道化と往く珍道中   作:雪夏

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ひと時の安らぎを得たエヴァンジェリン。微睡む彼女が目覚めるまで、あと少し。

一言: お待たせしました。久しぶりの本編更新です。


その11 戦いのその後

 

 

 

 

 

「さて、儂から竜姫くんに質問してもよいかの?」

 

 エヴァンジェリンが目覚めた後、幼子のように寝入ったことに対して全員の記憶を消そうと暴れたり、暴れる彼女を横島が抱きしめて止めたりといった騒動があったりしたが、現在はシステムチェックを終えた茶々丸が淹れたお茶でまったりとしているところであった。その間、何処かそわそわしていた学園長が口を開く。

 

「何でしょう?」

 

「ふむ。差し支えなければで構わんのじゃが……」

 

「口篭るなジジイ。気色悪い」

 

「ダメですよ、エヴァンジェリンさん。老人は労らないと。それで?」

 

 暴言を吐くエヴァンジェリンを注意した小竜姫が促すと、それに勇気づけられたかのように学園長が再び口を開く。

 

「うむ、竜姫くんがエヴァと戦う前に言っておった“アレ”とはなんじゃったのかと思っての?」

 

「ああ、そのことですか。そういえば、“アレ”を試すつもりでしたね。すっかり忘れていました」

 

 そう言えばと答える小竜姫。それに対して、横島とタマモはやはりと得心顔であり、刹那とエヴァンジェリンは小竜姫の語る“アレ”の内容に興味津々といった顔である。

 

「そうですね……タマモちゃんの時と同様に他言無用で良いのならお教えします」

 

「ふむ。今更だな。茶々丸、この間にお前は部屋の用意をしてこい」

 

「かしこまりました、マスター。ゲストルームを用意致します。部屋割りは如何いたしましょう?」

 

 すぐに同意したエヴァンジェリンが茶々丸に指示をだす。それを受けた茶々丸は、部屋割りについて質問する。ゲストルームには、二人部屋と一人部屋がある為である。

 

「ふむ。そうだな……一人一室でいいだろう。お前たちもそれでいいな?」

 

 エヴァンジェリンの言葉に異論がないのか頷く一同。それを確認した茶々丸が、部屋の準備へ向かった後、小竜姫が口を開く。

 

「お二人も先程と同じと思ってよろしいですか?」

 

「ええ、構いません」

「無論じゃ」

 

「では、話すとしましょうか。とは言っても、大した話ではありません。“アレ”とはアーティファクトのことです。試すつもりが使うのを忘れていました」

 

「アーティファクトだと? 先程貴様が取り出した剣はアーティファクトではなかったのか? かなりの力を感じたぞ?」

 

「儂もそう思っておった。いや、仮契約カードは視認しておらんが……てっきり」

 

 小竜姫の言葉に思わず口を挟むエヴァンジェリン。直接相対した彼女としては、剣に秘められた力を嫌というほど感じたし、真祖の魔法障壁を容易く貫かれたのだからアーティファクトと誤解しても仕方ないことである。

 刹那もそう思っていたようで、首をコクコクと上下させている。

 

「剣というと、コレのことですか? これはアーティファクトとは違いますよ?」

 

 小竜姫が虚空へ手を伸ばすと、次の瞬間にはその手に剣が握られていた。

 

「す、凄い力を感じます……それに、何処から?」

 

「術の一種です。潜在意識に収納しているんですよ。タマモちゃんの服と同じようなものです」

 

「私の?」

 

「ええ。タマモちゃんが人間から狐の姿に変化しても、それまで着ていた服はその場には残らないでしょう? あれは服を自分の一部として意識下に収納しているんです。逆に人間の姿に戻る時は、着用した状態で召喚しているんです」

 

「そなの?」

「知らなかった……」

 

 小竜姫の説明を聞いた横島が、隣りに座るタマモに確認すると、そこには驚愕しているタマモの姿が。どうやら意識してやっている訳ではないようである。

 

「ふむ。そういえば、私も眷属でマントを作るが、そもそも眷属が何処から来るか気にしたことがなかったな。あれらも意識下に収納しているということなのか」

 

「多分そうですね。この術は人化する妖魔なら、無意識に使用している術ですし」

 

 小竜姫の説明に納得する刹那。

 

