一言: 京都行ったことないです。
その1 京都への道
エヴァンジェリンの別荘で一夜を明かした横島たちは、昼頃までだらだらと過ごした後別荘の外へと移動していた。
「いやー、南国リゾートで絶品料理とか最高だったなー」
「そりゃ、アンタはね。私と竜姫は戦闘したり、刹那にあれこれ聞かれたりで疲れたわよ」
背伸びをしながら横島が言うと、定位置に陣取るタマモが呆れた口調で告げる。横島は知らないことだが、修行が待ちきれなくなった刹那に質問攻めにされていたのである。しかも、小竜姫も妙に乗り気で、座学と称して色々話をすることになってしまった。流石に、幻術をかけてまで逃げるのもどうかと思った結果、現在のだれタマモが完成した訳である。
「おー、そりゃご苦労なこった。でもそういう事なら、オレにも声かけてくれれば良かったのに。ま、オレがいたって何も出来んがな! ……痛っ! 爪っ! 爪がー!」
カラカラと笑う横島に、イラッときたタマモが爪を立てる。無様に痛がる横島の姿が琴線に触れたのか、タマモは非常に楽しそうである。
「奴らは何をしとるんだ?」
そんな二人を呆れた目で見るエヴァンジェリンたち。小竜姫にとっては見慣れた光景だが、彼女たちにすれば異常な光景である。
「どうせ横島さんが余計なことを言ったのでしょう。いつものことですから、お気になさらず」
「あれが日常とは……奴はマスターじゃなくて
何やら頓珍漢なことを言い出すエヴァンジェリン。小竜姫には、いつものじゃれあいの延長戦に見えるそれも、エヴァンジェリンからしたら痛めつけて喜んでいるようにしか見えないのだから、仕方ないのかもしれない。
「まぁ、貴様らの関係に口を出すつもりはないが……何というか、程ほどにな? 若い内から特殊なプレイは関心せんぞ?」
「特殊……? いえ、いつものことですよ?」
「ああ、わからないのならいい。忘れろ」
エヴァンジェリンのからかい混じりの言葉は、小竜姫には通用せず、エヴァンジェリンは肩を落とすのであった。
その後、エヴァンジェリンと茶々丸に見送られ別荘を後にした横島たち。妙に生暖かい視線と、次はお前だとの言葉が引っかかりを覚えながら。
「さて、儂と刹那くんはこっちの道じゃな。例の“おつかい”宜しく頼むぞ?」
「大丈夫ですよ。“おつかい”くらい心配しなくても」
「そうじゃな。それでは、またの」
「失礼します」
横島に確認したあと、女子寮方面(駅もこちら)へと歩く学園長と刹那。学園長は結局、京都行きのメンバーを増員しないと決めていた。京都周辺がきな臭いのは確かだが、下手に増員してやぶ蛇になることを嫌ったのである。別荘でのタマモたちの戦闘を見て、魔法世界での噂は真実だったのだろうと確信を強めたのも一因ではある。それに、小竜姫の剣撃を見切っていたような態度だったことも。
「フォフォフォ。いい拾い物をしたようじゃ……」
「学園長?」
「何でもないわい。それじゃ、儂は駅に向かうからここでお別れじゃな」
「あ、はい。それでは失礼します」
思わずこぼした言葉を刹那に聞かれたが、丁度寮と駅への分かれ道であった為誤魔化すことに成功。一礼して去っていく刹那を見る学園長の眼は、孫である木乃香に向けるそれと変わりはない。そして、小さく呟くのであった。
「あの子にとっても、良い出逢いじゃったようじゃしな」
一方、学園長と刹那と別れた横島たちは、よこっちの前で三人の人物と合流していた。
「で、今日は何のようだい?」
「お父様への手紙書いてきたえ~、あと、遊びに来たんよ」
そう言って、封筒を差し出してきたのは学園長の孫である木乃香。封筒の中身は彼女が言うように、父親へ向けての手紙なのだろう。横島はそれを受け取ると、笑顔を向けてくる木乃香の頭を撫でる。彼女との身長差は二十センチ強。横島にとって、木乃香の頭は撫でやすい位置にあるのである。
