今回、『鬱展開』、『グロテスク』な描写があります。
Ichika side
全ては間違いだった。
この世界はこんなにも暖かく無い。
ある時、一人の『子供』は『玩具』になった。
ある時、『玩具』はこの世界を呪い、それを見た『怪物』は『玩具』に問いかけた。
『僕と一緒に人間を滅ぼさないかい?』
『玩具』はそれに応じた。
満足した『怪物』は『玩具』を掬い、『玩具』から一人の『人間』に作り変えた。
『人間』は『怪物』に連れられ、『化物』と出会った。
『化物』は『人間』に平穏を教えた。
『人間』は決意が揺らぐ程の温もりを知った。
決意はいずれ願望に変わった。
普通の物語ならば
だが、『人間』は愚かだ。
願望に変われば、人は許容できる。
許容できれば、諦めることだってできる。
諦めることは間違いだった。
結果、『
『
この世界を.........そして『人間』を。
〜十一月十五日〜
日本ではもう冬に近く寒さだというのに、この地域はまだ暖かい。
そして、自身の修行も未だ格闘訓練に辿りつくことはない。何故ならば、俺の肉体は未だに人間レベルを超えることができず、対天界人・神器用の格闘訓練を行う程地獄人らしい身体が作れていないからだ。
「ふぅ〜、漸く終わりましたね。」
ルナは最近編み物に嵌っている。
完成したら見せると言っていたが、未だ基礎訓練を脱していない俺には興味が持てない。
「まあ、後半年もある。それまでに基礎が完成して、戦闘で経験を積めば良いだろ。」
山の中腹で基礎訓練に勤しむ。
〜二時間後〜
「なんだ、あれ?」
空で何かが物凄い速さで飛んだのを見た。
ドオンッ
次の瞬間、山頂から途轍も無い大きな音と振動が鳴り響いた。
「何が起きた!!!」
俺は急いで山頂を目指す。
山は燃え、山頂に近づくにつれて木が無くなり始めた。
(何処だ、ルナ!!!)
頂上の小屋は半壊しており、近くにはクレーターの様な穴が沢山空いている。
クレーターの中心にルナがいた。
「ルナ!?」
「来てはいけません、イチカッ!!!」
その瞬間、ルナの腹に穴が空いた。
「えっ?」
「当ったリィ!!!」
そんな声が聞こえた。
だが、今はどうでもよかった。
俺は、今までより遥かに速くルナの元へと走る。
「イチカ.......逃げて。」
そう言ったルナを抱いて、山を降りる。
声なんて関係ない。自身の今までの全力を......いやそれ以上の力を振り絞って山を降りる。道なき道を通り、障害物を跳ね除け、破壊して山を降りる。
漸く着いた。
だが、無意味な事だった。
「嘘だッ!!!」
街は燃えていた。
周りから死の匂いが充満する。
「ねえ、イチカ?」
抱いているルナが声を出す。
死力を尽くす声に俺は言葉が出ない。
「私......ここに居ても.........良かったのでしょうか?」
その言葉はあの時の言葉だった。
「居ていいに決まってるだろうが!!!」
唐突に出た言葉だった。
「あんたにどれだけ救われたと思ってる。俺がこうやって生きたいと思えるのも、あんたのおかげだ!!!
だから、喋るな。またすぐに隣の街まで行って......」
自分を言い聞かせる様に俺は言う。
「もう......いいんですよ。」
その言葉で現実が見えた。
抱いているルナの温度は少しずつ下がり始める。
「私は幸せ者です。」
彼女は笑顔だった。
ズドンッ
「ーーーーーーーーーーーーーー」
近くの建物で爆発が起きた。
触れている手は既に脈は無く、聞こえなかった言葉が最後の言葉だった。
そして、その手の熱は少しずつ下がっていく。
地獄人だからこそそれがわかってしまった。
「ハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!
いや〜面白い茶番だったぜ。」
背後からさっきルナが撃たれた時に聞こえた女の声だった。
空に飛んでいる『
「本当はIS実験でこの街を壊す予定だったが、こんな面白い茶番が見れたんだ。」
(コイツガヤッタノカ)
「こんな男を放って逃げれば、逃がしてやったのにな。」
(オレガイタカラシンダノカ)
目の前の『人間』と自身の行動を思い出す。
「まあ、結局男は殺すんだかな。ハハハハハハハハハ」
(コロス?)
目の前の『ゴミ』が言った言葉の意味を考える。
(ナニヲ?)
(オレヲ)
(コイツガ?)
(オレヲ?)
