道化と往く珍道中   作:雪夏

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タマモとエヴァンジェリンの対決はタマモの勝利で幕を閉じた。次に控えるのは竜神、小竜姫。エヴァンジェリンと茶々丸はどう立ち向かうのだろうか。

一言: 間に合った


その8 激突??妖狐と吸血鬼 その後

 

 

 

 タマモとエヴァンジェリンの訓練という名の戦闘は、タマモの勝利で幕を閉じた。戦いを終えた二人は、見学人たちの元へと歩き出す。

 

「しかし、この私が騙されるとはな。しかも、狐だと?」

 

「気づいてなかったの?」

 

「私は吸血鬼だぞ? 妖魔連中も恐れて私には近づかん。妖魔かどうかは推測できても、種族を判別できる程会ってわおらん。それに貴様は巧妙に隠していたからな」

 

「そこまで気合入れて隠していた訳じゃないんだけど。ま、どうでもいいわ」

 

 そう言うと、タマモは横島の元へと走っていく。途中子狐の姿に変化すると、そのまま横島の頭上に飛び乗る。そんなタマモを横島は労いの気持ちを込めて撫でる。

 

「お疲れさん」

 

「本当疲れたわ。アーティファクトを思っていた以上に使うことになっちゃったし。ま、おかげで慣れることは出来たんだけどね。流石は吸血鬼と言った所ね。抵抗力が高い高い」

 

 横島に愚痴をこぼすタマモに、小竜姫が苦笑しながら話しかける。

 

「それは最初からわかってたことじゃないですか。しかし、予想以上に攻撃魔法というのは威力がありますね」

 

「そうですね。それに数が多いし攻撃範囲も広い。オレのサイキックソーサーじゃ、防御するのは厳しいですね。良かった、オレ戦わなくて」

 

「横島さんのサイキックソーサーは防御力は高いですが、範囲が狭いですからね。あの矢を放つ魔法はともかく、広範囲攻撃となると防ぐのは難しいですね」

 

「そうね。実際に向かいあった身として言わせてもらうと、全身を防御する方法がない以上、竜姫はともかく私と横島は避けるしか方法がないと思うわ。勿論、“アレ”を使うなら話は別だけどね。それと、また敬語になってるわよ」

 

「いや、どうも慣れなくて」

 

「それでも慣れてくださいね? その方が嬉しいですし」

 

 和やかに、魔法を使用する相手との戦闘した場合について話す三人。横島の場合は戦わずに済んだことに対しての感想であるが、タマモと小竜姫は今後を見据えているようである。

 そこに追いついたエヴァンジェリンが小竜姫に話しかける。

 

「おい。妙神竜姫」

 

「はい?」

 

「貴様との訓練は後回しだ。消費した魔力分を回復させたい」

 

「私は構いませんよ。万全のエヴァンジェリンさんを相手に、()()私が何処まで出来るか知りたいですからね」

 

「ほう。大した自信だな。そういう事なら最初から全力でやってやる。感謝しろよ?」

 

 小竜姫の挑発ともとれる言葉に、エヴァンジェリンは尊大な態度で応える。最初から全力で戦うつもりだったことを微塵も表に出さないのは流石である。

 エヴァンジェリンは言いたいことは言ったとばかりに、広場から室内へと向かう。その後ろを歩いていた茶々丸が、広場に残ったままの一同を室内へと促す。

 

「皆様もこちらに。お茶を用意致しますので」

 

 

 

 

 

 一同が茶々丸に案内されたのは、最初に転移して来た塔とは建物を挟んで反対側に位置する場所。プール脇に用意されたテーブルであった。

 

「へー、凄いな。プールもあるのか」

 

「無駄よねー。下に海があるのに」

 

「貴様は馬鹿か。海は観賞用だ」

 

「そういうものなの?」

 

「イルカもいた筈だが、ここ十年は中に入っていなかったからな。増えているのか、減っているのか。一応、雌雄で何頭か入れていたが」

 

 その言葉に一同は海に目を向ける。見える範囲には、イルカはいない。そもそも、イルカがいたとしても海の表層を都合よく泳いでいるとも限らないのだが。

 しばらく海を眺めていたが、エヴァンジェリンの声でそれを中断する。

 

「ところで、葛葉タマモ。貴様、先程は何をやった?」

 

