道化と往く珍道中   作:雪夏

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10万UA突破記念短編集。時系列無視。本編で膨らます可能性もあります。
また、文量にばらつきがあります。ご了承ください。
程度の差はあれ、ネタバレを含みます。話によっては結構なネタバレがあります。下記に有と記載したものは結構なネタバレありです。閲覧時の参考にしてください。

以下内容
真名@神社
刹那@お花見
エヴァ@花火大会 ※ネタバレあり
アスナ@事務所 ※ネタバレあり

一言: ありがたや~ありがたや~。……本当にありがとうございます。


記念小説 横島くんと彼女たち その1

 

巫女とは?(真名@神社)

 

 

 

「真名ちゃんと巫女服って反則だよなー」

 

「いきなり何を言うんだ? 頭でも打ったか……いや、いつものことだったな」

 

「そう言われると返しようがないんだけど……」

 

ここは麻帆良都市内にある神社――龍宮神社の境内。今は朝早くから境内の掃除という依頼を受けた横島が、巫女姿の真名と二人で掃除をしている最中である。

 

「で、何が反則なんだ? 確かに私の肌の色は巫女服には違和感があると言われたことはあるが……反則と言われたことはないぞ?」

 

「ん~、普段がカッコイイ系じゃん? スカート履くこと多いのに」

 

「スカートは色々隠せるし、取り出しが便利だからな」

 

「何とも実用的なお答えで。そのくせ色気もあるから困る。うむ。完璧だ。これは是非とも、デートに誘わねば」

 

「あんみつ奢ってくれるならな。五杯で勘弁してやる」

 

その言葉に頭を抱えて悩む横島。かつてと違い、あんみつを奢る程度の余裕はあるのだが、真名とのデートと、デートが発覚した時のタマモたちへのご機嫌取りにかかる値段とを天秤にかけているのである。

 

そんな横島に、真名は先程の続きを促す。

 

「それで、結局何が反則なんだ?」

 

「ん? ああ、カッコイイ系の真名ちゃんが巫女服を着るとさ。凛々しさが増すわけよ。いっそ神々しい?」

 

「何だそれは」

 

「オレが見たことある巫女ってのが、ちょっと天然入ってる娘でさ。ふんわり癒し系? だからかな。巫女ってのは清楚なおっとりさんのイメージが強いんだ。もしくはドジっ子」

 

「それは漫画の見過ぎだな」

 

横島の主張をバッサリ切り捨てる真名。言うまでもなく、横島の巫女イメージはおキヌのものである。それも、幽霊の時の。生き返った後はしっかりして来たが、それ以前のおキヌは間違いなく天然癒し系幽霊巫女(ちょっとドジ)であった。まぁ、当時のおキヌを知らないものからしたら、漫画の登場人物と思われてもしょうがない。

 

「ま、イメージとのギャップが大きいから余計に凛々しく見えるんだよ。それに、美人さんだからな。だから、真名ちゃんと巫女服は反則」

 

「まぁ、どうでもいいんだがな」

 

「と言う訳で、真名ちゃん。デート行こう」

 

「何がと言う訳なんだか……掃除が先だ。それと、あんみつを忘れるな。五杯だからな」

 

「了解っと。じゃ、オレあっち掃いてくるわ」

 

勢いよく駆けていく横島を見送りながら、真名は我知らず微笑んでいた。それが、あんみつへの期待から来る微笑みなのか、横島とのデートに対する微笑みなのか。

 

 

――当人である真名以外は誰も知らない。

 

 

 

 

 

咲き誇る(刹那@お花見)

 

 

 

並木道を歩く二人の男女。咲いているのは満開の桜。少し視線をずらせば、まだ朝も早い時間だというのにお花見の準備をしている人々が目に入る。

 

そんな中、少女――刹那の視線は、桜などより横を歩く男性――横島が何気なく前後に揺らす手に釘付けであった。

 

(せっかく、二人きりで散歩する時間が作れたんだし……手を繋ぎたい)

 

 

横島と刹那は朝の修行後のちょっとした空き時間を使って散歩に来ていたのだ。いつもなら一緒のタマモと竜姫は、二度寝と朝食の準備で不在(どっちがどっちかは言うまでもない)。横島と二人という降って湧いた幸運に感謝した刹那であったが、イマイチその幸運を活かしきれていなかった。

 

(うう……何でこのちゃんや、のどかさんは簡単に手を繋げるんや。ウチには無理……ふふ、所詮ウチは人とは違う身。人の真似しようとしたんが間違いやったんや……)

 

自分の不甲斐なさから段々とネガティブな思考に陥っていく刹那。考え事に没頭していた刹那が気づいた時には、横島との距離が大分開いていた。その距離はそのまま、自分と横島との心の距離なのだと。そう刹那には思えた。気がつくと刹那はその場に、俯き立ち止まっていた。

 

 

「お、刹那ちゃん疲れたか?」

 

 

横島の声に顔をあげた刹那は、目の前に手を差し出す横島を見つけた。戸惑う刹那に横島は手を出すように促す。

 

