半年ぶりに帰ってきましたこの作品! いや、本当に更新できなくてすいませんでした。
なにぶん再構成部分も多く、書くけど違うなってこともあるわけですよ。
まあそれは置いておいて。
半年ぶりなんでみんな、内容を忘れている人は1話目から見直してね! 更新遅くて申し訳ない!
では、始まるよ!
――イッセーさん、私の昔話を聞いていただけますか?
その一言から感じられるのは、アーシアの確かな意志。そして、わずかな不安と恐怖。
俺は彼女の力がなんであるかをよく知っている。おそらく、彼女が心配することは一切ない。だけど、思っていることをそのまま伝えるのはすごく難しくて……なにより、彼女のあれがなんであるかを把握しているという事実だけでは、きっとダメなんだろう。
淡い光の正体を知っていたとしても、彼女の不安を和らげることに一役買ったとしても、それでも、結局は意味のない行為で。
望んでいるのは――望まれているのは、そんなことじゃないと俺でさえわかるんだから。
ああ、そうだよな。ドライグに頼って得た知識がなんだって言うんだ。俺に望まれていることはただひとつ。
「もちろん! 俺でよければ、いくらでも聞いてやる!」
アーシアを受け入れることだけだ。
新たに決意を固め彼女に答えると、張り詰めていた緊張がわずかに解けたような気がした。
「それで、話っていうのは? ……あっと、急かさない方がいいよな、ごめん。アーシアの話したいように話してくれ」
「は、はい」
深く息を吐き出すアーシアは、思いの外緊張も、思いつめてもいないように見える。
俺の見えている景色がどこまで正しいのかはわからないけれど、なにを話されても、どうにかしてあげたいと思う。いや、思うだけじゃなくて、どうにかしたいんだ。
「イッセーさん、私には不思議な力が宿っています」
「ああ、信じるよ」
「……はい。その力もあってか、私は教会では聖女と呼ばれていました。人々を癒す力……私は、会いに来る人たちを癒し助けることが誇りで、誰かが笑顔になるならって思っていました」
癒しの力。それが彼女の神器の正体なのだろう。
俺は詳しいわけじゃないけど、ドライグに話を聞けば歴代の赤龍帝の先輩たちが生きていた頃に見ているかもな。
「アーシアはどこにいても、優しい子だったんだな」
「そうだといいんですけど……ですが、教会でシスターとして暮らしていた日々も、神様から頂いたこの力を使う日々で」
「辛かったのか?」
「いいえ。素敵な力ですから、誰かのためになるのは、とてもいいことです」
アーシアは笑みを浮かべはしたが、すぐに複雑な表情をして俯いてしまった。
俺は幸いにも、今日まで問題なく暮らしてきた。でも、中には想像できない過酷な日々を送ってきた人たちもいると、知識でだけは知っていて。
そんなことはなにもわからない俺が不用意に言葉にできるわけがないんだ。
「いいこと、だったはずなんですけどね……」
俯いている彼女の肩が震えだしたのは、それからだった。
少しして、頬を一筋の涙が流れた。
「私はただ役に立ちたかったんです……私は孤児院で育てられて、幼い頃にこの力を授かりました。それからカトリック教会の本部に連れて行かれて、治癒の力を宿した「聖女」として体の悪い人や、ケガをした人の治療をしてきたんです」
「そっか……不満はなかったのか?」
「はい。教会のみなさんはよくしてくれるし、ケガをした人を治すのは嫌じゃありませんでしたから。お世話になってきた人たちのお役にたっているんだと思うと、やっぱり嬉しくて」
ただ、と彼女は話を続ける。
「みなさんの私を見る目が違うのは気づいていました。大事にしてくれるし、優しかったんです。私を見る目以外は、本当に優しかった……」
そういう、ことか……。なんとなく、わかった気がした。
公園でケガを治してあげた子どもの親の目。アーシアを見ていたあの目。
自分たちとは違う、異質で異様なものを見るあの目だ。いや、あの母親の目は、まだいい方なのかもしれない。アーシアを利用していた人たちの中には、彼女を『人を治療する生物』と思っている者もいたのかもな……。
「ある日、ケガをしたあく――いえ、その……ちょっと不思議な方に出会って……私はその方の治療をしました」
三大勢力の抱える問題は、ある程度ドライグから聞かされている。アーシアのしたことがなんであるのかは、想像できた。咄嗟に隠しても隠しきれないものもある。
「アーシア、ごめん」
俺が黙っておくのも、ここらへんまでかな。
「イッセーさん?」
「ずっと黙っていたんだけど、実は俺も神器を宿している人間でさ……黙っててごめん。だから、天使、悪魔、堕天使のこともわかるよ。無理に濁さなくても、大丈夫だからさ」
「イッセー、さん……も?」
「うん、そうなるかな。言い出す機会が中々なくてさ」
「そうだったんですね。イッセーさんも、神器を。全然気づきませんでした」
