真剣に私と貴方で恋をしよう!!   作:春夏秋冬 廻

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第25話投稿。

バレンタイン後編です。


第25話 乙女の戦、衝撃のバレンタイン

いつもの秘密基地。

 

今日はバレンタインデー。

 

「さぁて! 恒例の戦果報告タイムといこうじゃないか!」

 

姉さんの宣言にガクトとモロがあからさまに顔を引きつらせたのが見えた。ガクトが今年も戦果ゼロなのは分かっていたが、どうやらモロも1つも貰えなかったようだ。

 

この恒例行事となった『男の価値を決めろ! バレンタインチョコ誰が1番多く貰えたか報告大会(ガクト命名)』。これで実に4回目。

 

破滅的なネーミングセンスで分かるように、言い出したのはガクトだ。

恥かくだけだからやめろと言ったのを、全く聞く耳を持たないでやったのが行事の始まり。

 

それ以降、ガクトにとっての恥をさらす場になったのは言うまでもない。

 

「それじゃあいつも通り逆年功序列、誕生日が遅い順でタカからだな」

 

姉さんの言葉に盛大な苦笑いを浮かべたヒロは、足元に置いてあった紙袋をテーブルの上に乗せた。

うん、どうやら今年も大量のようだ。

紙袋から出したチョコをテーブルの上に1つずつ並べて数えていく。並べられていく数が増える度にガクトの顔が歪んでいく。

 

「60…61…62…63……63個だね」

 

打ちひしがれているガクトをよそにヒロの報告は終了する。

 

「相も変わらず……なんて言うか凄いよね」

 

モロの引きつった顔と言葉が毎年のヒロのバレンタインチョコの凄さを物語る。

だがヒロにしてみればあまり嬉しくないらしい。ヒロが言うには――

 

『これは好きというよりはただ単にペットを可愛がりたいって感覚で僕にチョコを渡してるだけだよ』

 

らしいのだが、俺と兄弟は同情してヒロの言葉を肯定している。なんでもヒロは同学年より上級生からのチョコの数が圧倒的に多いらし。今年も50個は上級生から貰ったものらしい。

 

「可愛いからなタカは」

 

「うん、可愛いよねヒロは」

 

「可愛いは正義だよタカ」

 

容赦のない女子の言葉に打ちひしがれるヒロ。相も変わらず女顔にコンプレックスを持っているようだ。兄弟とモロに慰められているヒロの背中は少しだけ煤けて見えた。

 

「次はモロロな~」

 

「実は1個だけ貰ったんだ」

 

報告を促す姉さんの言葉にモロは少しだけ嬉しそうに報告した。

 

「なぁぁぁぁにぃぃぃぃ!? どういう事だモロ!?」

 

真っ先に反応したのはやっぱりガクトだった。

モロは仲間だと思っていたのだろう。信じられないといった雰囲気をひしひしを感じる。

 

「ほう、モロロもついにゼロを脱出したな」

 

「と言ってもついでの義理みたいなもんだよ。隣の席の女子が1個だけ余ったからあげるって言って貰ったんだ」

 

「それもでも貰ったのならいい方。ガクトなんか義理すら貰ってない」

 

恥ずかしげに経緯を語るモロに京は言葉を返す。しかもガクトをいじるのを忘れない。

 

「次は大和だな」

 

司会進行する姉さんの言葉に俺は一瞬だけ表情を歪める。

本当に一瞬だけだったが姉さんにはしっかりとばれた。出し渋る俺に無言の圧力が掛ってくる。その圧力に耐えられなかった俺は仕方なく足元のバックからチョコを取り出しテーブルに置いた。

 

「3つだ」

 

「誰!? 私の大和をたぶらかした女は!?」

 

「なんで今年は大和も貰ってんだよ!?」

 

「落ち着けミヤ。そもそもヤマはお前のじゃない。うるさいぞガク。その言葉はヤマにもヤマに渡した女子たちにも失礼だ」

 

予想通り声を荒げる京。しかし興奮して声を荒げる京を兄弟は予想していたのか、即座に抑え込み落ち着かせつつ同時に声を上げたガクトをたしなめる。

 

ありがとう兄弟。お前のものになった覚えはないぞ京。貰って悪いかガクト。

 

ちらりと姉さんを見る。あれは意外だなと思っている顔だ。

確かに俺も貰った時は驚いた。だがまあ自分でも言うのはなんだが、頭がいいという事は同年代の女子から見ればモテる要素の1つではあるのだろう。

それに来月は卒業だ。その事が今回の結果に繋がったのだろう。

 

