IS - イチカの法則 -   作:阿後回

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第26話 想いを形に......

Ichika side

 

とても大きな音が鳴り響く。

 

「神器を渡した甲斐があった。

漸くアノンを倒せたんだね。植木君。」

 

(フェイク)”の後、アノンに対し“魔王”の想い(重い)一撃がはいったところが見えた。

 

なくなる意識の中で、能力(ちから)のカケラが消えてなくなるのが見えた。

 

 

 

 

〜半日前〜

 

 

 

 

 

『植木、バロウ両チームの四次選考進出決定です!!!!』

 

「わかっている。」

 

(わかっている筈だった)

 

 

橋の上にただ傍観することしかできない自身を思い出す。

人間(ゴミ)』が『天界人(怪物)』に勝利した。その場にいた自身は、選ばれなかった。

ただ、それだけで敗北した理由すら理解したくない(・・・・・・・)それだけで自身に対し、怒りが湧いてくる筈だった。

 

能力(ちから)なんか使えなくたって使えなくたって...私も戦う!!!!』

 

『でも...もしあそこで逃げちまったら、オレは、オレ自身をお前らの仲間だなんて言えねえと思ったんだよ!!!』

 

『コレは.....親友からもろた大切な能力(ちから)なんや.........せやから...誰にも.........クズなんて言わせへん!!!』

 

『私はもう二度と負けたくない!!!!』

 

『佐野はオレを信じてくれた...オレを信じてお前の能力(ちから)を命がけで暴いてくれたんだ。

届かねえわけ...............ねえだろ...!!!

 

必死で伝えようとしてくれた言葉が、伝わらねえわけねえだろ!!!!』

 

「綺麗事......」

 

綺麗事

 

たったそれだけの言葉で片付けられるそれは、沢山の人を変え過ぎた。

自身を掬ってくれた人もその中にいる。

 

血反吐を吐いた。

 

生まれてきたことを呪った。

 

恩を仇で返すような仕打ちすら今もしている。

 

それでも成し遂げなければいけないことがある。

 

 

「その仮面、バロウチームの『イチカ・ルナ』だな。」

 

「テメェらが、植木チームなんかに敗北したせいでオレらは大損こいた!!!

これだけの人数ならテメェ一人ぐらいわけねえ。とっととくたばったまいなあ!!!」

 

 

背後から近づいてきたそれらに気づかなかった訳ではない。

 

(やはり僕にはこっちの方が性に合っている.....それに、もうそろそろ(・・・・・・)必要だと思っ(・・・・・・)ていましたし(・・・・・)........)

 

 

 

戦闘は呆気なく終わった。

散らばった天界人(ゴミ)らを体内(ゴミ箱)に片付ける。

顔に仮面をつけ直す。

 

「とうとう正体を表しおったな、イチカ・ルナ......いや、守人の末裔よ。」

 

一人派手な服装をした男性が橋の反対側から来た。

 

(神に見られていたのか。気づかなかった......)

 

「見られてしまいましたか......はい、僕は『イチカ・ルナ』ですよ。」

 

「やはり......か......」

 

仮面を取った瞬間に少しの動揺と、確信めいた言葉を口に出した。

 

「やはり......ですか。まるで僕の正体を知っている様な口振りですね.........」

 

少しの同情と、覚悟が混ざったその目はさらに僕を苛立たせる。

 

「半年程前に、人間界で『デス・ペンタゴン』の仕業とおぼしき死体が、とある国家で発見された。そこからその近辺に暮らしていた人間の経歴を探していると......天界が保有している土地に二人の少年少女が住んでいることが発覚した。

そして、少年の名前と、少年がその土地に来る数週間に似た様な失踪者を探していたところ、天界側に虐待を受けた少年を保護した(・・・・・・・)とマーガレットが報告したのを思い出してな。保護対象が住んでいた町を中心に調べると驚く事がわかった。

『追放された地獄人』、『地獄人と人間のハーフ』、『生まれた子に対して親が行なった仕打ち』、『人間界でのその子供の立場』、そして.........半年程前に人間界で起こった『IS操縦者による大虐殺とその主犯の全世界公開処刑』の真相。

 

オレにとって驚くべきことばかりであった。

なあ『織斑一夏』よ。」

 

