない。本当に、よかったよ」

「ヴァーリ先輩……俺、先輩にもアーシアにも迷惑かけないよう、強くなります! 伝えられることは伝えたんで、他の部屋で特訓してきます!」

「ああ、強くなれ、兵藤一誠」

「はい!」

 アーシア・アルジェントもひとつ礼をして共に部屋を出て行く。

 廊下からやる気溢れる雄叫びが聞こえて来るから、後で様子を見に行くとしよう。

「アーサー」

「なんですか、ヴァーリ」

 帯剣していた聖剣の鞘を手で触れながら、こちらを見据えるアーサー。

「いまの話、どう思う?」

「十中八九、聖剣でしょう。赤龍帝とはよく戦術はもちろん、共に特訓していますから彼も聖剣を目にする機会は多い。今更、隠していたとしても、悪魔には毒となる聖剣のことは見抜くと思いますよ」

「となると……」

「今日の放課後に交渉に来るのは赤龍帝の会った二人組が妥当でしょうか。それも、どちから、または両名が聖剣を持ってくるとなると、軽い殴り込みみたいですね」

 抑えきれない、こみ上げてくる気持ちがあるのだろう。

「楽しそうだな。だが、キミのお眼鏡に適うとも限らない」

「出会う前からやる気を削ぐような発言は控えてください、ヴァーリ。私とて、最高の剣士と切り結ぶという願いがあるのです。もしかしたら出会えるかもしれないと夢見るのは勝手でしょう?」

「それもそうだな、悪いことをした。俺も、強者と出会えるのではと一瞬期待してしまったのでな」

 アーサーが不敵な笑みを浮かべれば、俺も自身の口角が上がっているのがわかる。

 今回は戦えなくともいい。だが、強者ならば会うだけでもいい刺激になるはずだ。どうか、俺たちの期待を裏切らないでくれよ。

「ヴァーリさん、お兄さま。お顔が怖いですよ」

「ルフェイの言う通りです。笑うのなら楽しそうな笑い方をしてください」

 ルフェイと白音に指摘されるが、残念ながらこればかりはやめられそうにない。

「ヴァーリ。聖剣を見られるかもしれないことと、よき剣士に出会えるかもしれないと思うと昂ぶってきました。赤龍帝も交えて、一戦いかがですか?」

「いいだろう。兵藤一誠もきっと昂ぶっているに違いない。三人で一本勝負でもしようか」

「ええ。では特訓室に向かいましょう」

「望むところだ」

 悪魔の朝は早い。

 特に、己を高めようとする俺たちの朝はな。

 まだ校内に運動部の姿すら見えないこの時間。

「いや、ちょっとなんで俺まで巻き込まれないといけないんすか! 反対、断固反対って――うおあぶねぇ! って、ちょっと、俺ばっか狙ってないで二人で戦ってくださいよ! ヒィィィィィィッ! 聖剣はらめぇぇぇぇっっ!! あ、力が半減した!? ちょ、ヴァーリ先輩!? 死ぬ、死ぬ死ぬ死ぬ死ぬってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッッ!!!」

 旧校舎からは、男子生徒の悲鳴が数分に渡って響いていたとか。

 

 

 

 

 兵藤一誠がこの日の授業はすべて寝て過ごしたと嘆いている放課後。

 俺たちグレモリー眷属は揃って普段のように一室でくつろぎながら過ごしていた。

 右腕たる「女王」も朝から満身創痍だったわけだし、軽い休憩だな。

 「女王」としては、来客があるときは俺と念密な打ち合わせをするべきなんだが、今回が初だし、次回以降は人の前での「女王」としての立ち振る舞いも教えておこうか。

「――来ましたね」

 白音が部屋の扉を開けると、栗毛の女性と、緑色のメッシュを髪に入れている目つきの悪い女性が入ってきた。二人とも白いローブを着込み、胸に十字架を下げている。

 これだけでも、悪魔にとってはいいものではないな。

「はじめまして。好きに腰掛けてくれ」

 こちらの紹介は不要と思い、名乗ることもなく声をかける。

 すると二人は俺たちに対面するように机を挟んで反対側のソファーに座り込んだ。

 さて、いったいなにを話してくれるやら。

 しばらく互いに無言で待っていると、最初に話を切り出したのは教会側の栗毛の女性だった。

「先日、カトリック教会本部ヴァチカン及び、プロテスタント側、正教会本部に保管、管理されていた聖剣エクスカリバーが奪われました」

 ほう? 奪った者が出てきたか。

「赤龍帝、エクスカリバーは既に現存していなく、大昔の大戦で折れて、今は7本に分かれてしまっているのです。四散したエクスカリバーの破片を拾い集め、錬金術によって新たな姿になったときに7本になりました。それから――」

 後ろでアーサーの講義が始まったので、兵藤一誠とアーシア・アルジェントへの説明は彼に任せるとしよう。

 二人とも、真剣に聞いているようだしね。

「こっちの話は気にしなくていい。身内にエクスカリバーの現状について詳しくない者もいてね。俺たちは俺たちで、話の続きといこうか」

「それもそうだな」

 栗毛の女性と変わり、メッシュを入れた女性が話し出す。

「カトリック教会に残っている聖剣は現在二本。在りかを明かしておくと、私とこの紫藤イリナが所有している。そしてプロテスタントの元に二本。正教会にも二本。残る一本は先の大戦で行方不明。そのうち、各陣営にあるエクスカリバーが一本づつ奪われた。奪われた連中は日本に逃れ、この地に持ち込むって話さ。既に持ち込まれているだろうね」

 聖剣泥棒に厄介事のおまけがついたか。

 まさかもう駒王町に入り込んだだと? 俺にも、ソーナにすら感知されずに?

