道化と往く珍道中   作:雪夏

55 / 59
のどかデート編後半です。


その3 麻帆良探索 図書館島探索

 

 

 

 

 

「へー、本当に島になってるんだ」

 

 図書館島を眺めた横島の感想である。今、彼らは図書館島が見える高台に来ていた。のどかが折角なので、全貌が分かる場所をと探してくれていたのである。

 

「図書館島は最初は今見える建物だけだったそうです。それでも世界最大規模だったんですけど、第一次、二次世界大戦の際に戦火を逃れる為に各地から本を集めたそうで、一気に蔵書が増加。それにともない、地下へと増築を繰り返した結果、次第に迷宮と化し今ではその全容を知るものはいません」

 

「それって、図書館として問題なんじゃ?」

 

 疑問を抱く横島だったが、夢中になって図書館島について語るのどかはそれに気づかない。

 

「その現状を憂いた麻帆良大学の有志が、立ち上げたのが図書館探検部の原型です。未だ全体の数パーセントしか解明されていないとも言われる、超巨大ダンジョン。それが図書館島のもう一つの姿なのです。あ、すみません。つい、熱く……」

 

「いや、気にしてないよ。好きなことを語っているのどかちゃんも可愛かったし」

 

 夢中になれるものがあるっていいなーと頷く横島に、恥ずかしさから顔を真っ赤にして俯くのどか。内気少女代表とも言えるのどかにとって、饒舌に語る姿を見られるのはかなり羞恥心を刺激することであったようである。

 そんなのどかに気がついていない横島が、更に言葉を重ねようとした時、横島の頭にスコーンと飛来物が当たる。それは、ジュースの紙パックだったのだが周辺に人影がない為、横島は風で飛ばされたのだろうと、紙パックを拾い上げると近くのゴミ箱へと捨てるのであった。

 その間に正気に戻ったのどかは横島に話しかけると、図書館島へと案内するのであった。

 

「そういえば、何をしていたんですか?」

 

「ちょっと、ごみを捨てにね。そうだ、トマトミルクってジュース知ってる?」

 

「あ、はい。夕映が飲んでました。それがどうかしましたか?」

 

「いや、それが落ちてたからさ。おいしいのかなって」

 

「どうでしょう……?」

 

 

 

 図書館島の中へと入った横島は、ズラッと並ぶ本の量に圧倒されて言葉も出ないようで立ち尽くしている。そんな横島に、悪戯が成功したような気持ちを抱くのどか。

 

「どうですか、図書館島は?」

 

「いや、凄い。凄いよ、これは。うん、凄いとしか言いようがない」

 

「地下はもっと凄いんですよ。私はまだ入部したばかりなので、今日は案内できませんけど麻帆良祭の時などには一般公開されるんで、そのとき行きましょうね?」

 

「おう!」

 

 地下にある滝を見たらどんな反応をみせるだろうかと、想像して楽しくなるのどかは自然と次の約束をする。その瞬間、遠くから本が落ちる音がするがある意味日常のことなので、本は大事にして欲しいと思いながらものどかはその音の元を探ることはしない。

 

「じゃ、案内の方よろしく」

 

「はい。まずは、一階からですね。主に、児童文学書や絵本などの子供向けの本があります。あとは貸し出しカウンターもこの階ですね。司書さんの部屋や地下への階段、勉強スペースも多くあるので、広さの割りに本は少ないですね」

 

 まずは一階からと案内を開始するのどか。常とは違い饒舌で表情豊かな彼女に、横島は本が好きなんだなと感心するのであった。

 

 

 

「いやー、凄かった。あれだけ多いってのに、地下はもっと多いんだろ? そりゃ、探検部が出来るわけだ。見てみたいもんだ」

 

「喜んでもらえてよかったです」

 

 図書館島から出た二人は、合流地点である駅前広場へと向かい歩いている。横島の手には図書館島で借りた『これでキミも経営魔法の使い手だ! 魔法使いが教える経営学』と言う本が。目を引くタイトルだったので思わず手に取った横島に、のどかが『魔法使いが教えるシリーズ』の一つであり、図書館島に寄贈されているシリーズだと教えてくれた。

 のどか曰く、麻帆良内で自費出版する人の中には図書館島に寄贈する人も珍しくはないらしく、文芸部の作品なども寄贈されているらしい。

 

「さてと、タマモたちは……あ、あそこだな」

 

 横島たちが駅前広場に着くと、タマモと小竜姫、木乃香、夕映の四人がベンチで待っていた。そこに手を振りながら近づくと、タマモが一早く気づき応じる。他の三人も気づいてようで、木乃香は大きく、小竜姫と夕映は控えめに手を振っている。

 合流すると、横島がタマモたちはどうだったのかと尋ねる。

 

「お待たせ。そっちはどうだった?」

 

「いろいろ見て回ったわ。そっちは?」

 

「こっちもいろいろだな。図書館島は凄かったぞ?」

 

「そう。麻帆良祭の時は、私たちも一緒に見て回るから」

 

「おう」

 

 軽く答える横島。のどかは一瞬、自分たちの会話を聞いていたのかと考えるが、よく考えれば夕映と木乃香も図書館探検部なので、彼女たちから聞いたのだろうと納得する。

 そんなのどかに夕映が、横島の案内はちゃんとできたのかを尋ねる。

 

「それで、ちゃんと役目は果たせたのですか? のどか」

 

「うん。大成功じゃないかな。横島さん、どこを案内しても大げさに反応してくれるから、案内している私も楽しかったよ。また、図書館島行く約束もしたし。横島さんも図書館島に興味を持ってくれたみたい」

 

「そ、そうですか……予想以上というか……」

 

「何か言った?」

 

 夕映の言葉が一部聞き取れなかったのどかが聞き返すが、夕映は何でもないと答える。その顔が若干引きつっているようにも見えたが、木乃香に話しかけられた為追求することはしなかった。

 

(いやいや、男に対する苦手克服と木乃香さんは言っていましたが……効果あるにもほどがあるです! 見た感じ大丈夫だろうとは思っていましたが、のどかの反応は予想外です!)

 

 横島とのことを語るのどかの笑みに、今になって今回のデートを承諾して良かったのだろうかと言う思いが湧き上がる夕映。

 そんな葛藤をする夕映を横目にのどかとの話を終えた木乃香が、横島に一つの質問をする。

 

「横島さん、この後警備のお仕事なんやろ?」

 

「おう。まぁ、大停電の間だけだから、日付が変わるまでだな」

 

「じゃあ、またお泊りしてもええよね? その間、タマちゃんと竜姫さんだけやと危ないやろし」

 

「え゛?」

 

 思ってもいない木乃香の言葉に固まる横島。木乃香はと言えば、今度は明日菜も一緒やえ~と呑気にタマモに笑いかけている。助けを求めるように、小竜姫へと視線を送ると彼女は横島と視線を合わせようとしない。明日が休日と言うこともあり、断る理由が思いつかないのである。どうしようもないと判断した横島は、あまり夜更かしをしないことを告げて許可を出すと、近右衛門に相談しようと決めるのであった。

 

「あ、じゃあ私とのどかもお願いするです。ハルナの手伝いで休日を潰したくないので」

 

「……もう好きにして」

 

 

 

 




 図書館島探索+αでした。 まぁ、図書館島は今後も出番があるのでさらっと流しましたが。


 図書館島関連。横島が借りた本とシリーズ。
 これらは作中設定です。

 ご意見、ご感想お待ちしております。
 活動報告の関連記事は【道化】とタイトルに記載があります。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。