真剣に私と貴方で恋をしよう!!   作:春夏秋冬 廻

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第12話投稿。


第12話 終わる1年、きっと変わらない来年

――2002年 12月31日 火曜日 PM11:00――

 

「くらえ! 俺様のスーパーショット!」

 

吠えるように叫んだ岳人くんが、キャップに向かって手にしていた枕を勢いよく投げつける。

 

「当たるかよ!」

 

「急によけないでよキャップ!? うわぁ!」

 

軽やかに飛んでくる枕をかわすキャップ。

その後ろにいた卓也くんは、急に目前に現れた枕を当然ながらよける事が出来ず、顔面で受け止めてしまった。

 

「よっしゃ! モロ討ち取ったり~! へぶっ!」

 

枕の直撃を受けた卓也くんに向かって高らかに宣言する岳人くんだったけど、モモ先輩の投げた枕が唸りを上げて左側頭部に当たり、もんどりうって倒れた。

 

「よそ見とはずいぶん余裕だな、ガクト?」

 

「やーい! ガクト退場! きゃうん!?」

 

顔をニヤつかせて言うモモ先輩の隣ではしゃいでいた一子ちゃんは、岳人くんの後ろで隠れていた大和くんが投げつけた枕を顔面で受けた。

 

「姉さんが言ったろワン子、よそ見は禁物だ。ごはっ!?」

 

訓戒を垂れていた大和くんだったが、正面と右から同時に飛んできた2つの枕に視界を奪われる結果となっていた。

 

「大和討ち取ったり~!」

 

「そうだぞ弟、よそ見は禁物だ」

 

投げ抜いた恰好のまま大和くんに言い放つキャップとモモ先輩。

 

「だからって2人で狙うなよ……」

 

ある意味でもっともダメージを受けた大和くんは膝を吐いて蹲った。

 

大和くんが退場となり残りがキャップとモモ先輩だけとなった事を確認した僕は、横にいたジン兄に向かって視線を送る。

同じ考えだったのか、了解の意を伝えるように軽く頷いてきた。

 

手に持っていた枕を、静かに最小限の動きで振りかぶる。

こちらに気付いていないキャップとモモ先輩が互いに向き合った瞬間、僕とジン兄はそれぞれの標的に向かって枕を投げつけた。

 

「さあキャップ! 生き残りをかけた最後の勝負だ! む? あだ!」

 

「よっしゃあ! 受けて立つぜモモ先輩! ふごっ!」

 

その枕は、ちょうど勝負の宣言をしあっていた2人の顔面に直撃した。

さすがにモモ先輩は迫りくる枕に直前で気付いたようだったが、予想外の速さによける暇はなかったみたいだった。

 

「モモ、油断大敵だぞ」

 

「キャップもきちんと周りを見ようね」

 

それぞれの標的だった相手に声を掛けるジン兄と僕。

 

「気配を消すとは卑怯だぞジン……」

 

「勝負事になると容赦ないなヒロ……」

 

悔しそうに最後の言葉を言うモモ先輩たちにジン兄は当然とばかりの口調で答える。

 

「何を言っている2人とも。お遊びでもこれはれっきとした勝負だ。ならもっとも効率のいい勝ち方をして何が悪い」

 

2人1組をくじで決め、乱戦形式の枕投げ勝負。

 

最初の方こそ普通にしていた僕たちだったけど、他のみんなが熱中し始めた頃から、気配を殺して静かに観戦していた。そして残りが2人になった時に勝負を仕掛けた。

 

その結果が今の現状。

 

「正々堂々でもよかったんだけど、キャップとモモ先輩に勝つにはたぶんこれしかないと思ったんだ」

 

「勝てば官軍、歴史は勝者によって作られる、って言うしな。なあ兄弟?」

 

「そこで俺に振るな兄弟……」

 

種明かしをする僕。少し含み笑いを浮かべながら言うジン兄。

同意を求められた大和くんは苦笑いを浮かべるしかなかったようだ。

 

今年1年の最後を締めくくる勝負は、僕、篁緋鷺刀と暁神のチームが勝利した。

 

 

今日は12月31日、大晦日。

 

僕たち風間ファミリーは川神院で今年最後の夜を迎えていた。

 

