真剣に私と貴方で恋をしよう!!   作:春夏秋冬 廻

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第99話投稿。

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第99話 球技大会、駆け引きと策と決着

頭を狙った小雪の鋭い上段の蹴りを、両腕を交差させしっかりと受け止めた直後、左脚で地面を強く踏んだ事で生まれた力に、足首、膝、腰を捻じる事で生まれた螺旋の力を上乗せして放たれた一子の下段の蹴り。

 

狙った場所も軸足となっている左。しかも膝裏。

 

その蹴りを受けた小雪は、突き抜けた衝撃に膝頭を抑えて蹲る。受けた場所は膝裏だが痛みが一番あるのは真逆の膝の表の方だった。

 

骨や筋に異常はない。だが当分の間痛みが引かず歩くのにも難しくなるかもしれない。直感的にだが小雪はそれを理解した。そして同時に自分の負けも悟ったのだ。

 

そしてその一子の蹴りを見て、一番驚いたのは他でもない百代だった。

 

理想的だった。ほぼ完璧と言っていいほどの蹴り。脚の踏み込みから各部関節の捻じり、だが体幹はぶれることなくその力を無駄なく流動させ、衝撃も拡散させず一点に徹るように放たれた蹴りの角度。

 

自分が思っていた一子の実力からは、到底想像する事の出来ないほど理想的な蹴りだった。

 

頭のどこかで武人としての考えが、それでも一子が川神院の師範代としてまだまだ足りないところが多いと判断している。

だが、武術の才能のない一子が到達し得た、そして最も近くでそれを見続けてきた自分が見た1つの現実に、心の中から込み上げてくるものを抑えるので必死だった。

 

姉として喜びたい。でも川神院の跡継ぎとしては満足してはいけない。そんな矛盾した気持ちを抱える百代は複雑な笑みを浮かべるのだった。

 

 

  side 葵冬馬

 

これは少し予想外の展開ですね。よもやユキが負ける事になるとは。

 

始まる前に神君が何やらアドバイスをしていたようですが、どうやらそれが勝敗のカギを握っていたいようですね。本当に彼だけは予測がつけられません。

 

ですが過ぎた事をいつまでも言っていても仕方がありません。思考を切り替え次の事を考えなくては。

 

「で、どーするよ若? F組あっちは暁が出てくるけどよ、とりあえず次のラウンドはしのぐことに専念すんのか?」

 

「ジリ貧ですよ準」

 

そう、それは間違いないでしょう。恐らく直江さんは間違いなくS組を倒しに来るはず。そして神君もそれに同意しているでしょう。ならどれだけ耐える事に専念したとしてもこちらの戦力は確実に削られます。こちらの戦力が3人になった時点で逃げ切る事は出来なくなったのですから。

 

「仮に次の攻防から1人ずつ選出したとして、神君は3回連続で出る事が出来るのですよ。準、貴方は1人で彼を抑える事が出来ますか?」

 

「無理だ」

 

「でしょうね。結局1人ずつ出ればその都度退場させれられ、第7ラウンドの先攻が終わった時点でS組の残りメンバーが0になってしまうんですよ」

 

それを避けるためにも2人以上出場することが前提になってしまいますね……いえ、これはひょっとするとしのげる可能性も出てきたのでは?

 

いくら神君が常人離れしているとはいえ競技には最低限のルールが存在します。さらにこの(サークル)(ドッジ)(ボール)には制限時間が設定されています。この制限時間次第によっては2対1ならば神君の攻撃をしのげるかもしれません。

 

「……いえ、やはり無理ですね」

 

自分の考えを否定する呟きが思わず漏れてしまいました。

 

制限時間を使う場合、こちらが守備の時しか意味がありません。そして今の勝敗は5勝5敗。次の第6ラウンドの先攻で勝ちを手にしない限りほぼ意味のない作戦です。

 

ですが、だからと言ってそう簡単に諦める事はしたくありませんからね。元より正攻法というのは私なら余り取る作戦ではないので、少々見苦しいかもしれませんが小賢しい真似をしてみますか。

 

「英雄、忍足さん。作戦をお伝えします」

 

  side out

 

 

  side 直江大和

 

勝った。この1勝は大きい。これで勝ち星は5勝5敗。

 

ワン子のあの痛がりから恐らく次以降の参加は無理だろう。もっとも、井上に肩を借りて少しだけ足を引きずるように歩いている榊原さんを見るに、十分に役割は果してくれたし今は休んでほしいという思いの方が強い。

 

