IS - イチカの法則 -   作:阿後回

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遅くなってすみません。
今回から記憶編スタートです。


記憶編
第23話 ルナ


Robert side

 

ハピネスからの連絡で今日、イチカが帰ってくる。

イチカの知人達やこの後すぐに行われることを知っている人物達は此処に集まって来ている。その中には元神様までいる。

 

「本当にすぐでよかったのかのう?」

 

「イチカが決めたことです。ボク達が口を出してはいけないとボクは思います。」

 

「そうじゃな。奴も覚悟して願って来たのじゃ。オレ達が口を出しては奴の覚悟を揺るがしてしまうじゃろう。」

 

正直に言えばボクは覚悟すらできていない。

ボクは変わったから(・・・・・・・・・・)

でも、一夏(・・)が変わるか(・・・・・)はわからない(・・・・・・)

ただ一つ言えるのは『ボクと過ごした時間が幸せであってほしいと願っていること』.........それを知ってほしい。

 

門が大きな音を立てて開いた。それはイチカ達が帰って来たことを告げた。

数人の男女がそこから現れる。

 

「ただいま、兄さん。」

 

「おかえり、イチカ。」

 

ボクは笑顔でそう言った。

 

 

Robert side end

 

 

 

Ichika side

 

「本当にやるのか?」

 

俺達は神を決める戦いの三次選考中にも使われた宿泊用ホテル“プリンス螢”に来ていた。

今日の為にこのホテルを貸切にして機材を搬入した。

 

「やるよ。

これは自分にとって、きっと大切なことだから。」

 

俺は頭に機材をつけて、兄さんのに覚悟を告げる。

 

「わかった。それじゃあ始める。」

 

兄さんは機材を動かして、カウントを始める。

 

 

「3」

 

 

 

 

 

 

「2」

 

 

 

 

 

 

「1」

 

 

 

 

 

 

 

「スタート」

 

 

電源が入れられる。

 

 

 

「があああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアAAAAAAAAAAAAaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!!」

 

頭に膨大な量のノイズが入る。

頭に大量の情報が無理矢理押し込められるように頭痛が始まる。

 

『おいーー大丈ーーーか?』

 

痛みで聞こえる声がどんどん遠くなっていく。

体が何度も発作を起こしている。

 

まるで、感情(情報)を取り戻すことを許さないように。

 

 

 

何回、何十回、発作し続けるのだろう。

体力も限界に近づき、意識が朦朧としても発作で起こされる。そんな苦痛(時間)が後何分続くかわからなくなって来た時、

 

記憶の奥底で花を見つけた。

 

 

 

 

その瞬間自分の中にある記憶と感情が(・・・・・・)戻って来た(・・・・・)

 

 

 

 

「ね......え............さん?」

 

 

 

頰に涙が流れる。

 

 

 

大切だった。

 

 

とても大切だった。

 

 

今でも、とても大切で............忘れがたくて............決して忘れてはいけない、いや忘れてはいけなかった始まり記憶(とても大切な人)が蘇ってくる。

 

夢は間違いじゃなかった(・・・・・・・・・・・)

 

決して(・・・)誰にも譲れないものを忘れていた(・・・・・・・・・・・・・)

なぜ僕が『こんなにも世界を憎悪している(・・・・・・・・・・・・・・)』のかがわかった。

 

 

頰に涙が溢れでてくる。

泣いているんだ。

感情を失っても、記憶を書き換えられても、夢にまで出て来た大切な人。

 

嬉しくて、楽しくて、幸せで、

この世に生まれて来て良かったって言えるくらいに幸福な日々を。

 

その日々を壊した人間(ゴミ共)を。

 

元々好きではなかった存在が、この世から消えて欲しいと願うほどのものに変わって。

 

 

恨んで、憎んで、呪って、

こんな自分(人間)が『あの人』のそばにいたことすら許せなくって。

 

 

 

幸せが不幸に変わって。

笑えなくて、苦しくて、助けて欲しくて、

 

 

 

でも、許したくなくて、

 

 

不幸にした人間(ゴミ)を壊したかった。

 

 

僕を不幸にした存在(人間)が幸福な日常を過ごしているのが許せなかった。

 

 

そんな僕を救ってくれた人とその経緯の記憶があって。

 

 

 

それでも(・・・・)救われなかっ(・・・・・・)た俺がいた(・・・・・)

 

 

そんな少年を救ってくれた人達の記憶。

 

最初の救いはロベルトさん(・・・・・・)だった。

 

だけれど、僕を救った『あの人』との日々が、

 

 

 

僕自身を変える転機になった。

 

 

地獄人『ルナ』との出会いが.........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜五年前〜

 

 

二月

 

ロベルトさんに助けられた数日後、ロベルトさんの父親の『マーガレットさん』に連れられて海外の『ーーー国』にある国境近くの山頂付近に来ていた。

山頂に辿り着くと小さな山小屋があった。

 

「ここに何があるんですか?」

 

「君にはここで二年後の神を決める戦いまでに、地獄人としての能力を取り戻してもらう。」

 

 

「なんでこんなところで修行しなければならないんですか?」

 

この場所で修行する理由がなく、その頃の僕は戸惑うだけだった。

 

「その理由はもうすぐわかる。」

 

「入りますよ。」

 

マーガレットさんがドアを開けると、

 

そこには一人の少女がいた。

 

 

「お久しぶりですね。師匠。

彼が、イチカですか?」

 

「久しぶりですね、『ルナ』。

この子がイチカです。」

 

マーガレットさんと楽しそうに会話する彼女に警戒心を抱いた。

そんな俺に少女は笑顔を向ける。

 