「へえ、よくそこまで調べましたね。

ええ、僕が織斑一夏だった者です。流石歴代の神の中でも最高峰の智略家と謳われるコトだけはありますね。」

 

僕はそのことを肯定した。

彼の顔には苦痛に歪み、自身への同情を隠そうとしなかった。

 

「じゃがな、まったくもってわからんのは、なぜそこまでして天界を狙う?」

 

「は? 何を勘違いしているのかわかりませんが、僕は天界を狙っていませんよ。」

 

「えっ⁉︎」

 

同情から一変、神が驚きの声を上げ漫画でよくある様に転ぶ。

 

(同時に歴代の神の中でも最高峰のお調子者と謳われるだけのこともある)

 

「まさか......お前は天界乗っ取る為にこの戦いに参加したのではないのか。」

 

地面についた体をあげながら言う姿勢に随分滑稽に思えるが、内容としては割とシリアスだ。

 

「ええ、僕の願いはロベルトさんと同じく『人間を滅ぼす』ことですよ。」

 

「人間を滅ぼすじゃと?お前の復讐対象はもう死んでいる筈じゃがなぜ人間を滅ぼそうとする。」

 

「ふふ......ふはははは面白い冗談ですね。

僕は元々、人間を滅ぼす為にロベルト・ハイドンと手を組んだ。だが、あの事件で随分自分が腐っていたことに気付かされましたね......例え、何が起ころうとも自分の目的を変えないぐらいの覚悟をして来ました。だから、ロベルトさんが人間を滅ぼすことをどうするか悩んでアノンに裏切られたときでも、僕は見捨てた。

僕は人間を滅ぼすことを辞めない。その為に、ここまでどんな手段でも使ってきた。仲間を裏切り、友を騙し、それでも成し遂げてみせるとあのとき、他の誰でもないあの人に誓ったんだ!!!!」

 

僕は演じる。

迷いがあろうが、後悔しようが、辞めてしまったら、またいつかあの光景が自身の目の前に起こってしまうから。

神は覚悟を決めて立ち上がる。

 

「誓った......か。

どうやらお前も他の守人のに末裔の様に過去に囚われているようじゃな。」

 

「“(くろがね)”」

 

「“快刀乱麻(ランマ)”」

激情に任せて撃った“鉄”。

神の“快刀乱麻”によって防がれる。

 

「なぜお前が神器を見使える⁉︎

お前が天界人を取り込んだのはついさっきであろう!!!」

 

そうなのだ。僕自身も普通に使えることに驚いている。

理由は理解できているが。

 

「簡単なことですよ。天界人以外が『覚醒臓器』を使うとどうなるか知っていますか?」

 

訝しげな表情をしながら神は答える。

 

「そんなもの神器が得られないに決まっておるじゃろう。」

 

それはとても滑稽見えた。

 

「ええ、得られないですね。

ですが、神器以外にも得られるものが確かにあるんですよ。」

 

「なんじゃと⁉︎」

 

神でも知らないことがあるのはちょっと可笑しく思える。

そして、天才と呼ばれた神が知らないことを知っていたことに優越感を覚える。

 

 

「天界獣の覚醒臓器は7回使うと、天界人は七つの神器を得て、天界獣は死んでしまいます。ですがそれは、天界人に限ったことであり、他の種族が使えば神器を得ることはありません。ですが、天界人は七つ星を上げると七つの神器を得ることができます。

しかし、神器のはそれぞれ『テーマ』があります。

 

(くろがね)”であれば『自覚』。

 

威風堂々(フード)”であれば『忍耐』。

 

快刀乱麻(ランマ)”であれば『不惑』。

 

唯我独尊(マッシュ)”であれば『渾身』。

 

百鬼夜行(ピック)”であれば『集中』。

 

電光石火(ライカ)”であれば『先読み』。

 

旅人(ガリバー)”であれば『持続』。

 

波花(なみはな)”であれば『把握』。

 

花鳥風月(セイクー)”であれば『バランス』。

 

魔王(まおう)”であれば『本質』。

 

神器を得る為にはこの『テーマ』をクリアしなければなりません。」

 