実質、これでF組で参加できるのは兄弟ただ1人。だが今のこの状況こそ最大のチャンスだ。

 

今のこの状況から考えればまともなドッジボールをする事はない。だから次のラウンドも間違いなく戦闘になる。そしてS組の残りメンバーは九鬼と忍足さんと井上の3人。滅多な事がない限り次のラウンドの2回の攻防で3人全員が出る事になるはずだ。

 

もちろんF組は兄弟が出場する。両手が使えないハンデがあったとしても兄弟なら負ける事はないと俺は確信している。

 

だがだからと言ってあの葵冬馬が馬鹿正直にそんな作戦を取ってくるとは限らない。これはちょっと頭を捻って考えた方がよさそうだ。

 

「総力戦になっちゃったね」

 

モロの呟きにも同意するしかないな。本来ならF組おれたちがS組と渡り合うのはかなり厳しい。今こうして善戦出来ているのもハンデをものとしない兄弟と、予想以上の結果を出してくれたワン子のおかげだ。

 

「兄弟、ちょっといいか?」

 

次の攻防のため軽く屈伸をしている兄弟に、俺は声を掛ける。

 

肉体派が頑張ってくれているのなら、軍師である俺は次の勝ちを確かなものにするために、この小賢しい頭を使って文字通り小賢しい策を考えるまでだ。

 

「なるほど」

 

俺の言葉に兄弟が頷くなか、ルー先生によりサイコロが振られ次の攻防の人数と時間が決められた。青4、赤3、黄5。それが第6ラウンド先攻のサイコロの目だ。

 

攻撃側S組3人まで、防御側F組3人まで、制限時間6分。といってもF組は兄弟しか出る人間はいない。そして俺の考え通りなら――

 

「佳境に入った第6ラウンド、F組は当然の如くジンが出場。そして何とS組は葵冬馬1人だ!」

 

「葵冬馬はアウトになっているだけでリタイヤにはなっていないからな。攻撃時なら出る事が出来るという事だ」

 

ドンピシャの予想通り。癪だがやっぱり葵と俺は似通った思考をしているらしい。恐らく葵の方も小賢しいと思っているはずなのに、その策を実行するあたり本当に似通ってるな。

 

ルールから井上が出られないのは分かり切っていた。それならば普通は九鬼と忍足さんの2人が出てくるのだが、さっきも言ったように葵がそんな馬鹿正直な事をするとは考えられない。そしてその葵本人が出てきた以上、考えていた通りの展開というわけだ。

 

「では第6ラウンド先攻、始メ!」

 

ルー先生の掛け声とともにボールが投げ込まれるが、葵は1歩も動かず兄弟もゆっくりと歩いてボールを取りに行く。

 

ある意味で予想外の展開に周囲の生徒たちのざわめきが大きくなる。そんな中でボールを拾い上げた兄弟を見て、葵は小さく笑みを浮かべて話しかけた。

 

「神君。ここは1つ取引をしませんか?」

 

来た。予測通り取引を持ちかけてきた。答をどうするかは兄弟に任せてあるが、さて葵はいったいどんな取引をしてくるのやら。俺の考え通りならいいんだけどな。

 

「一応聞こうか」

 

「ありがとうございます。早速ですが提案を。今回の攻防、勝ちを譲っていただけませんか?」

 

ざわめきがさらに大きくなった。だが俺にとっては意外な言葉じゃない。この提案は思っていたい通りのものだ。あとは何を交換条件(・・・・・・)に持ってくるかだが兄弟なら恐らく内容によっては提案を呑むだろう。

 

「対価は?」

 

「私のリタイヤ。そして次の攻防で必ず残りの3人を出す事。F組にとっては悪い条件ではないはずですよ」

 

確かに悪い条件じゃない。試合が長引けばその分だけF組こっちが不利になって行くのは分かり切っている。試合に勝つためには出来るだけ早く、理想で言えば次の第6ラウンド後攻で決めるのが1番いい。

 

そう考えるなら葵の提案は決して無下には出来ない。だが――

 

「それをF組こっちが呑んだとして、審判のルー先生や競技の考案者の学長が認めるか?」

 

兄弟の言う通りだ。まあルー先生はともかくあの学長、鉄心さんなら『面白い』という理由で承認する可能性は高いんだけどな。葵もそれが分かっていてのこの提案だ。案の定――

 

「構わん。好きにせい。駆け引きもまた勝負の1つじゃ」

 

「いきなりの展開だがジジイから承認が降りたぞー」

 

「これはこれでなかなか面白い展開になってきたな」

 

鉄心さんの承認と姉さんと凛奈さんの言葉にがぜん盛り上がる周囲の生徒たち。

 

確かに勝つためには悪くない条件だが、それでも状況的にはS組に有利過ぎる。戦力的に居なくても問題のない葵のリタイヤの割には得られる条件がF組にとって分が悪い。

 

確かに確実に纏めて3人を相手に出来るのはいいことだが、攻防時間は結局はサイコロの目による運任せ。5や6が出るならまだしも、もし1や2だった場合はさすがの兄弟も九鬼、井上、忍足さんの3人を退場させるのは難しいんじゃないだろうか?