 刹那も普段は翼をしまっている。今まで翼を出すときに服を来ていると、抵抗を感じることから体内にしまっていると思っていたが、よくよく考えれば翼が全部体内にしまわれているとは思えない。というか、思いたくない。

 

 

 実際は、刹那の翼と小竜姫の神剣やエヴァンジェリンの眷属とでは収納の仕組みは異なる。神剣や眷属を出し入れする術とは、召喚術の一種である。自身の潜在意識に収納したものを召喚しているに過ぎない。

 

 対して、刹那の翼は変化の術の一種である。とは言っても、刹那の場合、翼がある姿が本来の姿である。彼女の場合、翼のない状態へ変化していることになる。

 

 妖魔は体の大半が霊体で構成されており、霊体部分を作り変えることで変化を行う。当然、刹那の翼も霊体でできており、収納している状態とは翼を構成する霊体を別の場所に押し込めているに過ぎない。

 

 また、人化した妖魔が本来の姿になった時、パワーアップしたように感じるのは、本来あるべきもの――刹那の場合、翼――を他の場所に押し込めるのに力を使うからである。それを止めるのだから、余分な力を使わないで済む分、力が増すのは当然のことである。

 

 

 

「ふむ、その剣を召喚したのが、竜姫くんの術だというのは分かった。して、その剣がアーティファクトではないのなら、君が試したかったアーティファクトと言うのは?」

 

 学園長が脱線しかけた話を元に戻す。彼が術や剣について詳細に聞かなかったのは、それが秘術に類するものだと判断したこともあるが、自分の立場を弁えている証拠とも言える。タマモの時は何故なら、彼らは聞かせてもらっている立場なのだから。

 

「この剣についてはいいんですか? と言っても、神剣の一種としか言うつもりはありませんが」

 

「十分じゃ。桁外れに強い剣を所有しておると知ることが出来た訳じゃしな」

 

「うむ。私としても、それが神剣の一種と言うなら納得だ」

 

「えっと、はい。大丈夫です。続けてください」

 

 若干刹那は剣について聞きたそうだが、空気を読んで続きを促す。

 

「それで、私のアーティファクトですが……“来たれ(アデアット)”」

 

 小竜姫の手元に召喚されたのは、翠色の勾玉がついた首飾り。小竜姫は召喚したアーティファクトを手に取ると、全員が見やすいように掲げる。

 

「これが私のアーティファクトです。名を玉龍ノ勾玉(ギョクリュウノマガタマ)

 

「玉龍とな?」

 

「ええ。ご存知で?」

 

 アーティファクトの名を聞いた学園長が声をあげる。玉龍を知っているようである。

 

「西遊記という物語に出てくる龍じゃ。最も、物語中ほとんど活躍せんがの」

 

「ああ、あの馬になった龍か。確か、何かの罰で馬にされたんだったか?」

 

「厳密には違うが、最終的に三蔵法師の馬となっておる」

 

 学園長の説明にエヴァンジェリンが思い出したと、言葉を挟む。横島とタマモ、刹那は全く聞き覚えがないようである。

 

「そんなパッとしないやつの勾玉か。あまり期待できそうにないな」

 

 エヴァンジェリンの言葉を聞いた横島が、小竜姫に近づき小声で話しかける。

 

「何か馬鹿にされてますけど……」

 

「まぁ、お父上……西海竜王様なんですが、その方の宝物庫に掃除しに行ったときに暗いからって火を吹いたら、宝珠を焼いちゃったとか、罰を軽減する為の仕事……ああ、三蔵法師様を運ぶっていう仕事なんですけどね? それをお腹が空いたからって、目の前に来た馬を三蔵法師様ごと食べようとしたりと少々抜けている方ですからね。まぁ、今は老師に躾けられてドジとかは減ったと聞きます」

 

「そ、それは何というか……。でも、確かこのアーティファクトって結構いい能力だったような……? 実は玉龍関係ないとか?」

 

「いいえ。先程言いましたよね? うっかり燃やした宝珠があると。それがこれです」

 

「へ? そ、そうなの?」

 

「そのものかは私にも分かりません。ただ、その焼失した宝珠と形が一緒なんです。それに、このアーティファクトの能力も似ています」

 

「おい! 何をこそこそしている。早く能力を教えんか」

 

 小竜姫と横島がこそこそ話していることに気づいたエヴァンジェリンが、早く能力を教えろと催促してくる。期待出来そうにないと言った割りに、その瞳は楽しそうである。

 