「俺の任された地で問題を起こそうとは。エクスカリバーを奪ったのはどこのどいつだ?」

 俺の問いに目を細めるメッシュを入れた女性。

「奪ったのは『神の子を見張る者』だよ」

「堕天使の組織連中か。また大層なところに奪われた者だ。どこのどいつとも知れない小物に奪われるよりは言い訳がつくかもしれないが……またなぜ聖剣を?」

「目的は不明だ。だが、奪った主な連中は把握している。グレゴリの幹部、コカビエルだ」

「コカビエル……ッ! 面白い、古の戦いを生き延びた堕天使の幹部。聖書にも記された者がここに来るとは!」

 思ってもみなかったな。

 問題行動をおこした相手になら、戦いを挑んでもそう違反行為にはならないだろう。むしろ、よく止めたという話に流れるはずだ。

 アーサーもこちらの話に耳を傾けていたのか、僅かだが笑みを浮かべていた。

 しかし、なぜその情報を俺たちに漏らしたのか。そして、ここに来た理由はなんだ? 協力を要請しに来たわけじゃないだろう。

「話を戻すが、先日からこの町に神父――エクソシストを秘密裏に潜り込ませていたんだが、ことごとくが始末されている次第でね」

 と、メッシュの女性。

 神父だからと放っておいたが、やはり裏で動いていたか。始末されているとなると、やはり何者かが町に入り込んでいるな。これは失態だ……今度からはもう少し見回りを増やすか。

「もしかして、俺たちに協力の依頼とか?」

 兵藤一誠もあらかたの知識は詰め込んだのか、会話に入ってくる。

 その言葉を受けたメッシュの女性は、彼の言葉とは裏腹にハッキリとものを言ってきた。

「私たちの依頼――いや、注文はひとつ。私たちと堕天使のエクスカリバー争奪戦にこの町に巣食う悪魔が一切介入してこないこと。つまり、そちらに今回の事件に関わるなと言いに来た」

「ずいぶんな言い草だな。おまえたちが聖剣の使い手だというのは説明からも理解できたが、正直コカビエル相手に敵うとは思えない」

「なに? 貴様は私たちが弱いとでも? 言っておくが、話し合いを先にしたのは慈悲だ。堕天使コカビエルと手を組まなければ、今回は見逃す。牽制球を打つためにここまで来たのだからな」

 見逃す。まるで自分たちが優位に立っているかのような発言だ。

 サーゼクスに無駄な仕事は押し付けるべきではないし、彼の立場を揺らがせるような事件は控えるべき……落ち着いた方がいい。

「コカビエルとはせっかくの戦える機会だ。手を組むつもりなど毛頭ない。そうだな、この町に危害が出ない限りは手を出さないと約束しよう。コカビエルとはキミたちが事を終えたあとに勝負を挑むさ。それでも十分だ」

「まるで、私たちが堕天使コカビエルに負けると言ってるように聞こえるが?」

「どちらでも構わない。キミたちに負ける程度なら、戦う必要もない」

 大戦を生き延びた者がこの地にいるのなら、最早目の前の二人はどうでもいい。

 教会側の任務を好きに果たせばいいさ。この町を傷つけなければ、それ以上は彼女たちには望まない。

 呪符の文字が記された布に覆われた剣。間違いなく聖剣だろう。栗毛の女性が剣を持っているとは思えないが、どこかに隠しているのは気配からしてわかる。が、彼女たちを一瞥したアーサーは、もういいのだろう。

 真面目に話を聞いているルフェイへと視線を移していた。

 お眼鏡には敵わなかったか。当然と言えば当然の事態だが、落胆の色も大きいと見える。同じ聖剣の使い手同時、通じるものがあるかもと淡い期待を持っていたのかもな。

「残念だが、貴様がコカビエルと相見えることはない。そのときには、もう事態は収拾し、すべて片付いているだろうからな」

「残念なのはこちらなのだが、まあいい。残念な者になにを言っても虚しいだけだ。正教会からの派遣は?」

「私たち二人だけだ。仮にエクスカリバーの奪還に失敗した場合を想定して、最後の一本を死守するつもりなのだろうさ」

 正教会は今回は絡んでこないか。

 死ぬ覚悟もある、と。相変わらずの信仰心だな。俺には理解できないが、そうでなければ生きられない者もいる、か。

 まあいい。

 この話は終りだ。

「では、そろそろおいとまさせてもらおうかな。イリナ、帰るぞ」

「ええ。ではみなさん。今回の件ではもう会うことはないでしょう。次に会ったときは、しっかり断罪してあげますね」

 二人が席を立ち、その場を後にしようとする。

 これで終わればよかったのだが、二人の視線が一箇所に集まった。アーシア・アルジェントか。

「――兵藤一誠の家で出会ったとき、もしやと思ったが、『魔女』アーシア・アルジェントか? まさか、この地で会おうとは」

 どうやら、まだ話す必要がありそうだ。

 


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