 

しかも1勝のアドバンテージを与え、それでいて次の攻防をしのがれたらF組は完全に負ける。はっきり言ってこの提案は損得のバランスが悪すぎる。それでも勝つためには提案を受け入れ乗るのが1番。本当に嫌な事をしてくるな葵の奴。

 

「さて、どうしますか神君?」

 

「悪いが、答えるのは俺じゃない」

 

決断を迫る葵の言葉に、答えた兄弟の言葉は意外なものだった。

 

「冬馬、お前はS組の参謀、軍師的な立場なんだろ? そしてこれは戦局を左右する重要な駆け引きの場。だったらF組のお前と対等の立場の人間じゃなきゃな」

 

そう言って俺に視線を寄こす。それを受けた俺の胸の内にある種の嬉しさが込み上げてきた。

 

任されたんだ。

役割というものもあるのかもしれない。でも今この瞬間、俺はこの試合に対する重要な場面で重要な仕事を任されたんだ。他でもない。あの暁神から。

 

なら、期待に応えられるようにやってやろうじゃないか。

 

歩みを進め兄弟の横に立ち葵を正面から見据える。俺の登場もある意味で予想範囲内だったんだろう。葵は表情を変えずにこっちを見ている。

 

「その条件を呑もう。ただしこちらも条件を提示する」

 

「その条件とは?」

 

「俺、モロ、ワン子、3人をリタイヤとする代わりに次の攻防時間を最低6分。そして勝った場合2勝とさせてもらう」

 

俺の提案に葵の表情が少しだけ歪む。だけどそれもほんの一瞬ですぐにいつもの薄い笑みに戻った。どうやらさすがに予想外な提案だったらしい。

 

そう、実際は両チームともに4人のメンバーが残っていた。俺とモロは葵と同じでアウトになっただけ。ワン子も痛がってはいたがリタイヤじゃない。戦力にならないという事で除外していたがここにきていい取引材料になった。

 

この提案、葵は呑まざるを得ない。S組は葵1人になのに対しF組は俺たち3人をリタイヤさせての条件の提示だ。しかもリタイヤと引き換えに1勝のアドバンテージを貰うS組とは違い、F組は勝った場合に2勝扱いになるというもの。戦力にならないとはいえどちらが損をして条件を提示したかは一目瞭然だろう。

 

「どうやら、先に提示してしまった私のミスの様ですね」

 

暫くの間、思案するように目を閉じていた葵だったが、何処か諦めたように小さな溜息をついた。

 

「仕方ありません。その条件を呑みましょう」

 

その言葉の直後、再び歓声が爆発したのだった。

 

  side out

 

 

  side 暁神

 

状況はもはやドッジボールじゃないな。中盤からはっきり言って潰し合いだ。違和感なく生徒たちがそれを受け受け入れているという事は、それがこの学園では当たり前ってことなのか。

 

「とんでもない事になってきたな。S組の出場人数と攻防時間の最低が決められたため、次のサイコロは青だけが振られるという事か」

 

「次で決着、という事だな。ドッジボールはどこに行ったんだと言いたくもあるがこれはこれで面白い」

 

実況のモモと解説の凛奈さんの言葉に従うように、ルー師範代が青のサイコロだけを放り投げる。これでもし6の目が出たらS組は一転して大変だろうな。

 

そんな風に他人事のように思いながら転がるサイコロを見る。止まった上を向いた目は4。という事は攻防時間にプラス1分。合計7分という事か。

 

「兄弟、後は頼むぜ」

 

「任せておけ」

 

お前が勝つためにお膳立てしたこの状況を無駄にするつもりはない。軍師は軍師らしく、後は実行部隊を信じてドンと構えていればいいんだよ。

 

スタートラインにたち隣のS組の方を見る。英雄に『女王蜂』に井上、少しばかり本気で行かせてもらうが悪く思わないでくれよ。

 