12月24日のクリスマスイブ。

僕の家で凛奈さんも入れてみんなで楽しく過ごしていた時、モモ先輩が『年越しを川神院でみんなで過ごそう』と提案してきた。

キャップと一子ちゃんと岳人くんは初めから乗り気で、大和くんと卓也くんは家族の事もあるし川神院にも迷惑になるんじゃあ、と最初は渋っていた。

ジン兄はモモ先輩が勝手に決めた事に呆れたような表情だったが、『許可取らなきゃなあ』と後の苦労を既に考えていた。

 

僕はその時すでに凛奈さんから許可が下りていた。凛奈さんは大晦日の日に既に約束が入っていたらしい。

 

結局、次の日に鉄心さんに許可を取ったジン兄が全員に連絡をしてくれたのだった。

 

 

「しっかし、今年もあっという間だったよな~」

 

枕投げのせいで踏み荒らされていた布団を直し、その上でうつ伏せに寝転がりながら岳人くんが感慨深く言う。

 

「そうだね。ホント去年より短く感じたよ」

 

その横で布団に座り込んでいた卓也くんが答える。

 

僕たちの布団の並びは横一列ではなく、頭を突き合わせるような円状に並べている。

みんなで楽しくお話が出来るようにと大和くんが提案したのだ。

 

「そうだな、私も今年はあっという間だったと感じるよ」

 

「楽しかったもんね~」

 

一子ちゃんの頭を膝に乗せて撫でるモモ先輩。撫でられて気持ちようさそうな一子ちゃん。

 

「今年もあと少しで終わりだ。そこでだ、今年1番のいい思い出と悪い思い出をみんなで発表し合おうぜ!」

 

座ったまま身を乗り出しながら言うキャップ。

 

「また唐突だなキャップ……しかも悪い思い出を発表する意味が分からん」

 

「まあ、その方がキャップらしいけどね」

 

読んでいた本から顔を上げた大和くんと僕は、呆れたようにキャップの発言に苦笑する。

 

「おーい、飲み物とお菓子持ってきたぞ」

 

タイミング良く部屋に入ってきたジン兄は、手に持っていたトレイを円状に並べた布団の中央に出来た畳の上に置く。

みんなそれぞれコップにジュースを注ぎ、思い思いにお菓子をつまむ。

その間にジン兄はさっきのキャップの発言を大和くんから聞いていた。

 

「ふうん、で? 誰から発表するんだ?」

 

「そりゃあもちろん、年下からだろ」

 

そう言って僕を指す岳人くん。

やたらと僕を年下扱いしてくる岳人くんの発言だったけど、みんな慣れたものだし僕も気にしていない。

 

「そうだな、じゃあヒロから順に時計回りで発表だ」

 

岳人くんの言葉に乗っかりキャップが言う。

ちなみに発表順は僕を始まりとすると、僕→大和くん→ジン兄→モモ先輩→一子ちゃん→卓也くん→岳人くん→キャップという順番になった。

 

一番最初の僕に視線が集まる。

 

「そうだね……いい思い出はやっぱりジン兄とモモ先輩に会った事かな? 僕にとって本当に目指し甲斐のある目標に出会えたからね」

 

僕の言葉に意外そうな顔をしたジン兄。モモ先輩は面白そうな顔をしていた。

なぜだろう、モモ先輩の顔を見ると嫌な予感しかしない。

 

「悪い思い出はアレ(・・)だね。僕の誕生日のモモ先輩と岳人くんからのプレゼント。アレ(・・)は僕の尊厳を踏み躙るものだったね」

 

咄嗟に視線をそらした2人。

 

うん。そらしても無理だよ。まだあの時の怒りは忘れてないからね。

 

「えっと……次は俺だな」

 

気まずくなった雰囲気を取り直すように大和くんが続く。

 

「いい思い出ねぇ……これといって浮かばないし、やっぱ姉さんと兄弟に会えた事かな。悪い方は直ぐにでも思い浮かぶんだが……」

 

そう言った大和くんの視線が、一瞬ちらりとモモ先輩を捉えた。

それに気付いたのは僕とジン兄と向けられたモモ先輩。

 

火に油を注いだのはジン兄だった。

 

「モモ、ヤマはお前の舎弟になった事が悪い思い出だってさ」

 

「ほう、面白い事を言うな? 弟よ」

 