「まあ来月で卒業だ。最後のチャンスで渡してみようと思った女子がいたんだろう。驚く事じゃないな」

 

案の定、姉さんは俺が思った事と同じ考えに至ったようだ。

 

「その言葉、この後でも言えたらいいよね」

 

これから起こるであろう出来事を予想して、俺は小さな声で呟いた。

小さく言ったとしても聞こえているはずなのに、姉さんは俺の言葉を聞き流し理由を聞いてくる事はなかった。

 

「次キャップ」

 

「なあ、毎年思うんだけどホントにこれやる意味あんのか?」

 

俺の言葉を無視して進める姉さんに、そう疑問を口にしながらもヒロと同じように、足元の袋からチョコを取り出しテーブルに並べるキャップ。またガクトが打ちひしがれるがみんな無視だ。

 

「23! 24! 25! 25個だ!」

 

「今年は少ないなキャップ」

 

「キャップに渡しても無駄だって事を理解したんだよ女子が」

 

姉さんの疑問に俺は的確に答える。

まあそうだろう。キャップは無駄に顔はいいくせに未だに男女の垣根を理解していない。よく言えば純朴だが悪く言えばまだガキだ。恋に恋する年頃の女子には攻略が難しいのだろう。

というかキャップ、本当に思春期を迎えるのか不安に思っているのは俺だけじゃないはずだ。

 

「じゃあ次はジンな~」

 

姉さんの陽気な言葉が響く。

恐らく今年もゼロだと思っているのだろう。ライバルがいないという状況に嬉しくて笑顔がこぼれるのを隠せていない。

 

ちなみに言っておく。俺と京は姉さんが兄弟を好きな事に気付いている。

姉さんはバレていないと思っているから言い出していないけど。

 

陽気な姉さんとは逆に俺と京はどうしたもんかと少しせわしなくなる。

そんな俺たちを不思議そうに見ていた姉さんだったが、いつもならすぐに報告する兄弟が、今日はそうせずに部屋から出ていった事にいぶかしげな表情を浮かべる。

 

嫌な予感を感じているのだろう。その顔がどんどん険しくなっていく。

案の定、姉さんの思った通り、部屋に戻ってきた兄弟の両手にはチョコが大量に詰まった紙袋が4つ握られていた。

 

姉さんが混乱しているのが手に取るように分かってしまう。

同時に溜息を吐いてしまった俺と京。

 

予想外過ぎる事に呆然となる姉さんを余所に、兄弟は紙袋からチョコを次々に取り出すとテーブルの上に順次並べていく。

姉さんと同じ呆然となるガクトとモロ。ワン子とキャップとヒロは純粋にチョコの多さに驚いている。

よくよく見ると気合の入ったラッピングばかりだ。やはりどう見ても本命だろこれ。

 

「98、99、100、101、102。102個だな」

 

「これはいったいどういう事だジン!?」

 

姉さんは余りにも完全に予想外の事に、高ぶる感情のままに兄弟に詰め寄った。だが肝心の兄弟の方はわけが分からないといった感じで姉さんに返答している。

 

「どういう事って、お前が報告しろって言うから貰ったチョコの数を報告してるだけだろ? なに怒ってるんだモモ?」

 

「大和!!」

 

兄弟に直接聞いても埒が明かないと判断したのか、姉さんは見渡すと質問の矛先をやっぱり俺に向けてきた。

 

ガクトは完全に白くなってるしモロとヒロはガクトを慰めるのに必死だ。キャップとワン子は納得できる答えを持っていないだろう。だから6年生になって兄弟と同じクラスになった俺か京なら理由を知ってるとあたりを付けたのだろう。

 

姉さんの直感は時々凄すぎるぞ。

 

姉さんは逃げ出そうとしていた俺の首根っこを引っ掴み、腕を回して逃げられないように首を固定するとみんなに聞こえないように興奮しながらも器用に声をひそめて質問してきた。

 

「どうなっているんだ!? 何で今年は貰ってるんだ!? しかも何でこんなに多いんだ!? 去年までは1個も貰ってなかったんだぞ!?」

 

「さっき姉さんが自分で言ったじゃん。来月で卒業だから最後のチャンスで渡してみようと思った女子がいたんだよ」

 

「さっきお前が呟いていた意味はこれか!? でもなんで6年生になって急にモテだしたんだ!?」

 

「いや、前から兄弟は女子に人気あったよ」

 

「なにっ!?」

 

一瞬固まる姉さん。衝撃の事実だろう。

今まで気付いていなかったんだから当たり前か。

 

