道化と往く珍道中   作:雪夏

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探索編終了です。


その6 麻帆良探索 探索終了

 

 

 

 

 明日菜の暴走気味な行動が治まり、木乃香が選んだDVDを全員で観賞した後は、各自思い思いに過ごしていた。木乃香は小竜姫とDVDの感想を言い合い、のどかと夕映は持参した本に目を通していた。明日菜は既に就寝していている。土日はバイトが休みの為、早く就寝する必要はないのだが、既に習慣になっているのかDVDを見終わると早々に割り当てられた部屋に引っ込み床に就いたのである。

 

 そんな中、タマモは一人大停電で明かり一つない麻帆良の街並みを窓から眺めていた。

 

(大停電が始まってから、街を囲むように妖怪の匂いがする……。妖怪一体一体の霊力は弱いし、これは陽動ね。まぁ、横島はタカミチと一緒だし問題ないか)

 

「タマモさん、どうかしましたか?」

 

「何でもないわ。ただ、本当に全部停電しているんだなって」

 

 そんなタマモに本を読み終わった夕映が話しかける。タマモは窓から離れると、夕映に何でもないと返す。

 

「まぁ、それが大停電ですからね。病院なんかは自家発電してますが、他はなし。女子寮なんかは自家発電装置を置いてもいいのではと、たびたび要望が出ますが女子寮全体をカバーするには大型の発電機が必要となります。たった四時間の為に設置するには、予算がかかりすぎるとのことで却下されていますが」

 

 夕映の言葉にそうなんだと相槌をうちながら、タマモはテーブルに置いてあったクッキーに手を伸ばす。見るからに適当な相槌なのだが、それに構わず夕映は話を続ける。

 

「だからこそ、元々寮であるこの事務所に発電機があることは珍しいことなのです。元病院ならわかるのですが……」

 

「まぁ、横島がどっかから拾ってきたからね。案外、元病院からだったりして」

 

「そんなことあるとは思えないですが」

 

 そこまで話すと夕映は次の本へと没頭する。どうやら、本を読む合間に話しかけただけのようである。

 

(ま、実際は美神の所にも自家発電装置があったからって理由で手に入れたんだけど。それに動力源も文珠の『電』気だし)

 

 これは口に出せないなとタマモはクッキーを食べながら思う。そうしている内に、木乃香と小竜姫にDVDの感想を聞かれるのであった。

 

 

 

「あー、疲れた。ただいまーって、もう寝てるか。良い子は寝てる時間だもんな。タマモが良い子かどうかは置いといて」

 

「起きてるです。あと、タマモさんに伝えておきます」

 

「私も起きてます……すみません。あ、おかえりなさい」

 

「た、ただいま」

 

 帰宅した横島を迎えたのは、パジャマ姿の夕映とのどかの二人。予想外の出迎えに、横島が驚いていると、夕映が理由を口にする。

 

「まぁ、私とのどかは普段から夜行性ですからね。良い子ではないのです。今日は事務所に忘れ物を取りに来ただけですが」

 

「私もです」

 

「忘れ物?」

 

 横島の問いに二人は持っていたものを見せる。

 

「本……?」

 

「そうです。夕飯前に事務所で読んでいたんです。でも、二階に上がったときに忘れたみたいで」

 

「私としたことが、迂闊でした」

 

 のどかの説明に心の底から悔やんでいる様子の夕映。横島からすれば不思議でならないが、本好きというものはそういうものなのだろうと納得する。横島は、他がどうしているかを尋ねる。

 

「それは、どんまいってやつだな。それで、二人は分かったがタマモたちは? まだ起きてるのか?」

 

「いえ。木乃香さんとタマモさん、明日菜さんはもう休んでいます」

 

「竜姫さんは発電機を止めに行きました。停電が回復しているのかを確認するって」

 

「そっか。じゃ、オレも見てくるかな」

 

 夕映の言葉に発電機を見に行くかと横島が告げると、一瞬電気が消え再び点灯する。

 

「どうやら、無事に切り替わったみたいだな。ってことは、すぐ戻ってくるか」

 

 横島の言葉通り、数分もせず竜姫が横島たちのところへ歩いてくる。その間、夕映たちは横島と話をしていた。

 

「あ、横島さん。おかえりなさい。どうでした、お仕事の方は」

 

「ただいま。今、夕映ちゃんたちにも話をしてたけど、大変だったよ。暗いし、森の中まで行かされるし。一緒に組んでた高畑さんは途中で抜けるし」

 

「抜けたんですか? 高畑さんが?」

 

「そう。持ち場の近くで抜け出した生徒を見つけてさ。その生徒を指導しにいって、中々戻って来なくてさ。結局、一人で見回る羽目になったよ」

 

