次回、帰郷編最終話です。
Ichika side
あのマドカとの会話から数日後、学年別トーナメントを明日に控え、クラスのテンションが最高潮まで秒読みになった。その頃俺達は、学年別トーナメントには参加しないものの表向きは、ハピネスの仕事で学園から一時去ることになっているので荷造りに奔走し、俺とハイジはハイジの荷造りにを終え、俺の部屋に向かっていた。
「ーーーーーーーーーー。」
「なあ、ハイジ?何か聞こえてこないか?」
「いや、俺には何も聞こえないが?」
何か音が聞こえ、ハイジに確認するがハイジは聞こえなかったようだ。
「ーーーーーーーーーーーーですか⁉︎」
「またっ⁉︎」
先にある角を曲がった所から声が聞こえてきた。
「今度は俺にも聞こえたぞ、イチカ。察するになんかの言い争いか?」
どうやらハイジにも聞こえたようだ。角まで歩くと転校生の銀髪と織斑千冬が言い争いをしていた。
「このような極東の地でなんの役目があると言うのですか!教官我がドイツでもう一度ご指導をお願いします!ここでは教官の能力を半分も活かしきれません!!!」
「ほう」
「大体、この学園には教官に教えを請う資格のある人間はほんの一握りしかいません!」
「なぜだ。」
「意識が甘く、危機感に疎く、ISをファッションは何かだと勘違いをしている。ISは兵器です。それを理解出来ないような者達を教官が教えるにたるとは思えません!」
「そこまでにしておけよ、小娘。少し見ないうちに随分と偉くなったな、15歳でもう選ばれた人間気取りとは恐れ入る。」
「わ......私は......」
「私はまだ忙しい、お前もとっとと自分の部屋に戻れ。」
あんな会話をしている所にわざわざ出て行くなんてことはできず、会話が終わるまで待つと、会話が終わりボーデヴィヒが帰っていった。
「そこに隠れている男子、盗み聞きか?」
どうやら気づかれていたらしいが、別に気配を消していたわけでもないので出て行く。
「あんなに大声で会話をしていれば聞きたくなくとも聞こえますよ。」
「それに俺達は廊下を通りたかっただけだ。あんたの会話の邪魔になることをしたかったわけではないしな。織斑先生、それでは。」
俺とハイジだったのが予想外だったのか、織斑千冬が目を見開いていた。俺達は無視して横を通ろうとする。
「待て!お前に聞きたいことがある。」
だが、織斑千冬がそれを止めた。本当に何なのだろうか?
「何ですか?織斑先生?」
「お前は.........一夏ではないのか?」
「どういうことですか?意味がわからないのですが?」
俺は俺の正体がバレたのかと思った。
「いきなり......こんなことを言ってしまってすまないが、お前は私の弟の織斑一夏によく似ているんだ。だから、お前は一夏ではないのか?」
(確信はしていない?)
様子を見る限りでは確信している様子もなく、ただ疑問を問いかけているように見えた。
「俺は一夏ではありませんよ、織斑先生。それでは俺達は明日の準備をしなければならないので、部屋に戻ります。行こうハイジ。」
「おい、少し待て!」
後ろから声が聞こえるが、面倒ごとにならないうちに、そう言って俺達は俺の部屋に向かった。
Ichika side end
Haiji side
「なんで嘘を吐いたんだ。イチカ?」
イチカの部屋に到着して数時間後、荷造りも終わり、イチカは紅茶をいれていた。俺思わずは先程の会話について聞いてしまった。
「嘘とは?」
「お前の正体は『織斑一夏』だろ。なんで嘘を吐いたんだって聞いてんだよ。」
俺はイチカが『織斑一夏』だと知っている。なのになぜあんなにはっきりと言えたのか知りたかった。
「俺が『
(イチカは何を言ってるんだ?)
