グレモリー家の白龍皇   作:alnas

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どうもみなさんalnasです。
この話から2章に入りましたよ。長かった。
というわけでも、緩やかに入っていきましょう。
どうぞ。


月光校庭の二天龍
あの気配は悪魔


 サーゼクスに新しくできた仲間たちの報告を終えた夜。

 眷属のみんなは悪魔の仕事に出かけている中、ソーナから連絡が入った。

「珍しいな。この時間帯はそちらも忙しいんじゃなかったか?」

『あら、うちに来る依頼は基本的に眷属たちだけでもできるものが多いからだいじょうぶよ。ヴァーリこそ、この前もはぐれ悪魔の討伐依頼が来たと聞いているけれど?』

「その一件なら眷属の修行もかねて経験のない者たちを前衛に出しながら無事に終えたよ」

『相変わらず修行熱心ね』

 笑っているのか、関心しているのか。

 おそらく後者ではあるだろうが。

「いざというときに弱いのでは話にならないからね。うちはみんな、自主的にトレーニングに励むメンバーばかりだから荒事もある程度は引き受けられる」

 兵藤一誠は攻め込むのは得意ではなかったが、防戦はやけに得意なこともわかってきた。

 やはり赤龍帝ドライグが生き延びるために鍛えたのが大きかったのだろう。今朝もそれを伸ばしつつ、白音を相手に置きながら攻めることも試し始めていたか。

 アーサーは一人で剣を振るっていることが多いな。たまにルフェイが様子を見に行っているようだが、彼女も空いた時間で試したいことを独自の方法で探っているようだ。

 アーシア・アルジェントは全員を見て回りながら、片っ端から怪我の治療を行っていた。そのうち神器の作用する範囲や限界を伸ばし出すのもいいかもしれないな。できるなら遠くの仲間にも治癒の効力を発揮できるところまではいきたい。

『楽しそうですね、ヴァーリ』

 なんて気をソーナに読まれたのか、ついそう言われてしまった。

「楽しいさ。新しい眷属と接するのもいいものだな」

『そうですか。それで、やはり近々そちらに会いに行こうと思うのですが』

「早い方がいいだろうな。うちの眷属たちも、駒王学園に他の悪魔がいることは気づいている。下手な思い込みをされる前に解決しておこう」

『でしたら、明日の放課後伺いましょう。どうですか?』

 明日か。特になにかあるわけでもないだろう。

 せいぜい、ソーナの眷属も全員がくつろげるように部屋の整理をしておくくらいか。

「わかった。では頼む」

『はい。それとヴァーリ、伝えておきたいことがあるので、明日の後、時間をください』

 それだけ伝え終えると、通話は終了した。

 用件、か。あまり面倒な事でなければいいのだが……。

 この後、帰って来た眷属に明日の活動内容の確認とこれからの特訓内容を伝え、俺たちは帰路についた。

 

 

 

 

 学業の終えた俺の眷属たちは基本すぐに旧校舎にやって来る。

 それはアーサーも例外ではなく、教師をしているというのに毎日毎日どうやって放課後と同時に来ているのだろうか。中等部の教師はそこまで暇ではないはずだが……まあ、問題になっていないのならいい。