2人の言葉にぎょっとする大和くん。

 

「兄弟、お前!? いや違う! 違うんだ姉さん! 舎弟になった事は後悔していない! 後悔していないがいい思い出かと聞かれれば首を傾げざるをえないんだ! だから悪い思い出と言われて咄嗟に思い出してしまったんだ!」

 

「大和……墓穴掘り過ぎだよ」

 

卓也くんの力のないツッコミが入った。

 

「では姉のお仕置きの時間だ弟よ」

 

「嘘でしょ!?」

 

「はいモモ、そこまで」

 

指を鳴らし制裁を加えようとしていたモモ先輩を止めるジン兄。

止められた事に特に気分を悪くしていないモモ先輩だが、大和くんは恨みがましい視線をジン兄に向けていた。

 

それは仕方ないと思う。止めたけど煽ったのもジン兄だ。

 

そんな大和くんの視線に気付かない振りをしてジン兄は続いて発表する。

 

「次は俺か……俺もいい思い出はみんなと出会った事かな。前から有名だったからな風間ファミリーは。だから加えてもらえて良かったと思ってる。まあ、悪い思い出もみんなの事なんだけどな」

 

苦笑いを浮かべるジン兄に、みんなは首を傾げる。

僕と同じでなんの事なのか思い当たる節がないのだろう。

 

「同級生なのになんで『兄』って呼ばれるんだろうな、俺は? なあキャップ、これはいったい誰の陰謀なんだ?」

 

「あ~それはだな……」

 

疲れたように呟いた言葉に、みんなは苦笑いしか返せなかった。

特に名指しされたキャップは言葉を濁すだけで言い返せなかった。

 

そんなジン兄を慰めるようにモモ先輩は背中を撫でた。

 

「落ち込むなジン。次は私だが……悪い思い出は特にない。いい思い出はたくさんあり過ぎてどれか決めるのは難しいな。まあ、お前たちに会えた事は確かにいい思い出だな。 ……1番の思い出は言えないけどな……」

 

モモ先輩は笑顔で言う。

最後に小さい声で呟いていたが誰も聞きとることは出来なかった。

 

「次アタシ! えっと、いい思い出はヒロと一緒! 2人に出会えた事! 悪い思い出はあんまりない!」

 

「ワン子の場合、覚えてないだけじゃね?」

 

「うるさいわよ! ガクト!」

 

元気良く手を上げて発表した一子ちゃんに、岳人くんが横やりを入れるいつものやり取りが出来上がってしまった。

そしていつも通り落ち着かせる卓也くん。

 

「はいはい、ワン子もガクトも落ち着いて。これじゃあ僕が発表できないじゃない」

 

お互い牽制し合いながらも落ち着いた2人を見て、卓也くんは溜息混じりになりながらも言葉を紡ぐ。

 

「えっと、いい思い出はやっぱモモ先輩とジン兄と出会えた事。あの出来事以降はホントに楽しい事ばっかだったよね」

 

楽しい事を思い出していたのか、ちょっと目を細め笑顔を浮かべていた卓也くんだったけど、次の瞬間その顔は曇り急激に落ち込んだ雰囲気になった。

 

「悪い思い出はクリスマスイブ……さすがにアレ(・・)は最悪だったよ。タカと同じで男としての尊厳が踏み躙られたよ……」

 

少し虚ろな笑みを浮かべた卓也くんに、あの時の加害者だったキャップ、モモ先輩、大和くん、岳人くんの4人は視線をそらす。

 

僕には卓也くんの気持ちが痛いほど分かった。

 

でもあの時って、どうなるか分かっていて止めなかったジン兄にも責任はあったと思うんだけどな……

 

「ま、まあそう落ち込むなモロ。過ぎた事じゃねえか」

 

「と言うか率先してモモ先輩の言葉に賛成したのガクトだったよね!?」

 

「さあ? 俺様もう覚えてないなあ」

 

慰めるつもりが、逆に問い詰められた岳人くんはあからさまにとぼけて見せた。

 

「さあ、次は俺様の番だな~」

 

卓也くんに胡乱げに睨まれながらわざとらしく声を上げる岳人くん。

 

「やっぱいい思い出はあれだ、みんなと同じだな。で、悪い思い出は……」

 

「いきなり言い淀んでどうした? ガクト」

 