「では、なぜこの『テーマ』が必要だと考えると、神器を覚醒させる為にはこの『テーマ』が必要であり、それを実行させるものが覚醒臓器だというわけです。

しかし、天界人が五年かけて『テーマ』をクリアしても神器を得られるとは限りません。ですが、覚醒臓器では神器を確実に得られます。

それは天界獣の覚醒臓器が(・・・・・)天界人に対し、()を7回(・・・)上げてしまう(・・・・・・)からです。

ですが、神器を与えるには天界人でなければなりません。神器を発生させることにエネルギーを使う必要があり、他の種族に対して天界獣は神器に干渉(・・)することができません。ですが、干渉することにエネルギーを使う必要がありますが、『テーマ』を学ぶにはそのエネルギーを受け取る必要はありません。

 

僕は『テーマ(・・・)理解する目的(・・・・・・)の為に、何度も同じ(・・・・・)試練を受け(・・・・・)続けました(・・・・・)。」

 

「まさか......⁉︎」

 

「ええ、僕は『テーマ』を理解することで天界獣の生命エネルギーを消費しないまま、神器を会得することができました。」

 

神が驚いた顔をする。

 

「なんて無茶なことをしたんじゃ!!!

あんな試練を受け続けることなど天界人ですら二度とやりたくないと言う者もおるというに、お前はそんな無茶を何度もしてきたと言うのか!!!」

 

「ええ、何度も血反吐を吐いたり、何度も諦めようとしました。

でもね、その度に思い出すんですよ。

あの日、『ルナ姉さん』が救ってくれて、助けてくれて、優しくしてくれて、望んでくれて、笑ってくれて、怒ってくれて、泣いてくれて、

 

そして『ここに居ても良い』と言ってくれた!!!

幸せだったんだよ(・・・・・・・・)

 

人間(ゴミ)』どもが姉さんを殺すまではな!!!!

 

笑って、泣いて、怒って、そしてそんな日々が途轍もなく大切に思えたんだ。

それを壊した『人間(ゴミ)』を決して許してたまるものか!!!

 

僕は『人間ども(あいつら)』の幸せを全てぶち壊して、僕と姉さんが幸せ(・・・・・・・・)に暮らせた筈の(・・・・・・・)世界を作(・・・・)り変えてやる(・・・・・・)!!!!」

 

そう言って戦闘体制をとる僕に、神は溜息をつき、頭を掻いた。

 

「オレはお前に聞きたいことがある。

 

お前はそれで幸せになれるのか(・・・・・・・・・・・・・・)?」

 

 

「もう黙れよ。」

 

全身から天界力を溢れ出せる。

僕は神へ向かい走り出し、神もまた僕に向かい走り出す。

 

「「“百鬼夜行(ピック)”」」

 

二人の“百鬼夜行”が破壊されるのと同時に、神の接近により顔面に一発貰い、神も同時に僕の蹴りを喰らう。

だが、次の攻撃へと二人は移行する。

 

「“(くろがね)”」

 

「“唯我独尊(マッシュ)”」

 

神の棘がついた鉄を歯が尖っている僕の唯我独尊が挟み込む。

 

「ならこちらは、“波花(なみはな)”じゃ!」

 

「なら僕も、“波花(なみはな)”」

 

神の波花が唯我独尊を壊すも僕の波花で神の波花ごと神を吹き飛ばす。

 

「“旅人(ガリバー)”そんでもって“快刀乱麻(ランマ)”」

 

快刀乱麻で壊された空間から旅人の外へと飛び出す。

しかし、不意打ち気味に旅人入れられたことにより快刀乱麻によってマントを切り裂かれる。

その後、接近戦に戻り二人で殴り合う。

 

数発、数十発殴り合ったと、同時に二人に重い一撃が入り二人とも衝撃によって吹き飛ぶが、体制を立て直す。

 

「オレは昔、ある娘から“未来”の大切さを教えられた.....」

 

神の独白が始まった。なにかと思えばくだらないごとだ。

 

「へえ...そいつは未来を夢見て幸せに暮らしていると言うわけですか......だから僕にもそんなふうに生きろと.........」

 

「いや。」

 

 

「...............死んだよ。 十二年前......事故でな......」

 

一瞬、思考が止まった。

神からでる言葉一言ずつ重みが増していく。

 

「だが、あいつにとって三十年弱じゃったが、きっと幸せな人生であったとオレは思う。」

 

「それはあいつが......“未来”を見つめて生きていたからじゃ。」

 

「お前にだってできるはずじゃ!!