「ヴァーリ先輩、今日はどうしますか?」

「イッセーさん、まずはあいさつをした方がいいんじゃないですか?」

 と、最後の二人が入ってきた。

 兵藤一誠と、アーシア・アルジェントだ。

「別にあいさつはどちらでも構わないよ」

 適当に返事をしておき、彼らが座るのを待つ。

「さて、今日は旧校舎の改修は無しにしようと思う。代わりに、全員気になっていただろう駒王学園で感じる他の悪魔の気配について話そうか」

「やっぱり、他にも悪魔がいるんですね」

「そ、そうだったんですか?」

 ドライグから話をされていたのだろう兵藤一誠と、なにも知らないだろうアージア・アルジェント。

 無言ながらも察していただろうアーサーとルフェイ。もっとも、この兄妹は外からの情報も入っていただろうから、ソーナのことはとっくに知っているだろう。

「みなさんに紹介するにしては、少し時間が空きましたね」

 最後に白音。

 この中では唯一ソーナたちと接点を持つ彼女からは疑問が投げかけられた。

「元々、あまり干渉するものじゃないからね。ただ、向こうにも新しい眷属が入ったから、顔見せかな」

「そうですか」

 別段興味があるわけでもなかったのか、理由を話すと手近にあったお菓子を食べ出した。

「とにかく、これからここに生徒会がやって来る。間違っても高圧的な態度も、誤爆もしないでくれ」

「「「「「はい(ええ)」」」」」

 眷属たちのしっかりした返事。

 その直後、タイミングを見計らっていたかのように扉が開いた。

 最初に入ってきたのは、駒王学園の生徒会長であるソーナ。

 この前兵藤一誠から聞いた話だが、日本人離れした美貌の持ち主で、男子よりも女子に人気があるとか。それでも男子からの人気も高く、校内一らしい。彼曰く、知的でスレンダーな美人さんと語っていたな。

 次に入ってきたのは、最近生徒会の書記として追加メンバーで入った男子生徒。

 他に入ってくる生徒がいないところを見るに、二人で来たらしい。

「てっきり全員連れてくるのかと思っていたよ」

「そうしたいのは山々ですが、生徒会の仕事が滞ってしまうもの。それに、みんなとはそのうち会うこともあるでしょう」

 なるほど。あくまで新メンバーの紹介というわけか。

「先ほど話したように、駒王学園には俺たち以外の悪魔もいる。この学園の生徒会長、支取蒼那の真実の名前はソーナ・シトリー。上級悪魔シトリー家の次期当主だ」

 説明を入れると、どこからか驚きの声が漏れた。

「この学校は実質グレモリー家が実権を握っているが、『表』の生活では生徒会――つまり、シトリー家に支配を任せている。昼と夜とで学園での分担を分けた形だ」

「えっと、つまり生徒会は全員悪魔ってことですか?」

「その通りだ、兵藤一誠。加えるなら、全員がソーナの眷属悪魔だな」

「ああ、だからか」

 一人納得している兵藤一誠は置いておくとするか。

 この場はお互いの眷属の紹介が主なことだしな。

「会長と俺たちシトリー眷属の悪魔が日中動き回っているからこそ、平和な学園生活を送れているわけだ。それだけは覚えておいて貰いたい。ちなみに、俺の名前は匙元士郎。二年生で会長の『兵士』だ」

「おおっ、『兵士』に会うのは初めてだな!」

 新しくできた『兵士』。まだ成り立ての鍛えだしたばかりに見えるが、素質は十分といったところか? いや、いまのままではいまいちわからないな。

「初めて見たか……つまり変態3人組の一人であるおまえは『兵士』じゃないってわけかよ。これはこれでプライドが傷つくな」

「なっ、なんだと!」

 プライドと来たか。消費した駒にプライドを持つのは悪いことではないが、いまのは些か。

「おっ? やるか? こう見えても俺は駒四つ消費の『兵士』だぜ? 最近悪魔になったばかりの兵藤。たとえおまえが『騎士』や『戦車』だろうと、そう簡単に負けるとは思えないね」

「てめぇ……ああ、やってやるよ! 後で吠え面かくなよ!」

 一触触発の空気になるが、どうも、ソーナの眷属の一言だけはいただけなかったな。

 俺は静かに席を立つと、兵藤一誠の隣に立った。

「ヴァーリ先輩?」

「怒るのはいいがな、兵藤一誠。一応この場は俺とソーナの眷属同士――それも、おそらく新人の悪魔同士のあいさつの場だろう。修行でならいいが、喧嘩で今後も付き合うかもしれない奴を倒すのはまずい。彼女にも、迷惑がかかるからな」

「うっ……それはそうっすけど……いえ、わかりました」

 これ以上は迷惑になると思ったのか、兵藤一誠の方から矛を収め、アーシア・アルジェントの隣へと戻っていった。

 よし、ひとまず無駄な怪我人が出ることは防げたな。

「さて、匙元士郎」

「なんでしょうか、ヴァーリ先輩?」

「まずはキミの勘違いを正すとしよう。彼は『騎士』でも、『戦車』でもない」

「ま、まさか『僧侶』ですか?」

 この反応に、俺は首を横に振ることで答える。

「は――? ま、まさかヴァーリ先輩、あんな奴が先輩の『女王』だとでも!?」

 いきなり狼狽する匙元士郎。そこまでのことだろうか? ソーナの方に視線をやると、彼女も珍しく驚いていたようだ。これなら、誰が「女王」か黙っておいた甲斐があったな。男性としか話していなかったから、彼女はアーサーがそうだと思い込んでいたのだろう。

