真剣に私と貴方で恋をしよう!!   作:春夏秋冬 廻

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第18話投稿。


第18話 ワン子、川神一子になる

――2004年 5月13日 木曜日 PM5:00――

 

  side 暁神

 

その出来事は俺たち風間ファミリーに衝撃を与えた。

 

ヤマからかかってきた電話を取ったモモが、受話器を持ったまま固まっていた。

 

「モモ……?」

 

珍しく呆然としてるモモに小さく声を掛ける。

 

振り向いた顔を見て驚いた。

目を見開き口も小さく開き、顔は血の気が引いていた。

 

「ヤマはなんて?」

 

驚きを隠しつつ、呆然とするモモを刺激しないようにゆっくりと静かに声を掛けた。

 

「ワン子の……さんが……んだって」

 

俺はモモの手から受話器を奪うように取ると、電話の向こうにいるヤマに話しかける。

 

「ヤマ、俺だ神だ」

 

「あ、ああ……神か……」

 

ヤマもショックを隠せないのだろう、電話越しの声は呆然としているし俺の呼び方もいつもとは違った。

心ここに在らずといった感じなのを落ち着かせるように声を掛ける。

 

「ヤマ、落ち着いて話せ。何があった?」

 

「ワン子のところのお婆さんが……今日の午後3時に……病院で亡くなったって」

 

頭の中が真っ白になった。

 

岡本のお婆さんが死んだ?

 

呆然とする意識を引き戻したのは、俺のシャツの袖を握るモモの小さく震えた手だった。

我に戻った俺は右手で持っていた受話器を左手で持ち直し、空いた右手で袖を掴み震えるモモの手に重ねて小さく力を込ながら、電話の向こうのヤマにも声に力を込めて言う。

 

「大丈夫か、ヤマ?」

 

「あ…ああ……大丈夫……」

 

「落ち着け。ゆっくり深呼吸しろ」

 

俺の言葉に従い深呼吸する音が受話器越しに聞こえてきた。

それと同時にモモの手を一定のリズムで優しく叩き気持ちを落ち着かせる。

 

モモの震えが収まったのと同時に、受話器越しにひと際大きく息を吐く音が聞こえた。

 

「悪い兄弟。落ち着いた」

 

「気にするな。で? カズは今どうしてる?」

 

1番気になる事を真っ先に聞く。

ヤマもその質問を予想していたのだろう、慌てることなく答えてきた。

 

「今はキャップの家にいる。やっぱり相当落ち込んでる。岡本のお婆さんの事は父さんが全部引き受けたみたい」

 

「そうか。他の連中にもう連絡したか?」

 

「まだしてない。連絡しようと思ったら真っ先に兄弟と姉さんの顔を思い出したから……」

 

いつも冷静なヤマもさすがに動揺していたのだろう。そんな中で俺たちを真っ先に頼ってくれたのは素直に嬉しかった。

だがまだヤマを落ち着かせるための時間が必要だ。

 

カズの次に岡本のお婆さんと付き合いが長いのがキャップとヤマだ。

亡くなった知らせを受けて恐らくまだ1時間も経っていないだろう。本当に心が落ち着くには全然時間が足りていない。

 

「他の仲間への連絡は俺がする。ヤマ、お前はキャップと一緒にカズの側にいてやってくれ。それからモモにもそっちに行くように言っておく」

 

その言葉に袖を掴んでいたモモの手に一層力が入った。

 

「悪い」

 

「謝るな。別に悪い事をしたわけじゃないだろ。後の事はとりあえず今は考えるな。お前はカズの側にいてやることだけを考えろ」

 

ヤマの了承の返事を聞き最後のひと言だけ告げると受話器を戻す。

振り返ってモモの方を見るとだいぶ落ち着いているようで、いつも通りとまではいかないが、それでも目の強さは戻っていた。

 

「ジン」

 

「聞いての通りだ。モモは直ぐキャップの家に行け。説明は俺がしておく」

 

モモは頷いてそのまま玄関から物凄い勢いで出て行った。

その背中を見送りながら、他の仲間たちの家の電話番号を思い出しつつ、これから少し忙しくなるかと思ったのだった。

 

  side out

 

 

 

          §  §  §

 

 

 

――2004年 5月14日 金曜日 PM6:00――

 

  side audience

 

大和は一子の隣に座っていた。

 

今日は昨日亡くなった岡本のお婆さんの通夜。

 

お婆さんは昨日の昼に急に倒れ、それを見つけたのは翔一の母親だった。

急いで救急車で運ばれたものの既に息を引き取った後だった。

 