“今”を生きるために必要なのは“過去”じゃない。

“未来”なんじゃ!!!!」

 

重み・実感のあり、本音で語るその姿勢こそ、彼を神たらしめた要因なのかもしれない。

その一言で、自身の中で一番不愉快な感情が蠢きだす。

それを抑え込み、表面上での笑みを作り出す。

 

「そうですか。なんとも気持ち悪い生き方ですね。

半年前の自分なら、その意見に対し賛成の意を評していたかもしれませんが、今の僕とあなたの生き方は対照的だったようですね......」

 

「やはり......言っても無駄か。」

 

「カハハ......無駄ですよ。」

 

「ならば仕方あるまい。

未来のために生きてきたオレと過去のために生きてきたお前......どちらの生き方が正しかったのか、

 

今、ここでハッキリさせるしかないのぉ!!!!」

 

「しかし、埒があかんのお。

ここは“魔王(まおう)”を使って一気に片付けさせて貰う!!!」

 

 

神が“魔王”を使い始めてから激戦から、神の優勢な場面が増えた。なぜならば、僕は“魔王”一回も使っていなかったからだ。いくら理解したとはいえ、“魔王”の力は使い手の想い(・・・・・・)による部分が大きい。今の僕に、即興で神に勝てる程の想いを込めることができるかわからなかったからだ。

能力、才、神器、天界力、超身体能力、全てを使い、“魔王”を防ぎ、かわし、反撃に入る。

“魔王”の弾切れを待ち、弾切れになると同時に、形振り構わずに全力で仕留めにかかる。

 

 

 

日は既に落ちて、全身傷だらけになろうとも僕と神は立っていた。

 

「......フフ...どうやら.........お互い、ここまでのようじゃな......」

 

「オレは弾切れ、お前はなぜか打たなかったということは事情でもあったようじゃのぉ.........」

 

「まだ......だ。まだ、終わってない!!!」

 

激戦の中で蠢く感情は増大していった。

神にまたがり何度も何度も殴り続ける。

 

「未来なんて大嫌いだ!!!

 

自身の望んだ未来には、彼らはいなかった。

でも、一人、また一人と毎日のように苦しんで、悲しんで、それでもロベルト・ハイドンについていったあいつらを見てきたんだ。

 

それでも、見捨ててしまったんだよ!!!

みんな、望んだ未来が欲しかったんだ。

 

笑って過ごして欲しかったんだ。

 

平和に......誰一人欠けることなく楽しく過ごして欲しかったんだ。

 

それを、過去に囚われているだと!!!

ふざけるな!

こんな気持ち悪い世界をつくった人間(元凶)が身近にいたんだよ。周りを苦しめた元凶を知っていたんだ。

 

こんな未来を夢見てつくった織斑千冬(元凶)が許せなくて仕方ないんだよ!!!

 

こんな未来なんて消えて無くなってしまえ!!!.........

 

“魔王”」

 

神器は能力に吸(・・・・・・・)い込まれた(・・・・・)。それに気づいた瞬間に、能力をすぐ(・・・・・)に剣に変化させて(・・・・・・・・)神を頭を貫こうとした。

 

一瞬の浮遊感。

その一撃は神の頭を避け、真横の地面をを貫き、まるで巨大隕石が落ちてきたようなクレーターを作り出し、地面に突き刺さった。

 

「.........わかってるんだよ。」

 

頰をつたう涙とともに、黒に染まった剣に少しずつ白いヒビがはいっていく。

 

「望んだって、願ったって、今さらなことぐらい。」

 

()』は、『想い(・・)』は、もう既に理解していた。

 

「全てが今さらだったんだよ。

どんなに後悔したって、植木君達(・・・・)が正しいのは理解しているんだよ。」

 

それでも、どうしても成し遂げたい願いだった。

 

「僕の願いが、間違いだったなんて言うつもりはない。

そう望んだ人達は沢山見てきた。腐ったゴミ(生きる価値のない人間)も沢山見てきた。

僕の大切な姉さんも殺されたんだ。」

 

揺らいでしまった。

未来()に進む植木君達を見て......

 

「迷ってしまった。悩んでしまったんだ!