くっ、もしかして強い人だと互いに気づけたりするのか? まだまだ、力不足ってことですか。
「ま、まあね。だからさ、変に気を使ってくれなくてもいいよ。俺に気なんて使わなくていいし、話したいこと、全部伝えてくれ。人に話せば変わることもあるからさ」
「イッセーさんは、やっぱり優しいですね」
それからアーシアは、静かに話の続きを語りだした。
自分が悪魔を助けたこと。
生まれながらに持つ優しさがそうさせただろうこと。
それこそが、彼女の人生を変えてしまったこと。
教会の関係者がその光景を見てしまい、内部に報告されてすぐ、内部の祭司は驚愕したそうだ。
『悪魔を治療できるだと!?』
『バカな! あれは神より授かった力ではなかったのか!』
『治癒の力は加護ある者にしか効果を及ぼさないはずだ! 現に、世界各地にいる者たちは皆、そうであったはず!』
話を聞く限り、治癒の力を持っている人たちは他にもいたらしい。
でも、悪魔まで治療できる力はあまりに規格外だった。教会内部の常識では、悪魔と堕天使には効果がないのが常識だったとか。
そのせいで、アーシアは『魔女』の力を持つとして恐れられてしまった。
聖女として崇められた少女は、悪魔を治療できるというだけで恐れられ、カトリック教会から捨てられた。
馬鹿げてる……きつく握った拳から力が抜けない。
「ですが、一番辛かったのは、誰も庇ってくれなかったことで……きっと、私になにか悪いところがあったんです」
そう言って、アーシアは笑いながら涙を拭った。
彼女の過去は、俺の想像を超えていて。
俺はただ、理不尽な運命を押し付けた神様に怒るしかなかった。
あんたがなにもしないって言うんなら、アーシアは俺が救う。
誰も彼女に手を差し伸べないなら、俺が彼女の手を握る。
魔女だと言って恐るなら、周りに向けられた優しさを、俺が伝わるようにしてやる!
「アーシア、いまは俺がいる。側にいるから」
彼女の手を取り、目を合わせる。
「イッセーさんが……?」
「頼りないかもしれない、いまはまだ弱い。けど、なにがあってもアーシアの側にいる。俺はアーシアの友達で、そして家族じゃないか。正直言うとな、こうしてアーシアが自分のことを話してくれて、嬉しかった。ちょっと怒りそうなところもあったけど、知れてよかったって思う」
これまでのことはなにも言えないけれど。適切な言葉は出て来ないけれど。
なかったことにはできないし、こうして聞いてやることぐらいしかしてやれない。でも、これからの未来は別だ。
いままでの過去ぜんぶが吹き飛ぶくらい、楽しいことを。辛い過去を覆えるくらい、優しい日々を彼女と送る自信はある!
誰がやってこようと、なにが起きようと、それは絶対に邪魔させない!
俺がアーシアを守る!
「そうなったら、やっぱりいまのままじゃダメだよな……守るって言ってるだけじゃ、このままの俺じゃ足りないものが多すぎる」
「イッセーさん……?」
俺を見上げる、涙に濡れた瞳。
もう、彼女が苦しまないように。無理をさせないように。
「アーシア。よく聞いてほしい」
俺の想い。
たぶん、最初から決まっていたんだ。ただ、踏ん切りがつかなくて。
アーシアと出会って、やっとわかった。
「なあ、アーシア。俺が守るよ。アーシアのこと、俺が。これまでのことは、経験も、想像もできない俺からはなにも言えない。でもさ、これからの話をしよう。せっかく俺たち、こうして出会えたんだからさ。この先の、楽しいことを考えながら!」
「はい――はい、イッセーさん!」
日が沈んでいき、いろんな色が混ざり合う空。
迷ってばかりの俺だけど。
まだまだ弱くて、覚悟も足りない俺だけど。
それでも――。
答えは得た。
この先どうするべきか。俺なりに考え抜いて、出した答えだ。
隣に寄り添う、ひとりの女の子。この子のためになら、俺はきっと。
翌日。
朝早くから、アーシアに見送られて駒王学園に登校した俺は、自分の教室へは行かず、ひとつの教室だけを目指し歩を進める。
あそこか……。
「失礼します」
一言断ってから、その教室のドアを開く。
朝はまだ早く、生徒は運動部くらいしか登校してきていない。
けれど、教室の中には二人の生徒が椅子に座り、俺へと視線を向けてきた。
「兵藤一誠か。数日ぶりだな」
「おはようございます。一誠先輩」
声かかけてきたのは、つい先日に会った、白龍皇であり悪魔であるヴァーリ先輩とその下僕悪魔の白音ちゃん。
「兵藤一誠、俺に会いに来た、ということでいいのかな?」
「はい。ヴァーリ先輩と話すために、俺はいま、ここにいます」
「そうか。なら、答えは決めてきたんだな」
ヴァーリ先輩は立ち上がり、静かに俺を見据える。
ああ、言ってやろうじゃないか! そうだよ、俺はアーシアのためにも、こうして決意して、ここに居るんだ!
「ヴァーリ先輩、俺は――俺の答えは!」