「ときに匙元士郎。喧嘩を吹っかけるのはいいが、最初に相手をしっかり見た方がいいな。力量を測った上で戦うのであれば止めない。むしろ兵藤一誠には修行相手が足りない程だ。力量を確かめた上で、一度倒してやってくれ」

「あれ? ヴァーリ先輩!?」

「は、はい。ご教授ありがとうございます!」

 二人の別々の反応を受けながら、あとは新人同士でと思い、いつも間にかソファに座っているソーナの前に椅子を持っていきながら座り込む。

「まさか、彼が『女王』だとは」

「フフッ、さすがのキミも読めなかったようだな」

「ええ。ですが、いまのは一瞬息を呑みましたよ。サジが兵藤くんに喧嘩を吹っかけたのは、つまりは貴方の『女王』に喧嘩を売ったということ。『王』の右腕をバカにされて怒らない人はいませんからね」

 ようするに、俺が彼を潰さないかと心配したわけだ。

 ソーナの眷属でなければまた反応は違ったかもしれないが、どちらにせよ兵藤一誠には近しい者が必要だ。力量的にも、立場的にも。使われた駒は違うが、彼らは同期だ。力量差も、いまはそれほどではないだろう。もちろん、防戦に限ってはその限りではないが。

「いいライバルになれないものかと思ってね。つい助言から入ってしまった」

「あら、それはいいわね」

 視界の端で、兵藤一誠と匙元士郎が握手をしながら何事かを言い合っている。

 そこにルフェイと握手をしていた匙元士郎に割り込むようにして握手を返すアーサー。心なしか、普段の笑顔より幾分か殺気が漏れているのは気のせいにしておこう。

 両側を兵藤一誠とアーサーに挟まれたソーナの新しい「兵士」は、なにごとかを呟きながら泣きそうな顔をしていた。

「お互いに大変だな」

「そちらほどじゃないわ」

 言いながら、ため息が漏れるソーナ。

「一応だが、スーツの男――アーサーが新しい『騎士』。その隣にいる中等部の制服を着ているルフェイが『僧侶』。そして兵藤一誠の隣にいる高等部の制服のアーシア・アルジェントも『僧侶』だ」

「一度に四人ですか。やはり多いですが、ここ数年の貴方を見ていると、その埋め合わせのために一度に揃ったかのようですね」

「……そうだな。いい出会いもあったものだ」

 彼らの詳しい紹介まではまだしていないが、それもそのうち話さなければならないだろうな。

 なにせ、赤龍帝に聖剣使いだ。男性陣だけでも相当のものだからね。

「ああ、そういえばソーナ。他に用件があったと記憶しているが」

「ええ、あるわよ。少し前の出来事なのだけれど、カトリック教会の方で問題が起きたらしいわ」

「それで?」

「教会から二人、その一件を解決するために人を回すことになったみたい。それで、解決するにあたって標的となっている者がこの町を目指しているらしいの。その所為か、近いうちにこの町を縄張りにしている貴方と交渉をする者が現れるかもしれない、とのことよ」

 なにかと思えば、教会側の面倒事か。それも、この町も対象に入っていると来た。

 誰がなにを企んでいるとしても、駒王町で事を起こそうものなら対処するだけだな。いまは俺以外にも、眷属だっている。

「ここには神父だってたまに訪れている。今更教会の者が来ることを拒否はしないが、交渉というのなら受けないわけにもいかないな。もしも接触してくれば、話した内容はそちらにも通そう」

「お願いするわ。なにかあればこちらも力を貸します。いつでも頼ってね」

「頼りにしている」

「そう……なら――いえ、これは私の問題だわ。ごめんなさい、ヴァーリ。そろそろ戻らないとあの子たちも大変だろうから行くわね。またゆっくり話しましょう」

 ならば仕方ない。言いかけた言葉は、聞かないことにしよう。

 いまは、匙元士郎と話しを続ける俺の眷属を止めるとするか。この僅かな時間の間に言い合える仲にはなったようだし、最初の出会い方としては、失敗ではなかったのかもしれないな。


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