「第6ラウンド後攻、始メ!」

 

放り込まれたボールを確実に確保するため、第4ラウンドの時と同じようにジャンプしてボールを両脚で挟む。同時に相手の状況を確認すると、井上が陣地の方へと駆け込んでいるのに対し、英雄と『女王蜂』はスタートライン付近で佇んだまま動いていない。

 

なるほどね。冬馬の指示かどうかは分からないが、どうやら井上は最悪時間稼ぎで勝つための方法を取り、英雄たちは俺との勝負に賭けたという事か。それなら井上の方を先に退場させておこう。

 

宙にある体を捻り着地位置を調整。その時にボールを高く蹴り上げる。

 

「どわ!?」

 

いきなり防御側陣地のラインぎりぎりに降りてきた俺を見て井上が驚いた声を上げる。どうやら自分が1番最初に狙われるとは思ってみなかったようだ。

 

「まずは俺を狙うってワケ?」

 

「ああ、そういう事だな。悪いが少しばかり本気でやらせてもらうからな、井上」

 

表情を歪める井上に対して小さく笑みを浮かべて答える。俺の言葉に腰を落として構えたようだが、はっきり言って意味はないから申し訳ないな。

 

さっき宙に浮いていた時に蹴り上げたボールがタイミングよく落ちてくる。そのボールが腰の横に来た時、渾身の力を込めて井上の方に蹴り飛ばした。といってもボールが破裂しない程度に力加減はしてるけどな。

 

「ウボァッ」

 

何やら奇妙な声を上げて蹴り放ったボールを受け止めた井上だが、悪いがそれだけで何とかできるように蹴ったつもりはない。

 

「おーっと井上! ジンの蹴ったボールを受け止めたはいいが勢いを止められずそのまま吹っ飛ばされたー!」

 

「身体が完全にラインを越えてアウトだな。といってもあれじゃあ当分動く事も出来んだろう」

 

「井上! 陣地ラインを越えたためアウト! ボールの所有はF組!」

 

ドッジボールのルール上、例えボールをキャッチしたとしても自陣コートのラインを越えたらアウト、そしてボールは相手チームのものになる。

俺がやったのはただそれだけの事。まあ確かにちょっと力を込めたため悶絶するかもしれないが許してくれな井上。

 

ルー師範代から投げ渡されたボールを軽くリフティングしながら英雄と『女王蜂』の方に向き直る。全く動く気配がない。本気で戦闘での決着をつけようって魂胆か。

 

「2人がかりか?」

 

「戯け! 我がそんな卑しい事などするか! あずみよ、お前に我の勝ちを賭ける。存分にやるがいい!」

 

「了解です英雄様!」

 

なるほど、自分では俺に勝てないと判断して唯一可能性のある『女王蜂』に全てを託すってわけか。『女王蜂』の忠誠心からあんな風に言葉をかければ普段以上の力を発揮するのも作戦の内って事だな。まあ英雄の場合は天然で理解してるんだろうけど。

 

俺としてはありがたい事だ。2対1になればどうしてもボールを気にする必要が出てくる。さすがに両手が使えない状態で『女王蜂』を仕留めるには少々時間がかかりそうだし、その隙にボールが奪われたら本末転倒。

 

だが英雄がああ言ったのなら無用な手出しは絶対にしてこない。あいつは自分の言った事を絶対に曲げずにやり遂げる男だからな。これでボールに対する憂いは完全になくなった。

 

リフティングしていたボールを地面に落とし足の裏で動きを止める。それを戦闘態勢と感じたんだろう、『女王蜂』は得意の武器である2本の小太刀を抜き構えを取った。

 

「オイ、いくらなんでもそれはルール以前にどうかと思うが?」

 

「安心しろ。レプリカだ。それに武器を使っていけないってルールはないぜ。お前だってボールを武器にしてただろ」

 

それはそうなんだがこうもあからさまに武器の形をしたものを躊躇いなく使うて……了承を得られるわけ――ああ、なんか鉄心さんが無言で頷いてるよ。つまりはOKって事ですか。まったく、ただでさえ両手が使えなくて多少の不自由があるってのに、武器まで使われちゃあそれこそ多少は本気を出さなきゃいけなくなる。

 

あんまりそういう事はしたくないんだが、ここで勝たなきゃここまで頑張ってくれた、そしてお膳立てしてくれた風間ファミリー+ゲン(みんな)のためにも示しが付かない。

 

残り時間後4分。という訳で悪いな『女王蜂』。ちょっとばかり枷を外させてもらうぜ。

 

