真剣に私と貴方で恋をしよう!!   作:春夏秋冬 廻

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にじファンからの移転です。

この物語はオリキャラが登場しますので、苦手な方はご遠慮ください。



Prologue 2人の在り方
プロローグ SIDE J


雨。

 

僕は雨が苦手だ。

 

僕は雨に日に置き去りにされていたらしい。

生まれて数ヶ月の赤ん坊の時らしく、全く記憶にないが心的外傷(トラウマ)というのは物心がつくつかないは関係ないみたいだ。

 

気付いた時には雨の日が苦手だった。

 

まあ、吐き気がするとか体調が悪くなるとか酷いものではないのが救いだが、物心がついて以降に雨の日が嫌いになるような出来事がない以上、これは立派な心的外傷(トラウマ)と言っていいだろう。

 

幸い、捨てられていたのが武術で有名な寺院の門前だった為、死ぬ事も病気になる事もなく保護され、僕はその寺院-川神院-で育てられた。

 

扱いとしては居候の孤児。

出生届は出されていなかったが置手紙があり、その手紙に名前が書かれていた為、養子ではなく孤児として川神院の居候扱いとする事になったらしい。

養子にするとの意見もあったらしいが、せっかく親からもらった姓名があるのだから、という鉄心さんの言葉で現在の立場となったらしい。

 

まあ居候だろうと養子だろうと、川神院の人たちは僕を“家族”として扱ってくれているので問題は全くないし、僕にとっても川神院の人たちは間違いなく“家族”だ。

 

だからといって生みの親をなんとも思っていないわけではない。

恨みたい気持ちも確かにあるし、何か事情があって仕方がなかったのかもしれないという気持ちもある。正直、どう考えていいのか持て余しているといった所だが今は思い悩んでいる暇がない。

 

 

「こんな所で何を黄昏ておるんじゃ?」

 

廊下の窓から庭を眺めていた僕に声が掛った。

声のした方を見るとそこには立派なヒゲをたくわえた袴姿の老人がいた。

 

この人が僕を拾って保護者代わりをしてくれている人でこの川神院の代表、川神鉄心さんだ。

 

「いえ、特に何も」

 

そう簡単に答え再び外を眺める。

 

「ただ単に雨だなぁ、と思って」

 

僕の隣に並び、同じように窓の外を眺めていた鉄心さんは、真の武芸者ともいえる堅い掌を僕の頭に置き、少し荒っぽく撫でながら再び問い掛けてきた。

 

「何か思う事や思い出す事でもあるか?」

 

「物心がつかなくても心的外傷(トラウマ)は生まれるんだなぁ、と思ったんです」

 

心的外傷(トラウマ)のう……」

 

鉄心さんは僕の答えに少し唸るような声音で言葉を返してきた。

 

「別にこの間の話の事で考え込んでいたわけじゃないんです。ただ……僕は雨の日を嫌いになるような出来事がなかったのに雨の日が苦手だからどうしてだろうかな? ってずっと思っていたんです」

 

いったん言葉を区切り、鉄心さんの方を向く。

 

「で、この間の話から物心がつかなくても心的外傷(トラウマ)は生まれるんだ、という結論に達したからそういう事もあるんだなぁ、と思って外を眺めていただけです」

 

僕の言葉を聞いてこちらを向いた鉄心さんは、なんとも呆れたような顔をしていた。

 

「どこの哲学者じゃお主は。もう少し子供らしい考えは持てんのか」

 

子供らしい考え、と言われてもそう思ってしまったのだから仕方ない。

 

「それよりも僕に何か用があったんじゃないんですか?」

 

「おお! そうじゃった!」

 

ヒゲを撫で今まさに思い出したように言う。

 

「モモが探しとったぞ。『遊ぶ約束をしていたのにジンがいない』と騒いどったわ」

 

そういえばと思い出す。

昨日の夜に遊ぶ約束を確かにした。だけど今日の朝から降っていた雨に考え込んでいた為すっかり忘れてしまっていた。

 

鉄心さんに礼をし、急いでその場を離れ道場へと向かう。怒られるなぁ、と思いつつも笑みが零れる。

 

僕が家族のことで思い悩むことがないのは間違いなく彼女のおかげであり、彼女のせいでもある。

 

鉄心さんの言葉に出た「モモ」と呼ばれる人物。

 

川神百代。

 

この川神院の娘で僕の1歳年上の幼馴染み。と言っても家族のように育てられている為、余り年上と思ったことはない。

彼女はとても破天荒な子で、僕は物心ついた頃には既に彼女に振り回されていた。

その証拠に、僕の一番古い記憶は彼女に襟首を掴まれたまま引きずられる、という何とも間抜けなものだ。

そんな彼女に振り回され、毎日を面白おかしく慌ただしく過ごしているおかげで僕は生みの親に対して負の感情を余り持つ事なく、また性格も歪む事なく生きてこられた。(尤もこの感想は主観的なものであり、周りから見たら少し歪んでしまっているかもしれない)

 

「遅いぞジン!!」

 

道場の入り口にいたモモちゃんが左手を腰に当て、右手で指さしながら言う。

 

「ごめん、ちょっとぼぅっとしてた」

 

謝りながら駆け寄る。

怒られる覚悟はしていたがそんな事はなく、モモちゃんは僕の手を取ると道場の外に僕を引きずるように走り出す。

 

「ちょっとモモちゃん。外は雨だよ? 外に出たら濡れちゃうよ」

 

「軟弱だな。子供は雨の子元気な子って言うだろ! 気合いでなんとかなる!」

 

「それを言うなら『子供は風の子』だよ」

 

僕の訂正の言葉もなんのその。いつの間にか追いかけっこのような感じで2人して走り回っていた。

 

僕こと(あかつき) (じん)

子供らしくないと言われる考えを持ちつつも、なんとも子供らしい楽しく充実な日々を送っている。

 

そんな事を思った7歳の春の日だった。




あとがき~!!

移転に伴いあとがきも形式を変えようかと思いましたが、今まで通り座談会形式でいきます。

ちなみに既存の話数まではそのまま移動しますの内容の変更はありません。誤字脱字は出来るだけ直しますけど、見落とした分は容赦なく突っ込んで下さい。

では、これからもよろしくお願いします。

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