死因は高血圧性心疾患による心不全。

 

本当に急過ぎる死だった。

 

通夜や葬儀の段取りは大和の父親が一手に引き受けた。

岡本のお婆さんは夫にも先立たれ子供はいなかった。さらに近くに3親等内の親族もおらず、ある意味で天涯孤独の状況だったので孤児であった一子を養女として迎えていた。

本来なら喪主は一子が行うが、未成年でしかも小学生でしかない彼女にそもそも喪主など務められるわけがなく、結果、息子の大和がお世話になっており近所でもあった直江家が喪主の代理を務た。

 

代理を務めたといっても実質的に父親が取り仕切っており、大和にする事は何もなかった。

 

だからこそ大和は神に言われた通り、昨日からずっと一子の側にい続けた。

 

本当なら学校に行かなければならなかったが、両親は何も言わずに朝一で学校に休むことを伝えていた。

恐らく通夜や葬儀の手続きで両親は忙しく、一子にあまり構ってやることが出来ないと分かっていたのだろう。だから大和が休んでも一子の側にいる事を許したのだ。

 

一子は昨日から泣いてばかりだった。

でも大和はそれを止めないし、止めてはいけないと思っている。

 

『余計な事は言わずに泣きたいだけ泣かせてやれ。それからヤマ、お前も我慢せず泣きたいときは泣け』

 

昨日の電話の最後に大和が神から掛けられた言葉。

その言葉に従い、昨日から泣き続ける一子の隣で大和も少しだけ涙を流し、一緒にいた翔一も目に涙を浮かべていた。

途中、物凄い勢いで駆けつけてきた百代も、泣き続ける一子の背中をずっと撫で続けた。

 

一子が泣き疲れて寝静まった頃、神が鉄心を連れて風間家を訪問した。

そこで大和の父親や翔一の父親と相談した結果、通夜は岡本家で行い葬儀・告別式は川神院で執り行う事が決定したのだった。

 

その通夜で代理として喪主の席に座る父の後ろで、大和は一子の隣で彼女の手に自分の手を重ねて座っていた。

 

通夜には近所の人たちや地域の子供たちとその親も大勢訪れ、岡本のお婆さんがどれだけ慕われていたかを大和に感じさせてくれた。

 

そして通夜も滞りなく終了し、明日の葬儀のための準備や後片付けをしていた時、1人の男が怪しい足取りで入ってきた。

 

常識を弁えていない行動や男の雰囲気に大和の父親の顔が歪む。

 

そして一子の方に視線を向けると歩み寄って行く。

咄嗟に大和は一子を背に庇い1歩前に出る。いつの間にか翔一も隣に来ており、大和と同じように一子を庇うように立っていた。

 

だがその様子に気付いた大和の両親が男と子供たちの間に割って入ると、男に何やら話しかけた。

 

内容は声が小さくてあまり聞き取れなかったが、『家に来る』という単語が聞こえてきた時、大和の母の顔が怒りで歪み父の顔が表情を失くしたのを大和は見て取った。

 

両親が怒り狂っていると大和は直感した。

 

結局男は両親から感じ取れる雰囲気に圧されたのか、そそくさと逃げるようにどこか行ってしまった。だが部屋を出る時に一子をちらりと見やり、口元に不愉快にさせる笑みを見せていた。

 

その時に大和は直感した。

 

(ああ、あの大人はろくでなしの駄目な奴だ……)

 

その後で両親からさっきの男について聞いた時、大和は自分の直感通りと思った。

 

一応遠縁の親戚であり、以前何度か連絡は取っていたかがここ数年は音信不通。その男の事を知っていた近所の人が一応という事で連絡したらしい。

お婆さんが一子を養子として引き取っていたのも知らなかったし、知ったのも今日この場。

 

引き取ると言っているが親切心や親心ではなく、どう見ても下種な下心からの申し出だ、と大和の父は言っていた。

 

今日の通夜はそれで終わったが、どうにも心に引っかかるものが残った大和は、翔一に告別式の前に秘密基地の原っぱに仲間を全員集めようと告げたのだった。

 

  side out

 

 

 

          §  §  §

 

 

 

――2004年 5月15日 土曜日 AM10:00――

 

  side 岡本一子

 

「うぅ……うぅぅぅう」

 

原っぱにみんなが集まる中でアタシはまだ泣いている。

一昨日から泣いているのに、涙は全然止まってくれなかった。

 

「よしよし、みんないるから大丈夫だよ」

 

モロが泣くアタシの頭を撫でて慰めてくれる。

 