「じゃあなんで去年まで貰ってなかったんだ!?」

 

「そりゃあ姉さんがいたからでしょ」

 

「私が!?」

 

これまた衝撃の事実なのだろう。

『私がいったい何をした!?』って顔してる。

 

「去年までは兄弟の側にはいつも姉さんがいたんだ。前から兄弟はモテてたけどみんな姉さんが怖くて渡せなかったんだよ」

 

「だから私が卒業したから今年のバレンタインに渡そうって事になったのか!?」

 

「そういうこと」

 

俺がさっき呟いた言葉の意味を完全に理解したのだろう。

だがまさか姉さん自身が兄弟の虫よけになっていたとは思いもよらなかっただろう。

 

「にしては多くないか!? 3ケタだぞ!? うちの小学校4クラスだろ!? 1クラスの女子が14・5人だとしても同学年の女子の数を軽く超えてるぞ!?」

 

「渡したのは5年と6年の女子ほぼ全員。しかも殆ど本命で」

 

「なんの冗談だそれは!? 油断も隙もあったもんじゃないぞ!?」

 

まさにその通りだ。女子は怖い。

 

姉さんと一緒に首だけ振り返ってみて見れば、未だわけが分からない顔でこちらを見ている兄弟。その顔を見て何かに思い至ったか、姉さんは京を手招きする。

 

「おい京。まさかジンの奴……」

 

「うん、モモ先輩の予想通り。渡した女の子たちが可哀想だけど本命だと気付いていない。たぶんもうすぐ卒業だからお別れにくれたと思ってる」

 

おいこら兄弟。鈍感にもほどがあるぞ。

 

同じ事を思ったのか姉さんの目が胡乱げに細まった。

俺は渡した女の子たちに同情したくなった。

何で兄弟は普段は人の機微にあんなに敏感で気配り上手なくせして、こういった手の話にはまったく気付かないし興味がないんだ。

 

あれか? もしかしてキャップと同じ人種の人間か?

 

同じ考えに至ったのか姉さんの雰囲気が少しだけ重くなった。

頑張れ姉さん、俺と京はとりあえず姉さんを応援してやるから。だから兄弟に想いが届くのに数年掛ったとしても諦めないでくれ。

 

「で、最後はガクなわけだけど……」

 

姉さんに代わって先に進めた兄弟の言葉に、全員がガクトに視線を向ける。

 

そこには某ボクシング漫画の主人公のように、ソファーに座って真っ白に燃え尽きたガクトの姿があった。

 

誰も声を掛ける事が出来なった。

 

結果からみると今年のバレンタインにチョコを貰えなかったのはガクトだけ。

去年まではキャップとヒロ以外は貰っていなかったから、何とか1人だけ恥をさらすような事はなかったのだが、今年はガクト以外は義理とはいえ貰っている。

 

ついにガクト1人が恥をさらした。しかも言い出したのはガクトだ。だから声を掛けられなかったのだ。同情からじゃなく自業自得過ぎて。

 

燃え尽き魂の抜けたガクトを放っておいて、それぞれ貰ったチョコの処分を検討する。

毎年の事なのだが、キャップとヒロは貰う量が多すぎて1人では処分できないので、渡した女の子たちには申し訳ないが仲間内で分けている。

今年は3ケタを誇る兄弟のチョコの量で大変な事になるだろう。

 

1個貰ったモロと3個貰った俺はそれぞれ自分たちで食べる事にすると決まった。残りはヒロの63個とキャップの25個。そして兄弟の102個を足して合計190個。

 

どんな量だよいったい!?

 

全員そう思ったのは間違いないだろう。

とりあえず兄弟以外は1人20個。兄弟だけ1番貰ったということで30個持って帰る事になった。

姉さんにしてみれば複雑だろう。好きな男が他の女子から貰ったチョコを処分するために食べるなんて悲しすぎると思う。

 

そう思って姉さんを見ると意外とさっぱりした表情をしている。

なんていうか、そこらへんの気持ちの切り替えは本当に早い人だと思う。

 

さてもう時間もだいぶたったから、そろそろ帰ろうと未だに魂が抜けたままのガクトを叩き起こしながら辺りを見渡す。

みんなそれぞれ持ってきた紙袋に分けたチョコを入れてる最中だったが、兄弟と姉さん、そして京の姿がないのに気付いた。

 

屋上にでも行ったのかとあたりを付けて部屋を出て階段を上がっていくと、案の定屋上に続く扉の前に京がいた。

 

「京? こんなところで何して――」

 

