グレモリー家の白龍皇   作:alnas

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二人で書いている本作ですが、今回の担当は私ではありません。
今後、度々書き手がjiguさんと変わりますので、ご容赦ください。
では、どうぞ!


その行先は安息

「えっと……その、りょ、旅行?」

 

 俺がそう聞くと、彼女は首を横に振り、こう答えてくれた。

 

「いえ……実はこの街の教会に赴任することになったんです。あなたはこの街に住んでいる方なのですね。これからよろしくお願いします!」

 

 そう言い、彼女はペコリとお辞儀をした。

 

「あ……あぁ、こちらこそよろしく。」

 

 ――ん? この街の教会へ赴任……?

 おかしいな……この街の教会は俺が知っている限り一つしかないけど、あそこはだいぶ前から人の出入りはなかったはずなのだが……。

 

「この街の教会への赴任?」

「はい! ですが地図を見ても教会の場所がわからず道に迷ってしまっていたのです……。なので、道を聞こうと何人かの人に話しかけたのですが、なぜか皆さん、私が話しかけると驚いて逃げてしまって……私はこの街の人に何かしてしまったのでしょうか……?」

 

 彼女はそう言うと、とても悲しそうな顔をした。

 

「いや、予想にすぎないけど、シスターは悪くないと思う。言葉の壁があると、どうしても気後れしちゃうものだと思うし。あ、そういえば自己紹介がまだだったな。俺は兵藤一誠。みんなからはイッセーって呼ばれてるから、是非そう呼んでほしいな」

「あ、そういえば自己紹介していませんでしたね! 私はアーシア・アルジェントと言います! アーシアと呼んでください!」

「よろしくな、シスター・アーシア。」

「はい! よろしくお願いします! イッセーさん!」

 

 俺たちは違いに笑みを交わす。

 そうしてしばらくしてから、俺は再び口を開いた。

 

「それはそうと、多分シスター・アーシアが赴任するっていう教会なら、俺知ってるから案内できると思うけど?」

 

 ただ、ちょっとおかしいと思うんだよな……。

 今まで人の出入りがあるかどうかすら怪しかったのに、今更シスターを教会に赴任させるって……どうにも裏があるようにしか思えない。

 近頃は堕天使もうろうろしているご時世だ。警戒して損はないだろう。

 もっとも、こんな純粋そうな子を欲しがるとは思えないけど。

 

「ほ、本当ですか!? これも主のお導きのおかげですね!」

 

 思わず見惚れてしまうような笑顔を浮かべるアーシア。

 そんな笑顔を間近で見た俺は、またもや言葉を失ってしまった。

 

「……イッセーさん?」

 

 怪訝な顔をされたので、慌てて返事を返す。

 

「……っ! ごめんごめん、じゃあ早速案内といくか」

「はい!お願いします!」

 

 あっぶねぇ……危うく何考えてるのかばれたかと思った……。

 だが、様子をうかがう限りは心配なさそうだ。

 そうして、俺たちは他愛のない話をしながら教会までの道を歩いた。

 

 

 

 

 

 

 十数分ほど歩き、ようやく目的地である教会が見えてきた。

 

「シスター・アーシア、一応俺が知ってるこの街の教会が見えてきたんだけど、目的地で間違いなさそう?」

 

 俺がアーシアに問いかけると、荷物から地図を取り出し、確認を始めた。

 

「えーっと………あ、はい! 合ってます! ………合ってます……よね?」

 

 本当に合っているのかが不安になったアーシアは、俺に確認してほしそうに横に移動してきて、地図を俺に見せてきた。

 

「んー……これがここで……あれがこの部分だから――うん、ちゃんとあの教会が目的地で間違いないみたいだな」

「本当ですか!? よかったです!」

「教会まであと少しだな。もうちょっと頑張るか!」

「はい!」

 

 元気そうに返事を返してくるアーシア。

 地図を再び鞄の中へしまい、再び歩き出した。

 ……そう言えば、アーシアはこの街への赴任って言ってたよな?