 そういってため息を吐く横島を、大変でしたねとのどかと小竜姫の二人が慰める。そんな横島に、夕映が話しかける。

 

「それは災難でしたね。高畑先生が出向いて時間がかかると言うことは、出歩いていたのは女子でしょうか。注意の後、寮まで送ったのかもしれませんね」

 

「最終的にはそうしたみたいだな。まぁ、中々言うことを聞いてくれないって、困ってたみたいだけど」

 

「それは何と言うか。おそらく外部から来た生徒でしょうね。高畑先生は学園広域指導員として有名ですから、それを知っている人間は早々逆らわないでしょうし」

 

「学園広域指導員……ですか?」

 

 首を傾げる小竜姫に、夕映が説明する。

 

「ええ。その名の通り学園の広域――麻帆良全域で学生を指導する指導員です。一介の教師でありながら、どの学校の生徒に対しても絶大な権限を持っています。中でも高畑先生は、暴力的な生徒を無力化する実力を持っていると有名で、”デスメガネ”という二つ名もあるです」

 

 デスメガネ? と首を傾げる横島と小竜姫。横島たちからすれば、優しげに微笑む姿しか見ていない高畑にそんな物騒な異名があるとは想像できない。

 

「そんな訳で、以前から麻帆良にいる生徒なら広域指導員に逆らう真似は早々しないのです」

 

 夕映の説明を聞いた横島がそうなもんかと頷いていると、のどかが小さくあくびをする。あくびを見られたのどかは顔を赤くするが、横島は時間を確認すると三人に休むように告げる。

 

「おっと、そういやこんな時間だったな。ほら、三人は早く眠らないと。オレも風呂入ってから寝るから」

 

「そうですね。こんな時間ですし、私たちも休みましょう。では、おやすみなさい横島さん」

 

「おやすみなさいです」

 

「お、おやすみなさい」

 

 就寝の挨拶をすると、三人はそれぞれの部屋に向かい横島は一度自分の部屋で着替えを用意してから、風呂へと向かうのであった。

 

 

 

「おはよう」

 

 翌朝、明日菜が共有スペースに顔を出すとタマモと小竜姫の二人がお茶を飲んでいた。

 

「あら、おはよう。起きるの早いわね」

 

「おはようございます、明日菜さん。お茶いかがですか?」

 

「ありがと。バイトないからゆっくり寝れると思ったんだけどね……。まぁ、何時もよりは寝てるからいいわ」

 

 小竜姫が淹れたお茶を飲みながら、タマモに答える明日菜。木乃香はまだ部屋で寝ていたし、夕映とのどかの姿も寝ているのだろう。姿が見えない。

 

「木乃香はまだ寝てたけど、夕映ちゃんと本屋ちゃんもまだ?」

 

「お二人は昨日、遅くまで起きてましたからまだですよ。このまま朝食の準備をしている時まで起きなかったら、明日菜さんとタマモちゃんで起こしに行ってくれますか?」

 

 微笑みながら言われた言葉に頷く明日菜。その後、三人で雑談をしていたら、木乃香が降りてくる。彼女は挨拶をすますと、朝食の手伝いを買って出る。それを快諾した小竜姫が木乃香と料理をはじめ、ある程度準備を終えた時、夕映とのどかが降りてくる。

 

「おはようです」

 

「おはようございます」

 

「おはよう。ああ、横島は起きてた?」

 

「何故それを私たちに聞くのか分かりませんが、降りてくるまでに会っていないので、まだではないでしょうか」

 

 タマモの質問に答える夕映。横にいるのどかも頷いている。それに対し、そっかと呟いたタマモは小竜姫と向かい合う。そして、おもむろにじゃんけんを始める。

 

「何のじゃんけんですか?」

 

「そりゃ、横島をどっちが起こすかよ。普段は交代でやってるんだけど、日曜はじゃんけんで勝った方が行くのよ。あ、負けた」

 

「勝ちましたね。では、もう少ししたら起こしに行きますか。木乃香さんも行きますか?」

 

「うち?」

 

「ええ。以前も起こしにいったんですよね?」

 

 その言葉に横島を起こしに行ったときのことを思い出す木乃香たち。木乃香はそうでもなかったが、想像力が逞しすぎる夕映とのどかの二人は、起こしたときに目にした光景のせいで暫く固まっていたものである。今もその時のことを思い出したせいで若干頬が赤い夕映とのどか。

 そんな三人の様子に首を傾げる明日菜であったが、自分が高畑を起こす光景を想像して、くねくねしだす。

 

「まぁ、ええけど。ほな一緒に行こか」

 

