グレモリー家の白龍皇   作:alnas

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珍しく連日投稿をしてるalnasです。
なんとなく、ここまでは続けて書きたかった(書きたい内容が書けたとは言っていない)。
では、短いですがどうぞ。


その選択は……

 平日の日課である早朝の特訓を済ませ、白音と共に登校してすぐのこと。

 まだ生徒たちが来るには早い時間なので三年の教室で白音と話していると、兵藤一誠が入ってきた。

 数日前とは違う目……決意を固めたその瞳が、俺に向けられる。

「兵藤一誠か。数日ぶりだな」

 失礼します、と入ってきた彼に向けそう答える。

「おはようございます。一誠先輩」

 続いて白音もあいさつを済ませたところで、俺は再び口を開く。

「兵藤一誠。俺に会いに来た、ということでいいのかな?」

 次に会うときは、彼が答えを出すときだと思っていた。彼が三年の教室に用事があるとすれば、それは俺との話をつけにきたに他ならないはず。

 どうあれ、彼が俺の前に現れた時点でそれは確定事項だ。

「はい。ヴァーリ先輩と話すために、俺はいま、ここにいます」

 そうだろうな。

 顔を見ればわかる。むしろ、その顔をしているのに話せないのなら、期待はずれもいいところだ。

「なら、答えは決めてきたんだな」

 俺は立ち上がり、静かに彼を見据える。

 二天龍。

 その片割れ同士である俺と兵藤一誠。本来なら、出会えばすぐにでも殺しあう宿命に沿うべきはずの存在だとしても。俺は争うだけがすべてじゃないと知っている。

 サーゼクスの背中を見てきた俺だからこそ、憎しみにも妄執にも囚われず、先の未来を見たいんだ。

「ヴァーリ先輩!」

 兵藤一誠が覚悟を決めたかのように声量を上げ、俺の名を呼ぶ。

 彼の決断がどうあれ、受け止めなくてはならない。

 話を持ち出した、俺の役目だ。

「俺には、守りたい人がいます! 本当に守ってやりたい女の子ができました!」

「そうか」

「はい! でも、いつその子を傷つける奴が現れるかはわからない。後から後悔するのだけは、したくないです……強ければ守れたかもしれないって思うのだけは、したくないんです」

 固く拳を握る音が、こちらにも届く。

 俺は彼を、どこかで普通の少年だと思っていたのかもしれないな。だが、違ったみたいだ。彼も俺や白音同様、大事なものがあって、在りたいと思う自分がいるらしい。

 力に溺れない強さ。

 確固たる信念。

「俺は強くなります。彼女を――アーシアを誰からも、なにからも守れるくらい強く!」

 なにより、誰かのために力を振るうことを知っている。

 過去、力に溺れることなく、尚且つ誰かを守るために力を欲した赤龍帝がいただろうか? いいや、そんな事例、あるはずがない!

 兵藤一誠と俺の視線が交差する。

 初めて彼を見た日から、まるで変わらない赤い激情。曇りなく、純粋なその瞳。

 ああ、やはり俺の選択は、間違いなどではなかった。

「だから――だから俺をヴァーリ先輩の眷属悪魔にしてください!」

 直後、勢いよく頭を下げると共に、彼は俺の問いに答えてみせた。

 わずかな静寂の後。

「兵藤一誠」

 勢いよく頭を下げた彼に向け、俺は呼びかける。

 絶対に退かないとする姿勢が伺える彼に、俺も応えようじゃないか。

「今代の赤龍帝がキミで、本当によかった」

 戦わなくて済むとか、そういう話ではない。彼が本当に戦う価値のある人間だったからこそだ。俺の眷属として、本当の意味で答えを出していてくれたからだ。

「――キミを俺の眷属悪魔として、正式に迎えよう」

 胸ポケットから、純白の、チェスの駒に類似した悪魔の駒を取り出す。

 やっとだ。白音を眷属悪魔としてから、長かった。

 ようやく、俺たちの仲間として迎えたい者に出会えた。

「顔を上げてくれ、兵藤一誠」

「は、はい!」

 素直に顔を上げた彼に、手に握った悪魔の駒を向ける。

「これは白音にも伝えたことだが、俺は情愛と力を望む想いを併せ持つ者を探していた。改めて、キミがそう在れる者で本当によかった。俺の眷属となれ、兵藤一誠」

「俺も、ヴァーリ先輩が白龍皇でよかったって思ってます。まだまだ弱いっすけど、精一杯頑張ります!」

 快く受け入れた兵藤一誠が、悪魔の駒を受け取る。

 純白の、チェスの女王に類似した悪魔の駒。たったひとつしかないその駒は、兵藤一誠の中に入る前に純白から赤へとその色を変え、そのまま再確認する間もなく彼の中へと入っていった。