誰も泣きやめと言わない。一昨日からずっと一緒にいてくれた大和も、お泊りさせてくれたキャップも、凄い勢いで駆けつけてくれたモモ先輩も。

 

こうして秘密基地の原っぱにみんな集まってくれて、みんな慰めるように頭を撫でてくれる。

 

『今は泣きたいだけ泣け』って1番最初に頭を撫でて言ってくれたジン兄の言葉が凄く嬉しかった。

 

「ワン子のばあちゃんが死んだなんて……まだ実感できねーよ」

 

「そうだな優しい人だった。私たちもよく和菓子もらってたしな」

 

愕然としてまだ実感できないガクトの呟きと、モモ先輩の優しい声。

 

アタシの中でおばあちゃんとの思い出がどんどん出てきて、また涙が溢れてくる。

ぎゅっと抱きしめてくれている京をアタシも抱きしめた。

 

みんなおばあちゃんの事を好きでいてくれたのが凄く嬉しくて、でもそう思う度におばあちゃんが死んじゃった事が凄く悲しくなって。

 

「1つ……問題がある」

 

大和の言葉にみんなが大和を見る。

 

「……ワン子の、行く先が無い」

 

辛そうに言う大和。

抱きしめてくれる京の腕に力が入り、涙をこらえるアタシの頭をモモ先輩が優しく撫でてくれる。

 

そう、アタシは元々孤児だ。

 

おばあちゃんは家族がいなかったから、アタシを引き取ってくれた。

親戚も全然いないと言っていたおばあちゃんは、アタシを見た瞬間に引き取る事を決めたって言っていた。

 

『一子を見た瞬間にこう、ビビビッてきたんだよ。この子となら仲良くやっていける、本当の家族になれるってね』

 

引き取ってくれた時のおばあちゃんの言葉が頭をよぎった。

 

「じゃあ、このままだとワン子はどうなるんだ?」

 

焦ったようなガクトの言葉に、ヒロの小さな呟きが耳に入った。

 

「施設……かな……」

 

嫌だ! そんなの絶対嫌だ!

 

京にしがみついていた腕に力が入る。

 

いきなり強く抱きしめられた事に驚いた京だったけど、ヒロの言葉がアタシの耳に入ったのだと気付き、一層強く抱きしめてくれた。

 

「そんなの嫌だよぅ……みんなと離れたくないよぉ……」

 

心からの願いだった。絶対にみんなと離れ離れにはなりたくない。

 

「1人ぐらい親戚いるでしょ!?」

 

声を荒げるモロに大和は顔を歪めながら答える。

 

「うん、1人だけ遠縁の男がいるみたいだし、その人から『家に来るかい?』って言われてるんだけど……」

 

大和の言葉に昨日の男の人が見せた笑顔が浮かぶ。

ぞわっと背中を奔った悪寒に身体が勝手に震える。

 

嫌だ! 絶対あの人のところなんか行きたくない!

 

「言われてるんだけど?」

 

大和に言葉の続きを促すジン兄。

 

「昨日の通夜の時にチラッと見たけど、ヤバイ奴だ。今日の告別式にも来るだろうから、みんなちょっとそいつを見てくれ」

 

その大和の言葉にみんな頷いてくれた。

 

  side out

 

 

  side 川神百代

 

川神院で行われたワン子のお婆さんの告別式。

 

私たちは参加せず境内の一角でみんな集まっていた。大和とキャップも今日は私たちと一緒にいる。

 

ワン子と一緒に式に出ると言い張った大和だったが、昨日はワン子がまだ完全に落ち着いていなかったから大和に近くにいるようにしたが、今日は幾分落ち着いているから大丈夫だ、と父親に説得され渋々ではあったが納得した。

 

そんなわけで私たちはワン子が出てくるのを待っているのだ。

 

「どんな男なんだ?」

 

問い掛けるジンに大和もキャップも顔を歪める。

 

「見ればすぐ分かるよ」

 

「ああ、1発で分かる」

 

と、式が終わったのか本堂から次々に人が出てきた。

 

ワン子は大和の両親に連れられて参列してくれた人たちに頭を下げていた。

悲しいながらもきちんと礼儀正しい行動を取るワン子に、私は少しだけ胸を締め付けられる。

 

この瞬間に、私は自分の取るべき行動を決めた。

 

誰に何と言われようが絶対に私の思った通りにしてやる!!

