道化と往く珍道中   作:雪夏

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明かされる小竜姫のアーティファクトとその能力。刹那はその力に、衝撃を受ける。

一言: 筆が進まんなぁ……


その12 それぞれの決意

 

 

 

 

 

 刹那の驚愕より数十分後。一行は茶々丸が作った夕食を食べていた。

 

「こりゃ美味い。茶々丸ちゃんが作ったんだろ? 凄いな」

 

「私にはありとあらゆる料理のレシピがインストールされています。それに従って作れば、これくらい造作もありません。皆さんもレシピがあれば出来ると思いますが?」

 

「……うん、それは人前で言わない方がいいな。レシピ通りに作ろうとしても出来ないって人がいるからな。そういう人たちの反感を買っちまう」

 

「? 何故、本当のことを言ってはいけないのですか?」

 

「何でも正直に言えばいいってもんじゃないんだ。茶々丸ちゃんも、いつか分かるようになるよ」

 

「そうでしょうか……?」

 

 遠い目をしながら茶々丸と会話する横島。自身の失敗を思い出しているようである。しかし、その間も横島の食事の手を止まることはない。以前のように食事に困る生活はしていないのだが、食べられる時に食べる癖がついているようである。

 そんな二人のやり取りを眺める幼……少女が一人。茶々丸のマスターであるエヴァンジェリンである。

 

(ふむ。戦闘前は気にも留めなかったが、奴は茶々丸にも普通に接するな。それに葛葉タマモと妙神竜姫のマスターだったな。あれ程強力なアーティファクトが出たと言うことは、マスターの側もかなりの力の持ち主の筈だが……)

 

 エヴァンジェリンの前で茶々丸と会話を続ける男からは、そのような気配は一切感じない。余程、隠蔽に長けているのかと思ったエヴァンジェリンは、更に注意深く横島を観察する。

 

(細身だが、しなやかでいい筋肉だ。それに奴の腕に抱かれた時、この私が暴れたというのにビクともしなかった。吸血鬼を抑えるだけの筋力が奴にはあるということか。その上、あの時感じた安らぎにも似た、暖かな感覚。アレが奴の能力か? 捕獲……いや、支援型能力者か?)

 

 何やら納得したのか、うんうんと頷くエヴァンジェリン。しかし、彼女は未だ気づかない。彼女が感じた安らぎ。それが、横島の能力などではなく、彼女の中から溢れ出た感情であることを。

 

 

 

 

 

 茶々丸が横島と会話し、エヴァンジェリンが自分の世界の入っていた頃。刹那は小竜姫たちと今後の話をしていた。

 

「さて、刹那さん。今日アナタが見た戦いで気になったことはありますか? ある程度のことなら答えますよ?」

 

「そうね。アナタが習う“力”を実戦で見せた訳だし、聞きたいことあるわよね。どう使ったかは分かるわよね?」

 

「え……? あ、はい……竜姫さんは身体強化で使った……ですよね? 完璧な瞬動……だったと思います。私では、動きが見切れませんでしたので断定出来ないですが」

 

「確かに身体強化に使いましたね。瞬動が何かはわかりませんが、スピードでしたらまだまだあがりますよ? 私の全速力に対抗出来るのは横島さんくらいじゃないでしょうか?」

 

「まぁ、私には無理ね。私も相当スピードは出せる筈なんだけど、アンタたちは可笑しいわ。特に横島」

 

 小竜姫の言葉に衝撃を受ける刹那。完璧に見えた瞬動が、手抜きと言われたのだから当然である。事前に強いとは聞いていた横島も相当だと言うのだから、尚更である。

 

 ただ、ここで訂正しておくと、小竜姫の移動技は気や魔力を推進力にして移動する瞬動とは異なり、小竜姫自身とその周囲の霊波に干渉して加速する技である。そして、小竜姫の言う“全速力”とは、一時的に周囲の時の流れを遅くする韋駄天族の奥義――超加速――のことである。

 そして、それについていける可能性を持つのはこの世界では横島の文珠だけであろう。横島は竜神の装具を用いて超加速を経験しているので、再現する可能性は低くない。そして、何より霊力に目覚める前に影法師(シャドウ)で小竜姫の超スピードに追いついた男である。文珠や竜神の装具抜きでも超加速に至るのではないかと、小竜姫は本気で思っている。

 

「まだ速くなるのですか……。そんな凄い力を私なんかが身につけられるのでしょうか……?」

 

 どこか呆然としたまま不安を口にする刹那。そんな刹那の様子に小竜姫とタマモは顔を見合わせたあと、言葉を紡ぐ。

 

「前も言ったでしょ? 私たちの力は魂の力。どのような特性を持つか、何処まで力を発揮するか。どちらも目覚めてみないと分からない。今から悩んでもしょうがない。気にせず修行に励みなさい。それに、不安がる必要はないわ。アナタの素質については私や横島、竜姫が保証するわ」

 

「心配せずとも、心の底から強く望めば自ずと魂は応えてくれます。横島さんはそうやって強くなりました。アナタもきっと出来ますよ」

 

 

「「アナタなら出来ると信じてる」」

 

 

 そう言って、タマモと小竜姫は刹那に微笑む。刹那ならきっと霊力を身につけることが出来ると言う確信を込めて。

 

「……まだ不安はあります。ですが、必ず身につけて見せます! お嬢様の為にも……タマモさんたちの信頼に応えるためにも!」

 

 刹那は決意を込めて宣言するのであった。

 

 

 

 

 

 その頃、学園長は――

 

「むぅ……竜姫くんたちの力は素晴らしかったのぉ。横島くんと一緒に京都に……いやいや、平日じゃからダメじゃろ。いや、でも最近少々西が騒がしいし、念のため戦力は整えておいた方が……」

 

 ――何やらフラグめいた言葉を呟いていた。

 

 




 これにて4時間目は終了。章タイトルの福音は誰に訪れたのか。それは皆様の解釈次第です。はい。
 ノリで章タイトル付けるんじゃなかった……

 最後の学園長の言葉はフラグとなるのか!? それは誰にも分からない!

 茶々丸にレシピがインストール済。小竜姫の移動術。吸血鬼について。
 これらは拙作内設定です。

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