 

「シスター・アーシア。聞きたいことが一つあるんだけど聞いてもいいかな?」

「はい? なんでしょうか?」

「さっきこの街の教会へ赴任って言ってたよな?」

「はい。そうですよ?」

「……まさかとは思うが、赴任するっていうことを伝えられて、赴任先の付近の地図を渡されて行ってこいって言われたわけではないよな……?」

「はい。そうですよ……? 何かおかしかったでしょうか?」

 

 案の定、まるで疑問に思っていない。

 

「案内する人とかもいなか……………ったんだよなぁ。だからこそ迷ってたところを俺が見つけたんだし」

 

 ……教会の奴らはどういう神経してやがるんだよ。こんな異国の地に、ましてや言葉が通じないこともわかってるところに女の子を一人で放るなんて!

 

「あはは……そう、ですね。でも、大変でしたけど今となっては案内の方がいなくてよかったと思っていますよ。もし、そのような方がいたとしたら、今こうしてイッセーさんと会ってお話をすることができなかったんですから!」

 

 俺の怒りとは反対に、嬉しそうに微笑むアーシア。

 

「――っ!! そうだな……確かに今こうして話すことができなかったかもしれないんだよな。そう考えるなら、それを不幸として考えるんじゃなくて、今こうして楽しく話せてることを幸せだと考える方がいいか」

「はい! そう考えましょう!」

「そうだな! 出会いはちょっと変だったかもしれないけど、こうしてシスター・アーシアと……いや、アーシアと友達になれたのは嬉しいことだもんな!」

「友達……ですか……?」

 

 そう言い、彼女は嬉しそうな、しかし戸惑いの感情を織り交ぜたような表情をした。

 

「そう思ってたのって俺だけだったか……?」

 

 俺は不安になりアーシアへ問いかけた。

 そうだったなら俺かなり恥ずかしいやつじゃねぇか……。

 

「違います! 違い……ます……けど……」

「けど?」

「私なんかが、そんなこと思っていいのでしょうか……? 私がイッセーさんに何かできるなんて思えないんです……」

「アーシア、今までの友達にもそんなこと思ってたのか?」

「今までずっと一人でした……皆さん、私のことを腫れものでも扱うかのような態度だったので、話したくても話せなかったんです……」

 

 顔をうつむけ、服の端を握ってしまう。

 でも、そこで優しくするだけなら、いままでの人たちと何も変わらない。

 彼女に教えてあげることこそ、本当にいいことだと信じてるから。

 

「そっか……アーシア、友達ってのは別に相手に対して何かできる必要なんてないよ。一緒に話して、お互いがそう思ったらもう友達なんだ!」

「私がイッセーさんの友達になってもいいんでしょうか……?」

「俺はもうアーシアと友達だと思ってるよ」

「イッセーさん……」

 

 アーシアは目に涙を浮かべながらも、とても綺麗な笑顔を浮かべた。

 そんな表情をしたアーシアにまたもや俺は見惚れてしまった。

 

「……ったく……そんな顔をするのはずるいだろ……」

「イッセーさん、今何か言いましたか?」

 

 やべ……今の声に出てたか……。

 

「い、いや、何も言ってないぞ!?」

「そう、ですか?」

 

 疑問に思われている!?

 だが、天は俺に味方してくれたらしい。大げさに手を広げ、先を指差す。

 

「それより、ようやく教会に着いたぜ!」

「あ! 本当ですね!」

 

 俺は心の中でガッツポーズをし、そちらに進んでいった。

 

 

 

「んじゃあ、教会に着いたことだし案内としての役目はおしまいかな?」

「え!?あ……そ……そう……ですよね……」

 

 アーシアは、とても寂しそうに顔をうつむかせた。

 ……そんな顔しないでくれよ……俺だってもっと一緒にいたいのに

 ………なんで俺は今日会ったばっかのアーシアにそんなこと思ってるんだ……?

 え……本当になんでなんだ……?