どうしても、成し遂げたかったのに......どうしても揺らいでしまったんだ!!!」

 

彼らは命を賭けていた。

全てにおいて、どんなときでも、一生懸命に戦っていた。

 

「植木君達だけじゃない!!!

黒影や白影、アレッシオ、ドン、マルコ、ベッキー、鬼、太郎、ユンパオ、カバラ、カルパッチョ、みんなそれぞれに辛い想いを持っていたんだよ。

それでも、どうしても叶えたい願いがあったからロベルトさんについていこうと決意していたんだ。」

 

みんな『未来()』を見据えていたんだ。

 

「みんな夢があったんだ。

ルナ(・・)』を殺された世界で希望を持っていたんだ。

しかし、復讐《そんなふう》に生きていたそのときの僕には到底理解できなかった。」

 

百聞は一見にしかずという言葉がある。

百回聞こうが、千回聞こうが到底理解し難いものだった。

だが、この三次選考で見てしまったから。

 

「この三次選考を見て変わったんだ。」

 

能力(ちから)も使えないのに戦う森さん。

 

自身の弱さを認めてそれでも仲間を救った宗谷ヒデヨシ。

 

能力(ちから)を卑下されても、必死に頑張ってレベル2に成り、勝利した佐野清一郎。

 

なにもできず負けてしまった故に、決して負けないと覚悟を決めた鈴子・ジェラード。

 

自身の正義のため、命すら賭けて戦った植木君。

 

「漸く気づけたんだ。そういう人間もいるんだって。」

 

「気づいたとしても、理解したくなかった。

今までの人生でそんな人間がいなかったから。」

 

織斑家の人間とその関係者、学校の面々、『ルナ』を殺した人間に、街を傲慢に歩く女ども、それを恐れている男ども。

 

誰一人として、誰かを想い、優しくする人間は存在しなかった。

 

「僕はは、今までの生き方が間違いだって思わない。

“過去”があるから“現在”があるのだから。」

 

神の上から立ち上がり離れる。

 

「だけど、楽しく(・・・)生きるためには、“未来(それ)”も必要なのかもしれませんね。」

 

神が笑った。

きっと四次選考を安心したのだろう。

 

 

「それは、違うよイチカ。

生きるために必要なのは“力”さ。」

 

「神様......四次選考はボクが引き継ぐよ。」

 

 

突然現れたアノンは神を“快刀乱麻”で切り裂き、神を取り込んだ。

望んだ力を手に入れたアノンは自身の願いのために神の“亜神器”を使い、新たな四次選考を開始した。

僕は傷ついた体を無理矢理動かしてとある人物(・・・・・)に会うために走り出した。

 

 

「お前は......夏月か⁉︎」

 

森の中で漸く植木君達がアノンの元へと向かうところを見つけた。

 

「植木!!まさか夏月君がこんなとこにいるわけないでしょ......ってなんでいるの⁉︎........まさかその服.........?」

 

「ええ、僕が『バロウチーム』最後の一人。イチカ・ルナですよ。」

 

植木君達が戦闘態勢に入る。

 

「何しに来た!!!」

 

「僕はとある目的があって君に会いに来た。」

 

「だから、僕の目的の為に君をここで倒させてもらう!!!」

 

植木君を倒さなければ始まらない。

 

「まずは、森さんから倒させてもらう!!!」

 

「やめろォッ!!!!」

 

放たれた“百鬼夜行”を避けて植木君を蹴り飛ばす。

 

「“快刀乱麻(ランマ)”」

 

「植木!!!」

 

本題はここからだ。

 

「僕は元々、地獄人の守人の一族とのハーフでね。

最近(・・)、天界人を取り込んで神器を得たんだ。今では、十ツ星まで使えるが、君に十ツ星まで使う必要がないぐらいに僕は強い。」

 

「植木君に言っておくけど、今の僕はアノンよりも圧倒的に弱い。

それで、よくアノンに勝てるなどとほざいたな!!!!」

 

植木君の顔に絶望が浮かぶ。

 

「アノンを倒さなければ......“未来”は無い。」

 

「バロウ達が自力で六ツ星や八ツ星でなったとでも君達は思っているのか?」

 

植木君達に疑問符が浮かぶ。

 

「短期間で星をあげる手段は、ただ一つだよ。」

 

「まさか!!!」

 

「でも、覚醒臓器のある天界獣はテンコ以外ずっと昔にいなくなったんじゃ......」

 

「それでも手段があるから僕は言っているんだよ。

僕はとある条件(・・・・・)を呑むのならば、君に覚醒臓器を使わせてあげるよ。」

 

「条件......?」

 

「ダメよ、植木!!!