それに加え、彼女のにこやかな笑みとほんわかした雰囲気が、自然と横島の内にある父性を刺激しそうさせるのである。
「もー、くすぐったいえ。それに、髪が乱れてまう」
文句を言う木乃香だが、その顔は笑顔のまま。小学校から親元を離れているので、撫でるという行為に父性を感じているのかもしれない。
「お、悪い悪い。じゃ、中に入るか」
「そうね! 中に入りましょうか!」
横島が木乃香の頭から手を離しながら、木乃香たちを中へと誘う。すると、タマモが自由になった横島の手を引っ張り、よこっちの中へと姿を消す。
残された面々は、その様子に少々呆気に取られたが小竜姫に促されて、中へと歩を進めるのであった。
「いやー、でも丁度よかった。実は京都行きの日程がさっき決まってね。連絡しようか迷ってたとこだったんだ」
よこっち二階にある談話室で、小竜姫の淹れたお茶を一口飲んだ横島がいう。横島の両隣がタマモと小竜姫。横島たちの向かいに木乃香たち三人が座っている。
「迷うとは? 日程が決まったら連絡すると言っていたのは、横島さんではなかったですか?」
その向かいに座る三人のうちの一人、夕映が疑問を口にする。横島がそう言っていたのを、彼女たちは覚えていた。
「そうなんだけどさ。その京都行く日ってのが、明後日なんだわ。今日伝えて、明日までに書いて来てってのもどうかと思ってさ」
「私だったら、書けないかもしれないです」
横島の説明に、残りの一人――のどか――が自分だったらと口にする。夕映も同感なのか、納得の表情を見せている。
「それに、オレは木乃香ちゃんの連絡先知らんしな。ま、タマモに聞いてもよかったんだが……」
「? 私も木乃香の連絡先知らないわよ?」
この一言で、全員が顔を見合わせる。入学式からの数日の間、よく話しているが連絡先を一切交換していなかったことに気がついたのである。
「あー、うちもアドレスとか教えてなかったわ」
「私もです。何故なのでしょうか?」
「うん。会ってから数日しか経ってないって気がしないのに、連絡先交換してなかったなんて」
口々に不思議がる木乃香たち。ずっと前からの知合いだったかのように、自然に接していたので余計に不思議なようである。
「私たちの方は、最近携帯持ったから連絡先を交換する習慣がなかったからだけど……そっちは、何故かしらね?」
「そんなことどうでもいいじゃないですか。それより、この機会に連絡先交換しませんか?」
小竜姫の提案に、横島たちは連絡先を交換する。
「さて、可愛い女の子たちの連絡先もゲット出来たし、改めてお茶にしますか。確か、お茶菓子は……」
「ああ、私がとってきますよ。横島さんじゃ、何処にあるか分からないでしょうから」
横島がお茶菓子を探しに席を立とうとすると、小竜姫がそれを制しキッチンへと向かう。そのやり取りを見た夕映が、戻って来た小竜姫に問いかける。
「食事とかは竜姫さんが作っているのですか? 横島さんはキッチンに何があるか把握していないような口ぶりでしたが」
「そうですね。基本は私でしょうか。タマモちゃんも横島さんも料理はあまり」
「タマちゃん、料理できへんの? 教えたろか?」
「大丈夫よ。竜姫が作った方が美味しいんだから、私が作らなくとも問題ないわ」
「いっそ、清々しいまでの人任せです」
木乃香の提案を断るタマモ。その返答内容に夕映とのどかは呆れた顔をする。もう少し違う言い方はなかったのだろうかと。
女子たちで盛り上がるのを、横島は楽しそうに眺めていた。京都もこんな感じで、楽しくなればいいと考えながら。
5時間目「京都」開始。章タイトルそのままの話です。
そういえば、木乃香の母親ってどうなってるのでしょうか。知っている方がいらっしゃったら教えてください
これらは拙作内設定です。
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