道化と往く珍道中   作:雪夏

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横島くんin京都。説明回。

一言:お待たせしました。


その7 横島くんin京都

 

 

 

 

 

 学園長の依頼で京都を訪れている横島は、目の前に座り親書に目を落としている男――近衛詠春――をそれとなく観察していた。

 

(この人が関西呪術協会の長で、木乃香ちゃんの親父さんか。見た目は人のいいおっさんって感じだな。ちょっと、顔色悪いけど。……そんで、紅き翼のメンバーだっけ)

 

 詠春の見た目や現在の肩書き(関西呪術協会長)から考えると術者タイプのように思えるが、実際はサムライマスターの異名を持つ最強クラスの剣士である。その為、魔法世界で情報収集に励んでいた頃、小竜姫が興味を持ち詠春の情報は他のメンバーに比べると多く集まっていた。

 

(最強クラスの剣士って言うから、マッチョなおっさんが来るかとビビってたんだが……。気で強化するタイプなんだろうな。大体、何で剣士が呪術協会の長なんかやってんだ? 人が良さそうだし、押し付けられたんか?)

 

 

 

 そのように横島が詠春を観察する中、詠春も横島のことを観察していた。

 

(彼が新しく東の伝達役として選ばれた男……。連絡によれば、魔法世界出身の傭兵とのことだが……)

 

 詠春は、麻帆良側から事前に通達された情報を思い出す。

 

(麻帆良に来て間もないというのに、伝達役として起用される。余程信用を得ているのか、これを機に見極めるつもりなのか……まぁ、いいでしょう。現状では、実績作りが主な目的ですからね。あと一年もすれば、少しは変わるのでしょうが……)

 

 現在、東――関東魔法協会――と西――関西呪術協会――の二つの協会は水面下で融和に向かって協議を進めている。その中で、お互いに数名の連絡員を常駐させ、融和の一助としようと言う意見があるのだが、現状では今回のように親書のやり取りが精一杯なのである。

 

 そんな詠春たちの苦労など知ったことではない横島は、軽い態度で詠春に話しかける。

 

「じゃ、早速……これが学園長からの親書です」

 

「あ、はい。確かに」

 

 親書を受け取ると、詠春はすぐに中身を取り出し目を通し始める。その内容は、横島が伝達役に就くこと、木乃香のことで早急に相談したいことがあると言う二点であった。木乃香の件については、直接会って相談したいので調整して欲しいと言うことも書かれていた。

 

(早急に……ですか。進路相談……な訳ないですね。もう少し、猶予があると思っていましたが……こんなにも早く覚悟を決めることになろうとは)

 

「あ、それとこっちが、木乃香ちゃんからのお手紙です。連絡はとっているでしょうけど、たまには手紙ってのも良いかと思って書いてもらったんですよ」

 

「ほう……木乃香から。木乃香とはどう言う関係で?」

 

 木乃香のことを考えている時に告げられた横島の言葉に、詠春は嬉しさを感じると共につい探りを入れてしまう。

 そんな詠春の態度を気にすることもなく、横島は質問に答える。

 

「うちで預かっている娘が木乃香ちゃんと同じクラスでして。うちに遊びに来たときに提案して書いてもらいました。木乃香ちゃんには感謝していますよ。知っているでしょうけど、オレたちは最近こっちに来たんで、アイツ等が学校に馴染めるか心配してたんすよ。それも、木乃香ちゃんのおかげでどうにかなってますから」

 

「そうですか……。こっちは戻ってから家内と読むことにします。本当は、もう少しアナタと話をしたかったのですが……生憎と協議しなくてはならないことが発生しまして。すみませんが……」

 

「ああ、構わないっすよ。こっちは適当に観光してから帰りますから。ま、日帰りなんで夜の京都を満喫出来ないってのがツラいですけどね。あ、何かオススメの土産物屋とかあります?」

 

 明るく告げる横島に、詠春は幾つかの土産物屋を告げると横島の分も会計を済ませて店を出る。

 

(横島忠夫……もう少し話をしてみたかったですね。私相手に必要以上に緊張した様子もなかったですし、こういう事に慣れているのでしょうね。ま、次がありますか。それより先に木乃香の件で、麻帆良へ行くことになりそうですが……)

 

 

 

 

 

 一方、麻帆良学園では学園長――近衛近右衛門とエヴァンジェリンが囲碁を打っていた。

 

「そう言えば、そろそろ大停電じゃが……お主はどうするんじゃ? 今年も警備に参加せんのか?」

 

「当たり前だ。誰が好き好んでそんな面倒なことをすると言うんだ。大体、私がいなくとも警備に問題はないだろ。今年はアイツ等もいるしな」

 