「ん? 知りたい? でも秘密~。アンタが今後敵対しないとも限らないもの」

 

「まぁ、そうだろうな。そう簡単に情報を教えるわけがないか……」

 

「そういうこと。ま、アンタたちが他者に情報を漏らさないと誓うなら考えてあげる」

 

 タマモの言葉に考え込むエヴァンジェリン。元より他者に情報を教える気は微塵もないが、誓いを持ち出されると考えてしまう。エヴァンジェリンが横目で学園長を見ると、彼も顎に手を当て考え込んでいるようである。刹那も同様である。

 

「ああ、誓いと言っても契約書を交わすわけじゃないわ。言葉で誓って貰えればそれで十分」

 

「何? それでは口約束と変わらんではないか。私たちが守るとも限らんぞ? 契約書なら、精霊の力で守らせることが出来るぞ?」

 

「そんな無駄なことはしなくていいわ。アンタたち程の力があれば、精霊の力なんてどうにでも出来るでしょ? そんな事をするより、自身の誇りに誓ってもらう方が何倍も信用できるわ」

 

 横島の頭に寝そべったまま軽い口調で告げるタマモ。言外にエヴァンジェリンたちを信用していると言っているようなものである。小竜姫も横島も、タマモの言葉に反対していない。

 エヴァンジェリンには仮に漏れたとしても問題ないという自信なのか、本当に信用しているということなのか判断がつかなかった。そうして、戸惑っている内に刹那が先に誓いを言葉にする。

 

「私は誓います。誰にも情報を漏らさないと。神鳴流剣士、桜咲刹那の名において」

 

「フォフォフォ、先を越されたのぉ。儂も誓おう。麻帆良学園学園長、そして関東魔法協会理事の名に。」

 

「私も誓ってやろうじゃないか。“闇の福音(ダーク・エヴァンジェル)”、“人形使い(ドールマスター)”の二つ名に、そして“悪の魔法使い”の誇りに」

 

三名の誓いを満足そうに聞いていたタマモたちであったが、エヴァンジェリンの誓いに微妙な顔をする。

 

「あー、エヴァちゃん? 悪の魔法使いって?」

 

「エヴァちゃんと呼ぶな。貴様ら魔法世界から来た癖に知らんのか? 私が悪の魔法使いだと」

 

「いやー、てっきり、その……ね?」

 

 横島は言葉を濁し、小竜姫に視線を向ける。それを受けた小竜姫も何と言えばいいのか分からないという顔である。

 

「はっきりしない奴だな」

 

「だって……ね? てっきり、吸血鬼だから悪って言われてたのかと思ったんだけど……」

 

「さっきから何だと言うのだ! はっきり言わんか!!」

 

「自分から悪って名乗るなんて……ちょっと痛いわよ?」

 

「なっ……」

 

 横島たちが躊躇していた言葉をタマモが口にする。それに思わず頷く横島と小竜姫。正義を好む小竜姫も、流石に“悪の魔法使い”はちょっとと思っていたようである。……“闇の福音”やら“人形使い”はいいのかと言うツッコミはなしである。

 

 

 ショックを受けているエヴァンジェリンの名誉の為に説明すると、最初から彼女が好きで“悪の魔法使い”と名乗っていた訳ではない。吸血鬼である彼女を襲撃した魔法使いが侮蔑を込めて呼んだのが始まりである。襲撃者たちから“悪”を押し付けられていく内に、彼女は自分なりの“ルール”を決めていった。その内の一つが“悪の魔法使い”という名乗りである。

自分は襲撃者たち――“正義の魔法使い(自称)”とは違うのだと。決して“正義”にはならないと言う誓いからの名乗りなのである。

 

 

 

 

 

「ゴホンッ。……それで、誓ったからには教えてくれるんだろうな?」

 

咳払いをして話を戻すエヴァンジェリン。

 

――必死に自分は痛くないのだと主張していた時、次第に可哀想な子供を見るような横島たちの視線に泣きそうになっていたのは秘密である。

 

 

「ええ。それは構わないわ。ところで茶々丸は? あの娘にも誓ってもらいたいんだけど」

 

「ああ、茶々丸は今食事を用意している。それと、私に構わず話を進めてください、だとさ。何、茶々丸には許可なく近づかないようにも伝えてある。気にするな」

 