(コンナ『
ルナヲコロシタコイツガオレモコロスダト。
オレカラスベテヲウバウダト。
フザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるな)
目の前の存在に対する認識が変わった。
今まで己がどれだけ愚かだったことを思い出した。
『まあ、後半年もある。それまでに基礎が完成して、戦闘で経験を積めば良いだろ』
(俺は間違えていた。後半年ではない。もう半年なのに気づいていなかった。)
時間が刻一刻と近づいているのを目をそらし、このまま平穏を享受し続けようとしてしまった。
「充分楽しんだからそろそろ死ねぇ!!!」
「堕ちろ」
女が銃を構えた瞬間、頭に踵落としを打ち込む。
その一撃は、地獄人の一撃以上の威力を出す。
「こんなに簡単なことだったんだな。」
女は気絶し、シールドエネルギーを完全に消費させた。
「俺.........いや、僕は途轍もなくあまかった。
『
ルナ、もう少し待っていて下さい。
この世界から『ゴミ』を消し去りますから。」
ルナを抱こうして、ふと思いつく。
「カヒヒヒヒヒヒヒヒ......カハハハハハハハハハハ。そうだ、いい事を思いつきました。」
先程倒した『ゴミ』を捕まえる。
首を掴み上げ、丁度頭一つ分くらいの高さまで持ち上げる。
「貴女には、役に立って貰いましょう。
イタダキマス。」
〜◯◯◯国 首都 女性権利団体◯◯◯国支部〜
大きな部屋に二人の女性がいた。
一人は椅子に座って、一人は立っている。
その者達は、試験を言い渡した者を待っていた。
「もう少しで、彼女が報告しに来ます。
だからそんなに、焦らなくても宜しいのではないでしょうか?」
「だが、目障りな国に漸く戦線布告する事が出来たのだからな。」
座っている女性は『ーーー国』に戦線布告した者達の主犯であり、この『◯◯◯国』のトップに立っている人間であった。
ノック音がなる。
「クックック、漸く来たか、入れ。」
「それじゃあ、失礼しっまっす!!!」
ドンゴキュ
ドアが女の真横を通り過ぎ立っている女を潰した。
「へえ、今までよりもやはり身体能力が上がっていますね。」
「男、なんで此処にいる!!!誰か......誰かいないのか⁉︎」
少年はドアを蹴破った様に足を下ろして、女に歩いて来る。
「男、なんで此処にいる!!!誰か......誰かいないのか⁉︎」
ドアが乱暴な方法で破られたにも関わらず、人どころか警報すらなることがない。
「なんで、なんで誰も来ない!!!
それ以前になんで男が此処に進入している。」
少年は嗤いながら、女の頭を掴みこう言った。
「おかしな事を言いますね。此処にいた人間は僕が全員殺していなかったら、僕は此処にいませんよ。」
「そんなことありえないわ!!!
それにどうやって此処まで侵入して来れたのよ!!!
女は喚きながらも、『この世界』では当たり前の事を言った。
「簡単な事ですよ。だって」
少年は顏に手を当てると、
「こうする事だってできるんですから。」
襲撃を任せた女の顏に変わった。
「あ...ああ...ああああ。」
「初めて行いましたが、これは便利ですね。
こんなにも簡単に『人間』を騙せるのですから。」
「ば......化け物。」
女は恐怖で漏らしていた。
化け物はその様子にニヤリと嗤った。
「滑稽なものですがね.........そろそろ死んでください。」
小さな瓶から五角形の何かを取り出して、女に埋め込んだ。
その時、女の体は五角形の何かに血を吸い取られ始めた。
「これは、『デスペンタゴン』。
とある場所に生息しているノミです。
デスペンタゴンは一度寄生した生物の血を全身隈無く吸い取るのが........っともう聞こえませんか。」
そこには、一人の少年と真っ黒な丸い物体、そしてミイラしかありませんでした。
〜二日後〜
「もしもし、お久しぶりですね。
マーガレットさん。」
僕は嗤いを堪えながら、電話している。
『済まないが、君は誰だ。
少なくとも、私が知っている君はそんなふうに嗤っていなかった筈だが』
「それは、僕が変わったって事ですよ。
そんな事よりも、テレビ見ていますか?面白い事になっていますよ。」
『テレビだと⁉︎少々待ってくれ』
電話越しに聞こえるテレビの音は自身が今見ているものと同様だと理解する。
『どういう事だ?』
テレビには、
だが、おかしいところが一つある。
「ねえ、面白い放送でしょう?」
処刑台で女は《自分はやってない》、《あのガキがやったんだ》などと供述しているが、監視カメラや生き証人達が『IS』を使って殺したところを見られている。
『まさか、イチカ......』
「ええ、そうですよ。
あの『ゴミ』が
電話越しに絶句する様子が見える。
『姉さん?とは一体誰だ』
「ルナ姉さんの事ですよ。」
『ルナはお前の姉ではないだろう。お前の姉は.........』
「いえ、僕の姉は『ルナ』ただ一人です。
そして僕の家族はルナただ一人。
この世でたった一人、僕自身を見ていてくれたのだから。」
その言葉で電話を切る。
半壊した家に一人の地獄人と、一人の亡骸がいる。
亡骸に少年は語りかけた。
「唯一、貴女だけが、僕を愛してくれました。
僕自身も貴女を愛しています。だからこそ、此処に誓う。
僕はこの世界を滅ぼし尽くす。」
その少年は掴んだ手を忘れないだろう。
その手はあの暖かい手ではない。既に、冷たく硬い手であった。
少年は忘れないだろう。
今この手のにある温度、歪な硬さ、そしてあのとき抱いてくれた優しく暖かい手の感触を。
〜半年後・日本〜
草原で大きな獣が一人の少年を吐き出した。
「十ッ星試練クリアだ。
急がなくていいのか?あと数時間で入学式だぞ。」
「ええ、大丈夫ですよ。準備はもうできています。
すぐに着替えた後、墓参りに行きますよ、ハル。」
ハルと呼ばれた獣の大きかった体は縮み、腕輪になった。
『また、行くのか?
昨日も一昨日も行っただろう』
歌からダルそうな声が聞こえてくる。
「行きますよ。決意を忘れない為に......もう二度と愚かな真似をしないように。」
入学式が終わり、クラス内で自己紹介の時間が執り行われる。
「それじゃあ、次の奴出てこい。」
眼鏡を掛けた天界人が夏月の番を告げる。
「
好きなものは、リンゴと家族です。一年間よろしくお願いします。」