 俺はそのことを深く考え始めてしまった。

 そうするとふとアーシアからこんな提案がなされた。

 

「あ!! そうです!! イッセーさん!!」

「え!? どうした?」

「この後、一緒にお茶しませんか?」

「いいのか?」

「はい!もっとイッセーさんとお話ししていたいです!」

「じゃあ……迷惑じゃないなら行かさせてもらおうかな……?」

「本当ですか!?やったぁ!!」

「そんなに喜んでくれるのならこっちも嬉しいな。」

 

 ……おかしな反応をしていないか……?

 アーシアにみっともない姿を見せたくないから、精一杯取り繕ってはみたけれど今にも嬉しさで表情が崩れてしまいそうだ……

 

「あ……あの……イッセー……さん?」

「どうしたんだ?」

「あの…その……そうしてもらうのは嬉しいのですが……ちょっと恥ずかしいです……あぅ……」

 

 そう言って、アーシアは顔を真っ赤にして俯いてしまった。

 恥ずかしい……? アーシアは何が恥ずかしいのだろうか。

 そう思うのと同時に自分の右手がアーシアの頭を撫でていたことに気付いた。

 ……なんで俺はアーシアの頭を撫でているんだ。

 冷静にそんなことを俺は考えていた。

 

「――!?ご、ごめん!!」

 

 俺は慌てて手を離した。

 

「ごめん、アーシア。えーっと…これは違うんだ。いや、撫でちゃったのは事実だから違わないんだけど…無意識に手が動いてしまっていたというか…決して下心があってこんなことをしたわけではなくてだな……えーっと、その……「イッセーさん!!」!?お、おう?」

「怒ってなんていないので、落ち着いてください、ね?」

「あ、あぁ…ごめん、取り乱してたみたいだ…」

「イッセーさんが落ち着いてよかったです!」

「でも、本当にごめんな。嫌だったろ?」

「そんなことないです!」

 

 アーシアが強い口調でそう断言した。

 よかった……嫌われてないみたいだ……。

 

「そっか……嫌われてないならよかった……」

「私がイッセーさんを嫌うなんてありえないです!!」

「それならよかった…」

「はい!」

 

 お互いに笑みを浮かべた。

 

「…っと、時間食っちまったな。そろそろ中にでも入ろうか。」

「そうですね、入りましょう!」

 

 そうして俺たちはようやく教会の中へと入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ではイッセーさん、飲み物の準備をしてきますので、ここで座って少し待っててください!」

「おう。でもここに来たばっかなのに場所とかわかるのか?」

「うっ……わかりません……でも、探せばどこかにはあるはずです!」

 

 アーシアはやけに自信満々であった。

 んー…ここで一人で待ってるのかぁ……それはちょっとつまらなそうだなぁ……

 

「あ、そうだ。それなら俺も一緒に付いていっていいか?」

「一緒に…ですか?」

「そうそう。ここで一人で待ってるのも寂しいし、場所がわからないともなるとどれくらい時間がかかるかわからないだろ?まぁ、教会内を関係のない人間が動き回っていいのかわからないところだけど…」

「確かにそうですね…じゃあ一緒に行きましょう!もし、何か言われてしまったら私が説得してみせます!」

「ははっ!それは心強いな。頼りにしてるぜ?」

「はい!頼りにしてください!それじゃあ行きましょう!」

「ちょっとした探索の開始だな!」

 

 俺らは教会内を歩き始めてすぐにキッチンを見つけることができた。

 まぁそんなに広いところではないし、そりゃ当たり前だよな。

 しかし、見つけたキッチンは当分の間使用されていないのが明らかだった。

 

「……アーシア。もう少し別の場所を見て回らないか?」

「そう…ですね。そうしましょう」

 

 やはりアーシアも気付いていたのか、俺の提案を受け入れてくれた。

 

……そうしてアーシアとともに歩き回ること数分。全ての部屋を見て回りキッチンへと戻った。

 

「誰も…いなかったな…」

「はい…」

「本当にアーシアが赴任先として言い渡されたのはここでいいん…だよな?」

「それはそのはずです…地図を見ながら来たので…」

「だよなぁ…でも、明らか人がこの教会に最近立ち寄ったような形跡がなかったんだよな…」

 