「何か仲間外れにしたみたいで、気分悪いわね」

 

茶々丸不在のまま話を進めることに、少々罪悪感のようなものを感じるタマモ。誓いをたてていない以上、茶々丸に聞かせる訳にはいかないのだが、それでも思う所があるようである。

 

「気にするな。茶々丸は定期的にメンテナンスを受けている。その時、記憶フォルダとかいうのもチェックされるそうだ。だから、自分には情報を漏らさないと言う誓いは無理だからと言っておった。これは、守れない誓いを立てたくないという茶々丸の想いなのだ」

 

 エヴァンジェリンは茶々丸の想いだから気にするなとタマモに告げる。そこには、生まれたばかりの自分の従者(茶々丸)が誓いの大切さを理解していることに対する微かな喜びが見て取れた。

 実際は、エヴァンジェリンの言うような感情からの判断ではない。茶々丸の思考プログラム(AI)は守れない誓いを立てると言う矛盾――つまり詐称()を選択することが出来ないようになっているのである。

 

 

 

 

 

「それで、何を聞きたい?」

 

 タマモは、聞き手であるエヴァンジェリンたちに何から話すべきかを聞く。自分から詳細に話すより、質問に答える形式で答えることを選んだようである。

 

「そう言われると困るな。知りたいことが多すぎる……そうだな、まずはアーティファクトについてか?」

 

「ふむ。儂もアーティファクトには興味がある。観戦していたが、直接攻撃の類ではないということくらいしか分からんかったしのぉ」

 

「あの、そもそもアーティファクトと言うのは何なのでしょうか?」

 

 エヴァンジェリンと学園長がアーティファクトが気になると言えば、刹那がアーティファクト自体が分からないと言う。

それを聞いたタマモは、横島の頭からテーブルへと飛び降りると何処からか取り出した仮契約カードを尻尾で指し示す。

 

「この仮契約カードを使って召喚する魔道具のことよ」

 

「今何処から……」

 

「気にしてはダメよ。それで……“来たれ(アデアット)”。これが召喚する呪文ね」

 

タマモの言葉により、扇が出現する。それは確かに先程までタマモが使用していた扇であった。

 エヴァンジェリンはタマモの許可を得るとその扇を手に取り開く。

 

「ふむ……。やはり、尾の色が変わっているな」

 

「流石に気づいてたんだ」

 

「それくらいはな。後は、扇の開閉が関係あることくらいは推測出来たが……“狐火”。違うか……」

 

 突如狐火と呟いたエヴァンジェリンに、奇異の目を向ける一同。タマモだけは心あたりがあるのか、普段通りであったが。

 

「何をやっとるんじゃ?」

 

「何、推測が正しかったかを確かめていたところだ。まぁ、違ったのだがな。となると、このアーティファクトの能力は一体……」

 

「狐火は私自身の技よ。まぁ、さっきは開閉と同時にやってたから、誤解するのも無理ないわね」

 

「妖狐の特技か……では、このアーティファクトの能力は何なのだ?」

 

「その()の能力はね……幻覚能力の強化よ」

 

 タマモが告げた()の能力。それはタマモが得意とする幻覚能力の強化であった。それを聞き、納得したのは学園長や刹那と言った観戦組であった。

 

「そういうことでしたか。そのアーティファクト? の力でエヴァンジェリンさんに幻覚を見せていたから、あっさり背後を取れたんですね」

 

「成程のぉ。認識をずらしておったのか。それでエヴァの魔法の狙いをそれとなく逸らしたり、狐の姿で移動しても気づかれんかった訳じゃな?」

 

 タマモがやったことに対しての理解度には差があるようではあるが、二人とも疑問に思っていたことが解けたと心なしかスッキリした顔である。

 一方のエヴァンジェリンはと言うと、背後を取られた時、何らかの幻術に嵌ったのは理解していたが、それは最後だけだと思っていた。しかし、アーティファクトの能力がタマモの言う通りなら、エヴァンジェリンは戦闘中何度も幻術にかかっていたという事になる。

 吸血鬼の能力や魔力を抑えられている学園内ならともかく、力を十全に振るうことが出来る別荘内でかけられるとは容易には信じることが出来なかった。

 

「……いや、だからこそのアーティファクトという事か。そういう事なのだな、葛葉タマモ。貴様がこの吸血鬼たる私に幻術をかけられたのは」

 