 そう言いながらエヴァンジェリンは一手進める。それは近右衛門の予想外の手であったらしく、眉をひそめている。次の一手を考えながら、近右衛門はエヴァンジェリンとの会話を続ける。

 

「まぁ、警備自体は従来の戦力で問題はないじゃろう。横島くんたちはタカミチと組ませる予定じゃが、いざとなれば別にすればいいしのぉ。戦力的にはどっちかと言うと余裕はある方じゃ。じゃが……」

 

「何だ、心配事でもあるのか? 詠春から西の連中が怪しい動きをしていると知らせでも入ったか?」

 

「いや、そういった情報は入っておらん。まぁ、血気盛んな者が襲撃してくる可能性はあるが、それは大停電の時に限った話ではないからのぉ」

 

 そう言いながら、一手打つ近右衛門。余程自信のある手だったのか、微かに満足そうである。それに対し、エヴァンジェリンは余裕の表情で手を進める。近右衛門の一手は予想の範囲内であったらしい。

 

「さっきも言ったように、襲撃については問題ないんじゃ。ただ、今年も威勢のいい生徒が入ってきたからのぉ。お主も心当たりあるじゃろ?」

 

「ああ、自主的にパトロールをしているヤツらか。一度、見かけたよ」

 

「彼女らはジョンソン魔法学校から来たのじゃが……中々、優秀な子たちじゃよ。ただ、目立ちたがりと言うか、正義感が強くてのぉ。警備シフトから外されているのに、自主パトロールをしとるんじゃよ」

 

「別に参加させてやればいいじゃないか」

 

「気軽に言うのぉ。流石に、こちらに来たばかりの子に警備は任せられんよ。フォローしてくれる者がおれば別じゃが……。生憎と彼女たちのフォローに回せる人員もおらんしのぉ。それとも、エヴァがフォローに回ってくれるのかのぉ?」

 

「寝言は寝て言え。……で、随分と時間を稼いでいたようだが、逆転の一手は見つかったか?」

 

「……本当、困ったもんじゃのぉ。大人しくするよう命令しても、どれほどの効果があるか。いっそ、横島くんたちに押し付けるかのぉ。それで、邪魔にならんとこをパトロールさせれば……」

 

 盤面から目をそらし呟く近右衛門。数分後、起死回生の一手が見つからず投了する近右衛門の姿が学園長室にあった。

 

 

 

 

 

 おまけ:横島ナンパin京都(抜粋)

 

 その1:舞妓

「そこ行く舞妓姿のお姉さま! ボクと一緒にお茶でも……」

「ウチ、一見さんお断りなんで」

「そ、そんな」

「紹介状持って出直しなはれ」

「く、くっそー」

 

 その2:着物美人

「そこ行く着物姿が似合う彼女! いや、京美人という言葉はアナタの為にある! 是非、ボクと……」

「私、福岡出身なんで」

「何と、博多美人でしたか! 着物がよく似合っていたので、てっきり」

「実は、北海道出身です」

「え?」

「もしかしたら、沖縄かもしれまへんな。ほな、さいなら」

「え?」

 

 

 その3:眼鏡美女

「美人なお姉さま! その眼鏡お似合いですね! ボクと遊びませんか」

「……」

「な、なんでしょう? そんなに見つめられると」

「67点。微妙。却下」

「え、何が? って、行かないで!」

 

 その4:修学旅行生

「ボク、横島! 修学旅行? どっから来たの? ちょっと、遊んで」

「先生! 不審者が!」

「ちょ! 待って! あ、あの先公通報しやがった! せ、戦略的撤退―!」

 

 その5:眼鏡少女

「お兄さん。人生に悲観してはるんやったら、ウチに斬られてみません?」

「え?」

「大丈夫、痛いことあらしません。サクッと現世とお別れ出来ますよって」

「そんな、冗談……」

「あ、ここじゃ人目が多いんで、あっちの路地裏で待っとります」

「あ、行っちゃた。……うん、無視しよ」

 

 その6:眼鏡美女

「何やったんやろ、さっきの子。さ、気を取り直してナンパの続きや! そこの美人なお嬢さん!」

「何や、ウチのことかいな?」

「そうそう、眼鏡がよく似合うアナタ! ボクと一緒に……ん?」

「一緒に何や?」

「あ、やっぱ遠慮しときます。じゃ!」

「何やったんや?」

 

 

「あっぶねー。あの人、魔力あったし多分西の人や。問題起こしたら、給料貰えんからな。ちょっと勿体なかったけど。ま、他の京美人を探しますか」

 

 

 




 お待たせしました。横島くんin京都。但し、すぐ帰ります。
 次話は返る話です。

 東西協会の融和について水面下で調整をはじめている。
 これらは拙作内設定です。

 ご意見、ご感想お待ちしております。
 活動報告の関連記事は【道化】とタイトルに記載があります。

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