 全ての部屋を回って見たものは埃をかぶった家具などであった。

 

「それに…水とかも通ってないみたいだし…」

 

 そう言いながら、俺は蛇口をひねった。

 が、蛇口から水が出ることはなかった。

 

「でも、たまたま教会の方が外出しているだけなのかもしれません…よ?」

「本当にそう思うか?」

「いえ…思えないです…」

「んー…本当にどういうことなんだ…まさかアーシアの赴任自体が嘘だった…?いやでもそれだと、金と地図を渡した意味がわからないな…」

 

 アーシアをここに赴任させた意図が全くもって掴めないな…。

 単純にミス……なんて考えるには明らかに不自然すぎる…。

 

「でも、それなら今すぐにでも掃除を始めないといけませんね!」

「……どうしてだ?」

「私ここに住む以外に行き先がないですからね…」

 

 アーシアを一人でこんなところに住ませる…?

 だめだ……絶対にだめだ……それは許せない……

 

「アーシア、それならウチに住まないか?というか住みなさい。」

 

 俺はアーシアの左手を掴み、歩き出した。

 

「え!? どうしたんですか急に!?」

「……アーシアがこんなところに一人で? ……絶対にだめだ。一人になんてしておけない……どうにかしなきゃ!」

「……イッセーさん?」

 

 アーシアの呼びかけに対して反応がなかった。

 

「イッセーさん? イッセーさん!!」

「――!? どうしたんだ、アーシア? そんな急に大声出して。」

「イッセーさんの様子がおかしかったので……さっき私が発言してから急に歩き出してびっくりしました」

 

 そう言い、アーシアは左手を上にあげた。

 アーシアの左手を掴んでいた俺の右手も一緒に上へあげられる。

 

「!?」

 

 俺は、慌てて手を離す。

 ……さっきの俺は一体何を口走った!?

 

「ごめん、急に手を掴んだり、変なことを言ったりして……」

「いえ……全然大丈夫ですよ?」

「それはよかった。でも、さっき言ったことは本当だ。アーシア、ウチに住まないか?」

「いえ……これ以上イッセーさんに迷惑をかけるわけにはいきませんよ…」

「でも、水も通ってないここに住むのは無理だろう?」

「それはそうですが…イッセーさんのご両親にも迷惑がかかってしまいますし……」

「そこは俺が必ず説得する。……というか、ウチの両親は迷惑だと思わないと思うし……」

「でも……」

 

 それでもアーシアはまだ迷惑がかかると思っているのか断るそぶりを見せている。

 

「あーもう埒が明かない。行くぞ、アーシア!」

 

 先ほどとは違い自分の意思を持って、アーシアの手を引いて我が家へと向かった。

 

「イッセーさん!?」

「アーシア。俺が提案したことなんだ。それなのに迷惑だなんて思うはずがないだろ?もしかして、そもそもウチに来ることが嫌だったか……? それだったなら…無理にとは言わないけど…… 」

 

 そう言い、足を止める。

 

「嫌だなんて思うはずがありません!! でも……本当にお世話になってもいいんですか…?」

「当たり前だろ?困ってる女の子を放っておけないし、何よりももっとアーシアと一緒に居たいからな!」

「イッセーさん……」

 

 少しアーシアは照れたような顔をした。

 

「はい! 私もイッセーさんともっと一緒に居たいです!」

「んじゃあ、行こうか!」

「はい!!」

 

 そうして、俺とアーシアは再び歩き始めた。

 

 

 

 

 両親への交渉がどうなったかだって?

 境遇を伝えて少し話したら、父さんと母さんがアーシアを気に入って交渉する間も無くアーシアが我が家の一員となることが決まったよ。




今回、書くのを初めて経験させていただきました、jiguです。
不慣れなもので、投稿期間が空いてしまい、申し訳ありません。度々遅れることがあるかと思いますが、そのときは、ああ、もう一人の方だな、と思い、気長に待っていてください。
初執筆なので、批判でもなんでも、感想をいただけると嬉しいです。
では、また次回、お楽しみください!

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