 

決心する私の肩をジンが軽く触れてきた。

振り向けばまるで全部分かっているかのような笑顔を浮かべている。

ジンは間違いなく私を応援してくれる。それが凄くありがたかった。

 

「あいつだ」

 

大和の言葉に振り向くと、そこにはちょうど1人になったワン子に近付き話しかける男がいた。

 

ああ、あいつは駄目だ。

 

「な? 駄目だろ。死んだ魚のような目をしてる」

 

「加えてあの震えてる手。ありゃあアル中だろ」

 

私の直感を肯定するように大和とキャップが吐き捨てるように言う。

 

「うん、あれに渡したら駄目」

 

「行ったら不幸になるのが目に見えてるね」

 

京とタカも同意見のようだ。

 

「ワン子みたいに純真なのは特に汚い存在から死守しなきゃならない」

 

全くもって同意見だ弟よ。相手があんな男ならこっちも思うままやるだけだ。

 

「私たちが揃っていれば何でも出来る。今回のこの問題は、私がいれば即時解決だ」

 

具体策を言い合う大和とガクト、キャップに私は宣言したのだった。

 

  side out

 

 

 

          §  §  §

 

 

 

――2004年 5月16日 日曜日 AM10:00――

 

  side ■■一子

 

川神院(ウチ)に来ないかワン子」

 

「――え?」

 

モモ先輩の言葉にアタシは呆然と答えるしかなかった。

 

ウチに来いってどういう意味だろう?

 

「私はお前を妹のように思っている。お前も私を姉のように慕ってくれている。だったらいっそのこと、真の家族になろうじゃないか!」

 

「モモ先輩……」

 

思ってもいなかった事に声が震えてくる。

みんな何も言わない。アタシたちを見守っている。

 

川神(かわかみ)一子(かずこ)となれ、ワン子」

 

「……いいの?」

 

信じられない。でもそうなりたい。

 

「既に許可は取った。時々遊びに来てジジイの顔とか知ってるだろ? 『あの娘なら喜んで歓迎』だそうだ! 他の奴らもな!」

 

余りの嬉しさに声が出なかった。それでも何とか振り絞る。

 

「あ、アタシ……アタシは、絶対そうしたい!! みんなと一緒にいたい!! あんな不気味な人のところになんか行きたくない!!」

 

思いを全部吐き出した。我がままを全部言った。

でも、本当にそうしていいのか自信が持てなくて、アタシ震えた声でみんなに聞いた。

 

「い……いいんだよね?」

 

私が見たのはみんなの笑顔だった。

 

「あったり前だろ」

 

「……うん」

 

「聞くまでもねーだろ」

 

「聞かずに分かりなよ、それぐらい」

 

「一子ちゃんのしたいようにすればいいよ」

 

「よく言ったカズ」

 

「むしろ俺がリーダーとして命令してやる!」

 

「みんな……」

 

涙が溢れ出るのを止められない。

 

「決まりだな、妹よ。これからは私の事をお姉様と呼べ」

 

「うぅ……うぅぅ……うわ~~ん!!」

 

流れる涙を拭くことすら忘れて、アタシはモモ先輩――ううん、『お姉様』に抱きついた。

 

「お姉様……お姉様、ありがとうっ!!」

 

「ああ。可愛い妹が出来て私も嬉しいぞ」

 

必死で抱きつくアタシをお姉様は優しく撫でてくれた。

 

今日この日、アタシは川神一子になった。




あとがき~!

「第18話終了。あとがき座談会、司会の春夏秋冬 廻です。今回のお相手は――」

「岡本改め、川神一子よ!」

「今回のお話の主役、ワン子嬢です」

「アタシもやっと川神になったのね」

「そうだね。いやしかし今回のお話はなかなか難しかったよ」

「どうして?」

「情報が少なすぎる。過去エピソードで回想があったけどはっきり言って短い。それを1話にしようとなると原作ない描写をしなきゃならない。しかもお婆さんの死因を勝手に作ってしまった」

「よかったのかな?」

「どうだろう? でも原作をやってると何となく急死な気がしたんだよ。病気で入院してたような感じはしなかったからね。それだったらその後の身の振り方を周りの大人たちが考えていてもいいと思うんだよ」

「それがなかったから?」

「そういうこと。だから無茶苦茶原作をいじった」

「おお! やるじゃない」

「褒められる事じゃないだろ、普通は」

「あはは、そうかもね。ねえ、ところで最後のアタシ視点の時なんで名字が塗りつぶされてんの?」

「それはワザと。名字が変わるのはわかってるから。もう岡本じゃいけどまだ川神でもないからあんな風にしたってわけ」

「なるほど~」

「では今回はここまで、次回投稿もよろしくお願いします」

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