道化と往く珍道中   作:雪夏

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のどかデート編開始です。



その2 麻帆良探索 のどかと一緒

 

 

 

 

 

「じゃ、行って来るな」

 

「襲うんじゃないわよ」

 

「誰が襲うかっ!」

 

 何時もとは違い小竜姫たちに見送られる横島。本日は横島とのどかのデート(Produce by 木乃香+夕映)なのである。

 最初は難色を示していたタマモと小竜姫も、木乃香の『のどかが珍しく拒否感を示さない横島と麻帆良を案内(デート)することにより、男性に対する苦手意識の軽減を図ると共に、自分たちの時の参考にする為、二人のデートを観察する』という説明と、自分たちも後日横島とデートをすることを条件に同意したのである。

 ちなみに、横島とのどかにはデートとは言葉のあやであり、のどかの苦手を軽減する為、のどか一人で横島に麻帆良を案内すると説明している。

 

「行ったわね。さ、木乃香たちと合流しましょ」

 

「ええ、事前調査は大事ですからね」

 

 横島の姿が街角に消えたのを確認した二人は、木乃香と夕映+αとの合流地点へと足早に移動するのであった。

 

 

 

 

 

 一方、横島と待ち合わせしているのどかは、約束の時間より三十分早く待ち合わせ場所である世界樹前の広場に到着していた。

 

「どうしよう、三十分も早く着いちゃった……。待ち合わせって、早く着きすぎてもダメだって言うし、もう少し遅く来れば良かった……。でも、あまり遅く来て横島さんを待たせたら失礼だし……」

 

 うじうじと考え事をしていると、遠くから大停電についての放送が聞こえてくる。

 

「今日が大停電で良かったかも……。何時間も私と一緒とか横島さんも嫌だろうし、竜姫さんたちにも悪いもんね」

 

 麻帆良で行われる大停電は、期間中医療施設を除く全ての場所で電気が使えなくなるという大掛かりなものである。停電は20時から24時の四時間なのだが、その前に店を閉めて帰宅する必要がある為、17時ごろから麻帆良の街並みから人が消え始め、19時には完全に出歩く人がいなくなるのが常である。

 その為、本日の案内(デート)も14時から17時までの三時間を予定している。

 

 改めて時計を見ても、待ち合わせまでにまだ二十分ほど時間があることを確認したのどかは、本日の予定を記したメモを確認する。

 

「えっと、最初に商店街を抜けて噴水公園、次が図書館島か……。途中、雑貨屋さんとかあるから、事務所に置く物がないか見てみようかな。でも、横島さんなら図書館島の探索の方が興味あるかも……」

 

 どうするか悩むのどかであったが、待ち合わせ時間まで残り十分ほどになってきたので、慌てて最後の予定を確認する。

 

「最後が、竜姫さんたちを別ルートで案内してきた夕映たちと駅前で合流。横島さんたちはそれから用事があるって言ってたけど、大停電の日に何のようだろう? お店は開いてないし……」

 

「それはね……出歩く不良学生を取り締まる為さ」

 

「そうなんですか……大変ですね」

 

「うん、大変なんだよ」

 

「取り締まりってことは、学園から依頼があったんだ……出歩く人って結構いるのかな?」

 

 そのまま数秒経過するが、のどかは考えに夢中で途中で割り込んだ人物に気づいていない。びっくりさせるつもりだったその人物は仕方ないと、のどかの前に回り込んで改めて話しかける。

 

「お待たせ、のどかちゃん」

 

「あ、横島さん。いえ、全然待っていないですから」

 

 ようやく横島に気づいたのどかは、三十分前から待っていたことなど微塵も感じさせない微笑みで横島を迎える。普段下ろしている前髪を出掛けに木乃香がピンで留めた為、普段隠れている瞳もよく見えており、それに気づいた横島が話しかける。

 