たとえ、クラスメイトだったとしても敵よ。天界獣なんか使わせずに、酷い条件をつけてくるに違いないわ!!!」

 

森さんの言うこともご最もである。

だが、僕にはもう襲うつもりはない。その姿に笑えてくる。

 

「これなら理解できるだろう。僕が信用たることを。」

 

自身の腕だけを天界獣に変容させる。

 

「これで信用できるな、森。

条件を言ってくれ、時間がない。」

 

「ちょっと、植木⁉︎」

 

隣で森さんが心配そうに騒いでいる。

 

僕の願いのためには、彼が強くならなければならない。

だけど......それでも、あのときの記憶が蘇る。

 

だから条件がいる。

 

「条件は、僕のレベル2を受けること。

たぶん君ならば危険性はない。きっと乗り越えられるはずだ。」

 

自身の上半身に着ていた黒いマントを剣に変質させる。

 

「僕の能力(ちから)は『“想いを形に変える能力(ちから)』。

この能力(ちから)は自身の過去に実体験した事柄から、想いを形に変えて、精神と共に肉体に影響を与える能力(ちから)。」

 

自身が過去にこの能力(ちから)を選んだのは運命だったのかもしれない。

 

「そんな危ない能力(ちから)植木に使わせる訳ないじゃない!!!」

 

「まだ、話は終わっていません。」

 

この能力(ちから)をつくった者は、よほどこの能力(ちから)を使う人間を理解していたらしい。

 

まさか、こんなレベル2だとは誰も思いつきはしないだろう。

僕は植木君に近づき、植木君の胸に(ちから)を突き刺すと同時に、レベル2を発動させる。

 

「植木!!!」

 

「僕のレベル2は『繋ぐ能力(ちから)

突き刺した者と自身の過去をそれぞれの第三者として追体験させる能力(ちから)。」

 

僕と植木君の周囲から光が溢れる。

 

それは、とても幸せな日々であった。

 

この戦いに臨んだ者のほとんどが望む光景があった。

 

追体験した事柄は、僕が欲してやまなかった

本当(・・)の絆(・・)で結ばれた(・・・・・)家族と(・・・)暮らす(・・・)平穏(・・)な日常(・・・)

 

剣にヒビが大きく広がる。

 

想い(本質)まで自分に否定されたんだ。

 

もう限界だろう。

 

光がおさまると同時にガラスに割れた音に似た音が鳴り響く。

 

「夏月......どう言っていいのかわからないが、

 

よく頑張ったな。」

 

笑いながら言ったその言葉には、いつか学校で見た彼の当たり前が存在していた。

 

「さあ......時間も少ない。覚醒臓器を使って早く、向かってやってくれ。君達の仲間が待っているよ。」

 

残った力を振り絞って、天界獣へと変化する。

 

「そうだな、早く始めよう。」

 

 

 

 

たった六時間で彼は試練を二つクリアした。

 

「これで、アノンと戦えるようになるんだな。」

 

植木君はそう言って“花鳥風月”をひろげる。

 

「でも、急いだ方が良いよ。

あと、5時間程度しか時間がないからね。」

 

「わかった。じゃあ.......」

 

植木君は飛び立つ前に顔を掻きながら恥ずかしそうに顔を赤らめた。

 

「ありがとな!!!」

 

彼はそう言って飛び立つ。

その姿はまるで、童話に出てくる天使のようだった。

 

 

 

 

 

 





“想いを形に変える能力(ちから)

・形は自由自在に変化させることができ、肉体と精神を選んで攻撃がすることができる。
・想いは込めれば込める程、威力が増し、量も増える。

レベル2

自身、もしくは相手の過去を追体験する(させる)ことができる。

限定条件
古い順番にしか過去の想いを形に変えることができない。
解除以外の方法で能力に異常をきたす場合、つくられた想いの持ち主になんらかの影響が残る。





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