「じゃ、木乃香にこれを貸してあげるわ」

 

 そう言って何処からかハリセンを取り出すタマモ。ハリセンには、横島専用と書かれている。それに対し、木乃香も何処からかトンカチを取り出す。

 

「うちにはこれがあるけど……流石にこれで起こすんは可哀想やね。ありがたく借りるとするわ」

 

 普段祖父をトンカチで叩いているが、横島相手には可哀想だと思ったようである。木乃香はハリセンを受け取ると、二度振って感触を確かめる。

 

「うん。いい感じやな。じゃ、行って来るわ」

 

「お皿は並べておいてくださいね?」

 

 木乃香と小竜姫の二人が横島の部屋へと向かっていく。その後暫くして、横島の驚愕の声が聞こえてきたが、タマモは気にせず出来上がっていた料理をテーブルに並べていく。

 

 

 

「おはようー」

 

 暫くすると横島を先頭に三人が姿を現す。朝から驚愕する羽目になった横島は若干疲れていたが、残りの二人は笑顔である。そんな中、何やら固まっている明日菜に横島が話しかける。

 

「お、君が明日菜ちゃんか。木乃香ちゃんから話は聞いてるよ」

 

「え、あ、おはようございます」

 

 戸惑いながら挨拶する明日菜に、改めておはようと告げると自分の席に座る横島。たまたま急須の近くにいたのどかが横島にお茶を注いだり、夕映と挨拶を交わしたりとのほほんとしている横島を他所に、明日菜は急いでタマモの元へ行き小声で話しかける。

 

「タマモちゃん! 横島さんって若いんだけど!?」

 

「そうね。まだ、十代だし若いけど……それがどうかした?」

 

「どうかしたって、タマモちゃんたちって渋いおじ様が好きじゃなかったの!?」

 

「はぁ?」

 

 タマモたちの保護者と聞いていたので、明日菜は横島のことを高畑と同じかそれ以上の年齢だと思っていたようである。

 

「うぅ……同じ趣味の仲間が出来たと思ったのに……」

 

 頭を抱えた明日菜の呟きに呆れた表情を見せたタマモであったが、小竜姫たちの用意した朝食を前にそんなことは何処かへといってしまった。

 

「なぁ、木乃香ちゃん」

 

「はいな」

 

「明日菜ちゃんは何で頭を抱えてんだ? オレ何かした?」

 

「さぁ? まぁ、明日菜のことやし、すぐ元に戻ると思うわ。それより、この玉子焼きうちが作ったんよ。実家の味付けやから、気に入ってくれるかは分からんけど」

 

「おー、綺麗に出来てんな」

 

 木乃香が作ったという玉子焼きを褒める横島。その様子に嬉しそうな表情を見せる木乃香であったが、食べてから褒めてくれと告げると準備の為にキッチンへと戻っていく。

 暫くして、全ての品がテーブルに並ぶと全員が席につき食事を始める。勢い良く料理をかきこみ、美味いと感想を告げていく横島に、作った二人は嬉しそうである。

 

「そういや、今日はどうすんだ?」

 

「それなんですが、昨日皆さんと話をした結果お花見に行こうかと」

 

「そういや、桜がまだ咲いてたな」

 

 街のあちらこちらで咲いていた桜を思い出す横島。そんな横島に木乃香が話しかける。

 

「麻帆良の桜は、長いこと咲いてるんで花見のシーズンが長いんや。有名何は桜通りやけど、あそこは道やから本当に桜を見るだけやな。屋台とかあるんは、公園とかの方や」

 

「へー。で、どっち行くんだ?」

 

「桜通りを通って、公園で屋台巡りや!」

 

「そりゃ、楽しそうだ」

 

 ビシッと人差し指を立てて宣言する木乃香に、笑って楽しそうだと告げる横島。それに周囲も笑顔を浮かべる。

 

「じゃ、メシを食ったら準備して出かけるか!」

 

「「「おおー」」」

 

 横島の宣言に元気よく手を突き上げる木乃香と明日菜、タマモ。夕映はのんびり食後のジュースを楽しみ、のどかは小さく手をあげている。小竜姫はそんな光景を微笑みながら見つめ、今日という一日が楽しくなるだろうと確信するのであった。

 

 

 

 




 麻帆良探索編も一先ず終わり。次回は幕間的お話を挟んで、刹那たちとの修行編かな。
 あと関係ないですが、たまに方言なのか標準語なのかが分からなくなりません?

 明日菜のバイトの休み。麻帆良の桜。
 これらは作中設定です。

 ご意見、ご感想お待ちしております。
 活動報告の関連記事は【道化】とタイトルに記載があります。

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