俺の言葉に振り向いた京は、人差し指を立ててそれを口に当て『静かに』のジェスチャーをする。それに従い俺は途中で言葉を切る。

静かになった俺を手招きした京は、少しだけ開いていた扉を指し外を見てみろとジェスチャーをするので覗いてみると、そこには兄弟と姉さんの姿はあった。

 

なかなか面白い場面だと直感した俺は、京にならって身を寄せて息をひそめ様子を覗き見ることにした。

風に乗って姉さんたちの言葉がよく聞こえてくる。

 

「どうしたんだモモ? 急に屋上に行こうなんて言い出して」

 

「あのな……その……」

 

兄弟の質問に姉さんは照れ臭いのだろう、少しどもりながら声を出す。

後ろ手にラッピングされた箱を持っている。恐らく兄弟に渡すためのチョコなのだろう。姉さんらしくないモジモジした姿は意外と可愛かった。

 

数分経ったが未だに話し出さない姉さんに、兄弟は慌てる事も急かす事もなく黙って待っている。

相変わらずの大人な態度だなと感心していたら、決心したのか姉さんは持っていた箱を両手で持って兄弟に差し出した。

 

「あのなジン……今年はその……京が手作りのチョコを大和に渡してたろ? 私もその……ついでに作ってみたんだけど……よかったら……も、貰ってくれ」

 

しどろもどろに言う姉さん。ここからじゃ見えないがたぶん顔は赤くなっているだろう。

 

「ありがとうなモモ。お前から貰えるのが1番嬉しい。お前の気持ちがこもったチョコ、1番最初に丁寧に大事にいただく事にするよ」

 

その兄弟の返事に、俺と京は思わず顔を見合わせる。

時々思うのだが、兄弟ってもしかして姉さんの気持ちに気付いているんじゃなか? そんな考えを視線に乗せて京に問い掛けてみるが、分からないと首を捻って返してきた。

まあ腑に落ちない事はあるが今はそれよりも――

 

「可愛いねモモ先輩」

 

「同感だ」

 

2人を眺めながら言う京の言葉に頷く。

物凄く貴重なものを見せてもらった俺たちは満足気に扉を離れた。だがその瞬間。

 

「さて、覗き見とはいい度胸だな? 大和に京」

 

地獄の閻魔が降臨したかのような声が後ろから掛った。もちろん閻魔の声なんか聞いた事ないが雰囲気的にそう感じた。

震え上がる体を叱責して振り返ると、そこには物凄くいい笑顔を浮かべた姉さんの姿と、呆れたように、同時に救いようがないと言った感じで肩をすくめる兄弟の姿。

 

どうやら救いは期待できないようだ。

 

「私たちが気付いていないとでも思ったのか?」

 

フルフルと首を横に振る俺と京。

一層いい笑顔になる姉さん。

 

「よろしい。ではこの後の末路は予想済みだな?」

 

そう言って近付いてくる姉さんに、俺と京は気が遠くなるのを必死になってこらえていたのだった。




あとがき~!

「第25話終了。あとがき座談会、司会の春夏秋冬 廻です。今回のお相手は――」

「川神百代だ」

「今回も乙女全開の百代ちゃんです」

「だからちゃん付けはやめろと言っているだろ」

「はいはい。さて今回のお話ですが『こんなのあるわけねーだろ』というツッコミはなしでお願いしいます」

「まあ普通に考えてバレンタインのチョコ3ケタなんてありえないよな。しかも小学生で」

「そこはあれだよ、二次創作のフィクションということで。まあ少し言い訳させてもらうなら――」

「言い訳するなら?」

「小学5・6年の女の子って、同学年より年上に憧れる年頃じゃん。精神的な成長って男子より女子のほうが早熟って言うし」

「そうらしいな」

「で、神ってどう見ても精神年齢小学生じゃない。高校生、へたすりゃ大学生レベルの精神年齢。それでいて外見も悪くない。となると――」

「モテて当たり前ということか」

「そういうこと。まあそうなるように書いてるんだけどね。実際、神みないな小学生いるわけねーし」

「いたらいたで、大人ぶって背伸びしてるようにしか見えないだろうな」

「実際そうだろ」

「ところで私が神の虫よけってどういう意味だ?」

「はっはっはっは、さすが百代ちゃん。小学校時代も覇王の名をほしいままだね」

「はっはっはっは、うるさいよお前」

   めきゃ!

「っ!?」

「あ、しまった。作者のしちゃった……まあいいか、それじゃあ次投稿もよろしくな」

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