「そういう事ね。()()私じゃ、それのブーストがなきゃアンタの精神防御は破れないわ。学校でのアンタならともかくね」

 

「よく言う。このアーティファクトがどれくらいブースト出来るかは知らんが、吸血鬼の精神防御を抜くなど生半可な力量では出来ん。しかも、私に全く違和感を与えなかったという事は、それほど巧妙な幻術だという事だ」

 

「ありがと、と言うべきなのかしら? それで? 私がいつ幻術を仕掛けたか分かった?」

 

「ふむ。そうだな……おそらく、ブーストしたのは六回。それは暗くなっている尾の数からして間違いないだろう。という事は……まさか、最初に扇を開いたときからか?」

 

「正確には、その前から幻術はかけ始めてたわ。それこそ、アーティファクトを召喚する前からね。ま、その時は思考誘導をほんの少ししか出来なかったわ」

 

 タマモはエヴァンジェリンに対し、何気なく対峙し会話していたその時から幻術を仕掛けていたと語る。これには、エヴァンジェリンも驚く。

 

「そうか、それで私は……」

 

「そ。多分、油断や余裕があったからでしょうけど……。私が近づいても体術でさばかなかったでしょ? 私がそうなるように誘導したの。この扇が直接相手に触れさせることで、相手との霊的繋がりを作る為にね。後は基本的に学園長の言ったように、認識をズラしてアンタの魔法が当たらないようにしてたってわけ」

 

「それだけではあるまい? あの霧も幻術なのだろう? 氷と炎で水蒸気が発生することは確かだが、あれほど拡がることはない……だろう?」

 

「そうね。あれは背後を取る為の仕込みだったんだけど……まさか糸で場所が分かるとは思わなかったわ。その後の魔法もギリギリだったし」

 

「あれはどうやったんだ? 貴様の“狐火”では防げなかったんだろ?」

 

「やったことは簡単よ。狐火を放ったのは本当。ただ、幻術で大きさを錯覚させてはいたけどね。後は、狐火と魔法が相殺するイメージと偽物の私を用意して、本物の私は子狐の状態で移動したってわけ。ただ、咄嗟のことでイメージが甘かったから観戦してた人たちには丸見えだったと思うわ」

 

 タマモの言葉に頷く学園長と横島、小竜姫の三人。刹那は何のことだか分かっていないようで、周囲が頷いていることに驚いている。

 

「あの、本当なんですか……?」

 

 確認しても答えは是。自分が未熟だから、見破れなかったのかと落ち込む刹那。それに対してフォローを入れたのは、意外にもエヴァンジェリンであった。

 

「そう気を落とすな。貴様は“気”の使い手だろう? 幻術は精神に作用するからな。肉体を通して発現する“気”では防ぎにくいのだ。まぁ、精神鍛錬を続ければ“気”でも防げるが、それでも同じ修行をした魔法使いよりは防ぎにくい」

 

「そうなんですか……。ありがとうございます、エヴァンジェリンさん。己の未熟さをまた一つ知ることが出来ました」

 

「ふふ、お優しいんですね」

「実はいいやつじゃからのぉ。普段の振る舞いのせいでわかりにくいが……」

「おお、ツンデレってやつですか? それとも困っている人をほっとけない?」

 

 

「う、うるさいっ!! 話はここまでだ! もうすぐ茶々丸が軽食を持ってくる。それを食べたら貴様だからな! 妙神竜姫!!」

 

エヴァンジェリンが照れ隠し気味に放った言葉に、小竜姫は笑顔を見せて答える。

 

 

 

 

 

「ええ、楽しみにしていますよ。久しぶりにまともに戦える……“アレ”のお披露目にもちょうどいいし。すぐに終わらせないようにしなきゃ」

 

 

 




タマモvsエヴァ戦その後。少しだけ前回の解説がありました。

今回は、都合四度の全面書き直しを経て投稿。その割に……という話になってしまいました。ああ、文才が欲しい。
AF設定更新しました。

作中で茶々丸のAIについて少々触れていますが、感情面はこれから成長していくということで。

別荘内の海には生物が生息している。ネギま世界にも契約神(エンゲージ)に相当するものがいる。茶々丸のAI設定。気では幻術を防ぎにくい。
これらは拙作内設定です。


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