「ほら、手を出して」

 

「は、はい」

 

ゆっくりと、しっかりと手を繋ぐ。そのまま、横島に引っ張られる形で歩き出す刹那。

 

(また距離を……。そうだ。この人は誰に対しても距離なんて、壁なんて作らない人。そして……無造作に距離を、壁を壊してくれる人)

 

次第に刹那の顔に笑みが浮かんでくる。何を悩んでいたのだろう。ちょっと手を伸ばせばこの人は必ず掴んでくれるというのに。何を恐れたのだろうと。

 

「そういやさ」

 

「な、何でしょう?」

 

「刹那ちゃんの苗字って“桜咲”だったよね」

 

「ええ」

 

「じゃあ、この並木道は刹那ちゃんの物だ」

 

「何故ですか?」

 

「だって……こんなにも桜が咲いてるんだ。まさに“桜咲”だろう?」

 

「……ふふっ。何ですかそれ。ダジャレですか」

 

「笑わんといてー!! 自分でもどうかと思うたんやー!! でも、言わずには……ちくしょー!!」

 

「ちょ、待って……横島さーん!!」

 

刹那の手を振りほどき走り出す横島。それを慌てて追いかける刹那。その顔には、手を振りほどかれたショックなど微塵もなかった。なぜなら、彼女の顔に浮かんでいたのは周囲の桜に負けない満面の笑顔。

 

 

――今日も桜は咲き誇る

 

 

 

 

 

(オマエ)(ワタシ)と(エヴァ@花火大会)

 

 

 

時間は午後七時まであと数分。花火が上がりはじめるまであと僅かとなっていた。

 

横島と少女――エヴァンジェリンの二人は和美が見つけた穴場に来ていた。一緒に見る予定だった面々は、見物客の多さに到着が遅れていると連絡があった。もしかしたら、一発目には間に合わないかもしれない。

 

湖に浮かぶ図書館島を囲う様に、次々と上がる総数一万発の花火は麻帆良都市の夏の風物詩である。あわせて露店も併設される為、麻帆良祭同様の混雑が予想される一大イベントである。

 

その為、集合場所と時間を決めているにも関わらず、合流は中々進んでいないのである。

 

「皆来ないなー。間に合うか?」

 

「私が知るか。ほれ、次だ」

 

「はいはい。……何か雛に餌付けしているみたいだな」

 

「失礼なヤツだな。こんな美女をつかまえておいて。次」

 

「まぁ、確かにエヴァちゃんは美少女だけどさー。なんかなー」

 

今のエヴァと横島の体勢は、階段の上に座っている横島の膝にエヴァが座り、その腕の中にすっぽりと収まっているというもの。

エヴァの小柄な体躯とその整い過ぎた容貌の為、大きなビスクドールを膝に抱え込んだ怪しい男にも見える。周囲に街灯が少ない為、怪しさは更に倍である。時折、横島が手に持っている焼きそばをエヴァに食べさせていなければ、絶対に勘違いされていたことだろう。

 

――幼女誘拐犯に間違われる可能性は否定できないが。

 

「ふふ、幸せだろう? 私を抱けるのだから」

 

「まぁ、確かにエヴァちゃん体温高いから気持ちいいけどさぁ。本当に吸血鬼?」

 

「私の体のことはお前がよく知っているだろう? いつもお前が出すものをこの体で飲んでいるのだから」

 

誰か二人に教えてやって欲しい。その一連の会話は誤解しか生まないと。幸い周囲に人影はないが、その会話は横島がお縄に着く未来へと一直戦だと。

 

――勿論、エヴァが言っているのは吸血のことである。念のため。

 

「何か誤解されそうな言い回しだなぁ。ま、人いないし気にしなくていっか」

 

「安心しろ。人払いは完璧だ」

 

「やっぱり魔法使ってたか。ま、アイツらなら問題ないか」

 

どうやら周囲に人影がなかったのは、偶然ではなかったようである。と言っても、穴場であることは本当なので、元から人が来ない可能性もある。

 

そんな中、焼きそばがなくなる。ゴミを持参したゴミ袋に入れた横島がどうしようかと考えていると、エヴァが話しかける。

 

「おい」

 

「ん? もうオレたちのはないぞ。たこ焼きはタマモたちの分担だしな。ああ、他の焼きそばもダメだからな」

 

「誰が食べ物を催促した。……少し聞いてもらいたいことがある」

 

「おお、エヴァちゃんが頼みなんて珍しい。……いや、そうでもないか? いつも命令してくるし。で、何だ?」

 

「別に何かをしろと言う訳ではない。ただ、聞いて欲しいのだ。言葉通りにな」

 

エヴァは横島を見ることなく真っ直ぐに前を見ている。命令する時も、真っ直ぐ見つめてくる綺麗な碧が見えないことは少し不満だが、此処は大人しく聞くべきかと横島も真っ直ぐ前をむく。

 

「前に言ったことがあったろ? お前は暖かいなと」

 