「紹介しましょう。こちらは『ルナ』。

貴方の姉弟子にあたる人です。今日から貴方にはこの人に修行を見て貰って下さい。」

 

「初めまして、私は地獄人の『ルナ』。これからよろしくお願いしますね。イチカ!」

 

青い髪を揺らしながら満面の笑みで、姉弟子は僕にそう言った。

その笑顔がどうしてもその時の僕には受け入れられなくて、

 

「あんたとよろしくするつもりはない。」

 

その時の僕はそう言った。

それでも彼女は笑みを絶やさなかった。

 

 

これが地獄人『ルナ』との出会いだった。

 

 

その日からの修行は苛烈を極めた。

戦闘訓練はなく、練習はずっと基礎練習をしているだけだったが、山の中を走り込みや筋トレを徹底して、毎日倒れるまでやりつづけた。

 

その日々は自分を一日ごとに昇華させていき、自分の中にある織斑千冬(最強の存在)ルナ(覆せる存在)が目の前にいることを把握できるようになった。

そのことに、気がついた時この人に憧れを抱いた。

 

だが、俺はこの人に心を許すことはなかった。

自身以外に対し、心を許すことを僕は拒絶していた。

 

そんな日々にルナへの想い変わる転機が訪れたのは、一ヶ月後の自身にとって一番嫌いな日(・・・・・・)であった。

 

 

 

三月二十五日

 

 

 

俺は朝登校すると、誕生日の日にいつも書かれている文字を見つけた。

 

 

『産まれて来なければ良かったのに』

 

一年でたった一回だけ机に落書きされる日。

その言葉は俺の机に赤い大きな字でそう書かれている。

町中、クラス問わず俺の陰口で始まり、家に帰っても誰にも祝われない。

 

机の落書きを見て吐き気を覚え、陰口には反吐がでて、家では心が苦しくなった。

そんな自分に失望して、その日も自身が料理して、掃除を行い、夜になったら一人で食事して風呂入って寝る。

 

『勝手に期待して、勝手に裏切られる』

 

そんな日は決まっていた。

 

 

三月二十五日 『織斑一夏(・・・・)の誕生日(・・・・)

 

 

 

 

 

 

「寝覚めの悪い朝だ。」

 

夢から覚める。

窓の隙間からでる光が鬱陶しく、その日が晴れていることに気がついた。嫌な夢の原因がわかっているが、その頃の僕にはどうしようもなく、ただイラつく朝を迎えることになった。

 

 

 

「今日はここで終わりにします。」

 

ルナのその人言で修行は終わった。

だが、僕は修行を続けた。

 

 

 

 

いつもよりも多く。いつもより激しく。

 

 

 

 

疲れて

 

 

 

 

 

倒れて

 

 

 

 

 

そのまま地面で倒れ伏した。

 

 

 

気づくと夜中になっていた。

倒れた体を起こして、一人小屋に帰る。

一人で小屋で待つルナに対し、罪悪感が増して来て急いで帰ると小屋はすでに暗く灯は消えていた。

 

(今年もいつもと同じか.........)

 

自分の所為だといえ、今年も一人で過ごす誕生日に虚無感を覚える。

ルナはもう寝ていると思い、ゆっくりドアを開けた瞬間、

 

 

「誕生日おめでとう!!!」

 

パァンと音が鳴って、暗かった部屋が明るくなった。

 

「お帰りなさい。」「随分遅かったですね。」「遅かったので少し心配しました。」「料理はもう冷え切っていますが、温め直せばいいだけです。」「さあ、貴方の誕生を祝いましょう!!!」

 

自分の目をこすって確かめた。

自分には途切れ途切れに聞こえる声は優しくて、いつもの笑顔はいつもよりずっと暖かくて、部屋から出る料理の匂いは僕の心を満たした。

 

「なんで、泣いているんですか?」

 

「えっ?」

 

気づくと涙が流れてた。

泣いていることに気づいたら、さらに涙がでてくる。でも、久しぶりの涙はそれほど不快ではない。むしろ心を満たしていく。

 

「私何か悪いことをしましたか?」

 

彼女は心配そうにそう言った。

俺は首を振る。

 

「どこか痛いんですか?」

 

彼女の言葉にまた俺は首を振る。

 

「では、どうしたんですか。イチカ?」

 

 

 

「俺の話を聞いてくれますか?」

 

 

俺は話した。

今までのことをルナに話した。

両親が小さい頃にいなくなったこと。家族が織斑千冬だということ。父親の封印は自分だけで、他の姉兄にはされなくて、自分だけが自分の家族の落ちこぼれだったこと。そのことで周囲の人間に虐められたこと。

 

そして、誕生日になると『産まれて来なければ良かったのに』と書かれていること。誕生日は兄は祝福されるが、自分はされないこと。

 

家族に愛されていなかったこと。

 

今までのことを全部彼女に話した。

どんなに拙くても、彼女は静かに聞いてくれて、今までのことを話すのがとても話しやすかった。

 

「だから、俺は産まれて来なければ良かったんだ。」

 

その言葉は俺の心を落ち着かせた。

最後に言った言葉は俺の心を表しているようだった。

不意に暖かい温もりが体を包んだ。

抱きしめられたことがわかった。

 

「貴方は此処にいても良いんですよ。」

 

「え?」

 

「貴方は此処にいても良いんですよ。」

 

 

ルナは何度も何度もそう言った。

その言葉を言うたびに、彼女は泣いた。

その言葉を聞くたびに、俺も泣いた。

 

その日は二人とも泣き疲れてしまいそのままそこで二人とも眠ってしまった。結局料理は食べられなかったものの、その日はとても大切な日になった。

 

 

その日初めて僕は『幸せ』を知った。

 

 

 

 

 

 

 

 


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