意味がわからない。
「何を言ってるんだって顔だね。」
イチカは話を続ける。
「理由は二つ。
一つ目は、俺には生まれてから10歳までの思い出への感情がない。全て能力の限定条件に使ってしまったからだ。だから、『織斑一夏』本人の記憶に対しての感情は殆ど失っている。そんな人間が、『織斑一夏』であるはずがない。俺は織斑一夏ではなく、織斑一夏の抜け殻のようなものだからだ。
二つ目は、織斑一夏だった頃、彼は自分の名前を捨てているからだ。人間への強い憎しみと怒りで自分自身にある母親の血まで嫌っていた。だから俺は、もう二度と『織斑一夏』とは名乗らないようにしているんだ。」
だから家族を否定したのか。でもここで疑問が残る。
「じゃあなんで
『ドンドンドンドンドンドン』
部屋の外からノックの音が鳴り響く。
『ハイドン、ハイドンはいるか⁉︎』
「悪い、ハイジ。話の途中に馬鹿が来た。」
『オレだ。織斑だ!緊急事態だ。今すぐ、俺の部屋に来てくれ!!!』
「話はまた別の日にでもしようか?適当な時間になったら帰ってくれ。」
俺の疑問を残したまま、そう言ってイチカは部屋を出ていった。
(なんで
俺はそれが聞きたかった。
Haiji side end
Ichika side
「で、何の用だ?」
織斑の部屋に来たが、そこには転校生が男装をしていなかった。
「シャルをハピネスで雇ってくれないか?」
織斑がくだらないことを言いやがった。
「なんでそんなことをしなければならない?」
そう言うと織斑は『転校生』シャルル・デュノアが『スパイ』であり、それに至る経緯を説明してきた。
「俺は、シャルを救いたいんだ。だから、IS関連でIS委員会にも口利きができるハピネス社ならシャルを安全に保護できると思って。」
織斑が嬉々としてそんなことを言う。
なぜ、ハピネスがそんなことをしなければならないのか。
「くだらない。」
「なんだと!今シャルがどんな状況かわかっていっているのか!!!」
本当にくだらない。目の前の女は自分が世界で一番不幸であるような顔をしていた。だが、織斑が自身の話をした途端、顔色を変えやがった。
(ああ、本当にイライラする)
このクズは自身が同情され、救われると思って顔色を変えたのだろう。
「わかっているから言ってるんだよ。」
織斑一夏だった時、
「お前等は見たことがあるか?
女尊男卑によって家族を傷つけられる者達を。」
傷つけられた奴らはたくさんいた。メモリー達や『十団』のメンバーはIS関連で傷つけられていた。きっと他の能力者にもいたはずだ。
「見たことがあるか?
信じていた者達に裏切られた者の末路を。」
ロベルト兄さんのことだ。綺麗事ばかり言い、結局人間は裏切った。
「見たことがあるか?
自身にとって平和だった居場所が、ISによって危険な空間に変わる絶望を。」
能力者達は一部を除いて、地区に住んでいない者達だった。
(ナノニ、コイツラハ、ナニヲイッテイル)
目の前の女は自身が世界で一番不幸であると勘違いしている。
「
『嘆き』を。
『悲劇』を。
『殺意』を。
『憎悪』を。
そして、
『
なのに、お前は
「嗤わせるな!!!」
「同じ人間だろうが!なんで救ってやらねぇんだよ!!!」
先程の
「だから?」
「だからってのなんだよ⁉︎
女の子を救うのは当然のことじゃねぇか!!!」
(当然.........当然ダト⁉︎
フザケルナ!
コンナゴミクズガスクワレテナンデ『
記憶が変化する。自分が自分でないような感じがする。
『貴方は此処にいても良いんですよ』
(ナンダコレハ⁉︎)
頭の中に何かが映った。
ボゴッ!!!
自身を殴り、頭を冷静にする。目の前の織斑達は俺の突然の行動に驚く。
「いきなり何を⁉︎」
予想以上に威力が高かったのかよろめく。
「大丈夫か!」
一刻も早く帰らなければならないと思った。
「大丈夫だ。俺の意見は変わらない。だから、何度言っても無駄だ。自室に帰らせてもらう。」
「おい、待て!!!」
その後、織斑の制止を振り切り、自室で体を休ませた。
半日後...............
「漸く見つけたよ。いっくん。」
(なぜ、こうなった)
Ichika side end