「分かりました。分かっている能力は、装着者の()の強化ですね。試せる場所がありませんでしたので、正確には分かりませんが最大で筋力は二倍くらいまで強化出来そうでした」

 

「やはり装着者を強化するタイプのアーティファクトだったか。しかし、力を二倍にする能力か。それだけだとしたら、使えるのか微妙なアーティファクトだな」

 

「何故ですか? かなり強力だと思いますが」

 

 エヴァンジェリンの微妙な評価に、刹那が疑問の声をあげる。彼女からすれば、力が二倍になるのは非常に魅力的だと思えた。

 

「お前はもう少し考えろ。確かに、力が倍になれば物理攻撃も倍になる。妙神竜姫やお前のような剣士なら、有用だろうよ。但し、相手が同じ剣士や戦士だとしたらだ」

 

「そうじゃのぉ。妖魔相手でも一撃の威力が上がる分有効じゃろう。しかし、魔法使いの様に障壁を張るような輩の場合、力だけが倍になっても通用するか怪しい。それに、避けられてしまえば意味がない。結局、アーティファクトだけでは決め手に欠けるんじゃ」

 

「それでは、外れということですか?」

 

「そうではない。妙神竜姫ほどの剣技とスピード、神剣があれば非常に強力なアーティファクトとなる。だからこそ、使えるか微妙なのだがな」

 

「人を選ぶアーティファクトと言うことですか」

 

「そういう事だ。ま、単純な()だけを強化するのならな。だが、それだけではあるまい? 力だけの強化なら、場所を取らずに検証することは可能だからな」

 

 ニヤリと笑いながら小竜姫に尋ねるエヴァンジェリン。それを受けた小竜姫は何でもないかのように言葉を返す。

 

「ええ。ですが、先程も私は嘘は言ってませんよ? 正しくこのアーティファクトは()を強化するのですから」

 

「くくくっ、確かに嘘は言ってないだろうな。しかし、そういう事ならこれは凄まじいアーティファクトだな。その分、扱いも難しそうだが」

 

「だからこそ、先程の戦闘で試して見たかったんですけどね」

 

「冗談を言うな。アーティファクトなしであの様だ。それにこのアーティファクトが加わったらと思うと、ゾッとする」

 

 何処まで本気か分からないエヴァンジェリンの言葉だが、横島はその身が震えた一瞬を見逃さなかった。

 

(分かる。分かるぞ、エヴァちゃん。強化された竜姫なんて、恐ろしくて相手に出来ないよな?)

 

 うんうんと頷く横島を横目に、刹那が学園長に説明を求めようとする。彼なら解説してくれるだろうと期待しての行動である。刹那が学園長の方向を見ると、彼は何やらブツブツと呟いていた。

 

「竜姫くんもタマモくんも予想以上の強さじゃ。それにアーティファクトが本当にそういう能力なら……これは、警備の仕事を増やしてもらうか? いや、護衛に集中してもらった方が……」

 

 その様子を見た刹那は諦めて他の人物を探す。横島に自分から話かける勇気がない。エヴァンジェリンと竜姫の間には入りたくない。後は……居た。紅茶を優雅に飲んでいる。

 

「タマモさん!」

 

「ん? アンタもいる?」

 

「いえ、紅茶が欲しいのではなくてですね……」

 

「竜姫のアーティファクトのことでしょ? 分かってるわよ。アンタは力と聞いて、筋力のことだと思ったのよね? それが間違いなの。竜姫のアーティファクトが強化出来るのは筋力だけはない。全ての力なのよ」

 

「全ての力……?」

 

「本当はアンタも分かっているんじゃない? 全ての力……つまり、肉体、五感、気や魔力に反射神経とか全部ひっくるめて強化出来るのよ」

 

 刹那はその言葉を聞くと、数秒固まり、大きく驚愕の声をあげるのであった。

 

「ええぇぇええ!!」

 

 




長らくお待たせしました。今回は事後処理その2。またの名を、説明回。
小竜姫のアーティファクトですが、当然デメリットと言うか制限があります。それはまたの機会に。

次回は事後処理その3。別荘内でのくつろいだひと時……の筈。

別荘のゲストルームについて。タマモの衣服、エヴァの眷属やマント、小竜姫の神剣について。妖魔あれこれ。小竜姫の語る玉龍について。
これらは拙作内設定です。

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活動報告の関連記事は【道化】とタイトルに記載があります。

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