「え? え……ええ!? な、なにが起きたんすかね?」

「さて、どうなることやら。兵藤一誠、キミに渡したのは『変異の駒』と言って、悪魔の駒の中でも特異な駒でね。その駒ひとつで、本来の駒数個ぶんの価値があるんだ」

「お、俺なんかに使っちゃってよかったんですか?」

「気にすることはないさ。キミの想いを聞いた時から、仮に『変異の駒』でなかったとしても、その駒を渡そうと考えていたんだ」

「その駒……?」

 どうやら彼は、自分の受け取った駒がなんであったかまではわからなかったようだ。

 俺が彼に渡したのは、「変異の駒」である前に、一人の王がひとつしか持つことのできない駒――「女王」。

 「兵士」「僧侶」「騎士」「戦車」のすべての駒の特性を兼ね備えた最強の駒。そして、王が最も信頼を寄せる駒。

 キミに託した想いを、キミは気づく日が来るのだろうか? なあ、兵藤一誠。

「よかったんですか?」

 成り行きを見守っていた白音が、小さな声で聞いてくる。

 仮にも赤龍帝と白龍皇の邂逅だったのだ。見ている側の緊張は並のものではなかっただろう。

「いいさ。彼が赤龍帝だとしても、あれが俺の答えだ」

「そうですか。ヴァーリ様がそう言うなら、私はヴァーリ様を信じます」

「ありがとう、白音」

 いまなお、俺の言葉の真意を考える兵藤一誠。けれど、どうやら答えは出ないらしい。

 すぐでなくていい。

 ゆっくりでいいさ。どうせ、この先ずっと共に歩んでいくんだ。

「さあ、兵藤一誠。ようこそ、グレモリー眷属へ」

 だから俺は、多くの想いを込め、その言葉を口にした。

 彼に手を、伸ばしながら。

 

 

 

 

 

 彼が眷属悪魔になってすぐ、俺はソーナから旧校舎の鍵を受け取っていた。

 先日も指摘されたからな。

 いまは誰も使っていない旧校舎。これまでは白音と二人きりだったので放置してきたが、そろそろ使えるようにするべきだろう。

 ソーナには「あら、急にどうしたの?」などと聞かれたが、じきにわかるとだけ返しておいた。

 長い付き合いのせいか、笑みを浮かべられた後、すぐに鍵を渡された。

 そんなやりとりから数日。

 三人で旧校舎に必要な物の買い出しや中の整理をしようとしたのだが。

 兵藤一誠の連れてきた、一人の少女。どうやら手伝いをしたいということで連れてきたようだが。彼に少し聞いた限り、彼女が兵藤一誠の守りたい人らしい。

 なんでも、こちらの事情も把握しているとか。

 それからしばらく、兵藤一誠から少女の紹介をされ、どこでどう会ったのか、実は神器の所持者だとか、その能力、自分との関係。互いの想いや決意まで語られてしまった。

 それは、彼が悪魔となってからの二人の話。長い年月、いつまでも一緒にいたいという、尊い願い。

 

 

 

 

 

 運命というのは、どこかで必ず捻れるものだ。

 真っ直ぐに進む己だけの道なんてなく、そこには必ず誰かの道が交じり合い、幾重にも重なった路となって進んで行く。

 違いがあるとすれば、交わる者たちが敵か味方か。最も異なる点はそこだろう。

「まさか、こうなるとはな……」

 俺――ヴァーリ・グレモリーは部屋の内装を眺めながら、ひとつため息を吐く。

 世の中想定外のことが多いが、これは俺も予想外だった。

「ヴァーリさん、次はどこを掃除しますか?」

 金髪碧眼の少女がやる気満々ですと言わんばかりに張り切り、

「ヴァーリ先輩、この棚ってこっちで大丈夫ですか? って、うおおおおおっっ!! 倒れる、マジで倒れるってぇっ!?」

「い、イッセーさん!?」

 赤龍帝である兵藤一誠は自らが運んできた食器棚に潰されかけている。

「一誠先輩、あと少しだけ耐えてください。こっちが終わったら手伝います」

「で、できるだけ早めにお願いします……わりと、きつ――へぶっ」

 白音の声に応えながらも、兵藤一誠は棚の下へと潰されていった。

 まったく、どうしてこうなったのか。

 あの日の決意を聞いた限り、この未来は想像できなかったんだがな……。

 二人目の眷属ができたはずが、気づけば周りにいる者の数は三人。

 そして、「僧侶」の駒がひとつ減った、机に並べられた俺の残りの悪魔の駒。

 窓の外に映る青い空を仰ぎながら、ため息がまたひとつこぼれた。




まさかあの駒がああなってて、しかも使ってしまうとは。
まあ、しょうがないよね。そういう設定だもの。
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