「ああ、言ってたっけ。あれ、体温のことかと思ってた」

 

「ふふ、確かにそうだったのかもしれん。お前に抱かれたあの時。確かに私は光を感じたのだ。そのことに感謝をしていないと思ってな」

 

「大したことしてないんだけどな~」

 

「それでも……だ。これは私のプライドの問題だ。……横島」

 

くるりと向きを変えるエヴァ。至近距離で見つめ合う形となる。そのまま、視線を合わせているとエヴァが無邪気な子供の様な満面の笑みを浮かべて口を開いた

 

(ワタシ)(オマエ)を手に入れた!! この出逢いに感謝を!!」

 

そう告げるエヴァの背後では始まりを告げる特大の花火が一輪咲いていた。

 

 

――花火の光に照らされ(エヴァ)は確かに今、光に生きている

 

 

 

 

 

眠り姫(明日菜@事務所)

 

 

 

麗らかな日差しが差し込む事務所。その所長席に少女の姿はあった。

 

彼女の名前は神楽坂明日菜。この事務所――便利屋「よこっち」のアルバイトの一人である。

 

「あ~、暇! 竜姫さんは刹那さんたちと退魔のお仕事。タマちゃんは他の皆を連れて買い物行っちゃうし……ううっ。何であそこでパーを出しちゃったんだろう」

 

どうやら留守番をジャンケンで決めたらしい。一人愚痴をこぼす明日菜は次第に机に突っ伏していく。

 

「はぁ~。本当に暇だわ。横島さんも依頼で出かけちゃうし……。な~にが“横島さんと二人きりやえ~、良かったな~”よ。大体、変だと思ったのよ。横島さんが居るのに留守番を決めるだなんて。そんなの横島さんも出かけるからに決まってるじゃない……」

 

明日菜が思い出すのはほんの数分前の出来事。横島と二人きりなら留守番も良いかなと思った一分後のこと。

 

『じゃ、留守番頼むな。大丈夫、電話は携帯に転送されるから。ただ、今日来る筈の荷物を受け取ってくれればいいから』

 

そう言って皆と一緒に出かけた横島の姿。あの時の自分は相当ひどい顔をしていたのではないだろうか。直前まで頭を撫でてくれていたのだから、尚更。

 

「ううっ……。頭を撫でてくれたのは嬉しいけどさぁ。何も皆して買い物行かなくてもいいじゃん。大体、何時もは一緒に依頼に連れて行ってくれるのにさぁ」

 

そう言うと、明日菜はふてくされたのか完全に机に身を預ける。

 

その数分後。事務所には寝息が一つ。静かに……静かに響いていた。

 

 

 

明日菜が寝入ってから一時間程したころ。静かに室内へと入る人影が。その人影は眠っている明日菜の傍へゆっくりと歩いていく。明日菜のすぐ傍まで近寄ったその人影は、彼女に向かってゆっくりと手を伸ばす。その瞬間、明日菜は小さく、だが室内に響く大きさで寝言をこぼす。

 

「……さみしいよ……置いてかないでよ……」

 

寝ている明日菜から溢れるひと雫の涙。それを指で拭った人影はそのまま明日菜の頭に手を置くとゆっくりと撫でる。

 

「……心配しなくともここにいるよ、お姫様」

 

人影――横島から聞こえる声音は限りなく優しい色。懸命に真っ直ぐ生きる彼女を思っての色。それは、今頃二階の食堂でこの少女の為にパーティーの用意を終え、彼女の登場を今か今かと待っている彼女たちもきっと同じ思いだろう。

 

「寂しくなんてないんだぞ? 明日菜ちゃんは皆に愛されている。オレたちは誰もが君と出逢えたことを幸せに思ってる。誰も置いてきやしない。だって、君を皆は――愛しているから」

 

ゆっくりと頭から手をはなすと、そこには淡く緑色に輝く珠が。刻まれた文字は『眠』。部屋を出る前に彼女の髪に仕込んだ神秘の御技。これから始まる彼女の為のパーティー。それまでの時間稼ぎに仕掛けたもの。それを回収した横島は、主役の少女を起こしにかかる。

 

 

――きっと、次に見るのは眠り姫の満面の笑顔

 

 




皆様のおかげで10万UA突破しました。ありがとうございます。
超短編を4本お届けしましたが如何でしたでしょうか。時系列は内緒ですが何時かはこう言う関係になっていく……“かも”と思って頂ければ。ええ。“かも”です。

いちゃいちゃ甘めにしようとした為か、執筆中はブラックコーヒーが必須でした。自分で書くと余計にダメージでかいですね。もう一つの連載ではそうでもなかったのになぁ。
途中挫折したものもありますが……真名とか。

皆様の反応や、今後の展開によっては肉付けして本編に挿入するエピソードもあるかもしれません。

各話あとがきは……要らないですよね?

図書館島のある湖で花火があがる。
これは拙作内設定です。

ご意見、ご感想お待ちしております。
活動報告は気が向いたら更新しています。

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