「今日は前髪留めてるんだな。うん、いつも可愛いけどこっちの方が更に可愛いぞ! 倍は可愛い!」

 

「いや、その、あの……ありがとうございます」

 

 横島の褒め言葉に顔を真っ赤にしてうつむくのどか。こうして、二人のデートは始まるのであった。

 

 

 

 

「ここが麻帆良商店街です。横島さんも来たことはありますよね?」

 

「ああ、あるぞ。ま、前はビラ配りのときだからよく見てなかったけど」

 

 二人はあれから商店街に来ていた。この商店街を通り抜けてしばらくすれば噴水公園なのだが、二人の歩みは遅々として進んでいなかった。

 

「お、にいちゃん。今日はナンパしないのか?」

 

「今日はデートなんすよ。羨ましいでしょ?」

 

「あー、ロリコンだったか」

 

「ちゃうわ!!」

 

 その理由は、以前ナンパのついでにビラ配りしたときのことを覚えていた商店街の人々に、横島が話しかけられるからであった。麻帆良に住む人たちは細かいことを気にしないノリの良い人たちが多いのだが、その中でも商店街の人々は一番ではないだろうかと横島は思う。何せ、ナンパをネタに話しかけてくる人が先ほどので、十人目なのだから。デートという返しに最初は慌てていたのどかも、すっかり慣れてしまっている。

 

「あ、横島さん。あのお店が前に言ってた雑貨屋さんです。日用雑貨の他に、可愛い小物とかも置いてるんです」

 

「へ~。のどかちゃんも買ったりするの?」

 

「私は特には。欲しいと思うときもありますが、それよりも本を買っちゃいますから。夕映もそうですね」

 

「ふ~ん。オレも少しは本を読むべきなのかね」

 

「それでしたら、後で図書館島に行ったときに、何か借りてみてはどうでしょうか。色んなジャンルの本があるから横島さん好みの本もきっとありますよ」

 

 好みの本はえっちぃ本ですとは流石に言えない横島。それくらいの分別はあるのである。ちなみに、二人は知らないことだが、図書館島には古今東西の官能小説が存在していたりする。無論、大学生以上しか入れないフロアにあるのだが、中には資料的価値が高い本も存在するのだから侮れない。

 

 

 そんな図書館島の秘密はさておき、二人は商店街を抜け、噴水広場へとやってきていた。

 

「うーん、風が気持ちいいな! のどかちゃんもこっちにおいで。気持ちいいぞ!」

 

 噴水の近くに駆け寄った横島がのどかに声をかける。少し前までは、商店街でのやりとりに辟易していたのに今は少年のように笑う横島を、本当にころころと表情が変わる人だとのどかは思った。子供の時もあれば、紳士のように振舞う時もある。でも、結局はそれもすぐに崩れ、また子供に戻る。頼りがいにあるお兄さんの一面もあれば、放っておけない弟のような一面もある。そんな横島を不思議と微笑ましく思い、同時に短い期間でこれだけの顔を見せる横島の更に奥を知りたくなるのどか。彼女には、横島が物語りの登場人物のように思えていた。

 

(色んな顔を持っている人だなぁ。竜姫さんたちはこの多面性に惹かれてるのかな。……これで、実は勇敢だったり、武術の達人とかだったりしたら物語の主人公にでもなれそうだよね)

 

 あとは特殊な能力とか? と考え込むのどかであったが、横島の自分を呼ぶ声に我に返ると横島の元へと早足で向かうのであった。

 

 

 




 のどかデート編です。次は図書館島探索+αの予定。 
 ここ数日、咳が酷くて中々眠れません。眠気が来ても、咳で起きたりします。まぁ、そのおかげで執筆作業できているのですが。
 皆様も風邪等にはお気をつけください。

 商店街関連。図書館島関連。
 これらは作中設定です。

 ご意見、ご感想お待ちしております。
 活動報告の関連記事は【道化】とタイトルに記載があります。

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