「嫌な事を思い出しちまったんだよキャップ。それから俺様は断言するぜ。俺様とキャップの悪い思い出はおそらく同じものだ」

 

岳人くんの言葉を着た途端、キャップの顔が歪んだ。

たぶんあの表情は岳人くんの言う通り、同じ悪い思い出を思い出したんだろう。

 

アレ(・・)か!? あの悪夢の1日か!?」

 

「おう! そうだぜキャップ! 今年の俺たちの1番悪い思い出といったらアレ(・・)しかねーだろ!」

 

「地獄へ行く覚悟は出来たか?」

 

「「ひいぃぃぃぃ!!」」

 

2人だけで分かりあった会話をしていたキャップと岳人くんは、唐突に呟いたジン兄の言葉に、反射的なのだろう、全く同じ悲鳴を上げていた。

 

「ああ! 確かにあの1日はお前たちにとっては悪夢だろうな」

 

何の事か思い出したモモ先輩の言葉に、僕以外の全員が頷いた。

 

後日、大和くんに教えられた僕は2人が怯えていた理由に納得したのだった。

 

「じゃあ最後にキャップだな」

 

大和くんの声に我に返るキャップ。

 

「いい思い出はやっぱ俺たち風間ファミリーに新しい仲間が入った事だな! 悪い思い出はもう思い出したくない!」

 

そう締めくくったキャップの言葉にみんなが笑い声を上げた。

 

「本当にいろいろあったけど、風間ファミリーとしての最高の思い出はやっぱアレ(・・)だよな」

 

ファミリーとしての1番の思い出。

それはきっとあの夏の台風の日。

 

みんなで力を合わせて竜舌蘭を守った事。

 

正確には今ここには1人足りないけど、きっとこの思い出はみんなの心に残り続けるはずだ。

 

   ゴーン ゴーン

 

みんなであの日の事を思い返していると、除夜の鐘が聞こえてきた。

 

「もうすぐ年が明けるな」

 

部屋の時計を確認しながらジン兄が感慨深く呟いた。

 

と、キャップが勢いよく立ちあがる。

 

「よっしゃあ! 俺はこれから鐘を突きに行くぜ!」

 

「アタシも行く!」

 

「ここはやっぱ俺様の出番だろ」

 

「なんなら私は拳で突いてやろう」

 

「ホントに出来そうだから怖いよね」

 

「鉄心さんに怒られるだけだぞモモ」

 

「怒られるのは俺たちだからやめてくれ姉さん」

 

キャップの言葉に答えるように一子ちゃんと岳人くんとモモ先輩は元気に、卓也くんとジン兄と大和くんは呆れたように言いながら立ち上がる。

 

「なにやってんだヒロ? 行くぞ!」

 

ひとり遅れていた僕に振り返り声を掛けるキャップ。

部屋を出た廊下で遅れた僕を待つようにみんな並んでいた。

 

「うん!」

 

きっと変わらない。

 

来年も再来年も。

 

きっとずっと先も形は変わっても、僕たちの仲間の絆はきっと変わらない。

 

みんなのもとに駆け寄りながら、僕は確かにそう感じたのだった。




あとがき~!

「第12話終了。あとがき座談会、司会の春夏秋冬 廻です。今回のお相手は――」

「篁緋鷺刀です」

「さて今回のお話についてですが――」

「前回あとがきのとき、『本来はクリスマスや正月などの時事ネタをやるつもりだ』って言ってませんでしたか?」

「自虐的なツッコミの前に突っ込まれた……はい、確かに言いました。そこで言い訳させて下さい」

「言い訳をする時点でダメな気もしますけど……どうぞ」

「ホントはクリスマスネタをやるつもりでした。だけど書き始めた瞬間、頭の中でひらめいたのはなぜか枕投げの風景。これは面白いと思いその勢いのまま書いてしまったのです」

「計画性が全くないですね」

「全くもって言い返せない」

「それで次回のお話はどうするんですか?」

「京の話かな? そろそろ加入させようと思う」

「初期メンバー集合ですか。やっとですね」

「そうやっと。たぶん1話では書き切れないと思います」

「原作通りの進行ですか?」

「ほぼね。とりあえず大和が主役で神も動きますのでよろしく待っていて下さい」

「何か最後の挨拶おかしくないですか?」

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