地面を蹴ると同時に『女王蜂』が間合いを詰めるように懐に潜り込んできた。正しい判断だ。

 

両手が使えない以上攻撃の主体は蹴りになる。それに対して自分は小回りが利くと判断して懐に入ってきたんだろうがそうは上手くいかないな。

 

右脚を上げ膝を曲げ自分と『女王蜂』の間合いに割り込ませる。

 

「チィッ」

 

目論見を見透かされた事に忌々しげに舌打ちをした『女王蜂』だが行動は止まらない。左からの袈裟斬りに合わせるように膝を伸ばし爪先で小太刀を弾く。返す勢いで脚を戻し右下から迫ってきた小太刀を今度は足の裏で受け止める。

 

斜め下から捻じり込むように放たれた突きを首を傾ける事でかわす。ってオイ、躊躇いなく顔面狙ってきたな。いくらレプリカでも突きはヤバいぞ突きは。

 

だがそんな事を思っている暇もない。突きを撃ち抜いた右手が若干上に上がるをの見て身体を半身に移す。勢い良く振り下ろされる斬撃を正面で見ながら横に突き出すように蹴りを放つ。

 

さすがに間合いを空けるように飛び退いたが悪いが逃がすつもりはな。

 

右脚が宙にある状態にもかかわらず左脚で地面を蹴り、身体を反転させ振り下ろすような左蹴りを放つ。『女王蜂』も着地と同時にさらに半歩下がって俺の蹴りをやり過ごすが、これで終わりじゃない。

 

左脚を振り下ろしたと同時に地面に着いた右脚に力を込め、振り下ろした左脚を逆に振り上げる。顎下からの俺の蹴りを上半身をわずかに反らすだけでやり過ごしたが、それは愚行だ。

 

軸足を捻り身体を正面に向けると、今度は踵落としに移行。わずかに体勢に無理があった『女王蜂』は両手に持った小太刀を交差させることで俺の蹴りを受け止めた。だがそれも愚行、燕毘龍(えんびりゅう)の餌食だ。

 

地を蹴り、軸足である右脚で『女王蜂』の顎先を蹴り上げる。1回転して着地、直撃を受けてたたらを踏んでいるのを確認しつつ懐に踏み入る。

 

「っ!?」

 

驚いているようだがもう遅い。左脚で地面を蹴り跳び上がると同時に下から回転させるような右蹴りを放ち、再度顎下から蹴り上げられた『女王蜂』は宙に舞う。

 

本来の『禍崩月(かほうげつ)』はここから手を使って相手を叩き落とす技なんだが、両手が使えない以上追撃はここまでだな。しなくても恐らく倒れるだろうから無駄に追撃する事もないだろう。

 

案の定、『女王蜂』は何とか両足で着地するがすぐに膝を着いて倒れ伏した。

 

「忍足あずみダウン! よって今この瞬間! F組の勝ちが確定したぞ!」

 

モモの言葉に周囲から生徒たちの歓声が上がった。『女王蜂』が倒れた事により自身を賭けていた英雄のリタイヤも確定。

 

よって、サークルドッジボールは7勝6敗、残り人数1人でF組の勝ちで幕を閉じたのだった。




あとがき~!

「第99話終了。あとがき座談会、司会の春夏秋冬 廻です。今回のお相手は――」

「忍足あずみだ」

「はい、99話にして初登場。そして今回あっという間に負けた『女王蜂』さんです」

「殺すぞテメェ」

「いきなり小太刀ぶっそうなものを喉元に突き付けないでください」

「チィッ、英雄さまの前で醜態をさらすような事をやらすんじゃねぇよ」

「いやでもハッキリ言って悪いけど、貴女じゃ神には絶対に勝てませんよ。だって貴女のところの従者部隊序列0位の本気とまともにやりあえるだけの実力者だからね」

「否定はしねぇが何だ最後のあの技は? ありゃあまるで――」

「うん、前半っていうかあの蹴りは序列0位の殺戮電動鎖鋸とほぼ同じだね」

「何でわざわざ漢字表記で言うんだよ」

「いや何となく? 言葉に出すと登場しそうで怖い」

「そいつに関しては同感だ。で、これで球技大会の話は終わりなのか?」

「球技大会自体は終わりだね」

「また中途半端な発言しやがって……せいぜい自分の首を絞めて後悔するんだな」

「この小説を公開した時点で後悔しているよ」

「…………そんじゃあまあ次もよろしくしてやってくれ」

「無視!?」

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